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天照の巫女  作者: 櫻華
第二部 大遠征
9/13

第八話『異変』

今回、千原昌泰様の『二人と一頭の旅』より〈折剣傭兵団〉とディーノさんのお名前を……


山本ヤマネ様の『辺境の街にて』より櫛八玉さんとユーリちゃん、ダルタスの名前を……


佐竹三郎様の『三匹が!!』より伊庭八郎さんのお名前を……


相馬将宗様の『疾風と西風』よりヨシテルさんのお名前をお借りしました。






皆様、キャラ使用を快く許可戴き……ありがとうございます!!



相馬将宗様に関しては、無許可にキャラを使用して申し訳ありません。





佐竹三郎様の感想を受け、平成26年10月4日に一部修正を致しました。




平成27年11月7日、加筆・修正しました。





──〈Plant hwyaden〉の追っ手との戦闘から約一週間の日数が経過した。




──その後〈Plant hwyaden〉から追っ手が差し向けられる事は無く、〈ミナミ〉脱出組は長旅の疲れを癒す為に数日間〈テンプルサイドの街〉に滞在した後、朔夜の召喚したドラゴン達に乗って〈アキバ〉へと向かった。






──現在は、希望するギルドがある者達は各々の希望するギルドに加入し、アキバに所属しているギルドがある者達は各々のギルドホールやギルドハウス等に戻ったりして落ち着いた生活を送っている……と、アキバに残っているギルドメンバーから報告があった。






◇◇◇






(……ミナミ脱出組が無事、アキバに落ち着けて良かった。

これで、肩の荷が一つ降りたな。

……そういえば、ザントリーフ半島での夏季合宿も、〈エターナルアイスの古宮廷〉での領主会議も、もう7日目になるのか。

……早いものだな。

夏季合宿は順調の様だし、領主会議は今は領主達の根回しの段階だとシロエから聞いているしな。

まあ、そこら辺の事は現場にいる人間が上手くやっていくだろうからな)




本日の合宿カリキュラムを終え、夕食後ののんびりとした時間を過ごしていた朝霧は、ザントリーフ半島での夏季合宿組や〈エターナルアイスの古宮廷〉での領主会議に参加している〈円卓会議〉の代表団の事を考えていた。






──しかし、翌日の早朝に夜櫻からもたらされる急報が、のんびりとした日々を過ごし、平和ボケしていた朝霧の目を醒まさせる程の衝撃をもたらす事となった。






◇◇◇






──翌日の早朝、朝霧は息子のランスロットを伴って櫛八玉の屋敷を再び訪れていた。




櫛八玉の執務室へと通され、ユーリが用意してくれた黒薔薇茶ブラックローズティーを飲みながら…朝霧達は和やかな雰囲気の中、他愛もない話をしていた。


「……そっか〜。クラスティ君は、こっちでも同じ事をやってるのか〜」

「ああ。情報提供者の話では、かつて義妹を弾除けデコイに使った時の様に…セルジアット公の孫娘を若手騎士や貴族に対する弾除けデコイとして使っているそうだ」

「……クラスティは、何をしているのですか……」


朝霧から聞いたクラスティの近況に、櫛八玉とランスロットは苦笑していた。


「……そう言えば。クシ君、ダルタスは元気にやっていますか?」

「へ?……ああ、ダル太ね。

うん。彼、自分に出来る事を精一杯頑張ってるよ。

なんだったら、後でランス君が気にかけてた事を伝えとこっか?」


ランスロットの話題の転換に、一瞬ついて行けてなかった櫛八玉だったが……自分のギルドに所属している〈守護戦士ガーディアン〉の事を言っている事に気が付き、答えた。


「それは良かったです。それと気遣いは無用です。

彼は、〈D.D.D〉の近況を高山君を通しておおよそは伝え聞いている筈ですから。おそらく、私の事も聞いていると思いますよ?」


櫛八玉の気遣いをランスロットはやんわりと断った。


──そんな二人のやり取りを微笑ましく眺めていた朝霧の耳に、念話の呼び出し音が聞こえてきた。




(こんな早朝に誰だ?……姉さん!?)


それは、オウウ地方周辺の情報収集と戦闘訓練の為に現実世界での東北地方へと赴いている夜櫻からの念話だった。



朝霧の表情が、険しいものに変わった事に気付いたランスロットと櫛八玉は会話を中断して、朝霧が念話相手と始めた会話のやり取りへと聞き耳を立てた。


「……姉さん。こんな早朝に念話を入れる程の…一体、何が起こったんだ?」


念話越しから聞こえてきたのは、誰かの怒号や忙しなく動く事で鳴る誰かの鎧の音だった。


『今、アタシは〈自由都市イワフネ〉の〈折剣傭兵団〉の本拠地にいるんだけど……オウウ地方は、今大変な状況だよ』

「……具体的にはどんな状況なんだ?」


問い掛けてくる朝霧に、夜櫻は堅い面持ち(声音から判断)で話し始めた。


『あーちゃんの頼みで、オウウ地方にある〈オウウの町〉だけでなく、〈自由都市イワフネ〉、〈城塞都市モガミ〉、〈ラワロールの街〉とか…他にも、近隣の村や町を巡りながら戦闘訓練と情報収集してたんだけど……〈緑小鬼ゴブリン〉との遭遇エンカウント率が異常に高くてね…アル君に頼んで〈闇の森ブラック・フォレスト〉へ斥候に行ってもらったの。

そうしたら……〈七つ滝城塞セブンス・フォール〉周辺に〈緑小鬼〉や〈緑小鬼の呪術師ゴブリン・シャーマン〉、〈鉄躯緑鬼ホブゴブリン〉がいるのを見たって……』



──それだけ聞けば、朝霧にもある程度の状況が掴めた。



「……『ゴブリン王の帰還』か!!」

「「ゴブリン王の帰還!?」」

『……やっぱりか……』


朝霧の呟きに、ランスロット、櫛八玉の豚が異口同音に驚愕の声を上げ…念話越しの夜櫻は、何処か納得している言葉を口にしていた。






◇◇◇






『ゴブリン王の帰還』



〈エルダー・テイル〉がゲームであった時代、定期的に発生するゲームイベントで……オウウ地方の深い〈闇の森ブラック・フォレスト〉の最深部に存在する、〈緑小鬼〉族の城〈七つ滝城塞セブンス・フォール〉。

この城では、2年に一度(現実世界時間で2ヶ月に一度)〈緑小鬼〉の王が戴冠する。

戴冠をするのは、周辺〈緑小鬼〉6部族のうちもっとも強力な族長である。

ゲーム的解説で言うなら、2ヶ月のうち一週間だけ〈七つ滝城塞セブンス・フォール〉ゾーンへの入り口が開放され、その期間中にこの城へと忍び込み〈緑小鬼〉の王を討伐すると強力なアイテムを手に入れる事が出来るという非常に人気のあるイベントであった。



その理由は二つあり……



まず、ゴブリン王の落とすアイテムがかなり強力であり、超高レベルプレイヤーにとっては喉から手が出る程欲しいマジック・アイテムという訳ではないが、一般プレイヤーが入手可能な中では憧れと言ってもよい性能のアイテムが出現するという事。



また、ゴブリン王の強さや城の警備が可変的である点も見過ごせない。



ゴブリン王は、周辺部族の中でも強力な〈緑小鬼〉がその地位に就く事となっている。

つまり、オウウ地方に散在する〈緑小鬼〉の拠点を襲撃して事前にその勢力を削いでおく事により、〈七つ滝城塞セブンス・フォール〉ゾーンの〈緑小鬼〉勢力は大きく低下し、ゴブリン王を弱体化させる事ができる。



この特徴により、『ゴブリン王の帰還』は大手の戦闘系ギルドでなくても、中堅レベルの者でも挑戦可能な歯ごたえのあるクエストとして人気を集めていた。






◇◇◇






「おそらく…ここ三ヶ月近くの間、私達はこの世界の戦闘や生活に適応する為に大半のクエストを放置してきた。姉さんが今居る、オウウ地方周辺での〈緑小鬼〉関連のクエストもな。

……だとしたら、今回の〈緑小鬼〉の大量発生の原因は、『ゴブリン王の帰還』を放置してきた……私達、〈冒険者〉全員のせいだな」

『……あーちゃん……』

「……母さん……」

「……先輩……」


今、夜櫻達がいる〈自由都市イワフネ〉を含めたオウウ地方に危機を招いた原因が自分達がクエストを放置してきた為だと理解した朝霧の悲し気な呟きを聞いた夜櫻、ランスロット、櫛八玉はどう言葉を掛けたらいいのか……少し戸惑っていた。




しかし、朝霧はすぐに気持ちを切り替えると夜櫻に尋ねた。


「姉さんは、これからどうするつもりなんだ?」

『んー……。〈折剣〉の団長さんのディーノさんから「〈自由都市イワフネ〉を〈緑小鬼〉達から守る為に協力して欲しい」って頼まれたからね。

アタシは、このまま〈召喚術師サモナー〉のみーちゃんや〈施療神官クレリック〉のシークさんと共に、レベル50になったアミちゃん達と一緒に〈自由都市イワフネ〉の防衛に回るつもりだよ。

……後は、〈暗殺者アサシン〉のアル君に遠距離攻撃が出来る〈狙撃手スナイパー〉のサブ職持ちのホーク、〈森呪遣いドルイド〉のポポちゃん、〈付与術師エンチャンター〉のフェイ君の一班と〈吟遊詩人バード〉のフーちゃん、〈盗剣士スワッシュバックラー〉のとっしーとエル、〈召喚術師〉の北斗ちゃん、〈施療神官〉のアイシアの二班に分けて、オウウ地方近隣の村や町の住民を出来る限り助けようと思ってるよ』


夜櫻のその答えは、夜櫻自身の出来る限りの範囲で多くの〈大地人〉を救おうと思う彼女の想いを言い表したものだった。




──そして……彼女に名を挙げられ、頼りにされている瑞穂みずほ、アルセント、蒲公英タンポポ、フルート、土方歳三ひじかたとしぞうの5人は、既に夜櫻の想いに応えるつもりなのだろう……夜櫻の念話越しに彼ら(彼女ら)の声が聞こえてくる。


『アイザック団長、アルセントです。

今、オウウ地方近辺に〈緑小鬼〉が大量発生しています。

俺はこのまま〈緑小鬼〉達と戦闘を行いつつ、近隣の〈大地人〉の救助に向かいたいと……はい!ありがとうございます!!』

『アインス先生、土方です。俺は今現在、〈自由都市イワフネ〉にいます。

現在、オウウ地方近辺に〈緑小鬼〉が大量に発生しており…俺はこのまま所長の指示下に入り、オウウ地方近隣の村や町に住む〈大地人〉の救助に向かうつもりです。

……許可をくださり、ありがとうございます』

『ギルマス、瑞穂です。

私は今現在、〈自由都市イワフネ〉にいて…所長─夜櫻さんと共にイワフネ防衛に回るつもりです。はい、はい。わかりました。何か新たな情報を掴み次第、報告いたします。

所長。先程、ギルマスのカラシンさんに連絡を入れましたが…何か、向こう側が慌ただしい感じを見受けられました』

『ん?どういう事??』

『総長、突然こんな朝早くにすみません。蒲公英です。

実は今、〈自由都市イワフネ〉にいるのですが…オウウ地方近辺に〈緑小鬼〉が大量に……え!?ザントリーフ半島には〈緑小鬼〉の大軍が!!?

更に、メイニオン海岸に〈水棲緑鬼サファギン〉が大量に襲来した!!?

……すみません。今すぐにでもアキバに戻りたいのはやまやまなのですが…こちらに住んでいる〈大地人〉の方々をこのまま見殺しには……すみません!ありがとうございます!!

所長!ザントリーフ半島にも、〈緑小鬼〉が大軍で押し寄せている様です!!更に、夏季合宿班が大量の〈水棲緑鬼〉と戦闘に入ったと!!』

『所長〜。私の方も、高山さんに連絡を入れたら…同じ内容を聞きました〜』

『ポポちゃん、フーちゃん、それは本当なの!?』

『間違いありません。総長の声は、緊張している感じでしたから』

『高山さんは、とっても真面目な人だから…ふざけて冗談を言う様な事は絶対しないよ〜』

『……そう……』




──〈エターナルアイスの古宮廷〉にいるミチタカと高山三佐に連絡を取った蒲公英とフルートからの報告を聞いて、夜櫻はしばらく黙り込む。


『所長、こちらも疎かにできる状況では……』

『夜櫻。私達も、そろそろ動かないと……』


黙り込んだ夜櫻に、フェイディットとガブリエルが声を掛ける。




──しばらく考えた末、夜櫻は朝霧に声を掛けた。




『……あーちゃん。ザントリーフ半島の件、あーちゃん達に任せていい?』

「任せろ。こちらの方には、シロエやクラスティがいるんだ。

姉さんは、今目の前の事だけに集中してくれ」

『……あーちゃん、ありがとう』


そう言い終わると同時に、夜櫻は念話を切った。


「(……おそらく。姉さんは、すぐにでも行動を開始するつもりなのだろう。こういう時の姉さんの決断や行動は早いからな。)

……すまないな櫛、急用ができた。

いずれまた、ゆっくりと話をしよう。ランスロット、アキバに戻る準備をするぞ」

「……はい。先輩、いつでも〈テンプルサイドの街〉へ遊びに来て下さいね。

今度は、きちんとおもてなししますから」

「……わかりました。

クシ君、ではまた今度」


そうお互いに別れの挨拶を済ませると、朝霧とランスロットは〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉の合宿宿営地へと向かった。






◇◇◇






──〈テンプルサイドの森〉近くにある宿営地へと戻ってきた朝霧達は、すぐにベルセルク達…元ミナミ脱出組護衛組と合宿引率組の全員を天幕に集めた。




「現在、オウウ地方に〈緑小鬼〉が大量発生していて…〈黒剣騎士団〉所属のアルセントが 〈闇の森ブラック・フォレスト〉にある〈七つ滝城塞セブンス・フォール〉を偵察してきたところ、『ゴブリン王の帰還』が発生している事が判明した」


朝霧の口から飛び出した発言に、天幕内に集まったメンバーがざわつく。


「更に、ザントリーフ半島に〈緑小鬼〉の大軍が押し寄せている事とメイニオン海岸に大量の〈水棲緑鬼〉が襲来している旨を〈円卓会議〉主催の夏季合宿班から〈エターナルアイスの古宮廷〉にいる〈円卓会議〉使節団に報告がいっているそうだ」


朝霧の続けた話の内容に、再びメンバーがざわつく。


「これに際し…私は、合宿中の新人達とその引率組だけを残し、それ以外のメンバーを連れてアキバへと帰還しようと思う。

ベルク、キルリア、アルト、レガート、謙信、銀猫、柊、藍、鈴鹿、斉藤、雪。お前達はここに残って、引き続き…夏季合宿を残り一週間の期間まで続けてくれ。新人達が、ある程度自分自身の身を守れるだけの戦闘技術は身に付けて欲しいからな。

今呼ばれなかったメンバーは、全員アキバに帰還する。今から15分以内に帰還準備を行い、この天幕前に集合してくれ。

……以上だ。何か質問はあるか?」


朝霧の言葉に、誰も異論を唱える者はいなかった。


「……では、解散!」


朝霧の締めの言葉と共に、メンバーは各々に動き出した。






──合宿引率組は、新人達を本日の合宿カリキュラムに合わせた戦闘訓練へと連れて行く為。




──アキバ帰還組は、自分の荷物を〈魔法の鞄マジック・バッグ〉に片付け、帰還準備を終えて……再び天幕前に集合する為に。






◇◇◇






──しばらくして、帰還準備を済ませたメンバー達全員が集まったのを確認した朝霧は、〈魔法の鞄〉から〈鷲獅子グリフォンの召喚笛〉を取り出した。



そんな朝霧に続く様に……ランスロット、アーサー、カンザキ、妲己、レイ、アルテミス、ルナ、朔夜、天音、ヴィオラ、疾風、マリア、凪も〈鷲獅子の召喚笛〉を取り出した。




──一斉に全員が召喚笛を吹き鳴らし……続けて、笛を持たないメンバー全員を乗せる為に、〈古代竜エンシェントドラゴン〉と〈碧竜サファイアドラゴン〉を朔夜は召喚した。




〈鷲獅子〉が飛んで来て、ドラゴン二体が召喚されたのを確認した朝霧達は〈鷲獅子〉とドラゴンに乗り、アキバへ向けて飛び立った。






──アキバへの移動中、〈鷲獅子〉の背に揺られながら…朝霧は、シロエに念話を入れた。


「シロエ、話がある。〈緑小鬼〉に関しての件なのだが……」

『御前、すみません。僕は、今から緊急の〈円卓会議〉を行います。詳しい話は後程。

……折角なので、このまま念話は繋いだ状態で御前も会議に参加して下さい』

「……いいのか?〈円卓会議〉の緊急会議なのだろう?

部外者の私が参加しても」


朝霧の言葉に、シロエは説明をした。


『御前は、広い視野と僕達が掴んでいないような様々な情報を持っています。僕達が気が付かない様な事に気付き、指摘等を行って戴きたいんです』


シロエの説明を聞き、納得した朝霧は…そのまま念話越しに緊急の〈円卓会議〉に参加する事となった。






◇◇◇






──〈エターナルアイスの古宮廷〉の一室では、アキバとザントリーフにいる〈円卓会議〉メンバーと念話中継を通しての緊急の〈円卓会議〉が開かれていた。



シロエは、現在段階まででわかっている情報を参加全員に伝える。



「まずは状況報告からですが…ザントリーフ半島において本日午前中から、多種の亜人間による襲撃が確認されました。

侵攻勢力は、海上に〈水棲緑鬼〉。最低数百匹。

森林地帯に〈緑小鬼〉を中心とした大規模な略奪大隊。こちらは少なくとも、兵力一万。……実際にはこれ以上の数だと、僕は考えています」

『シロ先輩。今回の侵攻の原因について、何か心当たりがあるんですか?』


臨席した随行員の一人が、〈西風の旅団〉のギルドマスターであるソウジロウの発言を代弁する。


その発言に答える様に、シロエが言葉を続ける。


「今回の侵攻の背景にあるのは『ゴブリン王の帰還』だと思われます」


シロエの言葉に、シロエ達がいる部屋はもとより、アキバの街の〈円卓会議〉参加者も、ザントリーフから念話で会議に参加しているマリエールも声を失った。


「……『ゴブリン王の帰還』……」


シロエの随行員で、合宿に参加し、現在ベースキャンプの廃校舎へと移動中の直継達と念話中のアカツキは、そう呟くのがやっとだった。






◇◇◇






「……やはり、シロエも気付いていたか」




〈鷲獅子〉でアキバへ移動中の朝霧は、そう呟いていた。






──今回の〈緑小鬼〉の大軍の侵攻…少し考えれば、それが『ゴブリン王の帰還』から起因するものだと推測ができる。






──もっとも、朝霧の場合は姉夜櫻からの事前情報を得る事で確信へと至っていたが……






──その後、朝霧達がアキバへと到着し、〈放蕩者の記録〉のギルドハウスへと帰還するまでの間も念話先では会議が続けられ…その中で、『〈七つ滝城塞セブンス・フォール〉の戦力は最高レベルである事』、『統合された6部族の規模がどの位なのかが現状ではわからない事が不安要素である事』、『〈古来種〉である〈イズモ騎士団〉の姿は確認されていない事』をシロエが口にし、周囲からはどよめきや戸惑いの声が上がっていた。






──ただ、その会議の中で…シロエが、はっきりとした決断を下す事に躊躇っている様に朝霧には感じられた。



「シロエ……?」



──しかし、この時の朝霧には念話越しに感じたシロエの躊躇いの理由がまったくわからなかった。






◇◇◇






『──では、僕は〈西風〉の皆と共にそちらに向かえばいいんですね?シロ先輩』

「うん。頼んだよ、ソウジロウ」


そのやり取りを最後に…一旦会議は終わり、シロエは一息ついていた。




(これで、〈自由都市同盟イースタル〉の領主達の集まる此所の警備強化への備えはできた……

あ、御前からの念話を放置したままだった。何か伝えたい事があった筈だから…きちんと話を聞いておかないと)



その事に思い至ったシロエは、周りを見てみる。




──ミチタカやクラスティは、これからについての話を同行させた随行員であるカーユや高山三佐としていた。




(……クラスティさん達は、自分のギルドの方々と話をしている様だし…今が、御前と話をするいい機会かも。

……とは言え、聞かれるとまずい話かもしれないから…細心の注意を払った方がいいかな?)




そういう考えに至ったシロエは、小声で朝霧と会話する事にした。


「すみません御前。随分とお待たせしました」

『そちらはそちらで色々と忙しかったのだろう?

それは私もわかっているからな。あまり気にしなくていいぞ』


朝霧の言葉に、気分を害していなかった事にシロエはホッとする。


「ありがとうございます。

……ところで、念話をした用件を今お聞きしても構いませんか?」


シロエの言葉に、朝霧は用件を話し出した。


『……まず、シロエが〈緑小鬼〉の大軍の侵攻の背景に『ゴブリン王の帰還』があると推測しただろ?』

「はい」

『……あれは確定だ。夜櫻姉さんに同行している〈黒剣騎士団〉のギルドメンバーであるアルセントが斥候として〈闇の森ブラック・フォレスト〉の最奥部にある〈七つ滝城塞セブンス・フォール〉近くを偵察にいったところ…城塞周囲で、〈緑小鬼の呪術師〉や〈鉄躯緑鬼〉の姿を確認したそうだ』


朝霧からの報告に、シロエは押し黙った。


『それに付随する話なのだが……』

「……何ですか?」

『実はな。オウウ地方では異常な程に大量の〈緑小鬼〉が出現して村や町を襲っているらしくてな。その為、夜櫻姉さんは〈大地人〉達を助ける為にオウウ地方に残るそうだ。

……そういう訳で、すまないのだが、夜櫻姉さんは今回戦力として動かせないからな』

「そうですか……」



朝霧からの追加の報告に、シロエはそう呟いた。






◇◇◇






──夜櫻は、日本サーバーで屈指の〈武士サムライ〉五本指に入る実力者である。



また、現在までに二つ名を持った〈武士〉はあまり多くない。




──〈鬼神〉幸村




──〈剣豪将軍〉ヨシテル




──〈チープスリルジャンキー〉伊庭八郎




──〈剣聖〉ソウジロウ=セタ






──そして……〈剣速の姫侍〉夜櫻






──二つ名を持つという事は、それに見合うだけの実力がある…という事なのだ。






◇◇◇






──朝霧からの報告を聞いた上で、シロエはこう答えた。


「一番自由に動ける夜櫻さんの力を借りれないのは痛いですが…仕方がありません。戦略を考える際には、夜櫻さんは除外する方向で考えますね」

『……本当にすまないな』


申し訳なさそうに謝る朝霧の言葉に、夜櫻の性格を知っているシロエは苦笑を浮かべた。


「いえ。僕は、夜櫻さんの性格を存じていますからね。気にはしてません」




シロエの言葉に、朝霧はホッと胸を撫で下ろしている様だった。






──その後、再び〈円卓会議〉代表使節団組の会議が再開される夕方頃まで…シロエは、朝霧が夜櫻を経由して掴んだ情報の数々や朝霧のギルド〈放蕩者の記録〉の動き等を色々と聞きながら時間を過ごした。






──一通りの話を聞き終わり、朝霧はシロエに躊躇いがちに尋ねた。


『……シロエ。お前は、何か懸念する様な事があるのか?』

「え?」


突然の朝霧からの問い掛けに、シロエは一瞬驚いた。


『午前中の会議を聞いている限り、何か懸念する事があって、お前は決断を躊躇っている様に私は感じたのだが?』



朝霧の言葉に、「敵わないな」とシロエは心の中で呟いた。


「……それについては、いずれ話します。

そして…その事で、御前に力を借りる事になるかもしれません」

『別に構わんさ。懸念については、いずれお前が話す気になった時にでも聞こう。それまでは、待っている事にする』

「御前、ありがとうございます。」



──シロエと朝霧の話が終わる頃には、室内にいるメンバーが再び話し合いの席に戻ってきている状況だった。






◇◇◇






「念の為、ソウジロウにはこっちに来てもらう事にしました。

この宮廷が襲撃された時の為の備えです」


シロエが会議の始まりの言葉として口にしたのは…午前中の緊急の〈円卓会議〉で決まった〈エターナルアイスの古宮廷〉への警備強化の件だった。


「貴族の代表が集まってる訳だからな…無防備って訳にもいくまい」


シロエの言葉に渋い顔をしてミチタカが発言をする。


「〈西風の旅団〉ならば、少数精鋭。貴族達の警戒心を刺激する事もない。……良い人選だ」


ミチタカの発言に続く形で、クラスティが発言をする。


「ふ〜。……にしても、貴族の側から何も言ってこないっすね〜」


クラスティの発言の後、ミチタカの随行員のカーユが頭を掻きながら発言をした。


「向こうは向こうで、色々協議しているのでしょう」

「俺達抜きって事かよ?……感じ悪いな」


カーユの言葉にヘンリエッタが言葉を口にし、その言葉を聞いたミチタカが不満そうな言葉を口にする。


「こちらから持ちかけてみますか?参謀」


クラスティがシロエに問い掛ける。


「(……言い出す機会は、今しかないかもしれない。)

御前、僕の抱いている懸念について…今から話します。

どうか、落ち着いて聞いていて下さい」

『……わかった』


そう考えたシロエは、自分の知り得た『死の秘密』を皆に話す事にした。



──無論、未だ繋いだままの念話の相手…朝霧にも小声で一言言葉を掛けた上でだ。



「……その前に、皆さんにご報告すべき事があります」

「何だ?」


シロエの言葉に、ミチタカが先を促す様に言葉を発する。


「この世界における『死』についてです」


シロエのその言葉に、唯一秘密を共有しているアカツキは息を飲んだ。


「……僕達は、死ねば〈大神殿〉で生き返る。経験値ペナルティを支払えば、肉体は蘇る。

……〈エルダー・テイル〉がそうであったので、あまりにも無邪気にそう信じ込んでいました」


シロエの言葉をミチタカも、クラスティも、黙って耳を傾ける。


「僕の得た情報によれば、この異世界においても『死』にはそれ相応のリスクがあります。

……詳しい事は省きますが、死ぬ度に僅かながら記憶を失う様です」


シロエのその発言は、会議室の空気を一気に緊張感を孕む程に変化させた。


「……何だと……?」

「……記憶を……?」

「……あっ……」

『……なんて事だ……』


ミチタカ、ヘンリエッタ、クラスティも、各々に反応を示す。



──シロエの念話先の朝霧ですら…その事実に絶句している。



動揺を隠せないミチタカは、シロエに詰め寄り…問い掛ける。


「失うって、どれ位なんだ?」

「……わかりません」

「どういう記憶が失われる?」

「……わかりません」


わからないと繰返し返答するシロエに、ついには苛立ちを露にしてミチタカが怒鳴り付ける。


「何だ!それは!!」

「わからないんです。本当に、今はまだ……

しかし、僕が得た仮説によれば、それは事実の様なんです」


シロエのその言葉に、ミチタカはそれ以上言葉を口にできない。



それは、他のメンバーも念話先の朝霧も同様だった。






──たった一人を除いて。



しばらくの沈黙を破ったのは、クラスティの言葉だった。


「……成程。では、私の記憶が一部欠落した原因はそこにある様だな。

……得心がいった」


クラスティの発言に、全員がクラスティに目を向けた。


「我ら〈D.D.D〉は戦闘系ギルドだ。アキバの街復興前の時期、この異世界の戦闘に適応すべく激しい戦闘訓練を行った。

私も数回の『死』を経験している。

普段は気にもかけないが…確かに、記憶の欠如は存在する様だね」


クラスティの発言に、シロエと高山三佐を除いた全員が動揺する。


「そ、それは……」

「なんて事だ……」

『……そんな……』


シロエは席を立ち上がりながら、クラスティへと質問を投げ掛ける。


「具体的にはどんな部分ですか?どの程度ですか?」


シロエの問い掛けに、クラスティは静かに答える。


「確証はないが……元の世界の記憶の方が、より欠落している様に思える」


クラスティの答えに、流石のシロエも衝撃を受ける。



──記憶の欠如は、部分的なものであるとシロエは事前に予想はしていた……だが、まさか『元の世界の記憶』がより多く欠如するとは流石に予想していなかった為である。




クラスティは、周囲の動揺を気にせずに言葉を続ける。


「私が『死』を経験したのは〈大災害〉以降2度だ。

記憶の欠如は…なかなかその指摘が難しい。

忘れた事自体を忘れる訳だからね。

私は、比較的記憶力は良い方だ。しかし、飼っていた筈の猫の名前と姿が出てこない。『死』を経験した事による影響だろう。

……ただ、私に限って言うならば…数回程度の『死』では不都合を感じる程の記憶喪失は起こらないという事だ。数十回に及んでも、生活に支障が出る事はまず無いだろう」


クラスティの言葉に、皆動揺を隠せない。


「……とは言っても、失う訳ですよね…元の世界の記憶を……」

「……きっついぜ、こいつは……」

『…………』


ヘンリエッタとミチタカの言葉に、笑みを浮かべながらクラスティが言葉を続ける。


「ま、そんなに悲観する事はありませんよ。

……死ななければいいんですから。それに…リスクを恐れて行動しないのならば、それは生きながらに死んでいるのと同じだ。

……どちらの世界であろうと」






──クラスティのその言葉は、シロエを経由して…念話越しに聞いていた朝霧の耳にも強烈に残った。






◇◇◇






──シロエとの念話を切った朝霧は、ため息を洩らしながら先程のクラスティの発言を辿る様に呟いていた。


「……『リスクを恐れて行動しないのならば、それは生きながらに死んでいるのと同じ……どちらの世界であろうと』…か。

……確かにな。この世界では、何処かへ移動するだけでも戦闘のリスクは避けられない。

商売を行うにしても、訓練を行うにしても、調査を行うにしても…だ。

ま、クラスティの言う通りだな。……だが、『死』に関する情報は、今は私の胸の内に秘めておこう。流石にこの事実は、衝撃が大き過ぎる。

しかし…機を見て、ベルクやカンザキ、幸村には話して、然り気無く街に噂話という形で流す様にしないとな。

多分、シロエが言っていた“頼みたい事”とは…そういう事だろうからな」




そう呟いて、朝霧は手元の書類へと目を通し始めた。






──それは、『レイネシアによる義勇兵を募る演説』まで…後、数時間と時間が迫っている状況でだった。










──そして…それは、『ザントリーフ戦役』への遠征出発までの時間も意味していたのであった……

あ、本編中に挙げた〈武士サムライ〉の方々は…二つ名持ちの方々というだけで……現在、五本指に挙げられる〈武士サムライ〉は、本編中で挙げられた内の幸村、夜櫻、ソウジロウの三名のみです(残る二名は思案中。適役な人が現れたら、その人達になると思います)。

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