……本当に自分勝手な性格は変わってないんですね
プリシラは、屋敷中の者達から異様なものを見る眼で見られ続けて、疲れきっていた。
腫れ物を障るような態度に、何かする度に悲鳴をあげられるのだ。
気が滅入る。
何日か安静と医者にも言われてしまい、現在は暇を持て余している状態だ。
「挨拶をしただけで悲鳴、お礼を言ったら悲鳴。私を誰だと思ってるのかしら。クビにされても文句は言えないわよ」
今までサボっていた勉強をする、と言ったら家族全員にベッドに戻されて熱を測られた。
とりあえず、読書に勤しんでいる。
「プリシラ様、本当に変わった! 私の言葉遣い、今日一度も注意してない!」
手を振り上げて元気よく言う彼女に、頷く。
グレイスは他国の人間の為、この国の言葉がまだ完璧ではない。それをあげつらって馬鹿にしていたプリシラは、なんて馬鹿なことを言っていたのだろうと反省をしている。
「大した問題じゃないわ。言葉なんて意思疎通できればいいんだから」
「昨日まで、ちゃんと喋る事もできないの、愚図がとか言ってらしたのに~」
「五月蝿いわよ、ソレル」
すぐに突っ込みをいれるソレルを睨めば、にっこりと笑顔で返された。腹が立つことだ。
「お父様もお兄様も馬鹿にしすぎよ。勉強をしたいって言うんだから、やらせておけばいいのに」
不満を漏らす。過保護ではなく、本気で頭の心配をされたのだ。
「プリシラ様……それは……自分の今までの行動を振り返ってから言った方がいいですよ……」
さっきとは違って遠慮がちの科白にプリシラは、む、と口を歪めた。
「分かってるわ。だから読書をしてるのよ。身体が全快したら、すぐに色々とやらなきゃならないわ」
「プリシラ様、なんで? ルシファー様、好き。そのままでいいのに」
不思議そうに聞いてくるグレイスにプリシラは驚いた。
「え? 何を言ってるのよ、グレイスったら。このままだと隣国に置き去りよ。置き去り! だったら、今までと違った私にならなきゃならないじゃない。いざ、ルシファー様達に隣国に追い込まれても根回しとかで鮮やかに回避できるくらい人脈も必要だし、もし置き去りさせられても隣国に伝手があれば大丈夫でしょ? もし何かあっても、きっと何か事情があったんだろうって周りが思ってくれるくらいになっておけば色々不安もなくなるじゃないの」
「えっ。じゃあ、ヒロインはどうするんですか?」
ソレルが驚いたように言う。
ヒロインは色々な騒動を巻き起こし、ルートによっては一度学園崩壊をしたり、敵国が攻めてきたり、ヒロインが隣国に行く場合もある。ちなみに、ルシファールートは物理的に学園が崩壊する。
その話をしていたからだろう。
ソレルの様子を見るに、彼はそうならないようにプリシラがヒロインの邪魔をすると思っていたようだ。
プリシラは白けた眼で彼を見据えた。たじろぐ彼にプリシラは無感情に告げた。
「別にどうもしないわよ。私が知らないところで好き勝手してくれればいいの。だから、学園に行きたくないんじゃないの。私に迷惑がかからなければそれでいいわ」
学園崩壊も敵国が攻めてこようとも、ゲームは平和に終わる。主要メンバーが解決するのだ。バットもノーマルもハッピーも、どのルートであろうと。途中の死亡ルートはこのゲームに存在しない。悪役のプリシラだって、最悪が隣国追放なのだから。
つまり、何か起ころうと勝手に解決するのに、干渉する必要性は皆無だ。
「……本当に自分勝手な性格は変わってないんですね」
いっそ感心したとでも言いたげだ。
「当然でしょ。初めから私は私のままよ。いつ私が別人になったと言ったのよ。馬鹿ね。今まで通り、お父様もお母様もお兄様もベルのことも、貴方たち二人の事も大好きなままだし、私は自分が大事よ」
「……プリシラ様、すごい」
なんだかグレイスに感心された。
「知ってるわ」
真顔で頷いておいた。