3話
はい!ここで新キャラ登場!!
この人、重要ポジションです!
では、どうぞ!
足まで隠れた青いドレス。
シンプルで、でもどこか品のある優雅な―――。いや、違う。品もなければ優雅さもない。これはただ高価な布、高価な糸で作っただけのドレス。
そして…汚いお金で買っただけの身に纏うもの。
このドレスに血のにじむような時間をかけたところであの方に渡れば1度使っただけでゴミも同然。
この髪飾りだってそう。あえて結わずに下ろした髪。
所々にサファイアが散りばめられた花束のような青い髪飾り。サファイアなんてここでは滅多に採れない。これもきっと汚いお金で取引されている。
所詮、どんなに着飾ったところで私を包むものすべて穢れている。いや、これも違うな。私自身も穢れている。どんなに評価されるこの下ろした白い髪も結局は真夜中の見世物として晒されて、私はそれで生きながらえている。
それを一番物語っているのはこの手枷なんだろうな。
「そうは思いませんか?」
「……」
「兵隊さんには少し難しかったですか?」
「ペリドットだ。難しいというよりは返しにくいな」
あぁ、きっとそうだろう。私だって本当に合ってるか分からないんだから。隙間風が時折、白い髪を揺らす。
少し肌寒いな。あの子たちはちゃんと寝ているだろうか。寒くしていないだろうか。
「貴族どもよ。この宝石を見れることを感謝しろ。今日も我の奴隷がお前たちを楽しませてくれよう」
あの方の声が赤い垂れ幕の向こうから聞こえる。ショー、か。確かにそうかもしれない。私はショーケースに入れられた宝石。いや、私なんかがきれいな宝石と並んでいいものじゃない。
「幕を上げろ」
それはひどく欲深く、ひどく残虐な王の声。
いつか殺されるかもしれない日―――それはきっと、私があの方との契約を破ったとき。
だから私は感情を出さないように奥に、奥にしまって従順な奴隷となるのだ。
幕が少しずつ上がってきて向こう側の明かりに目を細める。ろうそくしか灯っていないこちら側は兵隊さんの顔が見えないくらい暗黒の世界。そこに私の白い髪だけがぼんやりと見える。
幕が上がり終わり1歩踏み出したとき、
「お前は本当にこれでいいのか?」
兵隊さんがそっと囁くのが聞こえた。私は答えられなかった。
床の冷たさに足を止めてしまいそうになる。幕の先は長い道があって両脇に貴族が座っている。
「美しい」
「やはり、噂は本当だったか」
「1束でももらえたらなぁ」
「純白姫の名にふさわしい」
ざっと15人ほどいるだろう貴族の呟き。下を向いているためよく分からないが欲望にまみれた声だ。
「ふっ、我に感謝しろ。お前らがこれを見れるのは我に従っている証拠だということを。もし、裏切ることがあれば……分かっているな?」
一瞬、場の空気が凍てついた。あの方の低い声が私に言っていないのに深く刻まれる。
ふと前を見ると真ん中の玉座に座ったあの方がこれでもかと笑みを深くし、赤黒い瞳が私の目と合う。その目が言っている。「お前もだ」と。
裏切ったらこの貴族は、こどもたちは、国の人は―――……。予想できる未来が脳裏に浮かぶ。
駄目だ、感情を押し殺さなくては。私は奴隷。私は従順な奴隷なんだ。
すると、あの方の玉座の上―――つまり大きなステンドグラスで何かが光る。誰にも気づかれないほどの小さな光。
と、突然私の髪にヒュッと何かがかすった。かすったせいで白い髪が数本、床に落ちる。後ろを振り返りかすった弓矢を拾う。紙がくくりつけられており他はいたって普通の弓矢。
「サファイア!それは何だ」
「ルべライト陛下、少々お待ちください」
手枷をしているから矢から紙を外すのに手間取る。
ようやく外し、開けると「予告状」と書かれている。
「予告状のようです」
そう言うと場にいる貴族が騒いだ。
「一体誰だ?」
「まさか」
「いやしかし…あいつしか考えられん」
疑惑。驚嘆。確信。たくさんの言葉が入り混じる。
「サファイア、予告状の内容を読むのだ!」
怒りを露にしたあの方がそう口にした。それと同時に貴族がしんと静まり返る。
「仰せのままに、ルべライト陛下」
一呼吸おいて予告状の文面を読む。
――――――――――――――
予告状
シトリン王国のルべライト王へ
明日、丸い宝石が輝く夜に
王が所有している
キャッツアイと純白姫を
頂きに参ります
怪盗ノワール
――――――――――――――
読み終え、あの方に歩み寄る。
「サファイア、さっき髪に矢がかすったな?」
「はい、そうでございます」
あの方の前まで来て紙と矢を差し出す。
「お前は我の言う事も聞けないのか?」
「いえ、あのように速い矢は私には」
「お前の言い訳など聞きとぉないわ!!」
パシーンッ!
あの方の手が私の頬を叩く。口が切れたのか、口内に血の味がする。
「はい、ルべライト陛下。申し訳ございません」
下を向き痛みに耐える。が、急に顎を強く掴まれ強制的にあの方の目を見る。
血を思わす赤黒い瞳。恐怖で震えるどころか身体が動かない。視線をさ迷わすことも出来ずただじっとあの方を見る。
「お前は拒否権も反抗もましてや裏切ることも許さん。契約のこと、忘れるな。お前のこの髪は我のもの。誰にも渡すものか」
「はっはい…ルべライト陛下の…仰せのままにっ」
私はきっと、逃れることなどできない。
「では、さっさと寝ろ。分かったな?」
「はい…ルべライト陛下、お先に失礼いたします。お休みなさいませ」
掴まれていた顎から手が離れ、矢と紙を床に置く。
震える足をなんとか動かし、いつの間にか開いていた幕に入る。闇がまた私を包む。
少ししてペタと力なく崩れ落ちる。一緒にいた兵隊さんが「大丈夫か?」と背中に手を添えてくれた。
「はい、大丈夫です」
「手が震えてるぞ。大丈夫じゃないよな?」
手枷にはまった両手が小刻みに震えている。さっきは震えてなかったのに。
「きっと寒いせいです。今日は冷え込んでますから。こどもたちは大丈夫でしょうか」
なんとか話題をそらそうとするも兵隊さんは心配そうな顔をやめない。いつものことだ。仕方ない。
震えが幾分か収まってきて再び廊下を歩き出す。
「なぁ、あの予告状ってちょっと意味が分からないところがあるんだけど」
「何でしょう、兵隊さん」
「ペリドットだ。『丸い宝石の輝く夜』って何だろなぁと思って」
斜め前を歩く兵隊さん。大きな声で言ったんだから兵隊さんにも聞こえてたのか。
「お教えしましょうか」
「分かったのか!」
感嘆の声を漏らし、声を張り上げる。慌てて口を押えても出してしまったものは返ってこない。
「お静かに」
「悪い。それでどういう意味なんだ?」
先ほどよりもうんと小さな声で囁く。
「夜に輝く丸いものは何ですか」
「えっ?う~ん…」
ちょうど窓の外では雲から顔を出した―――
「あっ月か」
「そうです。丸い宝石は月。それに明日は満月です。『満月の輝く夜』。きっとこのくらいの時間に盗まれるんでしょうね」
「あっそこも疑問だった。今まで宝石しか盗んでないのになんでお前を盗むんだ?」
「それは…私にもよく分かりません」
本当にどういう風の吹き回しだろうか。私もよくは知らないが今まで宝石を盗み、悪事を暴いてきただけだというのに。
「怪盗もこの白い髪が欲しいんでしょうか」
月に照らされ金色や銀色に光る白い髪。歩くたびにふわっと揺れる。
「う~ん、俺はなんか違う目的な気がするけど」
「まぁ、どちらにしろ私を盗むことなどできません」
「言い切ったな」
「だって私は…ルべライト陛下の奴隷ですから」
そう言ったきり、兵隊さんが喋らなくなった。だから私も喋らない。慌ただしかった夜が沈黙の夜へと変わった。
はい、怪盗でしたぁ!!
10月までに投稿したかった!!ハッピーハロウィン!!