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…………プリシラが精霊と契約した

 翌日に持ち越された話し合いにて、プリシラはその場にいるのが前日と違うメンバーであることに首を傾げた。


「お兄様とベルも……? お父様、お母様、これは」

「いいかい、プリシラ。これは家族の問題だ。私達だけで考えるべき問題じゃない。分かるね?」


 昨日の驚愕に息を止めていそうだったのとは違って普段のプリシラに甘い父の姿がそこにある。だが、普段とは違い圧倒される凄みを感じさせる雰囲気で座っていた。


「はい、お父様」

「だから、この問題は家族全員で考える事にする。いいね?」

「はい、お父様。その方が私も嬉しいわ」


『伝説の精霊』は家族問題として、議題があがることになったようだ。

 確かに、伝説の精霊だ。

 国家問題になることを隠そうというのだから皆でその情報を共有しておくほうが下手に探られなくていいかもしれない。ばらされる心配など、家族にするなど不用だ。


「カクタス、ベルフェ……プリシィから重大発表が、あったのよ」


 母が厳かな雰囲気で話し始めた。


 ベルフェゴールと兄は二人とも不思議そうな顔で、両親とプリシラを見つめる。

 プリシラはそっと膝に乗っているミューへと視線を落とした。

 ミューもまた、プリシラを不安げな瞳で見上げている。それに微笑みかけて、プリシラはまっすぐに顔を上げた。


「重大発表、ですか。なるほど。プリシラが別荘から戻って来たのはそれがあったからか」

「お兄様……」


 苦笑した兄にプリシラは申し訳なく思う。

 きっと顎が外れるのではないかと言う程に驚くだろうし、兄が今頭の中で思い浮かべている理由は全て外れていると断言出来る。

 ある程度、理由が思いついている兄とは違い、ベルフェゴールは不思議そうな顔で首を傾げた。


「姉上は何か理由があって帰ってきたのですか?」


 ベルフェゴールの問いにプリシラは微笑みで答えて―――父が咽喉を鳴らす。


「落ち着いて聞くんだぞ、二人とも。そして、この事は他言無用だ。分かったな?」


 ベルフェゴールと兄が双方頷いたのを確認して、父は堪えるように瞳を閉じて重々しく口を開いた。


「…………プリシラが精霊と契約した」

 《はじめましてなの! シィの契約精霊、ミュミュなの!》


 完璧なタイミングでもって姿を現し、自己紹介をする精霊天使はプリシラの兄弟の視線を釘付けにした。


 昨日に引き続いて家族の視線を奪うミューに、ちょっと妬けるわ、と不満に思った瞬間、兄が「プリシラ、どうした?」と言われて驚いた。ベルフェゴールも心配そうに「姉上、何かありましたか?」と続けた。


 プリシラは二人に注目されて嬉しく思うよりも怪訝な想いを抱いてしまう。


 伝説の生き物がその場に存在するのに、プリシラを気にする余裕があるなど可笑しいだろう。


「お兄様もベルも……ミューが見えないの? 精霊なのよ?」


 ミューはふよふよと相変わらず愛らしい姿で浮いている。


 もしや、ミューが姿を現していないのかと目を向ければ《ちゃ、ちゃんと見えてるの!》と首を振られた。それならこんな反応ではなく、もっと驚愕に目を見開いて固まっていいはずなのに。


「だが……プリシラ。何か悲しそうな顔をしただろう?」

「兄上の言うとおりです、姉上。何かあったのですか」


 真剣に心配してくれているらしい二人に、自分は間違っていないわよね?とプリシラは助けを求めて両親を見た。


 すると。


 母は頭痛を堪えるように頭へ手を当て「さすがは、カクタスね……」と呟き、父はどこか感心したように「さすが我が息子達だな」という言葉を口にしている。


 《シィの”お兄様”も、シィの”ベルフェゴール”も凄いの。ミュミュを見て驚いたのに、シィの変化に気づくなんて凄いの》

「当然だよ。私が妹の変化に気づかない訳がない」


 柔らかく微笑む兄と。


「姉上、それで何を思っていたんですか」


 眉間に皺が寄り始め、詰問するような口調になっていく弟。


 どう見ても、プリシラのことを大切に思ってくれている。

 プリシラは、二人を見て反省した。

 ミューに嫉妬するなんて馬鹿なことだった。家族は皆、ちゃんとプリシラを愛しているし、気にかけてくれているのだ。


「違うわ。ミューに皆が注目して嫉妬したのよ。馬鹿だったわ」

 《ミュミュのせいだったの!?》

「えっ、違うわ。そうじゃなくて……」

「プリシラ、それは私が悪かった」

「姉上、すみません。そういうつもりは全くなかったのですが……流石に『精霊』は、その、驚くなと言うほうが無理で……」


 プリシラは二人の兄弟に首を振った。


「当然だわ。ミューはとても可愛らしいし、精霊なのに天使のようだし、つい見てしまうのも分かるわ」

「そういうことじゃないと思うんですけど、お嬢様」

「……ソレル、余計な事言うのやめなさいよ」


 思わず、といった風に口を出してきたソレルに突っ込みをいれたのはグレイスだ。

 全くその通り。ソレルは余計なことを言いすぎである。余計なことを言ったソレルを睨むのは忘れない。

 こほんと咳をした母に視線を向けた。


「とにかく、プリシィは別荘に行って契約してしまったのよ。精霊が本当にいたのかなんて聞かないで頂戴ね。私だって驚いてるのよ……」


 疲れたような溜息と共に吐かれた言葉。


「一先ず、ソレルの考えを聞こうか。確か、昨日考えがあると言ってなかったかい?」


 プリシラの昨日の言葉を呆然としていたのにきちんと聞いていてくれたのだとプリシラは父に微笑んだ。


「―――ソレル」

「はい、お嬢様」

「考えを言いなさい」


 一礼をした彼はプリシラ一同を見回し、息を吸い込んだ。


「―――ミュミュ様を養女として迎え入れられたら如何かと」


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