5話
作者の身勝手な話数改正について、お詫び申し上げます。多くてみんなが飽きるかも!と思った作者の恐怖です。それではどうぞ!
チャリ。
足枷を外され、代わりに手枷をはめられる。
その手枷には引っ掻いたような跡がいくつも残され目を逸らしてしまう。駄目だ、今までこんなことなかったのに今日はおかしい。
原因は分かっている。
あの怪盗だ。あの怪盗が今日を当たり前に過ごさせてくれなかったんだ。
―――――――――――――――――
怪盗が去ったあと、あの方が我に返って怪盗を探させた。変装をしていると思ったが聞かれなかったので言わないことにした。
それに少し疑問だったから。
あの方が来るときは大抵10人ほどの衛兵さんを従えている。その10人が全員、怪盗を見過ごしたのだ。否、ありえないと思う。
もし、怪盗の言葉に固まっていたとしても誰かは気付くはずだ。それを全員が全員見過ごしたのである。
それからいつものようにあの方からこどもたちを起こすように言われ、こどもたちを食堂に連れて行った。
「きょうのあさごはんは、なにかなぁ?」
「きっとパンよ!」
「だっていつもそうだもんな」
何気ない会話を聞いて厨房に行くと
「今日は少し重たいからね」
今までとは全く違う光景が目の前に広がった。
やわらかそうなふっくらとしたパン。パンにつけるであろう甘い匂いのするハチミツ。
フォークで切ればとろっとした黄身がでてくる目玉焼き。
傷んでいない新鮮そのもののサラダ。
焼きたてと言わんばかりの肉汁があふれるソーセージ。
さらに湯気のたちのぼる真っ白い牛乳の入ったカップ。
いつもの会話をしていたこどもたちは顔を見合わせると
「「「いつものあさごはんじゃない!!!」」」
全身で喜びを表しそうなほどの嬉しそうな顔になった。これには私も驚いた。
「どうしたんですか」
「うふふ、今日はたくさん仕入れたからこどもたちにも分けようって話になったの。もちろん王様には秘密よ」
そう言って指を口元に当て、いたずらっ子の笑みを浮かべる召使いさん。
「あっカップは熱いからペリドットが持ってね」
「はいはい」
そう言ってお盆を差し出してきた召使いさんに衛兵さんも呆れながら受け取りカップをお盆に乗せていく。
それを呆然と見つめていると「他のこどもたちが待ってるから行くぞ」と珍しく衛兵さんに急かされた。
並べられた食べ物と牛乳を見て、待っていたこどもたちも驚きと喜びを隠せていない。よだれを垂らしているこどももいる。
さらに衛兵さんが一緒に朝食を摂ってくれるそうだ。
「衛兵さん、どうしたんですか」
「ペリドットだ。なに、今日は朝食が摂れなくてな。それより早くお祈りをしたほうがいいんじゃないか」
「はっはい…みんな、朝ご飯食べるよ」
そう言うとざわざわしていたこどもも、よだれを垂らしていたこどももすっと手を組んで目をつむる。
「「「「「「我が神に祈りを、自然の恵みに感謝を、すべての宝石に輝きを」」」」」」
いつもとは違う声も混ざり、こどもたちへの願いを祈りそびれた。慌てて祈り、目を開けるとこどもたちはもう食べ始めていた。
「お前はいつも何をそう長く祈っているんだ?」
目玉焼きを頬張る衛兵さん。
「いえ…その……こどもたちの自由を神様に祈っています」
いつも通り目玉焼きを食べると少し熱いものの半熟の黄身が口の中でぱっとはじけるように口の中で広がった。思わず、
「おいしい」
こぼれた言葉。
こどもたちも嬉しそうに頬張りながら和気あいあいとした会話が部屋中に広がっている。
どうして今までとは違うんだろう。昨日の今日で変わった毎日。変わってないのは
私だけ。
「こどもたちは自由だぞ?」
ふいに掛けられた言葉に一瞬動揺する。
衛兵さんにはこどもたちが自由に見えていたのか。さっと衛兵さんの顔を見ると分かっていないような顔でサラダを食べている。
「誘拐されているんですよ。どこが自由なんですか」
「あぁ待った、言葉の綾だ。そりゃ誘拐されて自由なんてない。だけど今のこどもたちを見てお前は幸せそうに見えないか?」
「幸せそう…ですか」
部屋をぐるりと見回すと頬に食べ物を付けているこどもや完食し終わったこども、話に夢中でごはんを食べないこども―――――その誰もが心からの笑顔だった。
他者から見たら誰も誘拐されて傷を負ったこどもたちには見えないだろう。
「幸せそうですね」
「だろ?」
隣で笑った声を出し完食し終わった衛兵さん。
「自由ってさ、こういうことだと思うぞ」
「こういうこととは何ですか」
「なんつーか…幸せな世界みたいな?」
「うっ、クサいこと言っちまった」とげんなりした顔の中に幸せそうな雰囲気を漂わせている。
あぁそうか…変わったんだ。今までの当たり前の日常は終わったんだ。これから世界が変わるんだ。
―――――――――――――――――
そう思っていた朝もあった。でもやっぱり夜になればいつもの日常が戻ってくる。
シルクで出来た純白のドレスは体のラインを強調し、裾は引きずるほどに長い。
右耳には白い線の入った赤い宝石が付いているイヤリング。
頭には髪飾りでなく頭の上からすっぽり被りドレスの裾ほどある長いベール。
「『マリアベール』なんて結婚式でしか見たことねぇよ」
衛兵さんが廊下を歩きながらそんなことを言った。
確か聖母マリア様が被っていたことでこの名前がついたと聞いた。聖母マリア様の誕生日は9月8日。
「誕生日石がパールだ」
「誕生日石?マリアベールのか?」
「聖母マリア様ですよ、衛兵さん」
「ペリドットだ。ふむ、確かにそうだな」
わざとらしい納得の仕方に私の中の『疑い』が『確信』に変わる。
「怪盗が朝来ることを知っていたんですか」
衛兵さんが考え出す前に今日1番の疑問を投げ掛ける。
一瞬言葉を失ったような間のあと、「やっぱり敵わねぇなぁ」とぼやいている。
「どうしてそう思った?」
「毎日毎日、新聞を欠かさず持ってくる衛兵さんが今日に限って来ないなんてありえません。衛兵さんは怪盗と手を組んでいるんですか。それにこのドレスとマリアベール。今までこんな服を着せられたことはありません。ましてや私の髪を隠すなんてあの方が許すはずがありません。何を企んでいるんですか」
キッと睨むが前を向いた衛兵さんには届かない。私がすべて言い終わると優しい口調で
「ペリドットだ。俺…いや、俺たちは君に幸せになってほしいんだよ」
「今のままで十分です」
「うん、君はきっとそう言うと思ってた。君はとても強いからね。俺ならすぐにでも逃げ出すようなことを君は受け入れていく。だけど受け入れすぎて君は怖がっているように見える」
胸に矢が突き刺さったような衝撃。口元がわなわなと震える。
「なっ何を怖がっ…ているとお思いでっ」
その先の言葉に恐れている。
「自由だよ」
振り返った衛兵さんはとても悲しそうに笑っていた。この顔は5年ぶりに見る。奴隷になったと伝えたときと同じ顔だ。
薄く息を吐いて衛兵さんを見る。そして冷めた声が廊下に響いた。
「この世に自由は存在しません。誰もが何かに縛られ誰もが何かを縛る世界です。自由なんて人間の空想に過ぎず人間は自由を求め続けます。私は諦めただけです。どう足掻いても私は逃れることなどできませんから」
「だから…だから言ってるだろう!パ「貴族ども!今日もわしの宝石を見れることを誇りに思え。そして、明日も明後日も見られることをな」
ちょうどあの方の声が衛兵さんに被り言葉が聞こえなかった。どうやら赤い幕の前まで来ていたらしい。
「話は終わりましたか」
「…っ!あっあぁ……」
唇を噛み締めた衛兵さんは少しして踵を返した。
暗い1人の世界になった。見えるのは赤い幕と窓から差し込む満月の光、そしてその光と冷たい風に踊らされている白い髪。
「幕を上げろ」
この髪はひどく欲深く、ひどく残虐なルべライト王のもの。
幕が最後まで上がり俯きながら歩く。と、その場でどよめきが起こる。
「純白姫のあの格好は何だ?」
「まるで花嫁ではないか」
「純白姫は結婚するのか?」
「あれでは純白姫の髪が見えんぞ」
口々に聞こえた声に賛同した。
今日はなんて日だろう。すべてが変わってしまった。
そう思いながら顔を上げる。目の前には怒りを目に宿したあの方がいた。しかし、そんな目に構う余裕などなかった。
突然、あの方の後ろのステンドグラスがパリーーーンッ!!という大きな音とともに割れた。いや、入ってきた何かが割った。
貴族たちは悲鳴を上げたり逃げ出したりし出した。あの方は衛兵さんたちに守ってもらっているのを視界に入れる。私に駆け寄ろうとする衛兵さんたちには手で小さく制止をした。
と、急に手を取られて手の甲にキスされる。下を向くと跪いた黒い塊が顔を上げた。
「俺は怪盗ノワール。あんたを盗みに来た」
透き通った声が耳にすんなりと入ってきた。
なんて心地良い声だろう。その声とは逆の不穏な言葉がなければ。
怪盗は目元の周りを隠した黒いアイマスクを付けており所々に装飾が施されている。黒い服もよく見れば動きやすそうな服装にロングコートを羽織っており怪盗のスラッとした身体を強調している。
「てっきり白い服で来るのかと思っていました」
「怪盗ノワールって名前だし、そう易々と変えちまったら意味ないだろう。もしかして着てほしかったとか?」
立ち上がった怪盗は意地の悪い笑顔を浮かべ私の顎を掴むと顔を近づけてきた。
「静かにしろ!!」
一際大きな声が場の空気を一転させる。騒いでいた貴族たちはその場で固まっているのが見える。「チッ」という舌打ちは怪盗から発せられた。
すっと手が顎から離れ、チャリという音にはっと我に返る。
手を…伸ばしかけた。どうして。
「これはこれはルべライト王じゃねぇか。美しい純白姫に見惚れて気付かなかった」
怪盗の背中しか見えないが嘲笑うかのような声に周りが顔を青くした。対照的に王は顔を真っ赤にして怒りを露にしていた。
「我は王であるぞ!!そのような口の聞き方、許されると思うな!高貴な我に対しての侮辱に値するぞ!!!サファイア、この怪盗に知らしめてやれ!我の名を言ってみよ!!!!」
キーンと耳鳴りがする。周りの貴族たちや怪盗は耳を塞げるが私は手枷をしているため直にその声が届く。その赤黒く染まった瞳さえも。
「はい、ルべライト・レッド・トルマリン王はこの国で最高位の地位に立つお方です」
静かになった部屋であの方は満足げに笑った。
「本心を言え」
強い物言いに怪盗を見る。声とは裏腹に振り返ったその顔は悲しみに満ちていた。
「自由なんて存在しないかもしれない。これからもありはしないのかもしれない。でも、少しくらい我儘を言ってもいいんじゃないか。少しくらい自分の意志で動いてもいいんじゃないか。幸せになってもいいんじゃないか。それが自由なんじゃねぇのか」
満月が大きく分厚い雲に覆われ、辺りはろうそくがなければ何も見えない。
ほんの少しだけ心が揺れた気がする。手枷に嵌った手をギュッと握り締め、気持ちを紛らわす。気のせいだ、気のせいに決まっている。
「私には自由になる資格などありません。私は奴隷ですから」
私は今どんな顔をしているだろう。ちゃんと従順な物になれているだろうか。
「それじゃあ今一番望んでいることを言え」
ニタリと笑った怪盗。そんなの決まってる。怪盗にこの国から出て行って欲しい。だけど口はそうは言ってくれず
「この城にいるこどもたちを家族のもとに返して」
小さな声でか細く言った。私はなんて愚かなんだろう。あの方が怒る原因を自分で撒くなんて。
「いいだろう、純白姫。いや…パール・ホワイト・シトリン王女様」
怪盗は右足を引き、右手を体に添え、私に1礼した。自分にされていると忘れるくらいに綺麗な佇まいだった。
ようやくおかしな点に気付いたときには遅かった。周りの貴族がこれでもかと驚いている。
「嘘…だろ……」
「王女だと!?どういう事だ!!」
「噂では王女は病で死んだと聞いていたのに」
「しかし、納得がいく。前王の王妃は確か」
白い髪の持ち主だった―――……。
1つの声が幾重にも重なり合って場が騒然となった。しかし、そのどよめきが一瞬にして消え去る。
「黙れっ!!!!!」
ひどく動揺した声は暴かれてしまったためであろう。でもあの方よりも私は動揺している。
自然と過呼吸のような状態になる。額からは嫌な汗が滲み出て、目はこれでもかと見開いているのが自分でも分かる。
頭の中は「どうして」という言葉で埋め尽くされた。そんな落ち着かない頭の中で必死に整理する。
私の名前、「サファイア・ホワイト・トルマリン」は偽名だ。あの方がそう名付けた。
私の本当の名前は「パール・ホワイト・シトリン」。
そう、このシトリン王国の名前と同じ。王族は王国の名前がファミリーネームになる。つまり私はこの国の王族なのだ。
しかし社交界デビューはしていないため大半の貴族には知られていなかった。なぜなら社交界デビューをする前に私は奴隷になったから。ではなぜ、一介の怪盗に私の身分が知られているのだろう。
情報が漏れたのか。いや、それならとっくに他の者にも漏れているはず。城の誰かが話したのか。1番あり得るが私が釘を刺した、「私は奴隷だ」と。他にあるとすれば……
昔どこかで会ったことがあるのか。
心当たりがあった。まだ王族だった頃、大陸を超えて王族の一行が来たことがある。確か、その国の王族は東の国から来た者の末裔だったはず。幼い記憶を掘り起こし黒い髪だったことを思い出す。
ならば、あの怪盗は王族なのか。しかし黒い髪なんて探せばすぐに見つかる。ならどうして。
そんなことをぐるぐると考えていたせいだろう。呼ばれたときにすぐに気付くことができなかった。
「…イア、サファイア!!お前というやつが我に盾突くなどどういう事だ!!」
すぐ近くであの方の声が聞こえ上を見上げると拳を私に振り下ろすところだった。
あぁ…私はおかしい。あの方の声はいつでも聞こえたのに、それも聞こえないなんて。あぁなんだ、私も変わっていたんだ。でも許されないはずがないんだ。私はまた
縛られるんだ。
静かに目を瞑って衝撃を待つ。だが一向にやってこない。ゆっくりと目を開けると目の前に黒い背中があった。
「おいおい。男が女に手を上げるもんじゃねぇぞ。まぁこんなひょろっとした俺に止められる拳なんざ弱いとしか言いようがないがな」
そのままずんと押し戻したかと思うと床に倒れたあの方。すぐに衛兵さんたちが助けようとするが少し思い留まっている。
こどもたち以外の城のみんなは私が王女だと知っている。それを秘密にしてと言ったのは私で、あの方も外に漏らせば死刑だと脅迫していた。
それならまだいいが家族を人質に取られた者もいて迂闊に命令に背くことができなかった。
しかし今はどうだ。衛兵さんたちは私が考えるに怪盗の味方だ。私の身分もバラされもう秘密にすることはない。彼らは自由になったのだ。
「彼らの家族はどうなさったんですか。あの方の部下さんもいたでしょうに」
「王に肩入れしている奴らは警察に引き渡した。もちろん家族も無事だ。彼らにもそのことは伝えてある」
「よかった」
あの方には聞こえないように話し、無事を確認する。
「あの…それで私の望みは」
「さっきも言った通り親の元に返すさ。元々そのつもりだったしな。何人かの者に向かわせているから安心しろ」
「そうですか」
「あとはパール、お前の気持ち次第だ」
名前を呼ばれてドクンと心臓が鳴る。思わず両手をギュッと握り締めた。
「パール」と呼ばれるのは5年ぶりぐらいか。あの方と貴族は偽名とか呼び名だったしお城のみんなには呼ばせなかったし。
自分の名前が返ってきた。人質の人もこどもたちも助かっている。だけど……
「なぜ…なぜ下世話な愚民どもが我のサファイアを狙うのだ!!」
怒気を含んだ声が木霊する。前を向くとゆらりと立ち上がったあの方が見える。
駄目だ、逃げることなんてできない。逃げればいつまでも追いかけてくる。その身体と声と言葉で。
「自由にするためだ。それ以外に何がある?」
堂々とした声が聞こえるけど自由になったところでまた捕まるに決まっている。
「所詮、お前も金だろう?お前みたいな盗人は前から来ていた。そいつらは全員、自分の欲のために狙ったのさ。だから、我が保護しているのだ」
そう、昔から盗賊とか国が攻め込んできた。私を自分のものにするために。そのたびにあの方は衛兵さんたちや国民を犠牲にしてきた。
「保護だって?笑わせるな。毎夜毎夜、貴族の見世物にしてお前が自分の欲を満たしてんだろうが」
「代償であろう!我が保護する―――我の言う事を聞く。どこ――釣り合いが―――のだ」
「だから――――って―――……」
「―――お前、ば―――……」
だんだん怪盗とあの方の声が遠ざかっていく。赤黒い瞳が私をとらえた瞬間、全身に悪寒がした。それと同時にペタと力なく座る。もう、無理だ。
「目…の前っで…人が殺されるのは…いや。助けてくれた人が目の前で殺されるなんて…もう見たくない」
震える身体。それなのに無意識に口元が動く。
「それに私が死んだって何も変わらない。ルべライトは逆上して国民を殺していく。それなら…私が素直に従えばいいじゃない!契約書だって何だって書いてやるわ!!」
こんなに声を張り上げたのは5年ぶり。
「ルべライトは私の父を殺した。絶対に殺してやろうと思ったけど国民やお城のみんな、こどもたちを殺したくなかったのよ!!それの何が悪いの!」
ルべライトを恨んだのは5年ぶり。ううん。ずっと恨んでたんだ。
「生きたかったのよ。見たかったのよ、この国の未来を。父と母が最後に残してくれた大切な人たちを。そのためなら奴隷になっても構わなかった。でも…」
爪が手に食い込むほど強く強く手を握る。
「ルべライトは私の目の前で何度も人を殺した。父の次に衛兵、その家族、盗賊、国民、こどもたち。契約だって最初からじゃない。私が頼んで作ったもの」
怪盗が驚いてこちらを向いている。どうやら知らなかったようだ。
「ただの紙切れ1枚でこの国は成り立っている。裏を返せばいつだって破れる契約書がなくたってこの国は成り立つの。このルべライトがいなければね。怪盗ノワール、私の望みを聞いてくれる?」
真剣な顔の怪盗が静かに頷いた。
「契約書を破いてほしいの。そして私を……」
直前になって言葉が出てこない。まるで呪いをかけられているようだ。必死に声を出そうとするも私の喉は息の出入りだけ。手錠をした手から血が滴り落ちて大理石に赤い斑点を作る。
手が、足が、声が、身体が、心がすべて震えてしまうほどの恐怖と不安が押し寄せてくる。
俯いた目に見えるのは冷たい大理石。そこに黒い影が差す。
反射的に目を瞑った。一切の光を入れないように。暗い1人の世界になるように。
すると、ふわっと暖かいものが覆い被さる。目を開けると真っ暗だった。だけどすぐに「怪盗だ」なんて思ったのはなんでだろう。案の定、聞こえてきた透き通った声は怪盗だった。
「俺は殺されるつもりも死ぬつもりもない。パールは自分の自由から逃げてる。お前の人生なんだ。誰の物でもないんだ。だから自分の人生を他人に預けるな」
どうして簡単に言葉が出てくるのか。
「1人で目の前の壁と戦っても勝てないときはある。そんときは周りを頼れ。信じれる奴なら1人でも10人でも何人だって構わねぇんだ。パール、自由を犠牲にしてまで背負い込む必要なんてねぇんだよ。心に仕舞わなくたっていいんだよ」
ギュッと身体が圧迫され抱きしめられているのに気づく。
「思いっきり泣け!思いっきり弱音を吐け!そばにいてやるし話も聞く。パール、お前を不幸になんてさせてやらねぇ。自由だって、幸せだって、パールの本音が聞けるまで一緒にいるから!!」
焦っているけれど、耳に心地いい声。どこかで聞いたことがある声。
「わた…しをっ……自由にして―――……」
必死に紡いだ言葉は届いただろうか。
いつの間にか震えも止まっていた。だけど、どうしても止まらなかったもの。それは――――――……
誰にも見せずにこらえ続けてきた大粒の涙だった。
な~んか、白い髪を生かせていない気がする。次に入れるしか方法はねぇですね!!頑張ります!!