俺は召喚されました。
なんとか門限前に帰宅した俺は親に帰るのがいつもより遅れた理由を道を変えてみたら迷ったと誤魔化し、軽く軽食を取り、風呂に入ったあと就寝することにした
「ふぁ……あっ………… 」
心地よい朝。窓から入ってくる光により目を覚ました俺は大きく欠伸をして起き上がる。
目をこすったあと昨日ことを思い返していた。
あれ……俺がやったんだよな……。
夢じゃないんだよな。
できれば夢であって欲しい。
試しにベットから這い上がり近くにあった壁を殴ってみた。
念のためあまり力を入れずに昨日のパンチよりかは軽く。
「いっ……つうっ……!」
この壁かてぇ……。
いやそれが普通か。
軽めに殴ったつもりなんだけど……昨日より。
今の俺でいうと八割ぐらいの力で。
昨日の俺よりかは一割も満たない力で……。
いや昨日の出来事は夢。
まぁそういうことにしておこう。
俺は痛めた右手を振りながらリビングに向かった。
「あら?土曜ってのに起きるの早いわねアンタ」
朝ドラを見るため早めに起きていた母はこの時間に起きてきた俺に軽く驚いている。
俺も驚きだよ。
あんなことあったら普通昼まで寝てると思ったんだけど………………。
まさか八時には起きれるなんて。
昨日式神になった…らしいが、それの影響なのか?
まぁいいや、どうせ夢だ。
「まぁ……うん。俺も驚きだよ」
「それじゃ今日は朝っぱらからランニングかい?」
「いやいやいいよそんな、ランニング大会に真面目に挑むわけじゃないし」
俺は手と顔を横に振りながら否定する。
「あいよ、ほんなら朝飯くいな」
そして母はキッチンの方に消えていった。
よし、朝飯食ったら部屋に篭るか。
部屋に篭った。
部屋には篭った。
扉は閉めた。
さて、何しよう。
本は買ったその日に読み終えるからなぁ。別に読み返してもいいのだが……。
篭ったのはいいが、暇だ。
どうして休日はこんなに暇なのだろう。
取り敢えず着替えるか。
タンスに手を添えたその時、世界が白に包まれた。
「ちょっと、洗濯物洗うから早くパジャマを脱……………………あれ?」
扉をあけて母が部屋に入ってきたが部屋には誰もいなかった。
◇
思わず目をつぶった俺は素足で足元の感触の変化を味わう。
滑らかな肌触りの床からゴツゴツしたコンクリートへ。
目を開いてみるとそこは見知らぬ土地だった……。
周りをビルなどで囲まれて逃げ出せるようなところはない。
いや、限りなく狭い路地が1つ外に向かって伸びている。
が、今は下手に動かない方が得策だろう。
「なんなのよ新米、そのだらしない姿は」
いつの間にか夢の中で会った女性が目の前にいた。
これも夢なのかな……タンスに手を添えた瞬間失神とかかなぁ。
「何ぽけーっとしてんのよっ!」
厚底のブーツで俺の脛を蹴った。
「いぐうっ!?」
何だあの靴中に絶対鉄板入ってる……!
蹴られた脛を手で押さえながら訴える。
「な、なにすんだよてめぇっ!!」
「主に向かってなんと無礼な物言い……やっぱりあんたは式神扱いが十分お似合いね!」
なんだろう、ルビがおかしい。
『式神』と言ったはずだが『どれい』とも言ったかよのうに聞こえた。
式神になってしまった影響なのか?
「奴隷は……あ、間違った。式神は地に膝まついていなさい!」
「間違った間違ってないの前に式神のルビも『どれい』な気がするんだけど!?」
「あら?奴隷のクセにわかってるじゃない」
今度は普通に奴隷と言った。
それはそれで傷つく……。
でもさすがにもう我慢の限界だ。
「てめぇ…奴隷奴隷うっせぇんだよ!俺の名前は」
俺は彼女の胸ぐらを掴もうと近づいた。
すると彼女は一言。
「跪ケ」
乾いた言葉が漏れ出る。
それを聞いた瞬間俺の膝は崩れ、地に着いた。
それだけじゃない、顔も倒れ込み地面に激突する。
当たったコンクリートにヒビが入る。
っ痛ぅ……。
棒の状態で地面に倒れ込んでいる。
まるで陸に打ち上げられてしばらく経った魚のようだ。
一種のコントだよ、これ。
「ムグググググ……」
「あら?何があったのかしら?今まで聞こえてきたうるさい声が聞こえなくなったわね」
そう言いながら片足で俺の頭を踏みつける。
「ングググ!」
口を地面に押さえつけている俺はうまく言葉を発することができない。
さらには足をグリグリして更に頭を押さえ込む。
「なにか足元がしっかりしていないと思ったらっ!こんなところに人が倒れてるっ!?」
「ンンンーーーーッ!」
お前のせいだろ……そうつっこんでやりたい。
「それ程にしたらー?主」
俺の脳天の方向……前方から女性の声が聞こえてきた。
声からしてかなり若い。15歳くらいかな。
マスターと呼んでいるということはその声の主も彼女の式神という訳か。
可哀想に。
「いいじゃない、化猫ちゃん。これでも親睦を深めあっているのよ」
「いやいや、それじゃ親睦を深めあっているじゃなく主からの一方的暴力かつ新入り君には心の絆じゃなくて傷が深まるよ!?」
ナイスツッコミ!
拍手で褒めてあげたい。今は地面ですら叩けない状態だけど。
「……こいつの肩をもつわけ?」
そう言いながら彼女は俺から足をどけた。
いやぁー助かった。
「そういうわけじゃないけどさ…ただそれはやり過ぎだと思ったからだよ?」
「やり過ぎてた?」
「やり過ぎてた!」
自覚なし。恐ろしや、恐ろしや。
「ふーん、わかったわ。それじゃ起きなさい式神君」
そう言われると身体を縛っているかのような感覚が消えてすんなりと起き上がることができた。
「主……式神のルビに『どれい』付けるの流石にやめようよ」
「ん?化猫ちゃんにもバレてた?」
「雰囲気でバレバレ……」
俺はそんな会話を聞きながら体についた砂などを落としながらマスっ……彼女に問いかけた。
「それじゃ教えてもらおうか……あの黒い奴らはなんなのか、なぜ俺は式神にならなくちゃいけなかったのかをな!」