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天照の巫女  作者: 櫻華
第一部 大災害
6/13

第五話『革命の日−円卓会議設立−』

今回、橙乃ままれ先生の書かれている『ログ・ホライズン』の一部を抜粋しております。










橙乃ままれ先生!もし、不愉快でしたら……おっしゃられてください!!

話の内容の修正を行いますから!!






島村 不二郎様からのご指摘を受け、平成26年7月22日に一部修正いましました。




平成27年11月7日、加筆・修正しました。




──〈三日月同盟〉は、様々な思惑の飛び交う中での交渉の末に……〈海洋機構〉〈ロデリック商会〉〈第8商店街〉の三大生産系ギルドとの資金提供の契約を締結する事に成功した。






その事は、瞬く間にアキバの街中に拡がっていった。





娯楽の少ない今現在の状況では、その話は数少ない娯楽の一つとして冒険者達を楽しませた。






──また、三大生産系ギルドと手を組んだ〈三日月同盟〉は……現在アキバに大きな影響を与える一大勢力になりつつあった。






◇◇◇






──あれから、更に10日程が経ったある日……






──ギルド会館の最上階にある大会議室には今、十二のギルドの代表達が集まっていた。






──朝霧は、その光景を〈黒き神狐の仮面〉を装着し、〈雲隠れのマント〉を身に纏い、〈暗殺者アサシン〉の装いをして、〈隠行術ハイド・シャドウポーション〉を使用した状態で、にゃん太のすぐ左隣に立って見ていた。






──朝霧がこの場に〈隠行術ハイド・シャドウポーション〉を使用して潜んでいる事を知っているのは、朝霧を“切り札”の一つとして控えさせているシロエとにゃん太、マリエール、ヘンリエッタ……シロエが密かに同時進行させている“作戦”に参加しているメンバーのみで、ヘンリエッタと共に同行しているセララは知らされないままだった。






朝霧自身が現在、この場に立っている理由は……必要ないとは思うのが、一応はシロエの護衛と戦闘系ギルドへの一応の抑止力となる為である。






(……まあ、あの“切り札”があるからな。私の出番は、来ないとは思うのが……

“あの一件”で、〈D.D.D〉〈黒剣騎士団〉〈ホネスティ〉には、私の存在は大きな“切り札”の一つに成り得る様になってしまったからな……)


そう考えながら、『〈ロック鳥の卵〉の一件で、アキバの街中で繰り広げた三大戦闘系ギルドとの逃走劇』の事を思い出し、朝霧は苦笑した。


「お忙しい中集まってくださって──ありがとうございます。僕は〈記録の地平線ログ・ホライズン〉のシロエと言います。

……今日は皆さんにご相談とお願いがあってお招きしました。多少込み入った話なので、時間がかかるとは思いますが、お付き合いください」


シロエの開会の挨拶を聞いた朝霧は、意識を会議に集まったメンバーへと向けた。


(……さて、シロエのお手並み拝見だな)


朝霧はそう心の中で呟くと、ニヤリと笑みを浮かべていた。






◇◇◇






──会議は、途中で〈シルバーソード〉のウィリアムが退出するという事態が起こったものの、それ以外は概ね順調に進行していた。






──そして話は、会議の参加者の選定基準や〈EXPポット〉や“法”についてへと移り変わり……クラスティからのある質問で、大きく動く事となった。


「仮に会議の存在自体を認めない勢力がアキバの街に現れたらどうします?つまり、会議の方針に逆らう勢力という事です」

「戦います。具体的にはアキバの街から追放します。仮に潜入したとしても、その活動は非常に困難になるでしょう。解散させる事も当然視野に入れます」


シロエの発言に、戦闘系ギルドを中心に大きなどよめきが上がる。


(……まあ、当然の反応だな。この世界では、最早“死”でさえ抑止力には成り得ない。それを誰もが理解しているから、この反応になるのだろう。……しかし……)


朝霧は睨む様に、アイザックを見る。



本人のあずかり知らぬところで睨まれているアイザックは、醒めた様な言葉をシロエへと投げかけた。


「──だが、たとえばここに集まったようなギルドひとつが会議に従わない、会議の決定は無視する、“法”なんてクソ喰らえ……って言い出したら、そりゃ戦争だぜ?」


アイザックの発言は、朝霧にもシロエにも予測できて然るべき事柄だった。


(まあ普通は、現実味の薄い……実際的な拘束力を発揮しない試みだと、誰もが考えるだろうな)


そんな朝霧の考えをまるでなぞる様にクラスティが発言する。


「やはり現実味が薄いといわざるを得ないのではないでしょうか?

その会議を成立させる意味はあると考えます。しかしそれは……ある種のポーズであり、実際的な拘束力を発揮するとは思えません」


クラスティの発言を聞き、朝霧は苦笑する。


(私とクラスティの思考は似ているのか?

……まあ、それはさておき。シロエ、あの“切り札”を切り時だぞ?)


朝霧はシロエに向けて、そう心の中で話し掛ける。




──朝霧のその心の声が伝わる筈はないのだが、シロエはまるで朝霧に背を押されたかの如く片手を静かに掲げた。




シロエの仕草に気を飲まれたかの如く、会議室には一瞬の静寂が訪れた。


「本日──今から四時間ほど前ですが、僕はこのギルド会館というゾーンを購入しました」


シロエの発言に、虚を突かれたかの様な空気が場に満ちる。


「当然ながらゾーンの設定権は僕にあって、その権利にはゾーンの入退場に関するものも含まれています。

──つまり、僕がブラックリストに入れた人達は、ギルド会館を使用できません。それはとりもなおさず、ギルドホールも銀行施設も貸金庫も使用できないという事を意味します」


シロエの更なる発言に、誰もが喉になにか詰まった様な奇妙な表情で彼を見つめていた。


(……すまないな。シロエ。

お前に嫌な役目を押し付けてしまって……)


その様子を眺めながら、朝霧は心の中でシロエにそう謝罪していた。






◇◇◇






「それでは脅迫ではないかっ!!」


シロエの爆弾発言の衝撃から立ち直った誰かから怒号に近い言葉が発せられた事で、会議は再び動き出した。




──先程のシロエの宣言に衝撃を受けなかったのは、シロエ本人とにゃん太、〈三日月同盟〉のメンバー、薄々察していた〈西風の旅団〉のソウジロウと付き添いのナズナ、〈隠行術ハイド・シャドウポーション〉を使用したまま控えている朝霧のみだった。


(……そう誰もが思うだろうな。

シロエの今の発言は、『言うこと聞かないならば、銀行口座の封鎖をするぞ』という意味にもとれるからな。

“脅迫”と捉えられても仕方がない……)






──そして……朝霧がこの方策を躊躇した理由も、この誰かの発言が関わっていた。





──朝霧には、“守るべきもの”と“守りたいもの”がある。






──“守るべきもの”とは、〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉という場所とそこにいるギルドメンバー達。






──“守りたいもの”とは、20年という長い時間をかけて築いてきた〈共鳴の絆〉や親しい友人達、他のギルドとの絆や信頼関係。






──〈放蕩者の記録〉や〈共鳴の絆〉のメンバーは、朝霧が今のシロエと同じ事をしても心から理解を示してくれるだろう。






──だが、他のギルドの者達や他のソロの冒険者達はそうはいかない。







そうなれば、朝霧と〈放蕩者の記録〉のメンバーを不当な評価や誹謗中傷の悪意に晒す事になる。





──更に、後々の他のギルドとの関係も最悪なものに成りかねない。






──そこが、朝霧がこの方策を実行する事への躊躇へと繋がった。






──しかし……シロエは一切躊躇わなかった。






(……ここが、私とシロエの違いだな。

何かを成す為なら、なりふり構わず突っ走る……

……若い故かもしれないが。

だが、嫌な役目を背負ってもらった以上、私の持てる全てでシロエをバックアップするぞ!!)


朝霧は興奮し、ヒートアップし始めた会議に再び目を向けた。


「銀行の預金封鎖をするだって!?お前、それが脅迫じゃなきゃなんだってんだ!?」


〈グランデール〉のギルドマスター、ウッドストックは声を震わせている。


「僕はアイザックさんの質問に答えただけです。その質問は“たとえ会議が成立したとしても、案件次第では大手ギルドが拒否権を発動して戦争になるのではないか?”というものでした。

答えとしては、戦争は起きません。戦争勢力はアキバにおけるギルド会館の使用権を失いますから」

「だからそれを脅迫だと─」

「そうおっしゃるなら脅迫かもしれません。しかし、僕がやった事が脅迫だと言うのならば、“都合が悪い提案をされたら戦争を起こすぞ”と言っているアイザックさんを初め大手ギルドの方々のやっている事は脅迫ではないんですか?どこに違いがあるんです?僕は“会議を設立して話し合いたい”と言っているだけです。都合が悪い言葉を無視するつもりもありません。どちらが常識的な申し出か考えてみてください」


シロエの怒濤の発言に、一時的に押し殺した様な静寂が訪れる。


(……ま、事情を全く知らない会議参加者にしてみれば……質の悪い悪夢を見せられている様な気分だろうな)


参加者の様子を観察しながら、朝霧はそんな事を考えていた。


「どこからそんな金を手に入れたんだ!?ギルド会館は一般ゾーンだぞ!?そんな巨額な金を──」


誰かが興奮したまま、そう発言する。そこへ、ショックからいち早く立ち直ったミチタカが答えた。


「我々が融資した」


ミチタカの発言に、再び会議の場はざわめき出す。


「ではシロエ殿が指揮していた挑戦とは……」

「はい、この会議の設立、そのものです」

「道理で」


何故金を出したのだという質問が会議室内に飛び交う。



シロエの発言の衝撃は、各々のギルドの随行者や参謀すらも恐慌状態へと陥らせていた。


「静かにしてくれっ!騒がしいぞっ!」


ミチタカの一喝で、一旦は会議室内に静寂が戻る。


「シロエ殿にはまだ言うべき事があるのだろう?」


苦笑とも憮然ともつかない表情を浮かべたミチタカは、シロエに続きを促す。


(ミチタカは、覚悟を決めてくれたみたいだな)


ミチタカのその発言に、朝霧は笑みを浮かべる。


「そうですね。シロ先輩はどう言い繕っても、現在脅迫可能な位置にいるのは間違いないです。

そして人間は相手が脅迫可能だと知るだけで平静を失って、事によっては脅迫されたと感じる生き物なんです。それはわかるでしょう?」


ミチタカの発言に、そう相づちをうったのはソウジロウだった。



ソウジロウの言葉に頷き、シロエは言葉を続ける。


「言われる事はごもっともです。僕だって、こんな強権をたった一人が握っている街は理想的だとは思いません。

そこで最初の話に戻ります。

皆さんはこの街が──もっと大きな話で言うならば、この世界における〈冒険者〉が、本当にこんな状況でいいと思っていますか?

僕の方から出す方針提案はふたつ。

ひとつは街に住む全ての人々、ひいてはこの世界に活気を取り戻す事。

もうひとつは、少なくもこの街に住む〈冒険者〉を律する為の“法”を作って実施する事。ここまでのところで反対の人はいますか?」


シロエのこの言葉に、反対する声は無い。


(……まあ、当たり前か。今のシロエが言っていた事は、戦闘系ギルドにとっても生産系ギルドにとっても悪い話ではないからな)


「わかった。そこまで言うのならば、この会議に提案する──〈記録の地平線〉の具体的な方策とやらを聞かせてもらおう」


アイザックの発言に、周囲の視線は自然と彼に吸い寄せられる。



アイザックの強い凝視に怯む事なく、シロエは胸を張ってより一層熱を込めて語り始めた。


「僕の方から提案する基本的な方針はふたつ。地域の活性化と、治安の向上なのはさっき説明した通りです。その具体策ですが、まずは活性化の方のアウトラインから。これは既に幾つかの関係者には話を通してあります。……マリ姐。」


シロエに促され、マリエールは席より立ち上がる。



それを眺めていた朝霧の耳に、念話の着信音が鳴った。


『……朝霧叔母さん、救出作戦は無事成功したよ』

「……そうか。疾風はやて、報告御苦労様」


朝霧は、今回の救出作戦の予備戦力としてシロエ達に内緒で控えさせていた〈暗殺者〉で〈追跡者〉である甥の疾風を小声で労った。



朝霧の労いに、「エヘヘヘ…」という笑い声を出しながら……疾風は念話を切った。



疾風との念話を済ませた朝霧は、視線をマリエールへと向けた。


「知っている人もおる思うけど、〈三日月同盟〉は〈軽食販売クレセントムーン〉いう店を最近やっとるん。沢山の人に引き立ててもらって、けっこう繁盛しとるん。

〈軽食販売クレセントムーン〉は、今までにない、ちゃんと美味しいと思えるハンバーガーを中心としたテイクアウトの店や。あちこちで色んな噂が出ておるのは、うちらの方でも重々わかっとるん。その秘密は、未知のゾーンから発見される91レベル以上のまったく新しいレシピ……ではないんや」


マリエールの発言に、その事を知っている関係者や生産系ギルド以外からはどよめきが沸き起こった。


「その秘密を今ここで公開しよう思う。仕掛けはこうや──。

ごく普通に材料を用意して、現実世界と同じ様に料理する。だけど、その調理する人間は〈料理人〉でなければあかんのや。そいから調理スキルが足りないと見なされた場合も失敗する。そんだけの事やんね。種も仕掛けも無いのが、種っちゅー訳や」


マリエールの言葉の意味を理解していく内に、会議室内のざわめきは大きくなっていった。


(……最初の頃の私も含めて、アキバに住む多くの者達は『料理は作成メニューで作るもの』と思い込んでいたからな。

私の場合は、天音が普段通りに家でやっている時みたいに調理をしていなければ、全く気が付けなかっただろう。

今回の“味のある料理の秘密”は、知らなかった者達に大きな衝撃を与えただろうな)


そんな事を考えながら朝霧は、マリエールからシロエへと視線を移した。


「その調理方法を発見したのは、僕の後ろにいるにゃん太という〈料理人〉です。

彼から許可を受けて、その事を〈三日月同盟〉に教え〈軽食販売クレソントムーン〉を立ち上げました。」






──これは、一部嘘がある。






──本当に、その調理方法を最初に発見したのは天音である。






しかし、それだと『〈放蕩者の記録〉を表立って〈円卓会議〉には関わらせない』という朝霧の考えに反する事となる。






──そこで、シロエと朝霧が用意したのが……『にゃん太が最初に発見した』という嘘である。






会議室内のざわめきが一向に引かない中、シロエの口上は続く。


「これは……随分多くの示唆に富んだ発見だと、僕は考えます。この発見自体はここにいるにゃん太班長によるものですが、この発見がなければ、僕はこの席を設けられなかっただろうし、設けようとも思わなかった。──ミチタカさん。結果出ましたか?」

「出たぞ」


ミチタカの野太い声の返答に、一同の視線はミチタカへと向かう。


「我がギルドは……〈ロデリック商会〉〈第8商店街〉と協力してだが、先ほど蒸気機関の開発に成功した」


ミチタカからの発表に、一同は驚く。






──朝霧は、この事にたいして驚かなかった。






──それは既に、〈放蕩者の記録〉内でも……〈料理人〉以外の他の生産系サブ職業でも〈作成メニュー〉に頼らない手作業による新たなアイテムの作成という結果を出していたからだ。






ミチタカは発言を続ける。


「正確には試作型だ。問題は多いが、理論は実証された」

「半日足らずで、素晴らしいですね」

「基本的な部品は作成メニューで作り出す事ができる。道具や工具もだ。部品を流用するっていうアイデアは秀逸だったな」


ミチタカとシロエは、頷き合う。


「おい……。そりゃ、蒸気機関は凄いがよ。つまり、それは、一体どういう事なんだ?」


毒気を抜かれた“黒剣”のアイザックが尋ねてきた。


「わかりませんか?アイザックさん。つまり、こういう事です。

さっきの発見は調理スキルや〈料理人〉に関係した事には留まりません。“生産の職人スキルを習得したプレイヤーが、作成メニューを使わないで実際に両手をもって作成すれば、作成メニューに存在しないアイテムを作り出す事ができる”事が証明されたのです。

元々の〈エルダー・テイル〉の仕様には、蒸気機関に関連したアイテムはひとつもありませんでしたからね。新しい食料アイテムのレシピは存在しなかった。しかし、“存在しない”という事実が、レシピという小手先ではない、新しい次元を切り開いたんです。事は最早、美味しい食事などというレベルの問題では、ない」


アイザックの質問に、ロデリックが理路整然とした様子で答える。


「これからは、作成メニューには無いアイテムを作り出す事が可能になりますよ。しばらくの間は発明ラッシュです。現実世界にあったものも幾つか再現できると思います」


カラシンが、ロデリックの後に続けて発言をする。






──この段階で、生産系ギルドはシロエを──〈円卓会議〉の設立を支持していた。






◇◇◇






──会議は、更に“法”の話へと移り変わり……人権問題に関する話になった時、再び会議参加者は衝撃を受けた。






──それは、シロエの『人権問題は〈冒険者〉に限らず〈大地人〉にも適用されるべき』という発言からだった。






(……まあ、未だにここをゲームの世界だと考えているなら、〈大地人〉の事をNPCノンプレイヤーキャラだと考えている者もいるだろうな。

少なくとも、私の様に〈大地人〉と深く関わる事がなかった者達は特に……な)


会議室の様子を眺めながら、朝霧はそう思考していた。


「──このままこの世界で自分達を律する事もできないまま、毎日を勝手放題に過ごしていたら、取り返しのつかない事になります」


シロエはそう発言を終えると、席に腰掛けていた。






──今、会議室内は衝撃の余りに静まり返っていた。





そこへ、静かな……よく透き通る様な声でクラスティが尋ねた。


「──シロエ君は、〈大地人〉と戦争の可能性があると示唆しているのかな?」

「それは僕が今考える事ではなく〈円卓会議〉が考える事だと理解しています」


シロエのその答えを聞き、しばしの沈黙が場を再び支配した。


(私は……〈冒険者〉と〈大地人〉、〈冒険者〉と〈冒険者〉同士の戦争の可能性はかなり低いと思っている。

……だが、〈大地人〉と〈大地人〉同士の戦争の可能性は決して低くは無い。

……いや、寧ろ高いと言えるだろう。

何故ならここは、戦争が起こり得る世界だからな。

……もしかしたら、〈大地人〉同士の戦争に〈冒険者〉が巻き込まれる可能性がないともいえないからな)


そんな事を朝霧が思考していた時、クラスティが口を開いた。


「我ら〈D.D.D〉はアキバの街を自治する組織として〈円卓会議〉の設立に同意し、これに参加する」




──その後、クラスティの同意と参加表明に続く様に〈西風の旅団〉、〈黒剣騎士団〉、〈ホネスティ〉…既に〈円卓会議〉を支持する事を表明していた〈海洋機構〉、〈ロデリック商会〉、〈第8商店街〉…それらの声に背中を押される形で〈グランデール〉、〈RADIOマーケット〉が参加を表明し、最後に〈三日月同盟〉が参加を表明した。






──これにより、今日この日をもって〈円卓会議〉が設立した。






◇◇◇






──〈円卓会議〉の設立と十一ギルド全員の参加が確定し、会議室内に和やかな雰囲気が漂い出したその時、アイザック、アインス、クラスティの三人が驚愕の表情で固まった。






三人のそんな様子に他のギルドマスター達はいぶかしんだ。


「えっ?アイザックさん?アインスさん?クラスティさん?一体、どうしたのですか??」


三人の様子がおかしい事に疑問を抱いたシロエは、三人の視線の先─自分の後ろを振り返り……そして、顔を引きつらせた。






──そこには、苦笑して立っているにゃん太の左隣に〈隠行術ハイド・シャドウポーション〉の効果を解除して姿を現した朝霧の立っている姿があった。



(なっ!?御前!何をしているんですかぁーー!!?)



シロエは、そう心の中で叫んだ。






──しばし、嫌な沈黙が会議室内に漂う。






──だが、その沈黙は朝霧が会議室を退室した事で破られた。




「なっ!?待ちやがれ!!」

「待ちなさい!!」




──10日以上前に、自分達を翻弄した女〈暗殺者〉が突然現れ、そして去っていく姿を見たアイザックとクラスティは正気に戻ると素早く動き、その後を追う。





──しかし、二人は会議室の外へと出てみたが……女〈暗殺者〉の姿は忽然と消えていた。



(御前!本当に何を考えているんですかー!!)



アイザックとクラスティの様子を眺めながら……シロエは、そう心の中で叫んでいた。






──すると、シロエの耳に念話の着信音が鳴った。




『シロエ、驚かせてすまないな』

「いきなり姿を現すなんて、本当に何をなさっているのですか」


周りに聞かれない様に、シロエは小声で尋ねる。


『私という存在を……今後は“〈円卓会議〉の密偵”として扱ってもらう為の…ちょっとしたデモンストレーションだ。

クラスティ達には、上手く“私の正体”を伏せたままで紹介を宜しく頼むな。

後、〈円卓会議〉の設立とその他諸々の発表が終わったら……マリエールの〈三日月同盟〉とシロエの〈記録の地平線〉のメンバーを連れて、私のギルドハウスに来い。

……今回の事を、私なりに労い…祝ってやりたいんだ』


シロエは、朝霧の言葉に一瞬目を見開き…そして、笑みを浮かべた。


「……わかりました。クラスティさん達には、上手く正体を誤魔化しつつ説明しておきます。

……後、マリ姐や直継、〈三日月同盟〉や〈記録の地平線〉のメンバー達と共に、後ほど伺わせていただきますね」

『……ああ、待っている』


その一言を最後に、朝霧からの念話は切れた。


(……さて、まずどうやって切り出していこうかな?)






──朝霧の正体を誤魔化しつつ“〈円卓会議〉の密偵”として働いてもらう為に、クラスティ達を納得させられる上手い説明を考えながら……シロエは、口を開いた。


「……皆さん。突然の〈暗殺者〉の出現で、さぞ驚かれたと思われます。

……ですが、彼女は僕達〈円卓会議〉の敵ではありません」


シロエのその言葉に、アイザックとクラスティを含む皆が再び着席した。


「あの〈暗殺者〉が、“〈円卓会議〉の敵ではない”と断言できる理由は何かな?シロエ君」


クラスティからの質問に、シロエは言葉を続ける。


「実は、彼女は僕達の協力者で……今回の〈円卓会議〉設立に一役買っていただきました。

ゲーム時代でも、優れた腕前と洞察力を兼ね備えたスゴ腕の〈暗殺者〉として、幾度か僕や班長を助けてくださった事もあります。

〈円卓会議〉設立に際しては、裏側で情報収集や素材収集などでも活躍してもらいましたし、今回は要人警護──つまり、僕の警護を引き受けてくださいました」


シロエの説明に、皆黙って聞いている。


(……さあ、ここからが本番だ。上手く納得させ、御前を“〈円卓会議〉の密偵”へと仕立てないと……)


そう心の中で呟きながら、シロエは言葉を続ける事にした。





◇◇◇






──その後、〈円卓会議〉設立の正式な発表と“レシピの秘密”の公開が行われ、今宵のアキバの街は賑やかな熱気に包まれていた。






──そんな賑やかな喧騒から遠く離れた〈放蕩者の記録〉のギルドハウスビルの屋上には、ギルドハウスの大宴会を抜け出し、シロエと朝霧が立っていた。


「……謙信さん、泣いて喜んでいましたね」

「ミノリとトウヤという双子の事をとても案じていたからな。

二人が無事、〈ハーメルン〉から解放されて嬉しいのだろう」

「……僕も、トウヤとミノリの二人が笑顔を見せてくれていた事を嬉しく思います」


嬉しそうに……どこか照れくさそうに、シロエはそう言葉にした。


「……さて。わざわざ大宴会を抜け出させてまで、屋上に呼び出した用件を話そう」


そう言うと朝霧は、手元に持っているワイングラスに注がれた木苺で造られた果実酒を一口飲んでから言葉を口にした。


「……〈大災害〉当日のミナミには、かつて〈共鳴の絆〉と呼ばれた私の戦友や古い友人が何人か居たのだが…現在、その大半がミナミを脱出している」

「えっ!?何故ですか!?」


朝霧の切り出した話に、嫌な予感の様なものを感じたシロエの表情は険しいものになっていた。


「……シロエは、“濡羽”と“インティクス”という二人の女性を知っているか?」

「インティクスは、僕が所属していた〈放蕩者の茶会デボーチェリ・ティーパーティー〉の元メンバーです。

濡羽さんは、同じ〈付与術師エンチャンター〉で凄い腕前だと聞いています。

……その二人が、何かあるんですか?」


シロエの問い掛けに、朝霧は固い表情を見せながら頷いた。


「この二人が協力し、どういう手段を使ったのかは知らないが……“衛士機構”を掌握して〈大地人〉の貴族である“執政家”を取り込み、私達が〈ギルド会館〉を押さえた様に〈大神殿〉というゾーンを押さえたそうだ。

……そして、『ミナミの〈冒険者〉は全て〈Plantプラント・ hwyadenフロウデン〉の元で一つとなるべきだ』と〈衛士〉を従えてミナミに住む全ての〈冒険者〉に告げたとの事だ。

実際、逆らった者達はその場で〈衛士〉によって処刑され……〈Plant hwyaden〉への忠誠を誓うまで〈大神殿〉監禁されているそうだ。

それが、私達が〈円卓会議〉を成立する前……〈大災害〉から一ヶ月が経った頃位らしい。

……私の知人、友人、戦友達の大半は身の危険を感じて、ナカスやアキバを目指してミナミを脱出したそうなんだ」


朝霧から告げた内容に、シロエは驚愕した。


「ミナミに残って、〈Plant hwyaden〉という単一ギルドに入会した一部の知人や友人達も居るが……彼らの身の安全を考えるなら、『こちらからは決して連絡を入れない』という事に決まった」


そこまで言葉を口にすると、朝霧は果実酒をさらに一口飲む。


「……シロエ。今後はおそらく、西側の─〈神聖皇国ウェストランデ〉の動きとアキバの急速な変化を警戒した〈自由都市同盟イースタル〉が〈円卓会議〉に何らかの接触を図ってくるだろう。

今度は、〈大地人〉と─〈自由都市同盟イースタル〉との戦いになりそうだぞ」


そう言葉を言い終えると、残りの果実酒を一気に飲み干し……朝霧は一息ついた。


「……厳しい戦になりそうですね」

「……ああ。

だが、私達の─〈円卓会議〉の─ひいては、アキバに住む全ての〈冒険者〉の…〈大地人〉との今後の友好な関係を築いていく上では、避けられない戦だろうな」


朝霧のその言葉に黙って頷いたシロエは、手元に持っているグラスの果実酒を飲み干し、めでたい祝祭日のお祝いの大宴会で賑やかに騒ぎ盛り上がる駅前広場へと共に目を向けていた。










──朝霧と共に、収まりきらぬ嫌な予感を胸に掻き抱いたまま……

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