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【この小悪魔がっ!】

※Yes家族愛 Not恋愛です。安心してお読みください。

「―――どう思う、ジャスパー」


 プリシラの部屋から笑顔で出て、足を必死に動かして妹に声が届かないくらいになったのを確認してから、俺の右腕として信頼するジャスパーに尋ねる。

 幼い頃から俺の従者として過ごす彼は、書類整理など頭を使う事になれていない俺をしっかりと支えてくれている。親友といっていい。ジャスパーがいなければ俺の仕事は成立していないほどだ。


「……順当に考えれば、三ヶ月前までの彼女に戻ったんじゃないんスか」

「だよなー!? どうすりゃいいんだよ! 言っちまったよ、俺! やっちまったよ、俺!」


 怖い目にあわせたことを謝った際、一度は許してくれそうな気配をしたのに一瞬にして妹は何か思いついた、という笑みを浮かべた。嫌な予感がした瞬間、


「『じゃあ、お兄様の一日を下さいませ。その日一日は私のどんな我儘もお兄様の責任として叶えてください』なんて言うと思うか?!」

「最近、プリシラは甘いから許してくれる気がする!とかなんとか言って突撃したのはアンタでしょ」

「一度は許してくれそうだったじゃん!」

「つーか、それより気になるのは、あのお坊ちゃん達に本気で何かするつもりなんスかってことなんスけど」

「あったりまえだろうが!」


 呆れたように言ってくるのにすぐに返す。

 あのお坊ちゃんとは、殿下と殿下の護衛とか言って今一緒にいるゴート家の嫡男のことだ。あの野郎、と毒づく。よりにもよって、俺の妹を犯そうとしたのだ。生半可な罰では絶対に許さない。

 可哀想にいつも気丈な妹はソレルが話をするにつれて、涙を浮かべていた。悔しいと思う以外で妹が泣くことなど初めて見た。あの、プリシラが涙を堪えるほどのことがあったのだ。それも、使用人達と共に全力で嫌がるほどの事をあいつはしたのだ。


「てか、俺からしたら趣味悪いと思うんスけど」

「あ゛ぁ!?」


 聞き捨てなら無い事を吐きやがったジャスパーを睨みつけた。口元を引き攣らせながらも続ける。


「……だって、あんだけ殿下を好きだって分かるお嬢様見てるんスよ? 普通、惚れます? ……性格もありえねぇし」

「チッ、んなの、どうせあの殿下バカが馬鹿なことを命令したんだろ。だから、許さねぇ。絶対にだ。つか、さっきボソッと言ったのも聞こえてんぞ。明日の練習、お前、2倍な」

「げぇ! ちょ、勘弁してくださいっス! 職権乱用っスよ?!」


 抗議の声をあげるジャスパーは当然無視する。俺の妹を馬鹿にしたんだからそれくらいは当然だ。


 ゴート家の話は知っていた。色欲の事は確かに厄介だろう。男の性欲が何十倍も強いというのは、同じ男して想像だけでも怖ろしい。それを更に怖ろしいほどの忍耐力で手当たり次第、犯罪に手を染めるのではなく、同意まで持ちこもうとする考えと精神力は評価してやろう。

 だからといって、俺の妹に手をかけようとした罪は重い。突然、迫ったところを見るにまだ手馴れていなかったらしいな。それが幸いした。もし何人か女に手をつけていたら、男に慣れていない妹には荷が重い。ゴート家は性欲が強いだけではなく、女を落とす手腕の才能も並外れている。家の成り立ちにも由来するその性欲は、性技に関して尋常ではなく上手いという話はそこかしこで聞く。

 どうせ殿下に口説き落としてくれば問題ない、なんてことを言われたに違いない。ゴート家の忠誠心はどの代でも高い。殿下の側を離れ、うちにくるなどあり得ないし、もしそうであったとしても堂々と正規の道を取る。こそこそと家にくるなどあり得ない。あの殿下に言われたのなら、あいつは内心どうであれ頷いただろう。つまり、俺の妹は再び殿下ばかに振り回され、傷つけられかけたということだ。それも、心だけではなく身体までも!


 妹が言われてきた言葉を、陛下から聞いた時は愕然とした。それもあの馬鹿殿下から無理矢理聞き出したものやあの盛りのついた馬アスモデウスが覚えているものだけだから、きっとそれ以上に酷い事を言われただろうと続けられ、本気で剣に手をかけた。


「……で? どうするつもりなんスか? お嬢様の願い」

「約束は守るに決まってんだろうが」


 妹は一日我儘を聞く、という条件を出した後に『気に入らない使用人をクビにしてもお兄様が全責任を取ってくれるのよね?』と続けた。その言葉に三ヶ月前の妹を思い出したのはジャスパーも同じだったんだろう。苦い顔をして、見られた。


「本気なんスか? ちょっとそれは……」

「責任は俺が取るんだよ。ちゃんと後々の世話はするに決まってんだろ」

「……ま、アンタがそれでいいんなら別にいいっスよ。俺は」


 吐き捨てればそんな返答。こいつ、相変わらず俺に甘い。


 そんな風に悩んでいる時期もあった。が、それについて頭を悩ませる余裕が暫く無くなった。一日開けようと思うと、公爵家跡継ぎで近衛騎士隊長の俺には負担が凄かった。

 それでも一ヶ月後の休みをもぎ取り、


「……あ、したか……」


 気づけば前日。妹対策を立てる余裕があるはずもなく、寝た。


 どれだけ辛くともいつも通りの時間に起きる。それは軍に入ってからの癖でもあるし、何より今日のために一日休養を取ったのだ。遅く起きるなどもったいない。

 妹の我儘は何が来るかと思えば憂鬱だが、細かいことを気にしていては朝も始まらない。

 と、支度を終えたくらいにグレイスが訪ねて来た。栗色の可愛らしい少女は他国の出身だ。妹の侍女である。その彼女が一体こんな朝に俺に何の用だ?


「『プリシラ様はカクタス様に起こして欲しいと仰せです』」

「……は、と……なんと言った? グレイス」


 動揺のあまり、素がでそうになったのを押し留めて聞き返した。栗色の少女はにっこりと笑った。


「『プリシラ様はカクタス様に起こして欲しいと仰っておりました』」

「あ、ああ……わかった」


 他国の言葉だろうと、俺には分かる。グレイスが幼くしてこちらの国に来たため、俺は彼女が母国語を忘れないようにするためにと一緒に家庭教師に習い始めたのだ。

 彼女が妹の前で被っている『元気で一生懸命な侍女』という仮面は嘘に近いこともよく知っていた。アスモデウスの時、泣き出した演技はそういう奴だと知っていなければ俺も騙されるほどだった。15歳という年齢を考え合わせれば将来が末恐ろしい。ソレルとの合わせ技などいつのまに編み出したんだろうか。そこら辺をいつか聞いてみたい。


 了解したと伝えれば「『ではお願いいたします』」と言われ、彼女は部屋を出て行った。


「……起こして欲しい、とか」

「これが最初の……我儘、に入るんスよね? 多分」


 自信なさげにジャスパーが言うのを「たぶん、な」と肯定した。起こすのは普通、使用人の仕事だ。跡継ぎである俺に頼むなど、立場的に妹はやっちゃ駄目な事だ。ただ。


「……これって、カクタス様にとっちゃあ、ご褒美以外の何ものでもないっスよね?」

「そうだな」


 口元を引き攣らせて言われたのに、真顔で頷く。

 妹の寝起き姿を見られるとか、俺に得しか感じない。なんだその我儘。というか、それって我儘なのか? 俺のご褒美=妹の我儘とかだったら、俺今日一日本気で天国逝けるかもしれん。

 もっと無茶な我儘を言うと思っていたのだが、別方向の我儘だ。いや、これから色々言うのかもしれない。油断せずに行こう。


「……まあ……アレっスよ。カクタス様の猫かぶりは完璧にお嬢様を騙してるってことなんじゃないんスか?」

「はぁ? 何言ってんだ、ジャスパー。俺の妹への対応の何処が猫かぶりなんだよ。あれこそが俺の素だろうが」

「うっわあ、その言葉……いっそ清清しいっスね」


 父に騎士として放り込まれた中で俺は彼らに混じって生きていくうちに、この話し方が移ったのだ。今では私的な時はこれだが、妹にこんな話し方だと怖がるかもしれない。誰がやるか。臨機応変に変えられるのだから別にいいだろ。


 *・*・*・*・*・*・*・*・*


「っ、プリシラ」


 ちょっと声が震えた。部屋に起こしに行った俺はその愛らしさに息を飲む事になった。想像以上に可愛らしい。ふわふわした髪はベッドへと散らばり、ふっくらした白い肌は柔らかそうだ。薄桃色の唇は小さく、穏やかな寝息をたてている。起きていると性格のためか、何故かキツく見える顔は寝ていると春の妖精かというほどに麗しい。


「プリシラ、起きなさい」

「ん……」

「プリシラ」


 肩に手をかけて揺さぶった。睫が震えてから瞼がゆっくりとあがる。とろんとした瑠璃色の瞳が現れ、俺を見た。きょとんとした顔が寝起きと相まってたいへん可愛らしい。


「ふ? おにいさま?」

「おはよう、プリシラ」


 頬を撫でてやれば妹の顔がふにゃあ、と綻んだ。


「おにいさま、おはよーございますー」

「……おはよう」


 寝起きでよく分からないような舌足らずさがめちゃくちゃ可愛すぎる。おにいさま、と再び呼ばれた。なんだこの可愛い生き物!


「おはよーのちゅーしてー」


 沈黙した。


 *・*・*・*・*・*・*・*・*


「ねっ、お兄様が選んで」


 ハッ! 記憶が飛んでいた。


 あの後、色々と俺の内心が荒ぶったがそれを一切顔に出すことなく、しょうがないなお姫様は、とかなんとか口にして額にキスをしてやれば、プリシラは眠たそうにしながら起きた。可愛い。俺の妹が可愛すぎる。プリシラは顔を洗ううちに完全に目が覚めたらしく、はっきりした意思を乗せて俺の妹は先程の科白を言った。


「私がかい?」

「そうよ? 外に出るから動きやすい格好じゃなきゃ駄目よ。グレイスは……今日の予定を知ってるから、少しは助言を貰っていいけど、お兄様が選ばなきゃ駄目よ」


 俺が服を選ぶ事は決定事項らしい。なんてことだ。もっと真面目に女達の服を考えとくべきだった! 今の流行とか分からん! これからは女性の服にも注意を払わなくては。いや、でも。よく考えろ、俺。妹を好きなように飾り付けられる。何より、この俺が妹に似合わない服を選ぶと思うか? いや、選ばない! よし、その挑戦受けて立とうじゃないか!


 そんな感じで俺は選び始めたが、可愛いと思う服は悉くグレイスに却下された。


「『それでは動きにくいです。外に参りますので、もっとシンプルの方が宜しいかと』」

「……可愛くないか?」

「『勿論、プリシラ様にはお似合いになることと思います。ですが、本日の目的を思えばそれは相応しくないかと存じます』」


 フリルが沢山ついた服は却下された。可愛いのに。絶対似合うのに。なぜ。

 結局、色々と悩んだ末に選んだのは妹の瞳と同じ瑠璃色のワンピースだった。すっきりとしたデザインでいくつか白いリボンがアクセントになっているのは可愛いが、もっと色々付いているものを選びたかった。


「お兄様、どう? 似合うかしら」


 ちょっと照れくさそうに笑っているプリシラ。


「………」


 間違ってた。俺が間違ってた。なんだよ、派手なのって! 今目の前でプリシラに笑いかけられているこの俺に謝罪しろよ!


「とても可愛いよ、プリシラ」


 そうだった。俺の妹は可愛いんだった。それだけで華やかだった。むしろ、すっきりしたデザインだとその素材の良さがよく分かって、妹の愛らしさが際立っている。勿論、派手なものでも似合うだろう。プリシラがそれに負けることはないだろう。でも、このバランスがいい。俺好み。この服を選んだ俺いい仕事した。


 満足のいく仕事の後、朝食を食べ終わり、俺とプリシラは二人っきりの時間を過ごす事になった。先ずは、と俺はプリシラの部屋に行く。先に部屋に戻っていた彼女は本を読んでいた。俺が来たことが分かると、すぐに本を置き、駆けてくる。


「今日一日、お兄様は私のものでしょ?」

「まあ、そういう風に言えるかな。……先ずは何をしようか?」


 私のもの、という言い方にちょっと引っかかりを覚えるが、プリシラの言う事を何でも聞くという点ではそう取っても可笑しくはない。さて、俺の妹は何を願うのか、と身構えたところ。


「本を読んで!」

「……本を?」

「そうよ。外国の本。私、まだ読めないのよ」


 思っていたものとは違う答えに俺は戸惑いながら頷いた。本を読んで、というのは我儘に入るのだろうか。小さい時によくせがまれて読んでいたのが懐かしく思い出される。どっちかっていうと、お願い、と言った方が正しい気がする。そして持ってきたのは確かに他国の言葉で書かれている物語だった。本を持って俺がソファへ座ると、プリシラはいそいそと俺の隣へと座った。わくわくした様子で「早く!」と言う。可愛い。口元がにやけるのが抑えられない。

 本当に読んでもらいたいらしいので、俺は読み始めた。

 プリシラが分からなかった単語の説明を交えながら本を読み終わる。始終、楽しそうな笑顔の妹がいつ使用人に向けて無茶な命令をするかと気が気ではなかった俺は何も問題なく本を読み終えた事になんともしれない気分がした。

 こんなことなら、もっと楽しめばよかった。次はどんなことを言われるのか、と思っていると。


「お兄様、大好きよ」


 なんかもんのすごく可愛いこと言い出した。


 どうした、我が妹よ。ちょっと突然すぎて対応出来なかったんだが!! お前のお兄様は顔面が崩壊しそうだぞ。俺のお兄様仮面を剥ぎ取る気かっ?! おい誰から俺の素を聞いた?! 怒らないから言ってごらん!?


「……勿論、私もだよ」


 なぜか不満そうな顔をされた。


「駄目よ! 私が大好きって言ったら、お兄様は同んなじように大好きって言って!」

「…………ああ、わかったよ。プリシラ」


 辛うじて笑顔で返した。ギリギリだった。


 少しの間、ジャスパーと話があると(この気持ちを叫んで発散したい)引っ張っていこうとすると「駄目よ!」と阻止された。むぅ、と頬を膨らませるとかどういうことだ。他の男にしたらお兄様はちょっとそいつを許さんぞ? 二目と見れない顔にするぞ?


「お兄様は今日一日、私のでしょ! ジャスパーと話すなら明日にして! 早く次のとこ行くの!」

「………………ああ、プリシラ、もちろん、だよ。今日一日、お兄様はお前の言いなりだ。そういう約束だもんな」


 一日どころか年中お前のものでもいいぞ!プリシラ!


「そうよ!」


 物凄く嬉しそう。


「………………」


 おい不味いぞ! 誰か助けろ! 妹が俺を殺しにかかっている!不味い!今まで完璧だったお兄様仮面がはがれかけている! 休憩が欲しい! 休憩が欲しい!!

 ジャスパー! 俺をこの小悪魔プリシラから離れさせて息をさせろ!

 俺の間がこのままじゃ持たん、と廊下に出た所で俺は気になっていた事を尋ねた。


「……ああ、そうだ。プリシラ、我儘はまだなのかい?」

「えっ?」


 既に半日一緒にいるが、俺を喜ばせるものしか言われていない。むしろ、どれが我儘だ。よく分からん。 起こして、っていうのからして実は我儘じゃなかったのかもしれん。あれが我儘だというのなら、随分可愛すぎる我儘だ。おはようのちゅーとか俺が頼んでやってあげたいくらいだぞ。

 考えても分からないんなら、仕方ない。本人に聞こう。

 そう思っただけだったのに。


「それってどういう意味? もういっぱい言ってるわ。もしかしてお兄様、もう私の我儘を聞きたくなくなったの?」

「……ん?」

「それならそう言ってよ! まだなのかい、なんて態とらしく言って、 私が今まで言った我儘を思い出させるつもりなのね!?」

「ま、待て、プリシラ」


 ちょっ、どうした、妹よ! どういうことだ。しかも、なんか泣き出しそう!うるうるしてる!

 おいこら、ジャスパーどうにかしろ!と目線を送るが首を振られる。役に立たねぇ!


「それで、もう沢山言ったのだから、って言って約束を反故にするつもりなのね!? 駄目なんだから! 一日って約束なんだから! 私、許さないんだから! まだまだ聞いてもらってない我儘沢山あるのよ!」


 顔を真っ赤にして、睨んで叫ばれる。逃がさないとばかりに妹の両手は俺の服を掴み、ギュッと寄った眉の下では瑠璃色の雫が波を打つ。


「………………… おうふ、俺の妹が可愛すぎる」


 あ〝。


「……お兄様?」


 目を見開いた瞬間に瑠璃色の雫が木瓜色の頬を伝う。


 ———ああああああ!なんて美しく、可愛らしい妹だろうか!


 それを見た瞬間、さっき素が出たことなんて忘れ去り、俺は手を伸ばす。

 その雫を右手で掬い取った。すぐに粒はただの水へと変わる。

 俺の妹のものであった時はこれ以上なく美しいものだったのに。

 俺についたらただの水だよ!


「プリシラ。何か誤解させてしまったみたいだが、私はただ……お前が使用人の誰かをクビにしたいと言っていただろう? ……だから、その・・我儘をいつ言うのかな、と思っただけなんだよ」


 パチパチと瞬きを繰り返すプリシラの睫毛は雫に彩られている。

 髪と同じ淡い色をした睫毛は露に濡れ、元々大きい瞳を更に大きく見せているらしく、目を大きく見開いて首を傾げる動作によって、普段の気の強そうな雰囲気よりも可愛さが前面に押し出されていた。

 まあ、俺の妹が可愛くないなんてことは一瞬たりとしてないがな!


「クビに……?」

「ん?」


 可愛さに見惚れていたら、プリシラは口を引き結んで口を開いた。


「……使用人はよくやってくれてるわ。ソレルもグレイスも優秀よ。それでも彼らの上司の方が凄いんですって。ジャスパーもその一人よね。そんな彼らをクビにしたいなんて言わないわ。私、皆のこと大好きだもの」

「私もプリシラが大好きだよ」


 目の前の兄より、ジャスパーが好きとか言ったのが許せん。つか、ジャスパーが妹に好きって言われたのが許せん。嫉妬である。それがどうした!ジャスパー……練習5倍だ、5倍!


「……っ! も、もう! お兄様ってば! 今は別の話をしてるのよ!」


 やだ可愛い。

 なんか真っ赤になった。さっきまでなんともなく(照れてる様子は魔力爆発するかってくらいに可愛かったけど)大好きの応酬してたのに、照れと嬉しさと恥ずかしさとか混じった顔が本当可愛い。

 この可愛いさに免じてジャスパー、お前を許してやろう。妹に感謝するんだな!


「だが、さっき大好きと言ったら大好きと言おうと話したじゃないか」

「違うわよ! お兄様に対して言った大好きに大好きって返してって言ったの! 今は使用人達の話でしょ!」


 ぷんぷんしてる。

 なんかぷんぷんしてるよ!

 頬染めてプンプンしてる!

 くそ……っ! この小悪魔が! おれのしんぞうがほしいのか! よろこんでくれてやるぞ! もっていけばいいだろ!!


「ふふふ、ああ。分かったよ、プリシラ。じゃあ、続きを話してくれるかい?」


 あー……可愛い。

 ほんと、俺の妹可愛い。最強。

 その頬をつつきたい。


「……だ、だから! あの質問はお兄様がどこまで許してくれるのかなっていう確認よ! 使用人のクビについても責任を持ってくれるなら、大抵のことは大丈夫ってことじゃない!」


 な、なん、だと……!?

 俺は感動した。

 確認を取るために、俺の上限を測るために出した例だったというのか。てことは、俺の心配は杞憂か!?

 そこまで考えていたとは全く気づかなかった。

 ってことは、断っても良かったのかよっ!?


「そ、そうか。なら、使用人達にも何か言うつもりなのかい?」


 断るべきだった!妹に甘すぎた!と後悔しつつ、俺は妹が使用人にも何か言うつもりだったのだろうと推測した。そうじゃなかったら、使用人のことを持ち出さず、俺に対してどこまで言っていいのかの質問をするだろうから。

 プリシラの顔が歪んだ。


「……うん、そうよ」

「プリシラ?」


 おい、今度はどうした。我が妹よ。何かいいたげにちらちらとこちらを見てる様子は抱きしめたくなるほどに可愛いが、俺は残念ながら心は読めない。妹が何を考えているのかを知るには聞くしかない。


「どうかし……」

「でもいいの! 今はいいのよ!」

「プリ……」

「お兄様、次は外に行くわ! グレイスもソレルも持ってきてよね!」


 かしこまりました、と出て行く二人を見れば、妙な笑みを浮かべていた。


「お兄様、歩く時は手を繋いでちょうだい!」


 妹が俺を振り向いて、手を出してきた。

 ………ははははは。


「分かったよ、プリシラ。どこに行こうか?」

「お兄様は私に着いてくればいいの!」


 自慢げに笑った妹は、キュッ、と手を繋いできた。

 俺が握り返すと、妹は可愛くはにかむ。されるがままに手が引っ張られて、歩き始める。


「……っと、待ってくれよ。プリシラ」

「もうっ! 遅いわよ、お兄様。早くして!」


 駆け足気味に玄関へ向うのを、されるがまま引っ張られていく。

 俺が選んだ服で俺が結んだ髪型で俺の妹が俺を引っ張っていく。天使がいる。ここに天使がいる!

 いつの間にか玄関の外におり、そこでは既に馬車が止まっていた。


「お嬢様、準備が出来ました」

「いつでも、出発でき、ます!」

「なら行くわよ! 目的地は分かってるわよね?」


 勿論でございます、と妹の侍女と従者が揃って頭を下げた。


 *・*・*・*・*・*・*・*・*


 馬車に乗っている間も、俺にとって天国が待ち受けていた。


「ねぇ、お兄様! 今度、一緒に買い物に行きましょうね! お兄様とお揃いのものが欲しいの」


 瑠璃色の瞳が振り向いて、俺を映す。きらきらとした瞳が下から覗きこんでいる。


「…………ああ、勿論だとも」

「約束よ!」


 嬉しそうに彼女は言って、馬車の外を見始めた。陽光に髪が煌く。

 手は繋がったままだ。

 乗るときに妹が「お兄様は私と手を繋いでないと駄目!」と我儘・・を言ったのだ。その場で倒れなかった俺は偉い。その時、ちょっと目元が赤くなっていたのは見間違いじゃない。可愛い。俺の妹、可愛い。


 連れてこられたのは丘の上だった。風が吹き渡り、景色が一望できる。

 遠乗りすればよかったんじゃねぇのと、思わないでもなかったが、馬車だったからこそ、身近で妹の可愛さを堪能できたのだと思い出す。馬だと顔が見れない。あの笑顔が見れない。それはとてつもなく、損をしているだろう。馬車万歳。


「お兄様! 次は馬に乗せてここに連れてきて欲しいわ! 私、お兄様と遠乗りしたい!」

「勿論だ。予定を空けておこう」


 プリシラが怪我をしないように良い馬を見繕っておかなければならない。いや、いっそ俺と一緒に乗ればいいのか。

 将来、俺とプリシラが楽しく馬に乗っているのを想像していると、先に駆け出していたプリシラが大きく叫んだ。


「お兄様、追いかけっこしましょう!」

「私がお前を捕まえられないとでも?」

「私って結構足が速いんだから! グレイス、合図して!」


 そういうやり取りから始まった追いかけっこは、当然俺が勝った。歳も離れていて、更に俺は近衛の仕事をしている。そんな俺が10の娘に負けることがあってはならない。ワザと以外では。

 俺の妹のためならワザと負けることくらい厭わない。だが、プリシラは誇り高く、高潔だった。


「ワザと負けてもらうくらいなら、普通に負けた方がずっといい! そして、それ以上に私が努力して上に立って完膚なきまでに叩きのめすのよ!」


 全く持って将来が頼もしい妹である。

 その誇りの高さが将来、妹を苦しめないかと不安になることが最近多くなってきた。曲げない意志は時として自分に牙を剥くものだ。


「お兄様! 今度は私を背負って走って!」

「お姫様の仰せのままに」


 にっこり笑って俺は妹を背負って走り回った。確かに妹の体力は並ではなく、案外楽しかった。昼近くまで二人して転げ回り、時にはジャスパー達も交えて一緒になって遊んだ。こんな風に遊んだのは久しぶりだ。子供の時は走り回ったが、すぐに勉強が忙しくなった。今では遊ぶ時間などない。

 更に言えば屋敷で話すことはあれど、外で遊ぶなど妹相手では始めてだった。女の子は外で走り回るより、屋敷の中で裁縫や刺繍をしていることが推奨されている。

 騎士の訓練とは違った筋肉と体力を使うな、と汗ばんだ額を拭う。

 太陽も高くなり、そろそろ昼の時間だ。


「プリシラ、そろそろ……」


 お腹が減ったな、と続けようとしたのを妹が遮った。


「ええ、お兄様! お腹が空いたわね!」


 言わなくても分かるとか、お前ってば、お兄様と心が繋がってるの? 以心伝心なの?


「私もそう言おうと思っていたところだよ。だから……」


 屋敷に帰ろうか、と続けようとしたのを再び妹が遮った。


「だから、お昼を食べるわ!」

「お嬢様ー! もう準備してますよー! 」


 少し遠いところで、グレイスが手を振り、ソレルが叫ぶ。その近くで、ジャスパーが何故か驚いた顔をしてこちらを見ているのが分かった。


 何をしてんだ?


 敷布がひかれ、バケットが置いてある。グレイスが簡易の紅茶をセットしようとしているのを見て、隣を歩く妹を見た。心持ち顔が強張っている。そう言えば、さっきも何かせいている様子だった。


「……もしかして、ここで食べるのかい?」


 お腹が空いているから、急がせたのか?

 だが、それでは妹から感じる妙な緊張感は説明出来ない気がするが……。

 プリシラは俺を見上げて、頷いた。


「うん。お兄様。ここでお昼を食べるのよ。風が気持ちいいし、景色だっていいわ。食欲も進むわよ」

「ああ、そうだろうね」


 相槌を打ちつつも、内心で眉間に皺を寄せた。

 やはり、おかしい。

 見上げているのに、俺と視線が合わず、妹は何か別のことを気にしている。


「お嬢様、私達はどう致しましょうか?」

「私はお兄様と二人で食べるわ。ソレル達もどこか視界に入らないところで食べていいわよ」

「プリシラ様、お茶、で……ございます。こちら、に、置いておき、ます。おめ、おめし……」


 俺は言葉を思い出そうとするグレイスに驚いた。グレイスが敬語を覚え始めた、という話は真実だったらしい。以前までは母国語は熱心に勉強していたが、こちらの言葉は通じればいい程度の考えだった。

 幼くして連れて来られたことを思えば、グレイスが頑なにこの国に馴染もうとしなかったことは理解出来ない事はない。彼女からすれば言葉は母国への唯一の繋がりでもあったからな。

 その彼女の意思を尊重してか、強制的に敬語を学ばせなかったのは、まだ妹が幼いために社交界へ出る機会があまりなかったからである。社交界へ出る事はないのだから、公爵家として恥をかくことはない。だから、自発的に習うまではと放って置いたのだが。

 それがきちんと功を奏したようだ。


「お召し上がりくださいませ、ね。ありがとう、グレイス。お茶は頂くわ。お菓子も一緒にね」

「お召し上がりくださいませ。それでは失礼します!」

「私達も頂きますね~、お嬢様」

「あー……じゃ、私も二人と一緒に食べさせていただきますよ、カクタス様」


 グレイスとソレルと供にジャスパーも離れたところで食事を取ると言い出しとことに目を見開いた。俺がいくら隊長で強いからと側近が離れていいわけないだろ。

 おい、と口にしようとしたところ、妹が「お兄様」と呼んだ。


「お兄様、食べましょう? ね、食べましょう?」


 職務放棄をしやがったジャスパーのことなど頭から吹っ飛んだ。何かを不安に思っている様子で見上げて服を引っ張る妹に心を撃たれる。


「そうだな。お腹もすいたし、食べようか」


 笑って答えてやれば、プリシラはほっとした笑顔になった。何をそんなに不安に思っているのか分からないが、一先ず、一緒にお昼を食べる事は妹を笑顔に出来ると分かる。

 バスケットを真ん中に、敷布の上へ座った。普段ならそのようなことをするな、と訓練や遠征中でもなければ注意される立場にあるが今回は誰かが注意する事もなく、妹と二人っきりの天国である。幸せだ。

 プリシラは両手を握り合わせて膝に押し付けるようにして座っている。グレイスが淹れていたお茶にも手をつけることなく、バスケットを開ける事も無い。なら俺が開けてあげようとバスケットに手を伸ばす。


「だ、駄目! お兄様!」


 なんか知らんが怒られた。ので、手を引っ込める。

 目線を空で迷わせてから、瑠璃色が俺を捕らえた。


「あのね、お兄様」

「ん?」


 口をもごもごと動かして、プリシラは眉を下げている。珍しい。はっきりと言うのを好む妹が言いよどむ事など、本当に珍しい。それほど言いにくいことを俺に打ち明けようというのか。それってつまり、この俺を物凄く信頼してるってことだろ。よしきた、俺の妹よ。お兄様が何でも相談に乗るぞ!


「―――バスケットの中身、私が作ったのよ」


 固まった。


「ちゃんとお屋敷に勤めてる者達の監視の下で行ったから、変なものは入ってないし、それに具材を包丁で切っただけだから大層なものじゃないわよ? でも、お兄様に食べてもらいたくて頑張ったのよ。だ、だから」


 妹は心配そうにこちらを伺いながら言う。俺はプリシラの言葉途中で素早く無言でバスケットを開けて中を確かめた。

 サンドウィッチが敷き詰められている。具材はありふれたハムと卵、レタスの組み合わせだ。その一つを手に取り、口に入れた。美味い。味自体は普通ともいうがプリシラがおれのために作ってくれたというだけで、これ以上のない味である。

 目を見開いて俺の口元を凝視している妹に笑った。


「美味しいな、プリシラ。私のためにありがとう」


 俺の顔を暫くじっと見ていた彼女は、ようやく何かが腑に落ちたのか、頬を染めて照れくさそうに「よ、良かったわ」と、彼女もまたサンドウィッチを手にとって口にする。普通だわ、と感想を言った後、とても心配だったの、と打ち明けられた。


「だってお兄様はいつだって腕のいい料理人達の料理を召し上がってるでしょ? 私の拙い料理じゃ満足出来ないんじゃないかって思ってたのよ! 素人の料理なんて食べるなんて馬鹿みたいだ、って思ったらどうしようって。でも良かった。お兄様はちゃんとお兄様だったわ。私の大好きなお兄様ね。ちゃんと喜んでくれたみたいで本当に良かった」


 ずっと不安そうにしていたのが俺が弁当を喜んで食べてくれるかどうか、だなんてなんていじらしい理由だろうか。俺の妹が天使過ぎてツライ。俺生きてる? ここって天国じゃないないよな?

 だが、それとは別に俺はプリシラに向ける笑顔の裏で憤っていた。饒舌になった妹が話す影にアレルシファーが潜んでいるのが分かったからだ。

 プリシラは三ヶ月前に変わった。それは誰に聞いても頷く事実だ。

 勉強をするようになり、今まで興味が無かった本を読むようにもなった。家族の間でも色々と議論されたが、彼女の本質は変わっていない。記憶の混濁も喪失も無く、興味の幅が広がっただけだと言っていい程度だった。だから大丈夫だろうと家族の間で結論が出たのだ。

 本質は変わっていないのに『素人の料理なんて』と口にする自身の無さはアレルシファーのせいでしかあり得ない。あれほど自分自身に自信を持っていた妹が、俺が食べてくれるか不安に持つなど。間違いない。何か言われたのだ。

 つーか、妹の初めての手料理を食べたのがアレルシファーだった場合はちょっと本気で何かする計画を立てよう。


「お兄様、あの、あーん」


 おうふ。


 手にサンドウィッチ持って差し出してきた! しかも、ちょっと照れて躊躇い気味なのが更に可愛い。


 おい、ちょ。


 これって『可愛い彼女にしてもらいたいこと』とかいって騎士の中で議論された時、真っ先に出た『はい、あーん』じゃないか!? あっ、しかも『手作り料理』もあったな……! まんま、俺じゃね?! 今の俺じゃね!?


「口開けてお兄様! あと、もうちょっと屈んでくれないと入れられないじゃない!」


 ここで天に召されたとして。


「……あーん」

「ふふふっ」


 俺は悔いが残るな、と思った。だって、妹のための復讐は終わってないし、妹の可愛さはこれからも留まるところを知らないだろうし。これからも妹の可愛さを堪能するために俺は生きる!


 さっきまでの自信のなさはどこにいったのかと思うほどに、今のプリシラは生き生きしている。笑顔で俺に食べさせてくれ、笑顔で「お兄様も私に食べさせて!」と言ってくる。

 それを拒否されるとは考えていない様子だ。当然、俺は拒否しない。拒否する理由がどこにあるんだよ?


「プリシラは料理が好きなのか?」

「え?……うーん、そうね。好きよ。ベルとも色々と薬草を使ってお茶作りにも挑戦しているのよ。でも、そうね。屋敷の料理人に作ってもらう方がいいわ」

「どうしてだい?」


 えー……俺、もっとプリシラの手作りが食べたいと思ったんだが、早々上手く世の中は転がらんかったか。

 俺、プリシラの手料理を訓練中に差し入れしてもらおうと思ったのに……!

 周りの奴らからして、めっちゃ優越感に浸れるって思ったのに……!


「だって私、屋敷の料理人の料理の方が好きなんだもの。家庭の味っていうのかしら? あれで育ってきたから、私は自分の料理より好きよ」

「……そうか、残念だな。私はもっとプリシラの手料理が食べたいと思ったんだが」


 残念だ。物凄く、残念だ。でも、そういう理由なら料理人達も嬉しいだろうし厨房に公爵家の令嬢が入るっていうのも色々不味いからそれは諦めるしかないか。


「えっ、本当?」

「勿論だよ」

「な、なら。私、お兄様のためにこれからも料理作ろうかな……」


 お兄様のために!

 おい、聞いたかよ。

 お 兄 様 の た め に !!!


「それは嬉しいな。私のために作ってくれるかい?」

「う、うん。ちょっとお父様にも相談してみるわ」

「ああ、そうだね。私も協力しよう。プリシラの手料理を食べたいからね」


 あの親馬鹿親父を説得する事などわけがない。ただ一言言えばいい。

 ―――娘の手作り料理を食べたくないのか、と

 それでも駄目なら、あーんしてもらえるんだぞ、と言えば先ず間違いなく許可をくれるだろう。おっしゃ、これでこれからも妹の手料理が定期的に食べられる! 親父は歳が離れて生まれた妹を猫かわいがりしているからな。ちょっと甘やかし過ぎだろ、と思わんでもない。俺くらい自重してくれないとな、と思うのだ。


 午後もしばらく留まった。

 プリシラはグレイスとソレルを連れ立って、花を摘んでいる。花冠を作るのだ、と妹は張り切っていた。その様子を眺めながら必然的に隣に来たジャスパーに今がいい機会だと口を開いた。


「プリシラが、俺のプリシラが……俺を殺しにかかってくる……!」


 ええ、とジャスパーは俺に同意した。神妙な顔で言う。


「ぶっちゃけ、俺もそう思ってましたっス。お嬢様が無自覚にカクタス様に止めを刺そうとしてるって」

「だよなっ!? 俺のために! 俺 の ために! お れ の た め に !! 手料理を作って来てくれたんだぞっ!?」

「なんで三回言ったんスか」

「あー可愛い俺の妹ホント可愛い」

「聞いちゃいねぇ」


 プリシラがソレルから渡された花を笑顔で受け取り、手元で作業をしている。真剣な表情で俺のために頑張ってくれている。その様子は本当に楽しそうで、ソレルとグレイスの表情も柔らかい。


「……つーか、全然意味の無い心配でしたね。俺らの心配って」

「……そうだな」


 ジャスパーが沈んだ声で言う。俺も同じ様な調子で答えた。

 もしや、また無茶で身勝手な命令を始めるのではないかという俺達の心配は杞憂だった。蓋を開けてみればプリシラの我儘・・は我儘ともいえない可愛らしいものだった。俺達は勝手な想像でプリシラを侮辱したに近い。いくら今までの事があるからと妹を疑うことはするべきではなかった。恥じるべきだ。


 俺の妹は今までも可愛かったが、最近は更に可愛らしさを増してきた。容姿が大人になっているという意味なんかじゃない。内面が変わり、それが顔に、身体に出て来ているのだ。周囲の使用人達もプリシラに対応する様子が目に見えて違う。刺々しく暗い雰囲気がどこか漂っていたプリシラは明るい元気なものになっている。眉間に皺がよることも多かったが、笑顔でいることの方が今は多い。


 三ヶ月前。意識を失って可笑しくなった、と騒いだあの時のことは良い変化だったんだろう。


「お兄様ー!」


 手を降って俺を呼ぶ妹の下へと俺は穏やかにな気持ちで歩き出した。


 この時まで、俺は妹が無茶なことを言い出さないかって心配で楽しめなかった。もうめいいっぱい楽しむ。俺、この半日以上損したよな。俺の妹の可愛さを堪能しきれてなかったよな。


 俺は誓った。残り、半日以下。


 ―――思いっきり甘やかそう。こんなことを我儘・・だという可愛い妹を。

プリシラの明日はこれからも続く〜完〜

カクタス視点でした。


とりあえず、ここで完結。

思った以上にお兄様が妹馬鹿になったけど、多分皆さんが考えていたお兄様とは全然違っただろうけど(なぜこうなった、と誰よりも私が思っている)この回を書きたいが為に『わたなに』は出来たので私はなかなか満足しています。というかお兄様、可愛いしか言ってないよね。

ただ、プリシラのベルへの対応を見る限り似たもの兄弟だなって書きながら思いました。

ファミリーラブコメディとして、まだお母様が書かれておりませんが、学園に入ってからになるのでまだ書いていません。


何か要望があれば感想へ!

そして続きに関しては活動報告に詳しくのせます。

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