第六話『テンプルサイドの街へ−〈放蕩者の記録〉の夏季合宿−』
今回、wildcats3様の『私家版 エルダー・テイルの歩き方−ウェストランデ編−』より西武蔵坊レオ丸。
山本ヤマネ様の『辺境の街にて』より、櫛八玉とバルト(名前のみ)。
沙伊様の『アキバへの旅程』より、蒼月と月華。
読んでいるだけの人様の『ある毒使いの死』より、レディ・イースタルとユーリアス。
津軽あまに様の『D.D.D日誌』より、レモン・ジンガー等のキャラの名前やキャラ御本人様をお借りしました。
wildcats3様の有り難いご指摘を受け……平成26年8月18日、加筆・修正致しました。
平成27年3月14日、忠勝のサブ職業を〈木工職人〉から〈彫刻家〉に変更しました。
平成27年11月7日、wildcats3様の作品『私家版 エルダー・テイルの歩き方−ウェストランデ編−』の内容に合わせて加筆・修正しました。
──〈円卓会議〉が設立してから後……アキバの街は、大きく一変した。
──まず、大手戦闘系ギルドの協力により治安が大きく向上した。
未だPKを行う者はいるものの……〈円卓会議〉設立前と比べれば、その数は激減した。
──次が、街全体に活気が戻ってきた。
大手生産系ギルドを先頭に……アキバの街では日々、様々な生産・商業・流通が大いに活性化し、今では毎日アキバの何処かにて、〈作成メニュー〉に頼らない手作業による新たなアイテムの発明ラッシュの嵐が巻き起こっていた。
──〈放蕩者の記録〉も、アキバの街にある大通りの一角……元は六階建ての大型デパートビルだった廃ビルを購入し、改修・改装して『総合デパート風見鶏屋』をオープンさせていた。
この『総合デパート風見鶏屋』は、一階はアキバの街中で過ごす普段着や寝間着、下着、靴、アクセサリー等のファッション関連フロア。
二階は防具や武器等の戦闘関連フロア。
三階は消耗品や水薬、軟膏等の消費系アイテム関連フロア。
四階はペンやインク、紙、ドライバー、ペンチ等の生産系サブ職業が必要な道具類関連フロア。
五階は本や雑誌、新聞等の娯楽関連や魔導書・巻物関連フロア。
六階はレストランや喫茶店等のフードコートフロア。
そして、地下一階はお惣菜やスイーツ等のテイクアウト関連フロアとなっている。
ただ……この『総合デパート風見鶏屋』は、〈放蕩者の記録〉だけで商売を行っている訳ではない。
──ビルという高額のゾーンを購入できない中小ギルドやソロには、毎月テナント代金貨10〜30枚を支払ってもらう事で場所を提供している。
──『総合デパート風見鶏屋』に展開する200近くの店舗の約九割は、中小ギルドや生産系のソロプレイヤー達が占めており……実質、〈放蕩者の記録〉が出している店舗は……オシャレファッション専門店〈レインボー〉、アクセサリー専門店〈星の涙〉、刀専門店〈クニミツ〉、魔法薬専門店〈望月堂〉、一般書籍から魔導書までを扱う〈クローバー書店〉、本格レストラン〈月桂樹〉、和食中心の定食専門店〈和の心〉、お好み焼き専門店〈焼き一番〉、スイーツ専門店〈お菓子の国〉、お手軽お惣菜の専門店〈若菜〉の十店舗のみである。
◇◇◇
──〈円卓会議〉設立から約一ヶ月が過ぎた頃、〈円卓会議〉から一つの告知がされた。
◇◇◇
「レベル40以下の新人プレイヤー対象の夏季合宿〜?」
「はい。〈円卓会議〉からの告知で、レベル40以下の新人なら誰でも参加可能だそうです」
告知を見てきた椿の言葉に、カンザキは間の抜けた声で言葉を口にした。
「……で、朝霧。我々、〈放蕩者の記録〉の新人達も参加させるのか?」
問い掛けてくるベルセルクに、シロエから届いた〈放蕩者の記録〉宛の調査依頼に関する書類に目を通しながら朝霧は答えた。
「……いや。実は、既に我がギルドの新人達対象の強化合宿の企画自体は検討してあってな。
……悪いが、ザントリーフ半島のチョウシの町近辺で行われる強化合宿への参加は無しだ」
朝霧からの返答に、「わかった」とベルセルクは短く言葉を口にすると、この話は終わりだと言わんばかりに手を叩いた。
ベルセルクに促される形でギルメン達は次々と執務室を後にし、執務室内には書類に目を通す朝霧のみが残された。
「……ベルクは、察しが早くて助かる。さて、まずは……“合宿先”に連絡だな」
そう呟くと、朝霧は手早く〈フレンド・リスト〉を開くと……その中から〈櫛八玉〉の名前を見つけ出し、タップしてコールする。
──しばらくの呼び出し音の後、澄んだ木琴の着信音と共に朝霧の耳に櫛八玉の声が聞こえてきた。
『もしもし先輩?今回は、一体何の御用ですか?』
問い掛けてくる櫛八玉に、朝霧は用件を詳しく伝えた。
「まず最初の用件は、〈テンプルサイドの街〉の近くにある〈テンプルサイドの森〉で、我が〈放蕩者の記録〉の新人達対象の強化合宿を行わせてもらいたいんだ」
『……はあ。私は、別に反対しませんが……〈テンプルサイドの街〉の〈大地人〉の方達の顔役でもある執事のバルトさんとかにも話をしてからでないと……今すぐの返答は難しいね』
櫛八玉からの返答は、自分の一存では許可できないというものだった。
「今すぐでなくても構わない。
ここ一ヶ月以内に返答してもらえればいいのだからな」
『はあ、わかりました。
後で、この件をバルトさんに話してみますね。
……ところで先輩、用件はまだあるんでしょ?』
そう問い掛けてくる櫛八玉に、朝霧は笑みを浮かべながら答えた。
「流石は櫛だな。察しが早くて助かる」
『伊達に数年間、先輩の傍で学んではいないからね。
……で?私の推測では“合宿は周りの目を誤魔化す為のカモフラージュ”で、これから話す“用件”が〈テンプルサイドの街〉を選んだ本当の目的じゃないのかな?』
櫛八玉の見事な推測に、自分の後輩の成長ぶりを嬉しく思いつつ……朝霧は話を続けた。
「櫛の推測通り、これから話す用件が本題で……本当の目的だ。
大丈夫。〈太陽の軌跡〉のメンバーにも、〈テンプルサイドの街〉に住む〈大地人〉達にも絶対に迷惑はかけない。
……むしろ、そちらには悪くない話だ」
『それは?』
「……今、〈ミナミ〉の方から脱出をした……〈Plant hwyaden〉の追っ手から身を隠しつつ、慎重に移動しながら〈アキバ〉を目指している脱出者達がいてな……
丁度一ヶ月後、彼らが〈テンプルサイドの街〉近くにやって来る予定なんだ。
……そこで、知人の緋風率いる〈暗殺者〉の〈追跡者〉持ちのみで構成された中小ギルド〈彩風の暗殺団〉と私のところの黒雷、疾風、アルテミス、朔夜で構成された混成護衛部隊を使って、彼らを安全に〈アキバ〉へと送り届けたいんだ」
『……はあ。それは、理解できましたが……それがどう繋がれば、私達には悪くない話になるのか……』
少し困惑気味の櫛八玉に、朝霧は苦笑しつつ……話を続ける。
「……つまり、〈テンプルサイドの街〉の郊外で〈Plant hwyaden〉の追っ手と思いっきり戦闘を行うんだ。徹底的に全員を叩き潰して。
ついでに、〈テンプルサイドの街〉の街中に〈彩風の暗殺団〉の拠点を移させてもらって、〈テンプルサイドの街〉の安全を図る為と〈ミナミ〉への牽制へとしたいのだ」
朝霧の話した内容に、櫛八玉はポカンとした。
『まあ確かに、私達には悪くない話ですけど……そこまでする必要があるのかな?』
「……ある。
……少なくとも、レオ丸法師や〈グレンディット・リゾネス〉のレディ・イースタルとユーリアス、〈ハーティ・ロード〉のアギラ、〈D.D.D〉の蒼月や月華、元メンバーだったレモン・ジンガーから伝え聞いた〈ミナミ〉の現状─〈Plant hwyaden〉の統制状況から推察する限り……な」
朝霧の口から、蒼月や月華、レモン・ジンガーといった懐かしい人達の名前が出てきたが……『彼らは今、どうしてるかな?』と懐かしむ気持ちすらも吹き飛んでしまい、その人物達が知らせてきたという〈ミナミ〉の現状を……朝霧の言い方から察した櫛八玉は、思わず息を飲んだ。
『……それ程に悪いんですか?』
櫛八玉の問い掛けに、朝霧は固い声音で答えた。
「……悪いな。
ナカルナードの率いていた〈ハウリング〉を含む、〈ミナミ〉では有力であった複数の大手ギルドを取り込み……さらに、〈神聖皇国ウェストランデ〉の〈大地人〉の有力貴族達も取り込んだ歪な単一ギルドを築き上げている。
その歪な在り方が、弱い立場の者達を虐げる要因になっている。
……そもそも、多数あるギルドを無理矢理一つに纏めてしまう事自体に無理があるんだ」
朝霧の言葉に、櫛八玉は「確かに」と思った。
──アキバの五大戦闘系ギルドを例にとって考えてみても……『レベル84以下はお断り』という入会制限を設けている〈黒剣騎士団〉。
レイド等の攻略資料の編纂に重きをおいている〈ホネスティ〉。
新規レイド攻略に重きをおいている〈シルバーソード〉。
鉄の結束力を誇るハーレムギルド〈西風の旅団〉。
そして……ギルマス不在でも活動可能な自立組織化された〈D.D.D〉。
(……アキバの五大戦闘系ギルドで考えてみても、これらを一つに纏めてしまうのは無理だね。
そう考えてみると……先輩の言う通り、複数のギルドを無理矢理一つに纏めた〈Plant hwyaden〉ってギルドは……いつか必ず、何処かに歪みが生じるのは目に見えるね)
朝霧の言葉から、そこまで考えた櫛八玉は思わず溜め息を洩らした。
『……確かに、〈ミナミ〉の状況は悪そうだね。
じゃあ、〈彩風の暗殺団〉をわざわざ〈テンプルサイドの街〉に派遣するというのも、あえて〈テンプルサイドの街〉郊外で〈Plant hwyaden〉からの刺客と戦闘を行うのも……〈ミナミ〉に対する牽制って事かな?』
櫛八玉の言葉に、朝霧は肯定の言葉を口にした。
「ああ、そうだ。
もっとも、その〈ミナミ〉への─〈Plant hwyaden〉への牽制が、一体どれ程の効果を発揮するかは全くの未知数だからな。
……何せ、〈Plant hwyaden〉のギルドマスターである濡羽やその側近といえる存在であるインティクスや幹部であるゼルデュス等の〈十席会議〉のメンバー達が一体どの様な人物達なのか……私の元には詳しい情報が無い。
彼女らに関する情報の大半が、周囲から伝え聞いた当たり障りのない評価といった感じだな」
『……そうなのですか。
うーん。私達自身でも〈ミナミ〉への対策を考えた方がいいのかな?』
いつもなら、確固たる自信を持って十手先までの手を打ってしまう朝霧の…その口から飛び出した彼女らしからぬ言葉に、櫛八玉は〈太陽の軌跡〉としても対策を打った方がいいだろうか……と言葉を掛けた。
「……いや。色々なところから知恵を借りてみる。
もしかしたら、何か良い手があるかもしれないからな」
朝霧のその言葉に、櫛八玉は「わかったよ。でも先輩、何か力になれそうな時はきちんと相談して下さいよ?私でも、何か力になると思うからね。」という言葉を掛けた。
「ああ……。その時は、力を貸してくれ。
でも、今は〈大地人〉のバルトさんという方と話をして、『合宿の件』の了承をもらってくれ。頼んだぞ」
『了解。それじゃあ、先輩また今度』
「ああ、またな」
そう言って櫛八玉との念話を切ると、手早く〈フレンド・リスト〉を開き……『西武蔵坊レオ丸』の名前を選択して、コールした。
──しばらくのコール音の後、念話の相手が口を開いた。
『やぁやぁ、どうも。……一瞥以来の御無沙汰でした。
お変わりございませなんだか、って言うのも今となっては変な言い草になりますけど、お元気でしたかいな……御前さん?』
「……お久しぶりです、レオ丸法師」
──今度の念話の相手は、優れた知恵者でも有名な〈召喚術師〉西武蔵坊レオ丸だった。
◇◇◇
──朝霧はレオ丸より知恵を借りる為に、〈円卓会議〉設立までの間にあったある程度の自分達に関する情報を公開する事にした。
──朝霧がそれらを一方的に語り終えたタイミングを見計らったかの如く、レオ丸が口を開いた。
『いつもの事ながら丁寧なる形にて……情報を御開陳賜り、誠に恐悦至極。
ほな今度は此方から、〈大災害〉直後にお話しさせてもろた事以降のアレやコレを話させてもらいますわな。
……って言いたいんですけど、御免やで御前さん』
まず、そう謝罪の言葉を口にしたレオ丸は、続けてこう申し述べた。
『今、とあるクエストの最中ですねん、ホンマ誠に申し訳ない。
夕方には終了しますよってに、その頃に此方から改めて連絡させてもらいます』
──レオ丸法師にはレオ丸法師なりの事情があるのだろう……
彼の言葉と声音から…そう理解した朝霧は、まずは謝罪の言葉を述べた。
「これは、不躾な事を致しました。申し訳ありません、法師。
併せて、法師の申し出を了承致しました。
法師からの連絡をお待ちしております」
朝霧の謝罪と了承の言葉を受け取ったレオ丸は、重ねてお詫びの辞を述べ、その後に彼の方から念話を切った。
◇◇◇
レオ丸の方から念話が切られた後、しばらくして朝霧は深い溜め息を洩らした。
──おそらく、法師は自分が先程話した内容から…おおよその事情と此方が望む事を察したのだろう。
その上で、現在の手持ちの情報だけでは自分との会話を続けるには充分に足りておらず…情報の収集と整理を行う為に『改めて連絡する』と言って念話を中断したのかもしれない。
──無論、『クエストの最中』というのはその場の嘘やでまかせでは無く、本当の事だろうが……
──〈エルダー・テイル〉がゲームだった頃から、そういうスタンスをお持ちの方だと知っているからこそ、信頼し、信用し、安心して情報の開示が出来るのだ。
(……とは言え、法師は何処まで察せられただろうか?
私は、櫛と櫛のギルド〈太陽の軌跡〉の皆が住む〈テンプルサイドの街〉を守りたい。
それは、単純に可愛い後輩を守りたいという想いも確かにあるが……〈テンプルサイドの街〉の防衛は、ひいては〈Plant hwyaden〉から〈シブヤの街〉や〈アキバの街〉を守る事にも繋がると、私は考えている。
……そう思うからこそ、現在の防衛案である〈彩風の暗殺団〉による街の防衛だけでは不十分だと思うから、法師の知恵をお借りしたいと思ったんだ。
あの方なら、〈Plant hwyaden〉も容易には手を出せなくなる様な妙案を思い付かれるだろうと思ったからこそ……)
──レオ丸からの再念話を待つ間、朝霧はそんな色々な事を思考していた。
──しかし、そこには…いつもは必ず持っておく筈の余裕を失ったままの朝霧の姿があった。
◇◇◇
──もし、この場に夜櫻やクラスティが居れば、朝霧のその余裕の無い様子にすぐに気付き、指摘し、たしなめていただろうが……生憎、この場には朝霧唯一人しか居らず、それを指摘してたしなめる事が出来る者は居なかった。
◇◇◇
──しばらくして、朝霧の耳に念話の着信音が鳴り響き、念話をかけてきた相手がレオ丸だと気が付いた朝霧は急ぎ繋いだ。
念話が繋がると同時に、レオ丸が口を開いた。
『あ、もしもし、御前さん。お待たせ致しました』
そう切り出したレオ丸の言葉を受ける暇もなく、朝霧はすぐに会話を始めようとした。
──その様子に、レオ丸から「まぁまぁ、そない慌てんと」と言われ、朝霧は少し深呼吸をする。
少し間を置いた後、朝霧は謝罪の言葉を口にした。
「……申し訳ありません、少し気が急いていました。
ところで……話を始めても宜しいでしょうか?」
『光陰矢の如しとも申しますさかいに、早速拝聴致しましょう♪』
レオ丸からの承諾の言葉を貰い、朝霧は先の念話で中断していた話の続きを再開させる事にした。
──朝霧が話の再開の出だしに選んだのは、最近の〈アキバの街〉の賑やかな様子からだった。
その事を話し終えた後、レオ丸が語り出した。
『……そうですなぁ。アキバの近況に関しては、ワシもチョコチョコと聞いてますさかいに……サナエさんからとか。
凡その流れは知ってますけど……御前さんも裏で一枚噛んでましたんか。
……流石っちゅうか、何と言うか、驚いてエエやら、素直に感心したらエエやらですなぁ』
「……アキバ内外の〈冒険者〉と〈大地人〉に知られない様に、徹底した情報管理と隠密行動を心がけていましたからね」
朝霧のその言葉に、念話越しでもレオ丸の苦笑が聞こえてきた。
『ははははは……、いやはや何とも感心感服致します。
御前さんを敵に回したらアカンって事を、改めて肝に銘じさせてもらいますわ』
「いえいえ。私としては、レオ丸法師も敵に回したくない方です」
レオ丸の実在の年齢を朝霧は知っているものの……貫禄や立ち振舞いから、朝霧はレオ丸の事を目上の方の様に思い、その様に接するよう心がけている。
その為、必然言葉遣いもレオ丸に対しては丁寧なものとなる。
──そこでレオ丸は一旦言葉を区切り、朝霧が切り出したいであろう本題を話し易い様に…こう言葉を口にした。
『それ……で?念話越しに送ってこられる空気やと、単なるの世間話をするためだけに、連絡してきはったんと違いますやろ?』
「……流石は法師。察しが早くて助かります。
……実は、法師の知恵をお借りしたくて連絡を致しました」
そう朝霧は切り出すと、レオ丸に念話した本題を語り出した。
──まず、朝霧が語り出したのは…元〈ミナミの街〉を拠点にしていた約三十名の反〈Plant hwyaden〉の〈冒険者〉の一団が、〈ミナミ〉から─〈Plant hwyaden〉から逃れる為に〈アキバの街〉を目指して逃避行の真っ最中である事からだった。
──次いで語ったのが、彼らが〈Plant hwyaden〉の追っ手に追われている事。
──彼らの逃走経路の途中に、〈テンプルサイドの街〉がある事。
──自分達は、〈テンプルサイドの街〉近郊で〈Plant hwyaden〉の追っ手を迎え撃つつもりである事。
──更に…〈Plant hwyaden〉に所属する事を選んだ友人からの情報提供で、〈テンプルサイドの街〉に元〈D.D.D〉の幹部であり、自分の後輩でもある“突貫黒巫女”櫛八玉が定住している事が知られている事。
──それらを踏まえた上で、今の自分が取れる対〈Plant hwyaden〉対策では不安要素が多い事…までを語った上で、こう言葉を口にした。
「──という訳で。後輩のいる〈テンプルサイドの街〉を〈ミナミ〉の─〈Plant hwyaden〉の魔の手から守りたいのです」
そう語り終えた朝霧は、レオ丸からの返答を待った。
──しかし、肝心のレオ丸は…自分の中で考え出された末の結論が大外れし、崩されてしまった思考の再構築し直しの真っ最中の為、その返答の最初の辺りはシドロモドロとなっていた。
『おお、あー、うん、えっと、まぁ、オッケーにて候。
想定にミステイクが生じましたけど、状況は十二分に飲み込めました。
……って事は、御前さんの情報網にはミナミの様々な事、♪ 小さいものから大きなものまで ♪、やっぱりキッチリと引っかかってましたんやな』
「……〈大災害〉当日、〈共鳴の絆〉の盟友や知人等が数人程いましたから。
法師が企画して、裏で動いていらした〈ウメシン・ダンジョン・トライアル〉の事や〈スザクモンの鬼祭り〉対策に〈赤封狐火の砦〉に〈冒険者〉の駐屯軍を配備されたのも、彼らから聞き及んでおります。
……そして、〈ミナミ〉を思われて動かれていた法師の行いを……〈Plant hwyaden〉が〈ミナミ〉統治に悪用した事も」
『ははははは……こいつぁ、何ともお恥ずかしい事で。
御前さん優しい言うてくれたけど、ワシはワシ自身がしたい事をしただけで。
結果としては、一つ勝って、一つ引き分けて、……一つボロ負けしただけの事やさかいに。
……まぁ、今となっては過ぎた事やし、盆に帰らぬ覆水ですわ。
それに、地面に零れて泥水になってしもうたとしても、濾過すりゃ何とか飲めるもんでっせ♪』
朝霧が、親しい者を深く思いやる優しい心根の持ち主である事を……長く接している内に理解していたレオ丸はカラカラと乾いた笑い声で軽く笑い往なし、会話を軟着陸させると…無理矢理話題を朝霧の相談内容へと戻す事にした。
『ワシの事は、もう宜しいやん。横に置いときましょ。
さてさてそれよりも、御前さんのお話の続きや。
つまり……〈テンプルサイド〉をガッチリ護るにはどうしたらエエか?……ですやんなー。
警備員をズラッと並べて、始終張り番をさせる訳にはいきませんし、なぁ。
張り番させる手立ては、御前さんの事やから既に考えた後やろうし。
その上での御下問ですもんねぇ。
……後生大事に金庫へと仕舞い込むにしては、町ひとつはちょいとデカ過ぎますしねぇ。
光子力な研究所みたいに障壁を張る……いやいや、あんなパリーンって音を立てて割れるような、しょぼい防壁を張っても意味ないし。
ん?……いや待てよ。
障壁は無理でも、結界なら出来るんと違うやろか?もしかしたら……魔法を“でっち上げ”れたら。
ワシが仕掛けた“反則技”を拡大再生産出来たら…もしかして?』
「……何ですか、それは?
……法師は、何かをなされたのですか?」
『そいつぁ秘事にて、御前さんにも詳しくは話せまへんねん。
どうか堪忍しとくんなはれ。
それに、ワシが既にした事が、其方の事情にピッタリ符合するとも思えませんし……。ですけども。
どんな魔法かは説明させてもらいますよってに、何卒ご安心下さいな。
ほな、用法要領を言いますさかいに、メモの御用意を♪』
朝霧の質問に、レオ丸は固有名詞や特定され易いキーワードを徹底的に排除し、核心部分と言える様な肝心なところはぼかしながらつつも……今回の件にも関係してくる必要な事柄についてを丁寧な説明を加えながら話し始めた。
──元の現実で宗教的に正しいとされる、あるいは思想や土俗的風習として正しいとされている事柄は、この世界でも通用する事。
──但し、それを通用させる為には、様々な条件が正しく整えられなければならない事。
──少なくとも、神道的な意味合いを持つ土地には神道的な法則や、神道と縁戚関係にある陰陽道的な法則が適応される事……等々を。
『──って事ですねん』
「成る程。つまり、その排除結界と同じものを〈テンプルサイドの街〉周辺に張れれば……街を〈ミナミ〉から守れる訳ですね」
『はいな、ピンポン♪正解ですわ♪
ほなまぁ、察しのエエ御前さんやったら、ワシが次に言おうとしている事は何かが判りますやろ?
……〈先見の巫女〉様ですねんし、ねぇ?』
「……やめて下さい法師。
私は、必要に迫られて戦況を詳しく分析できる様になっただけです。
別段、私が優れている訳ではありません。
それに……その二つ名は、〈アキバの女帝〉と同じ位恥ずかしいので……呼ばないでいただけませんか?」
レオ丸から呼ばれた二つ名に……思わず朝霧は気恥ずかしく思い、困惑の感情を露にしていた。
──場の空気と気持ちを切り換える為に、コホンと咳払いをすると朝霧は気を取り直して話を続けた。
「では、具体的にはどの様にしたらいいのでしょうか?」
『さいですなぁ……、まずは何よりも土地の特性ですなぁ。
“テンプルサイド”って、“吉祥寺”の事で間違いおまへんでしたよね?
ワシの記憶が確かなら……七年連続で住んでみたい町一位でしたなぁ、ってのは今は関係おまへんな。
え〜〜〜っと……ちょいと待っておくんなはれ』
──そう言うと、何らかの書籍をめくる様な音の後にレオ丸は『テンプルサイドの街』の来歴や『吉祥寺』の地霊をハイテンションに語り出した。
◇◇◇
『──まぁザッと語れば、そんな土地ですなぁ。
以上の事を頭の片隅に置いて考えれば、深い信心が根ざした、昔から今に至るまで信仰が生きている街ですわな。
結構結構、誠に最良の土地ですわな。
必要不可欠の要素である、結界の要がおますねんから♪
後はそれを流用するにあたって、どないな仕掛けを施すんがエエんか……』
ハイテンションにそこまで語り終えたレオ丸は…そこで不意に声のトーンを落とし、更に話を続けた。
『……すんませんけど、御前さん。
御前さん、もしくはギルド所有アイテムで、何ぞ気の利いた小粋な感じのモンはお持ちやおまへんやろか?』
「……ちょっと待って下さい」
──そう言うと、朝霧は机上に置いてある倉庫のアイテムリストの紙を取り出し……そこに書かれているアイテム名やそのアイテムの来歴、アイテムの簡単な説明文を一つ一つ読み上げ始めた。
レオ丸は、朝霧がアイテムリストの内容を一つ一つ丁寧に読み上げている間、余計な口を一切挟む事はせず……ひたすら聞き手に回り相槌を打っている。
──そうやってしばらく聞き手に徹していたレオ丸は、朝霧の“とあるアイテム”の説明を読み終わった頃合いに唐突に口を開いた。
『ちょいとそこで、ストップです。
今、言わはったアイテム、〈朽ち落ちたる御神木〉って言うヤツ。
それが一番、最良のアイテムですわ。
せやけどそのままではgoodかbetterですさかいに、加工してBESTにしましょうか。
……確か御前さんのお仲間に現役仏師の忠勝君って居てましたよね?
彼のサブ職は……ああ、〈彫刻家〉ですか。そいつあ何とも好都合!
ほいで、日本ではワシと同じ坊主の八雲君は、此処では〈神祇官〉でしたな?
オッケーです、必要な要員も確保ですわ♪』
そう言うと、手にしていた書籍を仕舞いながらレオ丸は笑みを浮かべた(声音で判断)。
レオ丸は早速、手順や方法の具体的なアドバイスを語り始めた。
『ではでは、お待たせ致しました。
御前さんの御望みに叶うと思われる方法を、述べさせて戴きまする。
但し、今言いました様に、100%かどうかは実際にやってみてもらわな、判りませんよってに。
前人未到の壮大な実験ですからね?
さてまずは、忠勝君に〈朽ち落ちたる御神木〉を素材として、仏法守護の四天王像を彫ってもらいまする。
何で仏法守護の四天王かと言うたら、“テンプルサイド”って地名の由来である〈堕ちた天空の寺院〉を、結界の要たる御本尊に見立てますからや。
ホンで完成した四天王像をテンプルサイドの四隅に安置して、八雲君に開眼作法をしてもらいますねん。
御本尊たる〈堕ちた天空の寺院〉を上座に置き、結界の守護たる『持国天』・『増長天』・『広目天』・『多聞天』の四天王を勧請し奉れば、オッケーな筈ですわ。
まぁ、忠勝君と八雲君に任せたら遺漏なく万事上手くいくと思います。
彼らには今更言うまでもない注意を促すならば、四天王像を“外向き”やのうて“内向き”に安置する事ですかな?』
そこでレオ丸は一旦話を区切り、おそらく…元の世界の煙草と同じ様な何かで一服すると、そのまま話を続けた。
『改めて申しますけど、今言うた方法はやってみなけりゃ成功するかどうかは、さっぱりと判りません。
何せ、ワシが先に“とある場所”にて仕掛けたのは、テンプルサイドに比べりゃ規模も一回り以上小さい場所やし、そもそもの結界作動条件も、結界敷設の作法も全然全く違いますよってに。
ですが……ワシは確信しとります。
忠勝君と八雲君の両名ならば、きっと御前さんの御望みを叶えてくれる筈やと。
多分、彼らは〈朽ち落ちたる御神木〉以外にもアレが欲しいコレが足りないって言うかもしれません。
出来得るならば、両人が最高の仕事が出来る様に、案じようサポートして上げて下さいませな』
──そう言葉を締めた時、朝霧の脳裏には現実でのレオ丸法師の頭を下げている姿が浮かんでいた。
『まぁ……、ワシが今出来る精一杯に背伸びしたアドバイスは、こないなところですやろうか……』
そう述べた一言を最後に…具体的な方法を語り終えたレオ丸に対して、朝霧は深い感謝の言葉を述べた。
「法師、本日は知恵をお貸しくださり……誠にありがとうございました。おかげで、〈テンプルサイドの街〉を守れそうです」
『いやいや、まぁまぁ、成功してみん事にはワシの提案は全て妄言、戯言やもしれませんよってに。
御礼の御言葉は、御前さんの作戦計画が無事恙なく済んでからに、しときましょう。
あきまへんでした、やったらワシは大恥掻くだけで仕舞いやけど、御前さんは何にも代えがたい信用と、貴重なアイテムをフイにしてしまいますさかいに。
せやけど、上手いこといったら〈衛士システム〉に似て非なる結界が出来上がる……んやないかなーと思ったりする事もあるでしょう!
パチモンのバッタモン位には役に立つ事を、請け合いますさかいに……と言える心意気を明日は持ちたいと思う所存ですわ。
しかし……まぁ、ワシと違うて、ゲーム時代の頃からの御前さんらしい生真面目さにはホンマ、平身低頭で汗顔の至りですけど、な?』
「すみませんが……これが私の性分なので」
『責任ばっかりの、しんどい立場やとは思いますけども、肩筋張らずに……たまには肩の力を抜かなあきまへんで……って、これは以前にも言いましたっけ?』
「……フフフ、そうですね。法師のお言葉、充分肝に命じておきます。
……では法師。お身体に気を付けられて、引き続き〈セルデシア〉の調査を頑張って下さい」
『御前さんも、其方の皆さんも、案じよう御気張りやす♪』
そう言ってレオ丸の方から念話が切られると、朝霧は溜め息を洩らした。
(……法師のおかげで、〈ミナミ〉への“確実な”対策は用意できた。
〈衛士〉の居ない〈テンプルサイドの街〉に、〈衛士機構〉に近い備えを“創る”……
法師にしか考えつかない手だな。
それに……あの方は、私のよく知るあの方のままだったし)
そう考えた後、朝霧は微かに笑みを浮かべると、執務室を出てギルドハウスビルの倉庫へと向かった。
◇◇◇
──レオ丸からの提案で、“排除結界”に必要であるアイテムを倉庫内で探し始める。
イセ近辺のレイドクエストで入手した稀少な激レア素材アイテム〈朽ち落ちたる御神木〉を四つ分探し出して、〈ダザネッグの魔法の鞄〉の中へとしまい込んだ。
(……結界に必要なアイテムは見つけた。
後は、レオ丸法師の助言通り……忠勝に頼んで四天王像を彫ってもらい、四天王像が仕上がったら八雲に開眼作法を施してもらわないとな。
……それに、その時には八雲と〈テンプルサイドの街〉に施す結界の件での事前の入念な打ち合わせも行うべきだな。
後は、櫛から合宿受け入れ許可の了承の返事がもらえれば……行動可能だ。
……とその前に、連絡を入れないといけないところがあったな)
──そう考えると、朝霧は〈フレンド・リスト〉から“ある人物”の名前を選択すると……その人物へと念話をかけた。
◇◇◇
「……すまないな、シロエ。急に呼び出したりなどして」
「いえ。御前がわざわざ呼び出す程です。
……何か、大事な用件ですよね?」
「……しかも、シロエ君だけでなく、私達を共に呼び出す様な用件……是非、詳しくお聞かせ願いたいね」
「だな。シロエ殿から、『戦闘系ギルドと生産系ギルドの各々の代表として共に来て欲しい』と頼まれたんだ。
一体どんな用件か……聞かない訳にはいかないな」
──朝霧の念話による呼び出しで、〈放蕩者の記録〉のギルドハウスビルの応接室へと通されたのは〈記録の地平線〉のギルドマスターであるシロエと戦闘系ギルド〈D.D.D〉のギルドマスターであるクラスティ、生産系ギルド〈海洋機構〉のギルドマスターであるミチタカの三人であった。
黒薔薇茶とガトーショコラを三人と朝霧の前に置くと、天音は朝霧の後ろに控える。
「まず、三人は〈ミナミ〉の状況はどれだけ掴んでいる?」
朝霧からの切り出しに……クラスティは腕を組み、ミチタカは「うーむ」と唸り、シロエは静かに口を開いた。
「僕達の〈アキバの街〉よりも、かなり早い段階で秩序を取り戻した……という事位は〈ミナミ〉にいる知り合いから聞いています」
「蒼月君達の話では、初期の頃はこちらと大差無かったとも聞いているね」
「今は、こっちの〈円卓会議〉みたいな統治機構がある……という話だが?」
三人が各々に調べ上げた〈ミナミ〉の情報を聞いた朝霧は、軽く溜め息を洩らした。
「〈ミナミ〉の統治機構は、〈円卓会議〉とは性質が全く異なる。
〈Plant hwyaden〉は、〈ミナミ〉の〈冒険者〉を無理矢理一つにまとめた単一ギルドだそうだ。
しかも、統治機構には〈冒険者〉だけでなく〈大地人〉も取り込まれていて……〈Plant hwyaden〉内では、常に派閥争いがある状況だ。
……最悪な事に、〈ミナミ〉にいる〈冒険者〉を無理矢理〈Plant hwyaden〉に加入させようとしているらしい」
朝霧の口から語られた〈ミナミ〉の現状に……三人は言葉を失った。
「……というか、御前はその情報を何処から?」
シロエの問い掛けに、朝霧は一言だけ述べた。
「……〈ミナミ〉にも関わりある“とある〈召喚術師〉”から……とだけ言っておこう。
私としては、あの方にあまりご迷惑をかけたくないからな」
──朝霧の言い方から、情報元である人物は朝霧にとっては敬意を抱く相手である事を三人は感じ取った。
(御前が敬意を抱く程の相手……全く思い付きませんね)
──この三人の中で、一番付き合いの長いクラスティですら、朝霧の情報提供者が誰であるのかが全く思い浮かばなかった。
コホンという咳払いの後、朝霧は話題を元に戻した。
「肝心の呼び出した用件だが……実は、少し前に〈ミナミ〉から脱出して現在進行形で〈アキバ〉を目指している〈冒険者〉の一団がいてな。
私達〈放蕩者の記録〉は、この一団から〈アキバ〉までの護衛を依頼され、その為の準備を密かに準備中だ。
シロエ、クラスティ、ミチタカの三人を呼んだのは、〈アキバ〉に到着した後の彼らの進退について相談したかったからなんだ」
そう言って右足を左足の上へと組んだ朝霧は、言葉を続ける。
「彼らが〈アキバ〉に到着した後に、安心した暮らしができる様に〈円卓会議〉として計らってもらいたいし、ギルド加入希望者には希望するギルドを紹介してあげたいからな」
「……つまり御前は、〈放蕩者の記録〉のギルドマスターとして、〈ミナミ〉からの脱出組を〈アキバ〉へ受け入れる体制を……正式に〈円卓会議〉に依頼したいという事ですか?」
シロエの問い掛けに、朝霧は黙って頷いた。
「……だそうだが?クラスティ殿はどう思う?」
「まず、断る理由がありませんね。
彼らからは、〈ミナミ〉の近況を知る有力な情報源ですからね。
シロエ君はどうかな?」
「僕も、特に断る理由が見つかりません。
ただ、間者が脱出組の中に紛れ込んでいる可能性を否定できないので……受け入れるにしても、しばらくは脱出組のメンバーの動向は充分に気を付けた方がいいかもしれませんね」
「脱出組の動向調査については、私達〈放蕩者の記録〉が全て引き受ける。
こちらが正式に依頼した事だ。
全部〈円卓会議〉に任せきりにはしないさ」
「御前、ありがとうございます」
朝霧の言葉に、シロエは頭を下げた。
◇◇◇
──話が終わり、応接室を出ようとしたシロエ達を朝霧は呼び止めた。
「そうだ。これを渡しておく。
〈領主会議〉に着ていく正式な服は必要だろ?」
そう言って三人に手渡されたのは、〈円卓会議〉の紋章が刻み込まれた正式な制服といった感じの服だった。
「……“あの時の採寸”で測った私達各々のサイズデータで完成させた〈円卓会議〉の専用の制服ですね」
苦笑しながら、クラスティがそう言葉を口にする。
「ほほう。完成度はかなり高いな。使われた素材は何だ?
伸縮性は、かなり優れている様だし……保温性や吸水性、耐久性はどうなっているのか……」
ミチタカは、生産系ギルドに携わる者として……服を広げ、服のデザインや服の材質、伸縮性等を確認していた。
「……御前は、〈自由都市同盟イースタル〉の各領主達の動向を存じていたのですね」
苦笑するシロエに、ニヤリと笑みを浮かべた朝霧はこう答えた。
「私の情報網を甘く見るな。〈自由都市同盟イースタル〉圏内で起こっている事は、ある程度は把握している。
〈大地人〉の─各領主達の動向は特にな」
朝霧の言葉に、彼女がここ二ヶ月の間に構築した情報網の凄さをシロエ達は改めて思い知った。
◇◇◇
シロエ達を見送った朝霧は再び執務室へと戻ると、〈アキバ〉の街中にいるであろう姉の夜櫻へと念話を入れた。
「姉さん。確か、しばらく面倒を見ている新人の子らを連れてレベル上げをするって言っていたな?」
『ん〜?そうだけど?』
「しばらく、オウウ地方近辺をメインに行ってくれないか?」
朝霧の突然の申し出に、夜櫻の返答はやけにあっさりとしたものだった。
『いいよ。あーちゃんの事だから、何か考えがあるんでしょ?
あーちゃんの考えに、乗ってあげるよ』
「……ありがとう、姉さん」
こういう時の……夜櫻のこちらの意図をおおよその察してくれるところに、本当に色々と助けられていると朝霧は思っていた。
(……これで、オウウ地方周辺の情報収集が可能となるな。
アキバから離れている場所についての詳しい情報の収集は、やはり誰に直接行ってもらった方が良いからな)
そう考えると朝霧は、安堵の息を洩らした。
◇◇◇
──この時の朝霧は、オウウ地方を含む〈自由都市同盟イースタル〉圏内全ての地方や街・村等に関する情報をできる限り、シロエの─〈円卓会議〉の為に収集するという目的の為に人を動かしていた。
──しかし、この時のこの選択が……とんでもない事態を知らせる最初の警報となるなどと、朝霧にすら思い付いていなかった。
◇◇◇
──朝霧とシロエ達のやり取りがあった時より、約一ヶ月後の8月頃、出発時期こそ違うが……〈アキバの街〉を三つの集団が出発した。
一つは、〈エターナルアイスの古宮廷〉で開かれる〈領主会議〉へと参加する為の〈円卓会議〉代表使節団。
一つは、ザントリーフ地方で行われる〈円卓会議〉公認の新人夏季合宿の責任者〈三日月同盟〉のマリエール率いる引率組と合宿参加者の新人達の一団。
そして、朝霧率いる〈放蕩者の記録〉と緋風率いる〈彩風の暗殺団〉で混成した〈ミナミ〉脱出組の護衛部隊と〈テンプルサイドの森〉での夏季合宿参加組。
──この時の彼らは、オウウ地方より〈自由都市同盟イースタル〉圏内全土へと徐々に迫りつつある“大きな厄災”の存在を全く知らずにいたのだった……
今回より、物語は第二部へと入ります。
朝霧達〈放蕩者の記録〉が、どの様に動いていくのか…楽しみにしていて下さい。