俺は式神になりました。
暑く熱い夏が終わり仲秋の名月も過ぎ少し肌寒くなってきた10月。
いきなりだが俺は最近ランニングにはまっている。
取り敢えずまだ俺は学生なため、朝方や昼間にそのようなことは出来ないので夜中に毎日のように走っている。
なぜ俺はそのような趣味を持ったのか……。
理由は簡単。
11月か12月頃にランニング大会なるものがうちの学校には存在する。誰がそのようなものを作ったのだろうか。
帰宅部の俺には厳しすぎる。
なんだよ……8kmも走るって……。
運動部……というか常に走っていそうな陸上部やサッカー部辺りは楽なんだろうな。なんかちょっとキツめの練習の一環的な。
つまり俺はこのランニング大会でヘマをかまさないように体力をつけようと走っているわけだ。
まぁ目立たなければいいのだが。
そんなことを思いながら運動靴の紐をきつく結ぶ。
今日はいつもとは違う道を走ろうかな。
走るルートを頭の中に広がる街中の地図で大まかに決めたあと外に出るためドアの扉を開けた。
◇
まさか……こんなことになるなんて……。
予想外だった。
月光が隙間から入る少し広めの裏路地。
玉の汗を浮かべる10代後半の女性の前には異形の姿をした生物がいる。月明かりでさえ面影がわからない程その生物は暗い。一体これはなんなのだろうか。
この生物と対峙する彼女は一体ここで何をしているのだろうか。
月明かりの入らない影には気づかなかったが様々な形をした暗い生物とは違う生物がその場で倒れていた。
「アンタ……化けモンの癖に強すぎっしょ……」
汗を浮かべて息をあげている彼女は遂に言葉を発する。
「化けモンとは失礼だな、女子よ。我々も昔はそなたら人間の一部だったものの…………」
その生物は口を開かずまるで体全体で言葉を発しているようだった。
「人間の一部ね……と言っても負の感情の塊なんでしょ」
その言葉に生物は首を縦に振る。
「ああ、違いない。しかし……こうやって攻撃もせずに話しかけていると言う事は仲間が回復をするのを待っているつもりか?それとも新たなる……」
生物が言い切る前に彼女は口を出す。
「なんなのよアンタ……。全てお察しってわけ?」
「ふむ、当たりというわけか。でも残念だったな女子よ。お主は我々との戦闘の前に結界を張ったであろう?あれは他人がここに近づかないようにするための結界なのだろ?」
生物は的確に彼女のやった行いを言っていく。
確かに彼女はこの場に結界を張った。
結界の外から見ればこの場には誰もいないように見える。
そして結界の効力で他人はここに近づこうとはしない。
他人がこの戦闘に巻き込まれないために。
他人が式神という存在が本当にこの世に存在する、ということを知らせないために。
この結界の影響を受けないとなると、結界を仕掛けた私より強い霊力を持った生物なのだが……。こんな夜中にこんな人通りの少ない場所にわざわざそんな霊力を多く持つ生物が来るだろうか?
その前に私より霊力の強い人は来るのだろうか?
答えは無いと言っても過言ではない。
むしろ奴と同じモノが来るという可能性すらある。
一縷の望みに賭けても叶うとは考えられない。
諦めるのか?
時間稼ぎをするのか?
もう……私が戦うしかないのか?
追い詰められた私は奴を睨むことしか出来ないでいた。
◇
俺はただ走るだけじゃ暇なので通り過ぎる電灯を数えていく。
俺が夜中にランニングを選んだ理由はもう一つある。
帰宅部だから帰ってすぐに走ることが可能なのだが、そんなことをするとたまに他の生徒とかに見つかって面倒ごとに巻き込まれる可能性がある。さらには学校でなんて言われるか想像がつかない。
……例えば、帰宅部がランニング大会に向けて頑張っている。それなら部活入れよ。
とかだろうか。
考え過ぎかな。
こんなこと考えても結局何事もなく終わるのが殆どなのだが、考えてしまうのが人間なのだろう。
いや、単なる被害妄想かな?
となると俺はメガティブ思考なのか……。
そうこう考えているといつもとは違う道を走るつもりでいた俺にその道が見えてきた。
その道は人道理が少なく灯りもなかなか入ってこない。
そのくせ道幅が広い。左右に高い建物が建っているこから灯りが入って来ないからなのだろうが。
あと数十メートル。
何やら俺は胸騒ぎがした。
知り合いが近くを通っているのだろうか。
ならば早くその例の道に入らないと。
そして走るペースを上げた。
胸騒ぎがその道に近づくなという危険信号だったとは気づかないまま。
◇
何やら足音が聞こえる。
音からして男性だろうか?
それとも奴らの仲間なのか?
できれば前者であって欲しい。
そしてこの道に曲がってきて欲しい。
そのような事が出来るのならばきっと霊力の強い人だ。
その時は逃がさない。必ず捕まえる。
私は腰に掛けていた火縄銃のような銃に手を添えた。
◇
俺はその道に続く角を曲がる。
ふと前方に嫌な予感がしたため足を止めてその方向をジッと見る。
まさか知っている奴がちょうどこの道を通ったのだろうか。
少量の月明かりで照らされ薄暗くなっているその場に一人の女性が立っていた。
彼女は腰にかけていた火縄銃?を右手で持ち上げて銃口をこちらに向けた。
本当に人間なのだろうか?目はまるで飢餓状態の超肉食獣が数日ぶりに餌を見つけたかのような目だった。
彼女は人間じゃない獣だ。
そして俺は餌か。
逃げようと思ったが足がすくみ思うように動けない。
よくこういう場面をテレビで見て逃げればいいのにと思うがいざこういう状況になると逃げれないものなのか。
お父さんお母さんゴメンなさい。どうやら俺の人生はここまでのようです。こんな不甲斐ないやつでごめんなさい。こうなるくらいなら最期に話でもしてからランニングを始めるべきだったな。
そして銃は口から大きな音を奏でながら弾をこちらに飛ばす。
脳天を貫かれた俺はゆっくりと瞼を閉じた。
◇
(きたああああああああああああああああああああ!!)
私は内心で叫び、ガッツポーズをして銃をこちらに来た人間に構える。
彼はその場に立ち止まり動こうとはしない。
今がチャンス。
動くなよ。
そして私は引き金を引いた。
弾は銃口から飛び出し空を駆け、空気を掻き分け突き進む。
そのまま吸い込まれるかのように脳天に直撃した。
見事脳天を貫かれた彼は全身をほのかな光に覆われる。
すかさず彼女は腰につけていた札入れから何も書いてない白紙の状態の札を一枚取り出し彼にかざす。
「封っ!」
彼女の言葉とともに彼の身体は光となり札に吸い込まれていった。
「やったっ!」
彼女は笑顔で小さくガッツポーズをする。
そして今度はその札を地面にかざして叫ぶ。
「召喚っ!」
すると札から大量の光が飛び出し人の姿となって地面に降り立った。
◇
途絶えたはずの意識が再び覚醒した。
確実に脳天を貫かれた覚えがある。
ということはここはあの世というわけか……。
まさか親より早くここに来ちゃうとは。
遅れてやってきた両親にはちゃんと謝らないといけない。
俺はゆっくりと瞼を開いた。
下を向いていたためまず見えたのは死ぬ前に着ていた服装とアスファルト。
ん?アスファルト?
あの世の地面はアスファルトだったのか。
驚きだな、あの世の地面は痩せた地面に細い草が生えているのかと思っていたんだが……意外と現代的なのね。
そして次に前を向く。
そこには黒く暗い闇の塊のような鬼がいた。
これが閻魔大王様か。
お初にお目にかかります。
次に周りの景色が目に入る。
まるで俺が死んだ裏路地にそっくり。
死者は死んだ場所で閻魔大王様に会うんだね。
そんなことを思いながら後ろを向くと……。
俺を殺した獣……じゃない女性が立っていた。
「ひいっっ!人殺しっ!」
俺は後ろに引き下がり足の力が抜けその場に尻餅をついた。
彼女は冷酷な目で俺を睨んだ。
まるで獣が餌が旨いかどうかを品定めしているかのような目だ。
いやちょっと待った……彼女もここにいるということは彼女も死んだのか?そもそもなんで俺はこんなに彼女の近くにいる?確か角を曲がったあたりで死んだはず。
「あぁん?人殺しだって?」
彼女は口を開いた。発せられる声は冷酷そのものだ。
「ああ、お前は俺を殺した。だから人殺しだ」
「ふーん、人殺しねぇ……。まぁ確かに何も理由を話さず脳天貫いちゃ誰だって殺されたと思うわよね」
先程より少々……ホントにホントに少々の温もりが言葉に加えられ彼女は答えた。
「でもまぁ私はアンタを殺してないわ」
「はあっ?」
「まぁ詳しい説明を言う前にアンタにはやってもらうことがある。目の前のあの鬼を殺しなさい」
目の前の鬼…………?あぁ、この女性のことね。
でも流石に殺されたからといってやり返すなんてことできないよ。さらに女性なんかに。
「なに私をジッと見てんのよ」
「いやだっておうぐっ!」
彼女に指をさして鬼と言おうとしたら思いっきり腹パンされた。女性のくせにこんなに力があるなんて……鬼だ。
「あのくっっそ黒い鬼のことよ!」
「えっ!?あれ閻魔大王様じゃないの!?」
「なにが閻魔大王よ!この世にそんなのいるわけないでしょ!」
すると閻魔大王……じゃない黒い鬼は喋った。
「ガッハッハッハ!閻魔大王様か!お主なかなか面白いな!まぁいきなりその女子に撃ち抜かれては殺されたと思うだろうな、元人間よ。」
元人間?やっぱり俺は殺されたのか。
そして鬼は続けて言う。
「で?どうなんだ元人間よ。式神となった気分は?」
……………………は?
式神?
式神ってあれだろ?
札から召喚して妖怪と戦ったりする………………。
ふと彼女の方を向く。
手には何やら文様の書かれた文字が……。
チョットマッタ。ウソダロ。
現実を受け入れたくない俺に彼女はすかさず追い討ちを加える。
「そう、あなたは今日から式神よ。私のために尽くしなさい」
なるほどわかったぞこれは夢なのね。
なるほどなるほど夢でございますか。
夢の中で夢だと理解するのはなかなかないぞ……。
「さぁ、新米の式神。今すぐアレを殺しなさい」
彼女はあの鬼を指さし言う。
「夢の中で戦闘だなんてそんな」
「夢じゃない現実」
更なる精神的ダメージを与えられる。
これが現実なら言うことは決まっている。
「嫌だよめんどくせぇ……」
これで決まりだ。
帰宅部の俺に戦闘だなんて無理。
格ゲーならともかく。
「ヤレ」
彼女は冷酷の塊のような言葉を投げつけてきた。
俺はそれに「やりたくない」「人にものを頼むのになんだよその言い方」などと口をするつもりだったのだが……口はそれに従わずこう言った。
「了解です」
えええええええええええええええ!!???
俺は自分の言った言葉に疑問符を大量に浮かべる。
きっとこれだけの疑問符があれば疑問符の物価はかなり下がるであろうというぐらい浮かべた。
たまに頭で考えていることとは全く別のことを口にするということがたまにあるがこれはさすがにないぞ!
訂正をすべく口を開こうとしたがその前に身体が勝手に動いた。
まずその場から立ち上がり鬼と対峙するかのように体の向きを動かした。
チョットマッタ。ナニヤッテンノオレ。
オイオイ。マジデ。ウソダロ。
「ハッハッ!まさか強制的に従わせるとは女子よ、おぬしなかなか酷だな」
鬼は笑い出した。
口を動かさず、そのまえに口が見えないのだがどうやって話しているのだろうか。
まるで鬼の体全体から話しているかのように聞こえる。
「……フンッ!」
彼女は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「可愛らしくない女子だな」
「うぐっ…さっさと終わらせなさい新米!」
彼女は強めに言った。するとなんということだろう、俺は鬼に向かって飛び出していた。
走り始めがMAXスピード。
走るスピードは人の限界を遥かに超えていた。
もはやそれはサバンナを駆け抜けるチーターのようだ。
一瞬の合間に鬼の目の前まで近づき俺は拳を構える。
……俺人殴ったことまずねぇぞ。
……その前に何かを殴ることすらない。
まさか最初が鬼に腹パンなんて。
きっと間抜けなパンチだろうな。
そして拳は無駄のない動きで鬼の腹筋が連なる腹部に当たる。
その刹那、まるで分厚い大型の鉄塊に大型のトラックがぶつかったような音がした。
……ほんとにこれ俺の体だよな。こんな様になったパンチ出せる筈がないんだけど。
「ウグッ!」
鬼は声を漏らすがこの場から動かずその場に立ち止まっていたままだ。
すると今まで気づかなかったが手に持っていた純黒の金棒らしき物で殴りかかってきた。
逃げられない。
俺の目にはそれがゆっくりとしたペースでこちらに向かってきているように見える。
どうしてんだろうなこういう時に限って近づくものがゆっくりになって見えるって。
まるで俺の恐怖体験を長引かせているかのようだ。
俺は金棒が当たるのを恐れ身構えていると身体はまた予期せぬ行動をする。
パンチした時に前に出していた右足だけでバックステップを行い、その場から一瞬にして離れる。
バックステップってあんなにスピードが出るんだね。
さっきのダッシュとあまり変わらない速さだったよ。
金棒はそのまま空を切り地面を強く叩く。
アスファルトは大きく割れ、破片が俺のところまで飛んできた。
「うへぇ……すげぇ」
いつの間にか己の意思で喋れるようになっていたのか、感嘆の声を漏らす。
「なに敵に対して感嘆してるのよ」
彼女の声がすかさずそれにつっこむ。
いやまぁそうなんだけどさ。
「でもあんたすごいわね、式神になれば各身体能力は底上げさせるけど……まさかそこまで上がるなんて驚きよ。一体何者なのアンタ」
普通の高校生です。
しかも帰宅部。
俺は苦笑いを浮かべた。
あとあんたも何者なんですか。
そう質問し返そうとしたその時。
「主様!」
月明かりの入らない影から声が聞こえてきた。
今まで気づかなかったがそこには鬼がいた。
片膝を地面についていて傷を負っている鬼だ。
まさか……あの黒鬼の仲間?
いやでもさっきこっちに向けてマスターって……。
「赤鬼っ!無事か!」
彼女はその鬼に向かって心配の言葉をかける。
「ええ、全回復とはなっておりませぬが主様とその者のおかげで闘えるまでは回復しております」
そういいながら赤鬼はた立ち上がりこちらまでやってきた。
月明かりが赤鬼を照らす。
まるで2メートルあるかのような背丈で筋肉が隆々としている。肌は赤鬼だから赤いと思っていたが肌褐色色だった。だが肌の見えるところには赤い紋様が施されている。勿論鬼なので角はついている。
「お前は戦わなくていい!新米に任せる!」
うえええええええええええ!!???
増援は有難かったんだけど……うそーん。
まさかの一人で戦えって?
俺が戦わないといけない理由すらわからないのに?
「しかし……その者は先ほど式神となられたはず!一人で闘えるわけが!」
そうだ、頼む赤鬼?さん。
彼女を説得してくれ。
「ふぅむ………………仕方ない。お主には手伝ってもらうか」
きたああああああああああああああああああああああああああああ!!!
ありがとう赤鬼さん!
俺がそう思っていると彼女は腰につけていた札入れのようなものから札を取り出しずっと持っていた札と重ねる。
ふと思うのだがあの黒鬼、よく待ってくれているよな。
今を狙って攻撃すればいいのに。
意外と律儀なのかな?
彼女より人間らしい。
そう思っていると彼女……じゃない彼女は叫んだ。
「式神融合っ!ベースはあの新米、素材は赤鬼とする!」
融合!?え、なに?合体して新たなる1つの姿になるってか!?
「主様!?」
赤鬼も不意をつかれたのだろう驚いていた。
だが、赤鬼はいきなり体全体を炎へと変えた。
そしてその炎は意志を持ったかの如く俺に迫ってきた。
「うぇえええ!?ええ!」
いきなりだったのでその場から動けなくなっていた俺は瞬く間に炎に呑み込まれた。
熱い。全身が熱い。焼ける。
などと思ったがふと冷静になると全く熱くなかった。
むしろ全身に力がみなぎるようだった。
そして炎は俺の体に染み込んでいく。
炎が完全に俺の体に入ったあと全身を見てみるとあの赤鬼の同じように赤い紋様が施され、頭を触ると2本の角があった。
「なに……これ?」
全身に力が漲るがなんなの?これ。
「説明はあと、律儀に待っていてくれたあの黒鬼を殺してから」
そうだ、なぜ黒鬼は律儀に待っていてくてたんだろうか。
目の前で律儀に待っていた奴を殺すって気が引けるよな。
「ハッハッハ!確かに律儀に待っていた!だがなそれは勝てるかもしれないという希望を踏みにじりお主らを絶望に突き落とすためだ!我々は絶望などの感情が好物だ!今動かなかったのは周囲の生物の絶望を集める為でもあるがな……」
律儀に待っていたって自分で言いますか!?
てか周囲の絶望……?こんな時間に起きてる人がいるのか?
いや、人でなくてもいい。ほかの生物が天敵に襲われ死ぬかとしれないという絶望を味わっていればそれもあいつの餌となるということか!
「我が名は邪鬼!絶望を喰らった今、先程より強くなっていると思え!」
「奴らの名前なんて覚えなくていい!今すぐ殺しなさい!」
俺は動きたくはなかった。面倒ごとには巻き込まれたくなかった。
だが、今俺が動かないと取り返しのつかないことが起こりそうな気がした。
俺の直感がそう言っている。
黒鬼改め邪鬼を倒すべく俺は地面を蹴り一瞬にして近づいた。
そのスピードに乗せて先程と同じようにパンチを繰り出す。
だが邪鬼もそのスピードも見切ったのか片手でそれを止めた。
だが……
ボキッ
骨の折れる音がした。
俺は痛くない。邪鬼の骨が折れたのか。
さらに掴まれたままの拳を下に思いっきりおろして
手首に膝打ちをする。
するとまた骨が折れた。
その拍子に俺の拳が解放された。
「グッ…………おのれッ!おのれぇえええええ!」
邪鬼は折れた手を下ろして金棒を俺の頭部めがけて振りおろしてきた。
俺はそれを片腕で止める。
その瞬間金棒はいとも簡単に折れ、崩れ去っていった。
「なっ……!」
拳を振り絞り足を大きく踏み出し最初当てた腹部を再び狙う。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
拳は邪鬼の腹部に当たり、沈み、肉を引き裂き、そして身体を貫いた。
貫いた瞬間やってしまったと全身を寒気が襲う。
不思議なことに開いた風穴からは血が一滴たりとも漏れることはなかった。
「ぐふぅ……まさか………………式神の新米にやられるなんてな………………
そして邪鬼は全身を粒子に変えて微風に乗せられて消えていった。
「説明してくれるよな?」
邪鬼を倒した瞬間姿が元に戻った俺は彼女に問いただす。
「簡単に言うと私はお前を式神にしたの」
いやそれはわかっているからさ。
「なんでそんなことをしたんだ!」
「……この世界を守るためよ」
セカイヲマモルタメ?ナニイッテンノコイツ?
俺の脳内がフリーズして脳内を流れる言葉がカタカナと化した。
「まぁ落ち着け。時間ももう遅い。続きの話はまた今度話す。だからもう家に帰ることを勧める」
突如割行ってきた赤鬼になだされる。
つけてた腕時計を見ると普段俺がランニングを終えて家に着いている時間帯だ。彼の言う通りそろそろ帰らないと親が心配するだろう。俺はその言葉に承諾する。
「ああ、わかった。今日はもう家に帰ることにする。必ず話せよ」
「必ず話すさ、さぁ主様解放してやってください」
解放?俺は式神となって札から召喚されたんだよな。
解放って既に解放されているようなものだよな……。
すると彼女は取り出していた一枚を取り出して言った。
「一応言っておくわ、アンタは今日から私の式神絶対に逃れられないからね。」
あれ?なんだろう式神と言ったはずなのだがルビがおかしかった気がするぞ。
「封っ!」
俺の疑問もその言葉によって中断された。
解放と真逆じゃね?
そして俺は光に包まれて札の中に取り込まれていく。
「主様?いつもは『戻れ!』じゃないですか?なんで『封』と」
「まぁ悪戯心が働いたのよ。解放と真逆の言葉を言ってみたらどんな顔をするか面白そうだったからね」
札に取り込まれ意識が遠のいていく中、そんな二人の会話が聞こえてきた。
気づくと俺は彼女に撃たれた場所に立っていた。
彼女たちと話していた位置を見てみたが誰もいない。
夢だったのだろうか?
「………………うわっ!やべっ!」
ふと腕時計を見ると門限までかなり迫っていたので急いで帰ることにした。