その名もザンギョウジャー
後楽園遊園地で僕と会議!
――――ここはとある飲料メーカーの工場。ここでは輸入ものの果実のジュースがラインで日々大量に生産されている。
最近登録した口コミ系サイトが功を奏したのか、順調に売り上げが伸びたため、ここ数ヶ月は作業量が大幅にアップしていて誰もが忙しく働いていた。
製造ラインが呻る機械音のなか、新しく導入するという新型製造機の設定を行っていた二人の社員がいた。儲けが出てきたから更なる飛躍を――という、いわゆる設備投資というものである。
ふと、一人の社員がおずおずと言い難そうに声を上げた。隣にいるのは上司であった。
「……あの、高良課長」
「なんだ?」
「〝このまま〟でいいんですか?」
社員は不穏な顔つきを隠さずに尋ねた。
「俺達は従うしかない。ただそれだけだ。わかったら手を止めずに働くんだ。……それが、俺達に課された職務さ。なぁ桑田、おまえにも家族がいるだろう?」
「そ、そうですが……もし〝アレ〟がバレたら……」
桑田は作業帽を目深に被りなおして身を震わせた。その言葉に身震いしたのは高良課長も同じだった。
「……あぁ、わかってる。でも〝新しい上司〟の就任以来、誰も声を上げられないでいる。俺だって言いたいさ。だが少しでも反発すれば即クビ。先月おまえも見たろ?」
それは先月の月初め、突然の出来事だった。
既存の工場責任者でもある製造部長が体調不良を理由に急遽退社し、外部から新たな担当者を雇うとの社内報が流れたのだ。
今までの上司には病気の話など全く出ていなかったのに皆は驚いたが、更に驚いたのは、外部から来た人間がいきなり自分達の上司になるというのだ。おまけにその者は弱冠二十歳。納得出来る者はいなかった。
当然、例の人物の就任式の当日、不満を思わず口に出した社員が一人いた。
その社員は翌日からいなくなった。名簿やロッカーは一夜にして消え去り、別の工場からの補充要員として一人の見知らぬ社員が既に朝から働いていたのだ――――
「なぜか社長のお気に入りなんだ。社長はあいつに〝洗脳〟でもされてるんじゃないかって疑うね俺は」
事実、事情を知る一部の社員――特に設備系の担当者達はこうして不安を募らせながら働いていた。
だが大半の事情を知らない社員は、仕事量は増えたが給料は確実に上がっているので、新製造部長就任騒動の事はいつしか忘れかけつつあった。
「……本当に、この指示書通りの設定でやるんですか? 色々なところに迷惑が……。私は早いうちに止めるべきかと」
桑田は手にした製造部長からの新しい指示書に恐る恐る目を通す。
書いてあるのはジュースの果汁やらと単なる水分の調整に関する設定。
簡単な話、〝薄めて売る〟のだ。パッケージの割合等の表示はそのままに。当然、検査部門も知ったうえでの話だ。――もちろんこれは製造部長が変わった時点から行っていたものだが。より酷くなっている。
明らかな法律違反であるその行為の設定を、桑田と高良課長は今まさにやろうとしているのだった。
「………………」
高良課長は改めて思案した。
このような行為はいつか必ずバレるだろう。ともなれば会社は大打撃を受けるし、おまけに設定の担当者ともなれば、いくら上司の命令とはいえ余裕でクビが飛ぶ。
「……あぁ、あぁ。そうだな、あぁ」
高良課長は何度か首を横に振ったあと、急に決心したような表情に切り替えた。
「桑田、おまえの言う通りかもしれん。こういうのは早いほうがいい。……よし、私が少し掛け合ってみる。桑田、お前は設定をしているフリでもしていてくれ」
「わ、わかりました。お願いします……」
高良課長とて黙認すべきではないとずっと思い続けていた。だが公開することで自分の部下達も路頭に迷う可能性がある。彼にはそれがどうしてもできなかったのだ。
だがいずれはバレるもの。桑田の言う通り、隠していた期間が長ければ長いほど回収作業などが困難になり、世間の批判も強まるだろう。
高良課長は足取りも強く、工場を総括する製造部長の部屋へと向かった。
「失礼します。高良です」
なるべく丁寧に、高良課長は対応しようと努めた。
「ん、高良君か、入りたまえ」
口調は自分より遥かに年上に感じるが、その声の主は自分より二十歳以上も若い。だがそれに対する苛立ちも今は全力で抑え、高良課長は部屋へと入った。
「どうかな、新しい機械の設定は終わったのかな?」
新任の製造部長は――見た限りでは若々しくメリハリのある好青年である。だがそれは見た目だけであり、全身から溢れさせている威厳は社長かそれ以上のものだった。
「……あの、その事なのですが、単刀直入に申します」
「なんだね?」
「今すぐあのような行為を止めて――世間に、公開すべきだと私は思います」
製造部長の青年は途端に目を丸くした。
「高良課長、体調が悪いのならば早退は許可するよ。最近残業も増えてきて少し疲れて――」
「私は大丈夫です。だから、とにかく。あのような〝違法行為〟を止めましょう」
高良課長は違法という言葉に力をこめて、一歩製造部長に近付いた。彼とてなにも作戦がないわけじゃない。
「……違法? なに、〝ちょっと〟薄めるだけの話じゃないか。聞かれたら〝設定の問題〟と君が言えば良い。君が担当なのだから少しくらい誤魔化せるだろう」
さも当たり前かのような言いように、さすがに高良課長も頭にきた。
「ふ、ふざけるな! 私は――俺達は、こんな事をする為に今までやってきたんじゃない! いいか、この会社はお前が生まれるよりも前から、人々に愛される飲み物をつくってきたんだぞ! だが今を見ろ、表示だけしっかりしやがって、中身は馬鹿みたいに味がしないじゃないか!」
「……ふむ」
「それにお前はお客様からのアンケート用紙に目を通してないらしいな? 古いお客様もいるんだ。少しずつだが確実に増えてきているぞ、〝いつもよりまずい〟とな! 俺は見てるぞ、毎日。一通足りとも見逃していないぞ!」
高良課長の怒りの形相にも、製造部長は済ました顔で応じる。
「いいか高良君。会社っていうのは全ては〝儲け〟だ。味は向こうの都合だろう? そりゃぁ最初から不味ければリピーターはつかない。だが幸いにもこの会社は昔からのリピーターが数多くいる。〝最初から美味いと錯覚〟してるんだ。だから売り上げが落ちにくい。加えて以前登録した口コミサイトも……まぁいろいろと細工して売上は増えるばかりだ」
製造部長の発言に、高良課長は怒りさえ忘れて泣きそうになった。
「……それで、少しずつ薄めていけば分からないだろうって?」
「その通り。理解が早くて助かるよ」
「そうか。だが確かにクレームはきている。お客様はうちの味を知っている。〝おまえはうちのジュースを飲んだことがあるか?〟」
「ない。データがあればそれでいい。〝飲むなら大手の美味しいジュースを飲むよ〟」
高良課長は――ここで始めて冷静になれた。ここで怒ればヤツの思う壺だ。だから……だから、この手を使うしかあるまい。
「ときに製造部長、〝内部告発〟って言葉は知っているか?」
「――――っ!?」
初めて、製造部長の表情から余裕が消えた。高良課長が最後の手段として残していたものだ。
「今の法律はよく出来てるらしくてな。それにSNSって知ってるか? 息子がよく教えてくれるんだが」
高良課長はよく知らなかったが、その年齢が災いし製造部長は〝よく知っていた〟。怒りと困惑が渦巻いているのが容易に見て取れて、高良課長は内心ほくそ笑んだ。勝った、と。
だが次の瞬間には製造部長の表情が切り替わった。さっぱりと、何かを決断したかのような清々しさに。
「まったく……面倒な野郎だなぁ。黙って従っていれば優秀なヤツだったのにな。いけ、〝ヒラーズ〟。奴を捕らえろ」
製造部長が口調と態度を切り替えてそう言った途端、部長の背後に潜んでいた一名の社員が現れたかと思うと、その社員は着ていた作業服を脱ぎ去り、顔面の〝人間のマスク〟を剥ぎ取った。
「な、なんなんだおまえ!?」
現れたのは黒い全身タイツのようなぴっちりとした格好に、疲れ切った骸骨のような白い面を被った、幼い頃にテレビで目にした怪人のような姿をした者だった。
「ヒラッー!」
黒タイツの者は奇声を上げながら高良課長達に襲い掛かった。
「う、うぁあああ!」
彼――ヒラーズの力は圧倒的で人間離れしていて、高良課長は抵抗も虚しくあっという間に地面に組み伏されてしまった。
「わーっはっはっは! 私に逆らうからそうなる! いいか、クビになりたくなかったらさっさと設定を終わらせろ! そうしたら許してやる。……あぁ、バカな事は考えるな。当然私は知っているぞ、貴様の家族構成や住所などの個人情報はな。よし、行くぞ」
ヒラーズと呼ばれた怪人は高良課長を引きずるようにして、三人は工場内へと向かっていった。
そして突然工場内に現れた製造部長、そして黒タイツの怪人に引きずられる高良課長。一瞬にして工場内の作業者達の視線がそこに集まる。
「皆さん、心配はいりませんので今すぐ作業に戻りなさい。ちょっとテレビからの取材でしてね。ほら、バラエティのキャラクターですよ」
妙に納得力のある口調で製造部長が説明し、なおかつヒラーズが愛らしい仕草で手を振るものだから、社員は納得したのか皆それぞれ元の持ち場へと戻っていってしまった。
そして高良課長は設定すべく機械の前に立たされた。
「くっ……」
高良課長は血がにじむ程にまで唇を噛み締めながら、機械の設定をしようと手を伸ばし――――
「待て!」
――――――その時、どこからともなく声がした。
「――!? 何者だ!?」
製造部長は声を荒げながら周囲を見回した。
すると製造ラインのある場内の入り口に、いくつかの人影が現れた。
「五人……?」
人影の数を数えた製造部長はとある仮定に眉をひそめる。
(……奴ら、まさか!?)
製造部長は素早く察知した。最近、〝我々の業務〟を妨害する奴らが現れた、と〝上司〟から忠告があったのだ。既に何件か妨害されている、なかなかのやり手だと。
情報はいくらかもらっていた。だがまさか自分達の業務の前に現れるとは想像だにしていなかった。しかもこのタイミングで……。
「ちっ、設定を急げ!」
高良課長が再度促され――
「出勤! ザンギョウジャー!」
『はい!!!』
リーダーらしき者の掛け声に他の四人が声高らかに応じる。
そして全員が左手をバッと胸の前に斜に構え――
『『『タイムカード・オン!!!』』』
左手首に装着しているバンド型の四角い装備に、右手で懐から取り出した一枚のタイムカードを差し込む。
ピピッ、という電子音と共に、装置の中でタイムカードに〝出勤時間〟の数字が刻まれる。そして再びカードを引き抜き――――
『『『超勤変身!』』』
シュイィィーン、という時計の針が高回転するような音とシルエットと共に、五人が光に包まれる。
「な、なんだ!?」
そして、次の瞬間、悪を制する五人の超戦士が顕現した。
「点呼!」
赤色が叫ぶ。そしてそのまま己の正体を明かす。
真紅の着こなし、ビジネスマン型の超勤鎧。皺無き鋭いネクタイ締め上げて。整然と七三に分けられた黒いバイザー。
「熱き情熱、熱き信頼が我が信条。お客様は神様だ。経済を担う灼熱の社畜魂! ザンギョウレッド!」
青き法の守り手、警察官型の超勤鎧。直立不動の敬礼姿勢。腰に携えるは市民を守る正義の警棒。
「法律の下、悪は高確率で蔓延らない。悪を制する正義の魂! ザンギョウブルー!」
黄色い強靭なヘルメットバイザー、作業服型の超勤鎧。周囲の確認安全第一。果敢に輝く腰に巻かれた工具セット。
「右よし、左よし。周囲をよく確認してから前へと進め。未来への希望の魂! ザンギョウイエロー!」
灰色の複雑なる美装、オネェ型の超勤鎧。妖艶なる立ち姿。誰をも魅了する艶やかに塗られた口紅。
「男か女か、世の中そのふたつだけ。善も悪も全ては貴方次第。誰にもわからぬ曖昧魂! ザンギョウグレー!」
白雲が如く精白なコックコート型の超勤鎧。素材を定める鋭い視線。手にした煌く壮麗なる包丁。
「美しさというものは良き心がなければ創れない。悪意ある心を華やかに正す。純白の華麗なる魂! ザンギョウホワイト!」
『『『働き盛り! 社畜戦隊! ザンギョウジャー!!!』』』
名乗りを終えた五人の戦士が今、悪を制すべくここに立つ。
「貴様らがザンギョウジャーか! ぐぬぅ……!」
「首謀者はお前だな。真面目に働く人達を愚弄する行為、俺達が絶対に許さない!」
レッドが激怒し、全員が構えの姿勢を取る。
「くっ、いけ! ヒラーズ!」
製造部長が指示すると、どこからともなく大量のヒラーズが襲ってきた。
『ヒラーッ! ヒラーッ!』
複数のヒラーズがレッドに正面から襲い掛かる。
「遅い、遅い、遅すぎるぜ! 俺のスピードに付いてこれるか!? 『早出勤』!」
「――!?」
レッドは目にも留まらぬ速さで次々とヒラーズをなぎ倒していく。彼の本当の正体は誰よりも早く会社に到着するエリート社畜なのだ。
「レッド、スピード違反だぞ、落としたまえ」
ブルーは仲間の違反にも決して甘くはない。その正体は平和の守り手、警察官である。
「はっ、俺を止めたきゃ標識持ってきな! そら、そっちもヒラーズが来てるぞ!」
「何っ!? くっ、そこの君! 暴行未遂で現行犯逮捕する! 『手錠掛け放題』!」
ブルーは遅い来るヒラーズに大量の手錠を投げつけ、百発百中で腕にかけていく。
「ふ、俺に背後を取られるとはヒヤリハットだな、報告しろよ」
「ヒッ!?」
イエローはヒラーズ二人の背後に素早く回り込み、その股下にそれぞれ片腕を入れ、一気に持ち上げる。
「食らえ、『油圧式昇降腕』!」
何かが潰れる音。
『ヒラァア゛ア゛ア゛!!』
痛ましい声が響き渡り、二人のヒラーズが股間を押さえながら同時に倒れ伏した。
「もう二度とそんな薄い衣服で来るなよ。ここは遊び場じゃないんだ、仕事場だ。そして、工場内では必ずヘルメットを着用しろ」
厳しい口調で伝えるイエローの正体は工場勤務のベテラン作業者だ。
「あなた達は本当にそれでいいのかしら?」
「ヒラ……?」
「きっと、あなた達にも家族がいるでしょう。なのに、こんな所で悪事を働いていていいの?」
「ヒ……ヒラァ……」
グレーは戦う事なく、ヒラーズを前にただそう問うた。『お悩み相談』、相手の心に染み渡る攻撃が得意なグレーの正体は、オカマバーのマスターである。
グレーはあっという間に複数のヒラーズを味方にした。
「く、貴様らそんな〝クソババァ〟のいう事に耳を貸すんじゃない!」
「ババァ!? やっておしまいホワイト!」
グレーの号令にホワイトが前に飛び出す。
「任せて、テーブルマナーを学んでから来なさい、『主兵装・皿爆撃』!」
光をまとった高級皿を次々とヒラーズに投げ込むホワイト。その正体は高級フランス料理店を営む名コックだ。
「ふん、紳士のマナーがなってないようね。うちの男どもと同じでね」
「おいホワイト、なんか言ったか!?」
「マナーがなっていないと言ったのよ」
「なにを! ビジネスマナーマスターの俺を――」
「ビジネスマナーとテーブルマナーは違うのよまったく……」
「ええい! ごちゃごちゃとうるさいやつらめ! こうなったらこの私が直々に貴様らを倒してやろう!」
レッドとホワイトの会話に苛立った製造部長が――瞬時に変身した。
その姿は巨大な電卓のような姿をしていて、体中になにかのデータの羅列のようなものが常に光って流れていた。
「……! ついに正体を現したな、〝暗黒社会超人〟め!」
――――暗黒社会超人、それは日本の健全なる企業を全てブラックに塗り替えてやろうと企んでいる悪人達の事。暗黒社会超人は皆、ブラックキーギョウズというひとつの組織に属している。
ブラックキーギョウズはもはやひとつの大企業だった。総取締役が、ある程度の能力を持つ管理職の『暗黒社会超人』や、ヒラーズといった『暗黒派遣社員』に命令し、それらが日本中の企業の中に紛れ込んで悪事を働くのだ。
そして、その行為を止めるべく誕生したのが、健全なる働き盛りの戦士達、その名も『ザンギョウジャー』なのである――――
「ふ、バレてしまっては仕方がない……貴様らも黙っていれば美味しいジュースが飲めたのに……!」
「〝美味しい〟? 数値データに美味しさは存在しないぞ? お客様の笑顔が第一、その次がデータだ。そもそもおまえは飲んだことがないんだろう?」
「ぐ……」
レッドは鋭く突いた。その時の製造部長の表情に、ブルーがふと思い出したかのように反応した。
「なんだブルー、知ってるのか?」
「あぁ、思い出した。そいつは指名手配中の『ミズマシカチョー』。全国の主に食品メーカーに潜み、あらゆる物の水増しを行って販売する者だ」
「へぇ、でも〝カチョークラス〟なら雑魚ね」
ホワイトは名前とは裏腹に歯に衣着せぬブラック発言でミズマシカチョーを愚弄した。暗黒社会超人にはクラスが三つあり、それぞれシャチョークラス、ブチョークラス、カチョークラスが存在するのだ。今ここにいるのはカチョークラスが一人だけである。
「ふん、その考えも今に改めるだろうさ。――くらえ不意打ちミズマシタックル!」
ミズマシカチョーは一番近くにいたイエローに肩からタックルをかました。
「ぐぁ!」
イエローは普通のタックルにはびくともしないタイプの超勤鎧だったが、今のは不意打ちかつ〝一時的に水増しされた〟威力のタックルだったゆえ、その身を大地に打ち付けた。
「大丈夫かイエロー!?」
「あ、あぁ俺の安全確認が足りなかっただけだ。俺が悪い。――だが今のでわかったぞ、こいつは大したことない」
にやり、とイエローは感じ取った相手の強さを報告する。
「――――なるほどね、よくわかったわ」
グレーが腕組みをしながらイエローの真意を理解した。
「つまりあなたは……今までずっと水増しばかりしていたから、〝本物は弱い〟のよ」
「……くっ」
「ふふ、その顔、間違いないようね。可愛いわぁ……。でもね、世の中やって良い事と悪い事があるのよ? ボウヤ」
グレーの言葉を合図に、レッドが超跳躍で距離を取ったかと思うと、超助走から超光速でミズマシカチョーに突撃した。
「その通り! おまえは過ちを犯した。さぁ俺が謝罪の手本を見せてやる! 『灼熱謝罪法』!」
灼熱に燃ゆる両膝が工場の床に焦げ跡を付けながら、下げた頭で残ったヒラーズを次々と吹き飛ばし――最後に飛び上がり、ミズマシカチョーの胸元に強烈な頭突きを食らわせた。
「ぐぁあああ!」
吹き飛ばされたミズマシカチョーの胸元には赤く謝罪の跡が残った。
そして倒れるミズマシカチョーの周囲にザンギョウジャーが集結する。
「わ、わかったわかった! 謝るから許してくれ!」
ミズマシカチョーは両手を胸の前で何度も合わせながら謝った。だがその行為がレッドの燃え盛る営業魂に油を注いでしまった。
「……おいおいおいおい、謝る時の態度がそれか!?」
「ひっ!?」
「謝る時はぁ――」
飛び出したレッドはミズマシカチョーの頭をつかみ――――
「誠意をこめて、深々とだあああ!」
「や、やめてくれ! 責任が私がぁあああ!」
がん、とそのまま謝罪の姿勢のままに床に叩き付けられたミズマシカチョーは意識を失った。
「――業務完了。全員退勤」
ザンギョウジャーがそれぞれ左腕に着けられた装置に手をかざすと、退勤時刻が刻まれたタイムカードが排出され、直後に光に包まれた。
数秒後、そこには五人の、それぞれ異なる制服を着た男性と女性が現れた。
「ブルー、イエロー、奴らをの収監を頼んだ。ホワイトプリズンへ連れて行け」
「了解した」
ブルーはどこかと連絡を取り、イエローはミズマシカチョーとヒラーズを外へと運び出し始めた。レッドの言ったホワイトプリズンとは、悪にまみれた暗黒社会超人達を社会復帰させる為に、収監、教育を行う施設だ。
『あ、ありがとうございました!』
高良課長を始め、周囲で事の一部始終を見ていた社員一同がザンギョウジャー達にお礼を言う。
「いえ、あなたや桑田さんが誠実なる意思を示したからこそです。あなたの時間稼ぎがなければ遅かったかもしれませんし。早めの通報をしてくれた桑田さんのお陰でもあります。彼はこちらで保護しておりますのでご心配なく」
「桑田……!」
レッドは暗黒社会超人に最後まで反発し続けた高良課長達を労った。
「そうですよ、もし誰も声を上げなかったら、あなた達はいつまでもあやふやで、不安定な精神状態で仕事を続ける事になっていたわよ。いつかはバレる。大人なら分かるはずよ」
グレーの言葉に社員達は気まずい顔を浮かべた。けれどその表情もすぐに明るいものになった。
「やり直すのは時間がかかるし厳しい部分もあるとは思います。けれど必ず再開してください。それがこの会社とお客様にとっての一番良い方法です。――さて、我々は〝通常勤務〟があるのでそろそろそちらへ戻ります」
ザンギョウジャーはそれぞれの仕事がある為に、すぐに工場を後にすることにした。
「――あ、そうだ、課長さん。さっき少し口にしたけれど、先日新発売のジュース。〝薄めなければ〟とても美味しいはずよ。だからもし工場が再稼動したら電話して。私の店で使いたいから」
ホワイトは思い出したかのように、高良課長にそのような旨を伝えた。彼女の持つ料理店は都内最大級。次から彼女もここのお客様だ。それも大口の。
「あ、ありがとうございます! 是非!」
思わずニヤけてしまう高良課長ではあったが、その内心では既に工場再稼動への明確な道筋を考え始めているのだった――――――
なんだこれ。