表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天照の巫女  作者: 櫻華
第一部 大災害
5/13

第四話『〈軽食販売クレセントムーン〉の開店と販売の裏側−プリンと卵とロック鳥−』

今回、山本ヤマネ様の『辺境の街にて』より櫛八玉をお借りしております。






また、話の展開上で『辺境の街にて』より『閑話:たまご』からネタを少々使わせて戴きました。




櫛八玉さんが、にゃん太達と共に〈ロック鳥の卵〉狩りに行く事が決まった経緯はそちらを御覧ください。










後、山本ヤマネ様……ネタを少々使わせて戴きました。

お気に召さなかったら……ご遠慮なくおっしゃってください。

修正・削除を視野に入れます!!




平成27年11月7日、加筆・修正しました。




──決断した後のシロエの動きは早かった。






シロエは、すぐに懇意にしている〈三日月同盟〉に協力を要請。〈三日月同盟〉は、これに応じた。










──これにより、〈記録の地平線ログ・ホライズン〉と〈三日月同盟〉共同体制による〈軽食販売クレセントムーン〉の…『地獄の四日間』と呼べる開店準備が始まった。






◇◇◇






──さて、この時…朝霧率いる〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉はどうしていたかというと……






◇◇◇






「おい!〈三日月同盟〉に納品予定の〈レタス〉と〈トマト〉、500ばかり数が足りてないぞ!!」

「ねえ、〈三日月同盟〉への納品用の〈小麦粉〉を入れた木箱は何処置いた?」

「やべぇっ!?〈ハルハル魚〉の必要数、全然用意できてねぇー!!?」

「おーい。納品用の〈ジャガイモ〉は何処に置いておいたらいいんだ?」

「〈若い鹿の肉〉と〈雷鳥の肉〉の準備はしなくていいの〜?」

「そちらは、あちら側で戦闘班が狩りをして用意するそうだぞ」

「野菜類の足りてない分は、〈テンプルサイドの街〉で今すぐ仕入れてこい!!」









──現在の〈放蕩者の記録〉は、〈三日月同盟〉が準備しきれないであろう品数しなかずをいつも納品している納品数の数倍の数を用意する……『大量納品地獄』に突入中だった。






◇◇◇






──決して“表立って動かない”と決めている朝霧は、シロエ達が必要としている情報の収集と〈軽食販売クレセントムーン〉の開店準備に必要であろう物資と資金の支援という形で、裏から手助けを行っていた。






──この支援の話については、〈三日月同盟〉に協力を要請する前に事前にシロエと朝霧の間で打ち合わせてあったのだ。






◇◇◇






「御前達〈放蕩者の記録〉には、物資と資金の援助を開店準備期間中の間だけお願いします」

「……確かに。開店準備期間中の間なら、私達〈放蕩者の記録〉が〈三日月同盟〉に大量の素材を納品しても、特に怪しまれずに済むからな。

……なにせ、私達〈放蕩者の記録〉は今現在も他の中小ギルドに物資や資金の援助を行っているからな。

今〈三日月同盟〉に素材を大量に納品しようとも、わざわざその理由を調べようという物好きはいないだろうな」

「はい。御前の『〈放蕩者の記録〉を表立って動かさない』という希望に応えるには、その条件がもっとも望ましいと思いまして……

その代わりに開店後、御前には市場しじょうの動きや価格の変動についてと各ギルドの動きを逐一報告していただきたいのです。

……御前の事ですから、独自の情報網を構築済みですよね?」


シロエの言葉に、朝霧は不敵な笑みを浮かべた。


「ああ、既に構築済みだ。

ここ数週間の間に、知己になった大地人達にも協力してもらってな。」


朝霧の言葉に、今度はシロエが眼鏡をかけ直しながら不敵な笑みを浮かべた。






◇◇◇






(……ソフィアの話では、“ミナミで一部の冒険者に怪しい動きがある”との事だった。

もし私だったら、秩序を構築した後に他のプレイヤータウンに間者を送って、そこで大きな影響力を持つギルドや冒険者を見張らせるな。

……もし本当にそういう事態になった時、自由に動かせる“手足となる存在”が必要不可欠になってくる。

シロエが、自治組織〈円卓会議〉の設立に成功すれば、そこに参加する全てのギルドは間違いなく探りを入れてくる間者達の目が向けられる事になるだろう。

……そうなった時、私は影で密かに動く“〈円卓会議〉の手足となる存在”になろうと思う。

シロエも、そんな私の意図をおおよそ理解しているみたいだな)






──ギルドメンバーからの報告書や納品書に目を通しながら朝霧は、これから先の…今後起こりうるであろう様々な事態についてを色々と考えていた。






◇◇◇






──『地獄の四日間』を無事に乗り切った〈記録の地平線〉と〈三日月同盟〉のメンバーは、遂に〈軽食販売クレセントムーン〉の開店初日を迎える事ができた。






──アキバに住む圧倒的多数のプレイヤー達にとって食料アイテムは最早、味のしない『期待できない餌』と化していた状況下で…〈軽食販売クレセントムーン〉が売り出した〈クレセントバーガー〉、〈スーパークレセントバーガー〉、〈かりかりチキン〉、〈フィッシュ&チップス〉は、久しぶりの“味のある食事”だった。






──〈軽食販売クレセントムーン〉の開店初日の来客数は1159人。




──総売上は、金貨4万3776枚を記録した。






◇◇◇






「……そうか。やはり、“味のある食事”の売り上げだけでは時間がかかり過ぎるのか」

『はい。単純計算しても、3ヶ月はかかる計算になります。

素材の在庫の面も……御前達が前日まで納入してくれた分と、今日直継達が収集してくれた分を合わせても……保って4日といったところです』


シロエから告げられた現状は、普通に販売していても時間がかかり過ぎる上に、素材の在庫が保てないという厳しいものだった。


「……という事は、用意したもう一つの手を使うのか?」

『ええ、そのつもりです。

……ところで、御前。販売初日の各ギルドの動きはどうですか?』

「……早速、〈海洋機構〉と〈第8商店街〉が〈軽食販売クレセントムーン〉が販売する“味のある食事の秘密”について色々と調べ始めている。交渉は、入念な準備をしてから臨んだ方が良いぞ」

『……ご忠告、感謝します。では引き続き、市場と各ギルドの動きに目を光らせておいてください』

「ああ、任せておけ」




──その一言を最後に、シロエからの念話は切れた。






◇◇◇






──翌日、今度はにゃん太から念話がかかってきた。






「交渉の切り札に使うプリンの材料の為に〈ロック鳥の卵〉を収集に?

……〈ロック鳥〉と言えば、レベル八十オーバーのモンスターだろ?

レベル九十クラスのフルパーティーで挑まなければ、収集は難しいのではないか?」

『そうですにゃ。その為に、九十レベルのパーティーメンバーを集めたいのはやまやまなのですがにゃあ…

シロエち達は、過密スケジュールの為に身動きが取れないのにゃ』

「……つまり、私にそのパーティーメンバーを集めて欲しいと?」


にゃん太の言葉から朝霧は、にゃん太が念話をかけてきた意図を読み取った。


『流石は御前、察しがいいですにゃ。

……実は、その通りなのですにゃ。

とりあえず、現在確保できているのは我が輩と古い友人の回復職の二人だけですにゃ。

希望するメンバーは最低でも、戦士職一名、魔法攻撃職一名、支援職一名、武器攻撃職一名の四名をお願いしたいですにゃ。

もし余裕があるなら、回復職をもう一名と支援職をもう一名程お願いしたいですにゃ。

後、選出の際には計画を秘密にできるメンバーでお願いしますにゃ』


にゃん太の希望を聞き、朝霧は素早く頭の中で選出メンバーの組み合わせを考えていく。


「大丈夫だ。戦士職一名、魔法攻撃職一名、武器攻撃職一名、支援職一名と、予備の回復職一名と支援職一名を充分確保可能だ。

さらに、全員が極秘事項を絶対に外部に漏らさない者達ばかりだから……情報漏洩の心配はない事を私が保証しよう」


朝霧の返答に、にゃん太は安堵の言葉を口にした。


『それは、ありがたいですにゃ。

後、我が輩が抜ける穴を埋めてくれる〈料理人〉を確保していただきたいですにゃ』

「それなら、銀猫に頼んでみよう。

銀猫は、現実リアルでは現役の一流レストランのシェフだからな。

それに、今回の計画の重要性をきちんと理解しているし、職業柄…秘密は必ず守ってくれるしな」

『それなら安心ですにゃ。銀っちなら、我が輩の抜けた穴をしっかりと埋めてくれる筈ですにゃ』


朝霧の言葉を聞いたにゃん太が、念話越しに笑みを浮かべたのが伝わってきた。


「肝心の待ち合わせ場所と時間だが……こちらはまず、引き継ぎや連絡などを行ってからでないと選出メンバーを動かせない。

時間は一時間半後で、場所は〈ブリッジ・オールエイジス〉の近くでどうだ?」

『我が輩は、それで構いませんにゃ』

「では、決まりだな。肝心の選出メンバーなのだが……少し目立つ出で立ちになると思うが、大目に見てやってくれ」

『にゃあ?』






──にゃん太が朝霧が最後に言った言葉の意味を理解するのは、これから一時間半後の〈ブリッジ・オールエイジス〉でだった。






◇◇◇






──一時間半後。






──今、〈ブリッジ・オールエイジス〉には異様な出で立ちのパーティーがいた。






にゃん太を除く、残り六名全員が黒色のマントに付いているフードを目深に被り、終始無言だった。


「……にゃ?ああ、来ましたにゃ」


上空を見上げていたにゃん太は、西の空から真っ直ぐにこちらを目指して来る小さな黒い点に気付いた。






──それは徐々に大きくなり、一人の女性を乗せて飛んでくる〈鷲獅子グリフォン〉の姿となった。






──〈鷲獅子〉はゆっくりと上空を数回程旋回すると、にゃん太達の近くへとゆっくりと降り立った。


「にゃん太さん、お待たせしました。

ヤエ達に気付かれない様に抜け出すのに、思った以上に時間がかかりまして……」

「クシっち、慌てなくても大丈夫ですにゃ。

我が輩達も、先程ここに集まったばかりですにゃ」


慌てた様子の櫛八玉に、にゃん太は優しく言葉をかけた。


「それなら良かったです。

……ところでにゃん太さん、後ろの黒マント集団は一体…?」

「今回の〈ロック鳥の卵〉収集の協力者達ですにゃ。

他の冒険者の方々に、正体を見られない為の苦肉の策だそうですにゃ」

「はぁ…(よく見ると、一人だけ黒色の狐のお面着けてるし……

なんか、周りからは怪しい集団にしか見えないんじゃないかな?)」


にゃん太の説明を聞いて、多少納得しかねる部分はあるものの…櫛八玉は、それ以上追及はしなかった。


「高尾山への足をここで“呼び出す”のは目立ちますから…とりあえず、場所を変えましょう」

「〈シンジュク駅ビル廃墟〉のサウスゲート辺りがいいんじゃないか?

あそこ、結構広いし」

「じゃあ、そこに向かって移動しよっか?」


黒マント集団は、にゃん太と櫛八玉にそう言葉をかけると〈シンジュク駅ビル廃墟〉へと歩き出した。


「クシっち、我が輩達も一緒に移動しますにゃ」

「……は、はぁ……(〈シンジュク駅ビル廃墟〉って……

私は、つくづくあの場所と何か因縁があるのかな…?)」






にゃん太に促され、櫛八玉も黒マント集団の後について行った。










──なお、この時の状況や黒マント集団の会話を盗み聞きしていたとある〈召喚術師〉の口から、櫛八玉が〈ロック鳥〉狩りに行った事がクラスティの耳に届く事となるのだが……この段階の櫛八玉は、全く想像などしていなかったのだった……





◇◇◇






──〈シンジュク駅ビル廃墟〉のサウスゲートへと辿り着いた一行は、まず周囲に誰もいない事を確認していた。




(んん??やけに、周りを警戒してない?

……それにしても、黒マント君達六人全員のステータスが全く表示されないなんて、一体どうなっているのかな?)


いぶかしむ櫛八玉を余所に、一通り確認が済むと黒マントの一人が何やら呪文を唱え始めた。






──そこで櫛八玉は、彼が“呼び出す”と“目立つ”と言った言葉の意味を理解した。






黒マントの一人─この段階で、この人物が〈召喚術師〉と判明─が召喚したのは、〈紅竜ガーネットドラゴン〉と〈碧竜サファイアドラゴン〉だった。


「これから〈紅竜〉と〈碧竜〉に乗って、現実世界でいう『高尾山』を目指します」

「あたし達の正体は、現地に着いてから明かすね」

「ではクシっち、我が輩達も行きましょうかにゃ」

「あ、はい

(……実際にドラゴンに乗るのは初めてなんだよね。

ちょっとドキドキしてきた。)」


〈紅竜〉と〈碧竜〉に各々四人ずつ座ると、二匹のドラゴンは空へと舞い上がった。






──そのまま一行は、しばしの空の旅を堪能していた。






◇◇◇






一行は、目的地の〈トールテイルマウンテン〉─現実世界の高尾山─へと辿り着いていた。





──〈紅竜〉と〈碧竜〉から降りると、黒マント集団は次々とマントを脱いだ。






──そこで、ようやく六名のステータスが表示される様になった。




一人目は、二匹のドラゴンを召喚した深い藍色の髪の青年。

名前は朔夜という狐尾族で、レベル九十の〈召喚術師サモナー〉。所属は〈放蕩者の記録〉。



二人目は、深い新緑色の髪がいい感じにアクセントになっている女性。

名前は天音というエルフで、レベル九十の〈森呪遣いドルイド〉。所属は〈放蕩者の記録〉



三人目は、黒鉄くろがね色の髪の眼鏡をした青年。

……あの陰険ドS眼鏡とは違って、知的な人物でありながら性格は穏やかそうだ。

名前はレイ=フォードというハーフ・アルヴで、レベル九十の〈付与術師エンチャンター〉。所属は〈放蕩者の記録〉。



四人目は、淡いエメラルド色の髪の女性。

名前はヴィオラという人間ヒューマンで、レベル九十の〈吟遊詩人バード〉。装備から、サブ職業は〈歌姫ディーヴァ〉だとわかる。所属は〈放蕩者の記録〉



五人目は、黒髪の元気が良さそうな男性。

名前は謙信という人間で、レベル九十の〈武士サムライ〉。所属は〈放蕩者の記録〉。



──この段階で、五人は同じギルドのメンバーである事がわかる。




(この五人……朝霧先輩のギルドの人みたいだね。

それにしても、〈雲隠れのマント〉とは……実際に使っている人を見たのは初めてかもね)


櫛八玉は、五人のステータスを確認しながら…そんな事を考えていた。






◇◇◇






〈雲隠れのマント〉



ハーフレイドクエスト『暗闇からの襲撃者』をクリアすると入手できる魔法級装備。

全職業装備可能だが、防具としては全く使えない代物。

但し、隠密活動に向いたスキルが多数備わった装備だった為……一時期、アイテム価値が高騰した。

導入当時は姿を〈透明化ステルス〉し、そのまま攻撃も可能だったが……これを悪用してPKを行う悪質プレイヤーが現れた為に、今現在ではアイテム性能のバランス調整がされ、姿が消える事は無くなり、装備中はプレイヤーに対する敵対行動全てが不可能となっている(※プレイヤータウン,都市,街(町),村では、一切の攻撃行動が使用不可能となる。

ダンジョン内部やフィールド上では、プレイヤーに対しての干渉はアイテムや魔法による回復やバフ効果魔法のみ。

従者召喚で召喚した従者は、偵察と騎乗と回復等の支援のみで…それ以外のプレイヤーに対する使用は不可となる。

ちなみに、プレイヤーに命中させないのであれば攻撃特技の使用は可能(※威嚇や挑発目的での使用は可能という事。)

現在も、ステータスが非表示になるのは〈透明化ステルス〉していた頃の名残)。

なお、モンスターに対する敵対行動(通常攻撃,特技使用,攻撃魔法,デバフ,状態異常等)は全て使用可能である。






◇◇◇






黒色の狐面をした黒色の長い髪を三つ編みにした女性─装備から〈暗殺者アサシン〉だと判る─が〈雲隠れのマント〉を脱ぎ、〈魔法の鞄マジック・バッグ〉に仕舞い込んでいる姿を櫛八玉は黙って眺めていると……何故か、にゃん太が渋い表情を見せていた。


(……ん?にゃん太さん??一体、どうしたの……っ!!?)


にゃん太の表情の意味が理解できないまま、狐面の女性のステータスを確認した時、櫛八玉は文字通り絶句した。






名前/朝霧

種族/人間ヒューマン

職業/暗殺者アサシンLV90

所属/放蕩者の記録ギルドマスター






(え?ええっ!?嘘っ!!先輩!!?

あれ?でも、私の記憶が確かなら……先輩のメイン職業は、私と同じ〈神祇官カンナギ〉じゃなかったっけ??)


少々混乱気味の櫛八玉の様子に、朝霧は苦笑を漏らした。


「……〈黒き神狐の仮面〉。

これで、私の現状のステータス表記の意味がわかるか?櫛八玉」


朝霧の言葉に、櫛八玉はすぐに〈黒き神狐の仮面〉のフレーバーテキストとアイテム効果を思い出した。


「あ、確か…『神の狐の転化てんげの力が宿った仮面』で、『メイン職業の一時的な上書き』の効果だった筈。

だから、先輩のメイン職業が別のメイン職業に切り替わってた訳だね」

「にゃあ〜。我が輩、実際に〈黒き神狐の仮面〉を手に入れて使用している人を初めて見ましたにゃ」


おそらく、にゃん太さんも私と同じ様に困惑していて……先輩の言葉で〈黒き神狐の仮面〉の事を思い出したみたいで、でも…どこか感心している感じ……かな?



『実際に手に入れて使用している人を初めて見ました』って事は、〈黒き神狐の仮面〉を使用する人って、今のところ先輩ただ一人なのかな?



「あのクエストのクリア報酬は、〈黒き神狐の仮面〉以外にも、良い効果の付随した秘宝級装備に奥伝や秘伝の巻物とかがあって……欲しい物を自由に選択可という感じになっていてな。

それに、この仮面は色々と使い勝手が悪くてな。

そういう訳だから、私以外は大抵、装備や巻物の方を選択するという訳だ。

まあ、現状としては……“全部で三つ”という数が現存する中で、この秘宝級装備の所有者は唯一私だけという状況なんだがな」


にゃん太の言葉に対しての返答だったのか、朝霧は〈黒き神狐の仮面〉にまつわる事を説明していた。


「後、現在の私の装備は全て〈暗殺者〉専用装備で固めてある。

……という訳で。今回の〈ロック鳥の卵〉狩りは回復職の〈神祇官〉としてではなく、武器攻撃職の〈暗殺者〉として参加しているから……そのつもりで」


朝霧の言葉に、にゃん太と櫛八玉はこれに頷いて了承した。






「……しかし、我が輩は今回の選出メンバー全員が“御前のギルドメンバーから選ばれた者達”なのだとばかり思っていたのですがにゃあ……

まさか、御前自らが出て来るとは……予想だにしていませんでしたにゃ」



苦笑しながら、にゃん太はそう言葉を口にした。



「私も……本当に驚いたよ。まさか、先輩が来られるなんて思ってもみなかったからね」



同じく、苦笑しながら櫛八玉も言葉を口にする。



「それはな、天音達が〈大災害〉で現実化した戦闘にどの位適応できていて、どれ程連携して戦えているのかを実際に見てみようかと思ってな。

……まぁ、私自身が『レベル八十オーバーのモンスターとの戦闘を行ってみたい』という強い欲求があった事も否定できないがな」






朝霧のその発言に、櫛八玉は思い出していた。






──普段、その立ち振舞いから……知性的な人物と思われがちだが、戦闘になると〈凶戦士〉の二つ名に相応しい好戦的な一面を持つあのクラスティと同様に…朝霧もまた、普段は冷静沈着の知性的な人物ではあるけれど……〈大隊規模戦闘の女王レギオンズ・クイーン〉や〈PvPの鬼姫〉という二つ名に相応しい程に、実は意外と好戦的な人物だったという事を……






◇◇◇






──お互いの名前や職業などを予めステータスで確認した朝霧達は、パーティーマッチングと役割分担を兼ねたお互いの自己紹介を始める事にした。


「今回のパーティーのリーダーは私、朝霧が務めさせてもらう」


これに異論を唱える者は、誰もいない。朝霧は言葉を続ける。


「まず、簡単な戦闘陣形フォーメーションの確認だが……前衛を〈武士〉である謙信に行ってもらう。

攻撃は基本、にゃん太と私で行う。次に、情報監視者オペレーターは基本、櫛。

状況によってはヴィオラとバトンタッチしてくれ。

それから、ヴィオラは基本〈猛攻のプレリュード〉と〈舞い踊るパヴァーヌ〉の永続式援護歌で支援を行ってくれ。

状況によっては、呪歌の使用や永続式援護歌の変更を指示するかもしれない。

櫛は基本、回復役として行動。状況次第では、攻撃を行ってくれて構わない。

そこの辺りは、櫛は自己判断できるから私はあえて指示を出さない」


朝霧のその言葉は、櫛八玉へ全幅の信頼が寄せられている故のもので、櫛八玉はそれに力強く頷いた。


「朔夜は、後衛から召喚生物で攻撃を行ってくれ。

天音には、戦域哨戒フィールドモニターを担当してもらう。

そして、天音はサブの回復役、レイはサブの支援役として基本的には待機。

援軍が現れた場合は、そちらへの対処に動いてくれ。

後、援軍が現れた場合はそちらの対処を行う為に私は戦闘から離れる事になる。

その場合の状況判断は、櫛に任せる。私の代わりに、全体の指示を頼んだぞ」


朝霧の話した簡単な役割分担の指示に、皆頷いていた。


「では、自己紹介を始めようか。

各々、名前とメイン・サブの職業、レベル、選択ビルドを教えて欲しい。

まず、〈黒き神狐の仮面〉を用いている今の状態での自己紹介を行うなら……私は朝霧。メインは〈暗殺者〉のレベル九十。サブは〈戦姫バトル・プリンセス〉のレベル九十だ。選択ビルドは、シャドウブレイドだな」

「じゃあ、先輩の今の装備はその辺りを意識したものって事?」


櫛八玉の問いかけに、朝霧は頷いた。


「ああ。まず、スキルによる不意討ちの成功率を高める効果を持つ〈暗殺者〉専用防具の〈月影の闇衣つきかげのやみごろも〉。

〈アサシネイト〉の威力上昇と再使用規制時間リキャスト・タイムをキャンセルし、再使用を可能とさせる効果のある〈純血紅玉ブラッド・ルビーの指輪〉。

回避速度の上昇と〈暗殺者〉の緊急回避特技〈幻影蜃気楼ファントム・ミラージュ〉の再使用規制時間の短縮効果のある〈幻影のマント〉。

使用者の移動速度を50%上昇させる〈韋駄天のブーツ〉。

後は、攻撃速度上昇と追加ダメージ効果のある〈神刀・風刃ふうじん〉と攻撃力上昇と30%の確率で麻痺の状態異常効果のある〈神刀・雷刃らいじん〉だな」


朝霧が口にした装備は、どれもこれもが幻想級や秘宝級装備の数々だった。


「では、自己紹介を続けますにゃ。

我が輩は、にゃん太。メインは〈盗剣士スワッシュバックラー〉のレベル九十、サブは〈料理人〉のレベル九十ですにゃ。選択ビルドは、デュアルブレイドですにゃ」


朝霧の次に、にゃん太が自己紹介を行う。


「私は櫛八玉。メインは〈神祇官〉のレベル九十、サブはにゃん太さんと同じ〈料理人〉のレベル九十です。選択ビルドは、戦巫女だね」


にゃん太の次に続いたのは、櫛八玉だった。


「私は、レイ=フォードです。メインは〈付与術師〉のレベル九十、サブは〈筆写師スカラー〉のレベル九十です。選択ビルドは、クラウドコントローラーですね。もちろん、エンハンサーとしても活躍できますよ」


レイの言葉を聞いた櫛八玉は、朝霧が“援軍への対処を任せる”と言った意味を理解できた。


「俺は、謙信。メインは〈武士〉のレベル九十、サブは〈軍神〉のレベル九十。選択ビルドは、基本はヴェンジャンスで…ソードサムライとしても戦える様にしてある」

「僕は、朔夜です。メインは〈召喚術師〉のレベル九十で、サブは〈竜使い〉のレベル九十。選択ビルドは、ドラゴンがメイン従者のビーストテイマーです。一応、サラマンダー達四大精霊とも契約してます」

「あたしは、ヴィオラよ。メインは〈吟遊詩人〉でレベル九十、サブは〈歌姫ディーヴァ〉でレベル九十よ。選択ビルドは、コンサートマスターね。〈歌姫〉の特性上、武器攻撃職としての武器での攻撃は一切できないから……そこのところは宜しく」

「最後は私ですね。

私は、天音と言います。メインは〈森呪遣い〉のレベル九十で、サブはクシさんや班長と同じの〈料理人〉でレベル九十です。選択ビルドは、ウィッチドクターですけれど…シャーマンとしても戦える様に、攻撃魔法は奥伝にまで強化してあります」


(成程、先輩がこの子に戦域哨戒フィールドモニターと援軍への対処を任せたのは、この子が充分に戦えるからだったんだね)



──一通りの自己紹介を聞きながら、櫛八玉は朝霧の采配の意図を理解できた。






◇◇◇






──〈ロック鳥の卵〉が大量に採取できる〈ロック鳥の巣〉と呼ばれるフィールドエリアへとやって来た朝霧達は、一羽のロック鳥が巣にいる姿を見つけた。


「……では、打ち合わせ通りにいくぞ」


朝霧の言葉に全員が頷くと、謙信は〈魔法の鞄〉から弓を取り出し、ロック鳥に向けて矢を放った。


『鏑矢!!』


特技使用と共に放たれた矢はロック鳥へと見事命中し、ロック鳥は謙信へと攻撃を開始した。


『飯綱斬り!!』


弓から刀に武器を持ち変え、謙信は接近してくるロック鳥へとさらに〈飯綱斬り〉を当てる。


『武士の挑戦!!』


さらに接近してきたロック鳥に三度目の挑発特技タウンティング敵愾心ヘイトを充分に高め、ロック鳥の攻撃対象を完全に自分へと向けさせると、謙信は刀を構えて臨戦体勢をとった。


『アクセルファング!!』


謙信へと攻撃を仕掛けようとしていたロック鳥へ朝霧からの一撃が命中する。


『デュアルベット!!』


朝霧の一撃でできた隙を突き、にゃん太の二連続攻撃が決まる。


『兜割り!!』


にゃん太の攻撃が当たったタイミングに合わせ、謙信が攻撃を当てて注意を自分へと向けさせる。


『ステルスブレイド!!』

『ヴァイパーストラッシュ!!』


謙信の攻撃でロック鳥の注意が逸れた事を生かし、ロック鳥の背後へと移動した朝霧は……まるで、にゃん太と打ち合わせたかの様な見事なタイミングで同時に攻撃を行った。


(……凄い!にゃん太さんから、先輩がソロだった頃に何度もクエストでパーティーを組んだ事があるとは聞いていたけれど……先輩とにゃん太さんは、お互いの攻撃のタイミングを充分に理解しているから、タイミングのズレが全く起こる事なく、見事な同時攻撃を行えるんだね)


櫛八玉は、そんな事を考えながらも〈討伐の加護〉をかけながら自分自身も攻撃へと参加する。




櫛八玉が攻撃に参加するタイミングに合わせ、ヴィオラは呪歌である〈のろまなカタツムリのバラッド〉でロック鳥の動きを遅くし、朔夜は〈碧竜サファイアドラゴン〉を召喚した後にその背に乗り〈ファンタズマルライド〉で攻撃を行った。






朝霧達の連携攻撃により、ロック鳥のHPは徐々にレッドゾーンへと突入していく。


「そろそろ、トドメといくぞ!!」


そう言葉を口にした朝霧は大きく跳躍すると、ロック鳥の真上へと飛び上がり、〈神刀・雷刃〉を逆手に握り締めて一撃を放った。


『アサシネイト!!』


朝霧が放った絶命の一撃は、ロック鳥を頭上から真っ直ぐ一直線に一刀両断してみせた。



〈アサシネイト〉の一撃で絶命したロック鳥の死体は、虹色の泡になるとドロップアイテムと金貨を残し大気へと霧散していった。






◇◇◇






倒した〈ロック鳥〉の巣より〈ロック鳥の卵〉を二つ程入手した朝霧達に、少し離れて周辺警戒を行っていた天音からの緊急報告の念話が入った。


『大変です!先程〈ロック鳥〉が二羽、こちらに向かって来ているのを発見しました!!』


天音の緊急報告を聞き、朝霧は素早く指示を出す。


「天音とレイは、一度合流。その後、私達と共に二羽の〈ロック鳥〉との戦闘に入る」

『わかりました』


天音からの念話を切ると朝霧は、にゃん太達に手早く状況説明を行った。


「二羽の〈ロック鳥〉がこちらに向かって来ていると連絡があった。

今、天音達は合流する為にこちらに向かっている。

私達は天音達と合流後、二羽の〈ロック鳥〉と戦闘を行う。

……厳しい戦闘になるのはわかっているが、すまないとは思っているが…一緒に戦ってくれ」


朝霧の言葉を聞き、全員は苦笑しつつもこれに頷いてくれた。


「では、戦闘開始だ!」



駆け戻ってくる天音達と数m後方から飛来する二羽の〈ロック鳥〉の姿を視認した朝霧達は、各々に臨戦体勢に入ると〈ロック鳥〉へ向けて駆け出した。






◇◇◇






二羽の〈ロック鳥〉との戦闘を展開しながら、櫛八玉は朝霧が選出したこのメンバーのスペックの高さに感心していた。






まず、サブヒーラーとして選出された天音は、海外サーバーで契約可能な契約生物〈月光を喰らいし魔狼フェンリル〉を召喚して片側の〈ロック鳥〉へと天音自身の攻撃魔法と連携させて攻撃を行っている。



サブ支援役のレイは、〈アストラルヒュプノ〉や〈マインドショック〉などで〈ロック鳥〉の行動を阻害すると同時に〈キーンエッジ〉などで味方の能力を強化している。



〈召喚術師〉の朔夜は、サブ職業の〈竜使い〉に相応しい様に〈紅竜〉や〈碧竜〉だけでなく〈バハムート〉、〈ティアマット〉、〈ファーブニル〉といった伝説や神話に登場する様なドラゴンを召喚している。



ヴィオラはサブ職業の〈歌姫〉の特性をしっかりと理解し、それを生かした上で状況に応じた呪歌と援護歌を選択している。



謙信はサブ職業の〈軍神〉の特技〈瞬足〉を活用して、〈ロック鳥〉の攻撃を無駄のない最小限の動きでかわしている。



にゃん太は片方の〈ロック鳥〉を攻撃しながら、もう片方の〈ロック鳥〉に〈アーリースラスト〉のダメージマーカーを複数設置していっている。



朝霧は現在の装備で得た俊敏性を生かし、〈アクセルファング〉や〈ステルスブレイド〉を使って両方の〈ロック鳥〉のHPを徐々に削っていっている。






(先輩は、〈ロック鳥〉を複数相手にする事も想定して、このメンバーを選出していたんだね)


先の先を想定した朝霧のメンバー選択に櫛八玉は感心せずにはいられなかった。



『一気に攻めるぞ!!』




朝霧がサブ職業〈戦姫〉の特技〈鼓舞〉を発動させ、全員のステータスが一時的だが上昇する。


『ラウンドウィンドミル!!』

『ソーンバインド・ホステージ!!』


にゃん太の空中への跳躍から繰り出された一撃で、地上へと落下した一羽の〈ロック鳥〉にレイの発動した〈ソーンバインド・ホステージ〉の光る茨が絡み付く。


「にゃん太!そっちの〈ロック鳥〉を頼んだ!!」

「了解ですにゃ!」


天音の召喚した〈フェンリル〉に噛み付かれている〈ロック鳥〉をにゃん太に任せ、朝霧は〈ソーンバインド・ホステージ〉に拘束された〈ロック鳥〉へと攻撃を仕掛ける。


『デス・スティンガー!!

アクセルファング!!

ステルスブレイド!!』


朝霧の攻撃に反応して、光る三つの茨が弾け〈ロック鳥〉に三千の追加ダメージが発生する。


『キーンエッジ!!』


地表を走りながら、さらなる攻撃を仕掛けようとしていた朝霧の〈神刀・風刃〉にレイが発動させた〈キーンエッジ〉の力が加わる。


『アサシネイト!!』


レイの援護を受け、朝霧は最強の一撃を〈ロック鳥〉へと命中させ……見事撃破した。


一方のにゃん太は、〈ロック鳥〉の右側の翼に仕掛けたダメージマーカーに一撃を加えた。


『ブレイクトリガー!!』


にゃん太の攻撃とダメージマーカーの連続起爆により、〈ロック鳥〉のHPは一気に削られたが……まだ僅かに残っている。



そこへ、櫛八玉の追撃が加えられる。


『犬神の凶祓い!!』


〈犬神の凶祓い〉の特性により、事前の朝霧とにゃん太の攻撃で毒の状態異常を受けていた〈ロック鳥〉は大ダメージを受けて僅かに残っていたHPは完全に0になった。


「お見事ですにゃ、クシっち」

「ありがとうございます、にゃん太さん」


にゃん太と櫛八玉のそのやりとりを微笑ましく眺めながら、朝霧は口を開いた。


「天音は、レイと共に戦域哨戒フィールドモニターに戻ってくれ。

私達は、〈ロック鳥の卵〉採取に戻るぞ」


朝霧の言葉を受け、皆各々に行動を始めた。






◇◇◇






──途中にお昼休憩を挟みつつ、約九時間の探索と数十回の〈ロック鳥〉との戦闘の末、朝霧達は〈魔法の鞄〉五つ半程の量の〈ロック鳥の卵〉を入手する事ができた。






充分な成果を得られた朝霧達は、朔夜の召喚した〈古代竜エンシェントドラゴン〉を〈ロック鳥〉への牽制としながら、四匹の〈鷲獅子グリフォン〉の背に乗ってアキバへと凱旋した。

《※なお、朝霧達は〈鷲獅子〉に乗る前に〈雲隠れのマント〉を装備しました。》





──アキバへと到着した朝霧達は、その足でギルド会館へと向かう事になった。




早速、入手した〈ロック鳥の卵〉を使って試作のプリンを作る為だ。






勿論、今回の功労者の一人である櫛八玉もこの試作プリンの試食にお呼ばれしていた。






◇◇◇






「……ううっ……。いいのかな?私も、試食会にお呼ばれなんかしちゃって……」


少々躊躇いがちな櫛八玉に、朝霧とにゃん太が言葉をかけた。


「何を言っているんだ。櫛も、今回の功労者の一人なんだぞ」

「そうですにゃ。クシっちが、協力してくれたおかげでこんなに美味しいプリンが作れましたにゃ。クシっちには、是非食べていただきたいですにゃ」


朝霧とにゃん太の言葉を聞いた櫛八玉は……


「……ううっ。先輩とにゃん太さんのご厚意に甘えさせていただきたいます……」


という言葉を口にした。






──ちなみに、試作プリンの試食会の参加者は……




〈三日月同盟〉からマリエール、ヘンリエッタ、セララ、小竜、飛燕。



〈記録の地平線〉からシロエ、アカツキ、直継、にゃん太。



〈ロック鳥の卵〉収集メンバーの朝霧、レイ、謙信、朔夜、天音、ヴィオラ、櫛八玉である。







『いただきます』を合図に、全員が最初の一口を食べた。






「いやぁ〜ん。このプリン、むっちゃうまいやん!」

「……本当に、とても美味しいですわ」

「とってもうまいっす!」

「これは、ついつい食べ続けてしまいますね」

「流石、にゃん太さん!とても美味しいです!!」

「老師!このプリン、大変美味だ!!」

「うめぇ!めっちゃうめぇ!!」

「うん!この美味しさなら、ミチタカさん達を唸らせる事間違いなしだよ!!」

「私、こんなに美味しいプリンを食べたのは生まれて初めてだよ!!」


皆の感想に、にゃん太は笑みを浮かべていた。


「にゃはははは。皆さん、大袈裟ですにゃ。

天音ちが教えてくれた一工夫を加えただけですにゃ。

流石はプロ仕込み。ちょっとした一工夫でこんなにも美味しくなるとは…我が輩も勉強になりましたにゃ」

「いえ、少しでも美味しくなればと思ってお教えしただけです」

「天音ちはご謙遜だにゃ」


にゃん太の言葉に、天音は照れていた。






◇◇◇






試作プリンの試食会が終わり、朝霧達が櫛八玉をアキバの外まで送り届ける事になった。


「クシさん、この試作プリンを良かったらテンプルサイドにいらっしゃる皆さんにも食べていただきたいです」


天音のご厚意で、櫛八玉のギルド〈太陽の軌跡サン・ロード〉の皆へのお土産ができた。


「櫛、お前を信頼して話すが……私達はアキバの街を良くする為に密かに動いている。今、この事を他のギルドに知られるのはマズイ。

……そこで、櫛と櫛のギルドメンバーに箝口令を強いて欲しいんだ。

特に、ヤエと元他のギルドメンバーだった者達からの漏洩には注意してくれ。櫛、宜しく頼む」

「クシっち、我が輩からもお願いしますにゃ」


尊敬する朝霧と友人のにゃん太からの頼みを櫛八玉が断る事など出来はしなかった。


「……わかりました。にゃん太さんと先輩の頼みです。

私も、アキバの状況改善にはできる限り協力したいし、この秘密は決して余所には漏らさない様に約束します。

……それに、この美味しいプリンを餌にしてヤエさえ買収できれば、後は大丈夫だと思うしね」


櫛八玉の返答に、朝霧とにゃん太は笑みを浮かべた。


「ありがとう櫛。さて、アキバの外まで送ろう。

にゃん太、シロエ、マリエール……またな」


にゃん太達に別れの挨拶を済ませると、朝霧達は〈三日月同盟〉のギルドホールの試食会場を後にした。






◇◇◇






〈三日月同盟〉のギルドホールにあるエントランスまでやって来た朝霧達は、一度立ち止まると櫛八玉に言葉をかけた。


「櫛。今入った念話によると、ギルト会館のエントランスに厄介なお客さんがいるそうだ」

「……厄介なお客さん??」

「ギルドタグは…〈黒剣騎士団〉、〈ホネスティ〉、〈D.D.D〉で……全員、ギルマスだそうだが?」


朝霧の念話相手からの報告に、櫛八玉の顔色が青ざめた。


「ちょっ!?アイザック君にアインス先生、クラスティ君まで!?

一体何しに来てるの!!?」

「簡単だ。櫛を自分のギルドに勧誘する為だな。クラスティ辺りは、連れ戻す為で……多分、その事を未だに諦めていないからだろうな」


朝霧の言葉に、櫛八玉は頭を抱える。


「……という訳で、これの出番だな」


そう言うと、朝霧は〈魔法の鞄〉から一着の〈雲隠れのマント〉と灰色の狐の仮面を取り出した。


「……先輩、これは一体?」

「こんな事態を想定して、用意しておいたんだ。

〈雲隠れのマント〉はステータスを非表示にするし、このネタ装備の〈狐のヒーロー仮面〉は顔を隠すにはうってつけだろ?」

「……ううっ……ありがとうございます」


朝霧の用意の良さに、櫛八玉は今回ばかり大いに感謝した。






朝霧から〈雲隠れのマント〉と〈狐のヒーロー仮面〉を借りると、櫛八玉は早速装備していた。


「さて、打ち合わせなのだが……ギルド会館を出たら、一気に〈ブリッジ・オールエイジス〉まで駆け抜ける。

事前に、櫛に背格好が近い囮を数人用意してあって…私達がギルド会館を立ち去るタイミングに合わせて、アキバの街中を動き回る様に事前に指示してある」


朝霧の説明を聞きながら、天音達は〈雲隠れのマント〉のフードを被っている。


「囮には各々最終的に……西側、東側、北側の出口に向かって走ってもらう事になっている。

櫛は〈ブリッジ・オールエイジス〉に到着したら〈鷲獅子〉を呼んで、そのまま〈テンプルサイドの街〉へ帰るといい。

その後のクラスティ達の追跡は、私達が上手く撒いておく」


朝霧の言葉に、櫛八玉は静かに頷いた。


「クシさん、今のうちにこれを渡しておきます」

「これは……?」

「私が書いたここ数週間の手料理のレシピです。

こちらの世界の素材を使ったレシピが幾つも書いてありますから……良かったら、今後の料理作りの参考に使って下さい」

「天音ちゃん……ありがとうね!!」


天音の心遣いに、櫛八玉は彼女を抱きしめて感謝した。


「では……行くぞ!」


朝霧の合図で、櫛八玉達は〈三日月同盟〉のギルドホールを出た。






◇◇◇






──ギルド会館のエントランスではアイザック、アインス、クラスティの三人が櫛八玉の事で何かを話し込んでいる。





階段を降りてきた朝霧達は、それを視界の端に捉えながらギルド会館の出入口へと歩いていく。


(……ううっ。本当に、クラスティ君達がいるよ……。

よく見ると山ちゃんもいるし……)


(……櫛、狼狽えるな。クラスティ達に気付かれるぞ)


朝霧達が出入口に到着し、ギルド会館の外へと出ていると、アインスが朝霧達に目を向けながら何か言葉を発している。



それを聞いたアイザック、クラスティ、高山三佐が朝霧達に目を向ける。


(……最後尾の謙信が扉を閉めると同時に、一気に全速力で〈ブリッジ・オールエイジス〉まで走るぞ)


朝霧の言葉に、皆心の中で頷いた。


ギィーッという重い軋みの音とガチャンという重い扉の閉まる音が背後でしたのを確認する間もなく……朝霧達は、一斉に〈ブリッジ・オールエイジス〉に向け全速力で駆け出した。






◇◇◇






──アキバの街中で情報収集を行っていた〈D.D.D〉のメンバーから『櫛八玉がアキバに現れ、ギルド会館に入って行く姿を目撃した』という報告を受け、クラスティと高山三佐はギルド会館へと足を運んだ。






ギルド会館のエントランスへと辿り着くと、そこには〈黒剣騎士団〉のギルドマスターであるアイザックと〈ホネスティ〉ギルドマスターであるアインスの姿があった。



「アイザック、君は随分と暇な様ですね。こんな所で油を売っている位に」

「はん!てめぇも、人の事を言えた義理か?

わざわざ、〈突貫〉を迎えにギルド会館に足を運ぶなんざな!」

「どうやら、我々の目的は同じようですね。

〈突貫黒巫女〉櫛八玉。再びアキバへとやって来た彼女に会いに来た……といったところですね」

「お二方、本当にしつこいですよ。

クシ先輩は、元々は我々〈D.D.D〉のメンバーです。

今は、一時的に血迷っているだけです。

先輩の居るべき場所は〈黒剣騎士団〉や〈ホネスティ〉ではなく、我々〈D.D.D〉です」

「高山女史の言う通り、我々はクシ君を〈黒剣〉や〈ホネスティ〉に譲るつもりはありません。そういう訳ですから……ご遠慮願えませんか?」


ギルド会館のエントランスでは、〈D.D.D〉〈黒剣騎士団〉〈ホネスティ〉の三つの大きな戦闘系ギルドのギルドマスター達が櫛八玉を巡って睨み合う三つ巴の戦い(口論)が勃発していた。




周りにいるギルド会館を利用しに来た冒険者達は、面白半分怖いもの見たさ半分といった感じで傍観していた。



──そこへ、黒いマントを羽織り、フードを目深く被った上に色とりどりの狐の仮面を着けた七人の異様な集団がギルドホールのある上の階から降りて来ようとしていた。


「……あれは?」


その異様な黒マント集団に、真っ先に気が付いたのはクラスティだった。


「……ミロード?如何されましたか?」


クラスティが、話しているアイザック達とは別の方向へと視線を向けている事に気付いた高山三佐は同じ方向へと視線を向けた。



アイザックとアインスも、それに釣られる様に同じ方向へと視線を向けた。


「……ああ?何だ、あの異様な集団は?」

「……おかしいですね。あの集団だけステータス表示がなされません」


高山三佐の言葉に、アインスが考え込む。


「もしかすると、彼らは〈雲隠れのマント〉を装備しているのかもしれません。

先頭を歩く人物が、身に着けているのは〈黒き神狐の仮面〉ですね。

確か……唯一の所持者は、女性の〈神祇官〉だった筈です」


アインスの呟いた言葉に、クラスティ達はハッとする。




──アインスがそう呟いたのは、異様な集団が既にギルド会館の外へと出た後だった。



「高山女史、急ぎ追い掛けますよ」

「承知しましたミロード」


高山三佐に声を掛けると、クラスティは急ぎ出入口へと駆け出した。高山三佐もそれに続く。


「あ!クラスティ、てめぇ!!抜け駆けなんざ許さねぇからな!!」

「私も〈黒き神狐の仮面〉の唯一の所持者に興味があります。

一緒に追わせていただきますよ」


急ぎ出入口へと駆け出すクラスティと高山三佐に気が付いたアイザックとアインスは、二人を追い掛ける形で共に駆け出した。






◇◇◇






全速力で〈ブリッジ・オールエイジス〉を目指して走っていた櫛八玉は、後方から聞こえてきた「邪魔だ!」とか「退けっ!」という怒号に近い喧騒に、軽く後ろを振り向き……そして青ざめた。


「ちょっ!?アイザック君に、アインス先生に、クラスティ君に、山ちゃん……全員、こちらを追い掛けて来てますけど!!?」


クラスティ達全員が追い掛けて来る展開に、慌てている様子の櫛八玉に朝霧は声を掛けた。


「安心しろ櫛。この展開は、ある程度想定済みだ」


朝霧はそう言葉にすると、誰かに念話をかけた。


「……敵エネミーは、デコイに騙されなかった。プランBに移行してくれ」

『……了解。』

「先輩?今の言葉の意味は一体……?

後、クラスティ君達を敵エネミー扱いって……」




少々苦笑気味の櫛八玉に、朝霧は少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら「今の緊迫した状況にはピッタリだろ?」という言葉を口にしていた。






◇◇◇






──本人達の知らないところで、朝霧から敵エネミー扱いを受けているクラスティ達は現在、100m先を全速力で走る黒マントの集団を見失わない様に注意しながらつつ全速力で追跡をしていた。


「ちっ!連中、意外に足が速いじゃねぇか!!」


人混みを掻き分けながら、アイザックはそうぼやいた。


「見たところ、彼らのメンバー構成は……〈武士〉、〈神祇官〉、〈森呪遣い〉、〈暗殺者〉、〈吟遊詩人〉……後は、魔法攻撃職が二名といった感じですね」


アインスは、前方を走る黒マント集団の装備から各々のメイン職業を推測する。


「チーム編成自体から……スピード重視型という感じを見受けられます」


高山三佐は、チーム編成からスピード重視の編成と断定する。


「しかも、デコイを用意する様な周到性から考えるに……知略に長けた、かなりの知恵者がいるね」


クラスティは、統率のとれた動きと用意周到さから参謀クラスの働きをする人物がいる事を推測した。


「……とは言え、このまんまじゃ逃げられるぜ。どうすんだ?クラスティ」

「サウスゲート近くで、彼らの足止めをしましょう。……高山女史」

「はい。α部隊、そちらに向かっている七人の黒いマントにフードを目深に被った狐面集団を見かけたら、包囲し、足止めを行いなさい」

『イエス!アイマム!!』


クラスティの指示を聞いた高山三佐は、素早くサウスゲート近辺に待機させてある部隊へと念話にて指示を出す。


「これで、こちらは詰めの一手を打った。

……さて。これで彼らはどう動くのかな?」


フフフとどことなく楽しそうな笑みを浮かべながら、クラスティはそう呟く。






──クラスティのその呟きを唯一聞いていたのは、すぐ隣を走る高山三佐だけだった。






◇◇◇






──一方、全速力で〈ブリッジ・オールエイジス〉を目指す朝霧と櫛八玉は、走りながら新たな打ち合わせを行っていた。


「おそらく、クラスティの事だから……事前にサウスゲート近辺に〈D.D.D〉の一部隊を配置してある筈だ。

……私達を完全に包囲して足止めする為にな。

そこで、私の用意した次の一手を使う。

クラスティ達は、“私達全員でアキバ外へと逃走する”と思い込んでいる。その思い込みを逆手にとる!

櫛、包囲部隊が包囲を開始したら……私は15m手前で立ち止まる。

そうしたら、私の肩を踏み台にその包囲を“飛び越えろ”。

飛び越えた後は、〈鷲獅子グリフォン〉を呼び出してそのまま〈テンプルサイドの街〉へと帰れ。

それと、すぐに呼び出せる様に〈鷲獅子の召喚笛〉は事前に手元に準備しておけ」


朝霧からの指示に、櫛八玉は頷き…〈鷲獅子の召喚笛〉を準備する。






全力疾走を続ける朝霧達の視線の先…50m先にサウスゲートが見えてきた。




しかし、朝霧の予想した通りに朝霧達を包囲して足止めをしようと〈D.D.D〉メンバーの包囲部隊が待ち構えている。


「櫛、〈雲隠れのマント〉と〈狐のヒーロー仮面〉は今は借りたままでいい。

私は、近い内に〈テンプルサイドの街〉に行く用事があるから……その時に引き取りに行く。それまでは、預かっていてくれ」


朝霧の言葉に、櫛八玉は黙って頷く。


「……ではな。またいつか会おう!」


そう櫛八玉に言葉を掛けると朝霧は、包囲部隊の15m手前で急停止した。






朝霧の唐突な動きに戸惑い、すぐに対応できずにいる包囲部隊の一瞬の隙を突いて、天音達と櫛八玉は次の行動へと移った。



天音、謙信、レイ、朔夜、ヴィオラの五人は包囲部隊の不完全な包囲網の隙間を抜けて、そのままアキバのビル群の裏路地へと走り去っていく。






櫛八玉は、朝霧の肩を踏み台にして包囲部隊の遥か頭上を飛び越え、包囲部隊の後方へと見事着地するとそのままアキバのサウスゲートを走り抜けながら〈鷲獅子の召喚笛〉を吹く。




櫛八玉が、〈ブリッジ・オールエイジス〉を渡りきる頃には〈鷲獅子〉が降りたっており、〈鷲獅子〉に飛び乗ると櫛八玉はそのまま〈テンプルサイドの街〉へ向けて飛び去っていった。






──〈D.D.D〉の包囲部隊は、自分達の一瞬の隙を突いた見事な櫛八玉達の逃走劇を唖然と見送ってしまった。






──彼らが正気に戻り、クラスティ達がサウスゲート付近へと辿り着く頃には…朝霧を除いた六人全てが追跡を逃れた後だった。






◇◇◇






──サウスゲートへと辿り着いたクラスティ達が目にしたのは、狐面の女〈暗殺者〉以外の六人全ては追跡を振り切って逃走を成功させた後という状況だった。


「……おい、クラスティ!狐面の女〈暗殺者〉以外は、逃げちまっているじゃねぇか!!」


怒鳴りつけるアイザックには目もくれず、クラスティは女〈暗殺者〉へと話し掛けた。


「……ほう。まさか、我々が用意した包囲部隊の包囲をくぐり抜けて仲間を逃走させるとはね。

……で?君は何故残ったのかな?

我々が辿り着くまでに、君も包囲網から逃げるチャンスは幾らでもあった筈だけどね」


クラスティは、狐面の女〈暗殺者〉に問い掛けてみる。



……しかし、



「…………」

「……何も喋りませんね」

「ちっ!だんまりかよ!!」


女〈暗殺者〉は一言も言葉を発さず、終始無言のままだった。


「ふむ。我々と話をするつもりは無さそうだね。

そちらがそのつもりなら、多少強引ではあるけれど…力ずくで無理矢理にでも有益な情報を聞き出させてもらおうかな?

それに、仲間を逃がす手際の良さを鑑みるに……なかなかの切れ者の様だし、是非我がギルドキャッスルに来てもらい、色々と話をしたいものだね。我々、〈D.D.D〉への入会を視野に入れた有益な話し合いを……ね?」

「おい、クラスティ!その時には俺にも参加させろよ!!

後、てめぇはまた強い奴を一人占めする気か!!

てめぇが、未だに〈突貫〉や〈御前〉を〈D.D.D〉に連れ戻そうと色々と画策してんのは知ってんだぞ!!」

「私も、その時には是非参加させていただきたいですね。

彼女が持っているであろう情報に大変興味がありますし……彼女の本来の職業は、私と同じ〈神祇官〉。

是非、同じ〈神祇官〉として色々と話をしたいですし、〈ホネスティ〉としても優秀な人材は欲しいところでもありますからね」


クラスティの言葉に、アイザックやアインスが口々に自らの意見を口にする。



また、高山三佐はクラスティの考えに添う様に包囲部隊へと指示を出そうと口を開いた時、唐突に女〈暗殺者〉は動いた。






突如、クラスティ達の方へと走り出した女〈暗殺者〉は思いきり跳躍すると、アイザックの肩を踏み台にしてクラスティ達を飛び越えて包囲網の外へと脱出した。


「……なっ!?てめぇ!!よくも俺を踏み台代わりにしやがったな!!!」


自分達の後方で見事着地を果たし、悠然と立つ女〈暗殺者〉を指差しながらアイザックは怒りをあらわにした。


「君を逃がす訳にはいかないよ。……高山女史」

「はい、ミロード。何をボーッとしていますか。

再度、包囲網を形成しなさい」

『イエス!アイマム!!』


女〈暗殺者〉を逃がすまいと、クラスティ、高山三佐、アイザック、アインス、〈D.D.D〉の包囲部隊が各々に動いた時……女〈暗殺者〉は身を翻し、アキバの街中へと走り出した。


「逃がすかよ!!」

「待ちなさい!!」

「我々も追うよ、高山女史」

「わかりました。ミロード。貴方達も、我々に続きなさい」

『イエス!アイマム!!』


逃走を開始した女〈暗殺者〉を追い、逃走を阻止する為にクラスティ達は駆け出す。




……しかし、




「なっ!?」

「えっ!?」

「何っ!?」






──女〈暗殺者〉は、クラスティ達の見ている目の前で並び立つビルの壁を交互に踏み台代わりにし、一気にビルの屋上まで登っていった。




それを茫然と見上げるクラスティ達を見下ろす様に佇む女〈暗殺者〉は、風に揺られる三つ編みに纏めた黒髪と黒いマントをなびかせると……身を翻し、ビルの屋上の奥へと姿を消した。


「……はっ!?

何をしていますか!包囲部隊は急ぎ、あの〈暗殺者〉の追跡を!!」


未だに茫然とした一同の中、真っ先に正気に戻ったクラスティは急ぎ指示を出す。



クラスティからの指示で、正気を取り戻した包囲部隊は急ぎ周囲の廃ビルへと入り、階段を駆け昇ってビル屋上へと走った。






──しかし、しばし茫然とし、正気に戻った後から急ぎ追跡を再開し、ビルの屋上へと向かうまでの間に生じた僅かなタイム・ロスを利用して、女〈暗殺者〉は悠々とクラスティ達の追跡を振り切り……その行方を完全にくらませてしまった。






◇◇◇






──眼下で茫然と自分を見上げるクラスティ達をしばし眺めた後、朝霧は身を翻すと、〈魔法の鞄〉から〈隠行術ハイド・シャドウポーション〉を取り出して飲み干すと、〈放蕩者の記録〉のギルドハウスであるビルへ向けてビルの屋上から別のビルの屋上へと跳び移りながら移動を始めた。


(クラスティ達には悪いとは思うが……“今の私の状態に関する情報”を与える訳にはいかないからな)






そんな事を考えながら、朝霧は次から次へとビルを跳び移っていく。






──しばらくすると、彼女のギルドハウスのビルの屋上へと辿り着く。



〈放蕩者の記録〉のギルドハウスビルの屋上に無事到着した朝霧は、そのまま階段を降り始め、ビルの中へと帰っていった。






◇◇◇






──なお、この日の出来事はしばらく……娯楽の少ないアキバの街に、『味のある奇跡の食事〈クレセントバーガー〉』や『〈海洋機構〉〈ロデリック商会〉〈第八商店街〉が〈三日月同盟〉と手を組んだ』といった大きな話題と並ぶ大関心事として話題を提供し続ける事となった。










──曰く、『〈D.D.D〉〈黒剣騎士団〉〈ホネスティ〉の三大戦闘系ギルドのギルドマスターを手玉に取り、見事に追跡を振り切って逃げおおせた凄腕の女〈暗殺者〉が、このアキバの街の何処かに潜んでいる』






…………と。

幻影蜃気楼ファントム・ミラージュ

防御技・必殺技_発動者に重なる様に現れる幻影の分身を身代わりにする事で、ごく短時間ではあるがあらゆる敵の攻撃を無効にする暗殺者専用の緊急防御技。発動すると複数の発動者と瓜二つの半透明状の幻影が重なる様に現れる。発動者が敵の攻撃を受けそうになると発動者は自動的に回避行動を行い、その場に留まった幻影が身代わりに攻撃を受けてくれる。効果持続時間は僅か15秒。再使用規制時間は10分長く、〈守護戦士〉の〈キャッスル・オブ・ストーン〉と同じ様に……あまり多用できる技ではなく、あくまで緊急時の防御技として使用する特技。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ