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手紙でございます!!

 プリシラがジャード・オール子爵に心打ちぬかれてから、彼女の手紙はジャード氏宛てに比重が寄っていた。話だけではなく、文面までもジャードは風情ある文体で、プリシラはそれにもうっとりとしてしまった。


「お嬢様は本当にオール子爵に骨抜きですね」

「私は良い事と思いません、プリシラ様。エビネラン様もかなり落ち込んでいらっしゃいますよ」


 侍従の言葉に羽ペンを置いてプリシラは口をへの字に曲げた。


「お母様は喜んでくださっているわ」

「奥様は確かに……。でも、ベルフェゴール様もカクタス様も、それにミュミュ様も。旦那様のお味方ですけど」


 母はプリシラがジャード氏をとても素晴らしい方だと思う、私の理想の人だわ、と伝えた際には喜んでくれた。

 なのに、他の家族達はプリシラとジャードの文通を喜んでくれないのだ。


 よくやった、と褒めてくれた父もプリシラが文通を始めたことを報告すると渋面になり、柔らかくだが止めなさいと言う。

 プリシラはそれを断固として拒否しているが、兄とベルフェゴール、そしてミューも一斉に「駄目」というために若干心が揺らいでいるのも事実だった。


「何が問題なのかしら」

「厄介な人物っていうのは私も否定しませんけど」

「ソレルまで」

「ソレルに賛成です! プリシラ様はご自分の魅力をもっと自覚なさるべきです!」


 はいはい、と聞き流す。自分の魅力など言われなくても分かっている。プリシラはそんなことを聞きたいわけではない。


「ですが、お嬢様。オール子爵はあの『強欲』マモンのお父上でしょう。もう少し警戒なさっては?」

「その通りです! ソレル、貴方もいいこと言うじゃない! プリシラ様、もっと警戒すべきです!!」


 侍従二人からのまさかの反論にプリシラは頬杖をついて、二人を見遣る。


「まあ、それは言えてるわ。確かに、あまり攻略者の家族と関わるというのはよくないわね」

「そうでしょうっ!!!」


 グレイスが我が意を得た、と大きく頷いたのを確認して、プリシラはにっこりと笑う。


「だが断る」

「プリシラ様!」


 叫ぶグレイスの横で、ソレルは想定していたのか、苦笑している。


「ジャード様と関わったからって、攻略者の家族って言う意味ならもうサタン陛下と充分関わっているわ。今更よ、今更! 私はジャード様と親しくしたいの。サタン陛下とも親しくしたいの。だから、誰からも文句なんて言わせないわ。お二人とも、とーーーっても素敵な方よ。何が問題なのか、理論立てて私に納得させてくれたら考えないでもないけれど! 駄目、駄目だけ言ったって、私は納得なんてしないわ。分かったら、もうこの話題は出さないで」


 ふん、とそっぽを向いてグレイスとソレルに態度で指し示した。プリシラにはプリシラの考えがある。既に出した結論は、誰であろうと変えられるものではない。


 今日はベルフェゴールとのお茶会も兄との話会もない。


 普段なら側にいるミューは公爵家の側にいて恥ずかしくないように教育を受けさせられている。


 彼女は勉強などしたことがないらしく、教育係に連れて行かれる際は半泣きだ。


 プリシラから「もしちゃんと頑張ったら、好きな曲を好きなだけ弾いてあげるわ」と言っているのでサボる心配はしていない。

 プリシラもあんなに可愛い顔が涙に歪むのは忍びないのだが、しかし、後々のことを考えると今頑張っておいた方がいい。


 もしプリシラが学園に行く事になったら、後二年程しかない。勿論、全力で回避する方針ではあるがそれはそれ、これはこれである。

 もし万が一、学園に行くのであれば令嬢の我儘にしろ、何にしろ、やはりミューにはきちんと教育をしておきたい。影ながらサポートして貰うにも、ある程度教養も知識も必要になる。

 表向きは拾ってきた身元不明の少女であるものの、プリシラは妹のように可愛がる事に決めたのだ。拾ってきたのなら、きちんと世話をしてこそ、公爵家としても、契約を交わした主人としても胸を張れるというものである。


 そこのところもミューに説明すると涙を浮かべながら《シィに置いてかれないように、ミュミュがんばるぅ》と言っていた。本当に可愛い。


「それにしても、暇だわ。今日の分の勉強も―――書庫に行って読んでいない本を読もうかしら」

「それは、よいかもしれません」


 賛成の意を示すソレルと。


「……行かれますか、プリシラ様」


 不貞腐れた顔で言うグレイス。

 プリシラは立ち上がった。


「じゃあ、行くわよ」

「お嬢様! 手紙でございます!!」


 飛び込んできたのはメイドの一人だった。ノックもない無作法さに眉を寄せるも、彼女の態度が尋常ではない。プリシラは首を傾げてとりあえずグレイスに受け取らせた。


 グレイスは手紙を持ってきたメイドを一睨みして「ひっ」と声をあげられていた。胡散臭げに手紙に目を落として―――目が見開かれた。


「なに?」


 彼女は唖然とした顔をしたまま、手紙の封を見せた。


 ―――ドラゴンの紋章が眼に入った。



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