表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/53

『憤怒』のサタン

 優秀な二人の従者と侍女のおかげで気分が上向きになったプリシラは、涙を流した跡をソレルが作ってくれたホットタオルで拭いた。それから気持ちを落ち着けるために、先ずは部屋でグレイスが淹れてくれたお茶を飲んだ。そして落ち着いた頃合になって、プリシラは自分が作ったパンをお茶請けにして二人へ『憤怒』のサタンについて詳しく、話す事になった。


 *・*・*・*・*・*・*・*・*


 この間会った子供が『憤怒』のサタンよ。

 狼になったの見たでしょ。

 前回は陛下のロリコン疑惑を晴らすためで詳しく話さなかったから、今回はちゃんと話すわね。

 彼の目的は本人が言ってた通り、『復讐』なのよ。それも神々に対する復讐。

 サタンはかなりの力を一人で持っていたのよ。それも、世界を作った者達―――神々が全力を出しても一時は跳ね返せるほどの力をね。それを恐れた神々がサタンを罠にかけて力の大半を封じてしまった。

 そして、彼らから言うと『下界』、罪人が落とされるこの世界に彼を落としたのよ。上の世界から。

 私達が生きているこの世界に罪人を落とすなんて失礼にも程があるわよね。なら、ここに産まれ、住んでいる私達はいったい何なのよ。

 勿論、サタンは怒り狂ったわ。それがサタンのモチーフ『憤怒』に繋がってくるのよ。

 その怒りを解して、その激情を一身に受けていくのが彼のルートよ。

 あの怒りが全て恋情に向くのよ……怖ろしいわ。私は絶対に彼と恋愛はしたくないわね。……残念ながら関わってしまったけど。

 餌付けから始まった関係で、ヒロインは学園で寮暮らしだけど、寮であの狼を飼うことになるのよ。男には吼えるけど女には吼えなくって、女子寮で飼われるわね。時々、ヒロインのベッドに夜這いしたり、押し倒したり、廊下や草の陰に引っ張り込んだりするのよ。つまり、色欲とやってることは大して変わらないわ。

 ただ、彼の場合、封印を解いてくのをヒロインに手伝ってもらうから、最初は子供の姿だけど、封印を解いていくごとに大きくなっていくのが売りだったみたいよ。

 封印を全部解き終えると、神々と一戦交えかけるの。そしたら、神々はヒロインを人質に取るのよ。で、ヒロインは魂を取られる。それを取り戻す為に力を使いきった彼は、殆ど人間と変わらない力になって生きることになるのよ。神達はヒロインにサタンと同じだけの寿命を与えてハッピーエンド。

 〈真実の愛は何より尊い〉っていうのを彼は体現するわけなのよ。全ての封印が解けた時には、彼の神々への復讐心よりも、その全ての力を、ヒロインを手に入れるために使うことになるからなんだけど。

 神様って最低ね。嫌いだわ。特に自分に被害がいかないようにしているところなんて最悪。人質を最後に取るところも、本当に非道徳的よね。利己主義って言うか、凄く人間臭いわ。それも本能的だから更にその人間臭さが表に出てて……ぞっとする。サタンの彼はこの世界に留まったほうがずっといいと思うわ。

 封印は解いてもいいけど、サタンは力を使わなきゃいいのよ。神々への復讐心なんて捨て去って。そうしたら、彼は人間界で君臨出来るわよ。魔王として。まあ、間抜けな魔王になりそうだけど。


 *・*・*・*・*・*・*・*・*


 プリシラは話しながら、サタンとは仲良くなっていいかもしれない、と思う。

 何故か分からないが構ってあげたくなるのだ。不思議な事に。プリシラはまた一口お茶を飲み、グレイスとソレルの様子を伺った。


「……もしまた会ったら……アイスクリームもあげませんか、お嬢様」

「もっと優しくするべきでした……!」


 後悔しているらしい。

 心優しき従者達を持てて幸せだ。プリシラは微笑んで答えた。


「そうね。今度会ったら、アイスクリームも作ってあげましょうか」


 珍しく、プリシラは他人に再び会いたいと願った―――


つ【ホームシック】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ