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シィお姉様

 プリシラはソレルの提案に目を丸くした。


 まさかの提案だ。

 そんなことが可能なのか、とミューを見るとそれを了解していたかのようにミューはぴょん、とプリシラの膝から飛び降りた。


 ミューが《擬態ミミクリィ》と唱えた瞬間、彼女の羽が消え去り、ベルフェゴールよりも若干幼い年齢の―――恐らく、五歳ほど―――美少女に成長した。桃色だった髪色はベージュを主体にした桃色に変わっている。これなら、人間の少女に見える。


「出来るの!」

「―――と、この状態になると精霊様は私達人間と同じ様になるそうです。魔導師達の眼も誤魔化せるそうですので、日常生活において問題はないかと。ただ、この身体を維持するのに少なからず魔力を使っているそうなのでお嬢様の負担が……あの……聞いてます?」


 ソレルの言葉などプリシラの右から左に抜けている。


 世界から音が消えたような錯覚の中、ミューが視線を穴が開きそうな視線に堪えかねたらしく、不安げにプリシラを見上げた。


「シィ、あの、駄目だったの? ミュミュ、何か間違えちゃったのよ?」

「……いい」


 プリシラはミュミュに手を伸ばし、自身の指先が震えているのを視界に入れる。


「ミュミュ、人間に見えないのよ……?」


 おろおろとするミューに手を伸ばして―――抱きしめた。


「かわいいいい! ミュー、凄く可愛いわ!」

「みゅ……っ」

「よくやったわ、ソレル! こんなに可愛いミューが私の妹になるなんて、最高に素敵な考えよ! お父様、養女として受け入れてしまいましょう! ねっ?」

「僕の妹……に、なるんでしょうか」

「そうね! ベルの妹になるわ。そうなると、ミューもベルの事をちゃんとお兄様って呼ばないと駄目よ。お兄様の事もそう呼ばないと。それから、私のことは『シィ』じゃなくて『お姉様』よ! 勿論『シィお姉様』で構わないけど……」

「待ちなさい、プリシラ。まだ彼女をここに迎え入れるとは言っていない。それは当主の私が決める事だ」

「お父様……」


 厳しい父の言葉にプリシラは、ぎゅぅっとミューを抱きしめた。


「精霊様。君は……成長が出来るのかい?」


「で、出来るの。魔力さえ枯渇してないなら、ミュミュはどんな大きさにもなれるの」


「本当に、魔導師達にはばれないのかい?」


「……絶対とは言い切れないの。ミュミュと同じ精霊で、ミュミュより力のつよい精霊ならミュミュのことだって分かるのよ。でも、ミュミュは凄い精霊だから、そう簡単には同じ精霊でも見破れないのよ。人間は分からないの。でも、この姿で出て行って精霊だってばれたことはないの」


「……なるほど。だが、この家に入るとなると……君は結婚しなければならなくなるかもしれないんだが、そこはどうなんだい?」


「結婚っ!?」


 驚きにプリシラは声を上げた。


「プリシラ、私達は貴族だ。それ相応の義務が生じる」


 家族達から反論はない。


 プリシラは、ぐ、と言葉に詰まった。


 そこまで考えていなかった。


 プリシラ自身が婚約を破棄してしまったからか、ある程度、結婚相手は自由に出来ると軽く考えていたのだ。


 それを自覚し、プリシラはミューの将来をもう一度考える。


 このままミューが家族になった場合、とても楽しい日々になる。

 愛する兄と愛する弟に加えて、天使の妹が出来るのだ。

 プリシラの生活は薔薇色どころか、虹色だ。

 暗雲が立ち込める隙など微塵も与えない程の青空に違いない。だが、公爵家の養女となったからには陛下に拝謁しなければならないだろうし、そうなると彼女の精霊という特殊な種族が存在する事が知れ渡る可能性はぐっと高くなる。


 また、父の言ったとおり、公爵家の駒として国の駒として結婚という安易な手を使う時にプリシラではなく、ミューがその対象となることも充分考えられた。


 このまま、プリシラの側でふよふよと誰にも姿を見せることなく、過ごしているほうがずっと幸せに過ごせる気がする。


 別に姿を見せる必要は何処にもないし、養女にする必要性も全く無い。


 プリシラは、頷いた。


「―――ソレルの提案はやめましょう、お父様。でも、私が拾ってきた庶民の少女とでもしておいたらどうかしら。見えない姿で話していて、頭が可笑しくなったんじゃないかって思われるのは嫌だもの。皆には書類上にはなんの保証も無いけど、実質的にはミューを家族として認めて欲しいわ。あと、ミューは私のことをお姉様って人前で呼んでちょうだいね。それから……勝手に過去を捏造してもいいわよね。こう、暴漢に襲われそうになったところを助けて懐いたとか、そういうことにしてしまったらどうかしら」


 そもそも、姿を見えなくさせる事が出来るのだから、わざわざ人と接して精霊だとばれる危険性が高くなるようなことをする必要は全く無い。


 プリシラの我儘は貴族達の中でも有名だから「お気に入りだから見せたくないのよ」と言っていたといえば、別段他の者達に見せる必要はないし、親戚ではないため、駒や道具として扱われることもない。


 そう説明すると、納得したようだった。


「―――……プリシラの言っている事はそれなりに筋も通っている、か? 身元不明の少女を引き取った、ということにすれば……」

「私がお遊びの気まぐれで拾ってきたということにしてしまえば誰も疑わないと思うわ」

「じゃあ、そういう方面で――……」


 家族会議はすぐに纏められる事となった。


 ミューの位置づけはプリシラが拾ってきた子供。家族の位置づけは末娘。ベルフェゴールがミューに「ベルお兄様」と呼ばれた時にとても嬉しそうに笑ったのがプリシラとしては印象的だった。


 その後、兄に「兄上の気持ちが漸く分かりました」と何かを悟った顔をしていた。


 嬉しそうで良かった、とプリシラはミューと契約をして良かったと心から思う。


 これから楽しい日々が始まるわね―――とプリシラはこれからミューとしたいことを頭の中に列挙しながら微笑んだ。



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