第三話『各々の苦悩と変革への一歩』
今回、読んでいるだけの人様の『ある毒使いの死』よりユウご本人とクニヒコ、レディ・イースタルお二人の名前を……
キリカ様の『5月某日0時より、終了未定でアキバにて』よりコウと華風亭のギルド名を……
橙乃ままれ先生の『ログ・ホライズン』より原作キャラ多数をお借りしております。
……シロエ……橙乃ままれ先生の描かれているイメージからかけ離れていたらどうしよう……。
Σ(゜□゜;≡;゜□゜)
……と、現在これを投稿しながらドキドキしています。
もし、キャライメージをブチ壊していたら……本当にすみません!!orz
平成27年11月7日、加筆・修正しました。
──あれから半月以上の月日が経った。
一時期、数多く横行していたPKは…朝霧達以外に〈黒剣騎士団〉や〈西風の旅団〉の始めた警邏活動(〈黒剣〉は、ソウジロウの説得に渋々折れた形)と大手戦闘系ギルドの台頭により大幅に激減した。
……だがそれは、大手ギルドと中小ギルドの格差を明確にした格付けがなされ、弱者となった者達を虐げる状況へと悪化した事を意味していた。
◇◇◇
──〈放蕩者の記録〉のギルドマスターである朝霧は、執務室で深い溜め息を洩らしていた。
(……PKが激減した事は喜ばしいのだが、アキバの街の雰囲気は悪化していく一方だな……
この雰囲気を嫌って、コウは─ギルド〈華風亭〉のメンバー全員は、クエストを引き受ける事を利用して、しばらくアキバを離れる事を選んだ様だしな……)
──その事を考え、再び深い溜め息を洩らした。
◇◇◇
──同じ中小ギルド同士として、朝霧は数々の中小ギルドのギルマス達と様々な情報交換を行っていた。
──〈華風亭〉はその中の一つで、年若いコウという青年がギルマスを務める総員数15人程の『中国サーバー専門の旅行ギルド』である。
──今から約一週間程前、クエストの為に旅立つ〈華風亭〉に〈放蕩者の記録〉から幾つかの物資を提供した際、コウから〈華風亭〉のメンバーに起こった出来事や今回クエストを受けた今までの経緯について色々と聞いた。
──悲しい事に…〈華風亭〉のメンバー達も例外なく、このアキバの抱える様々な歪な有り様に苦しめられ、苦悩し、そして…救いを求めて一度アキバを離れる事を決意したのだという。
──出立日の当日である早朝頃にコウからの突然の念話があり、「……念話という形で、大変申し訳無いと思うのですが……」という前置きから話が始まった…と覚えている。
『今回の旅立ちに際し、色々な物資の支援…本当にありがとうございます。
今日、〈三日月同盟〉への挨拶を済ませてからアキバを出立しようと思います。』
「……そうか、気を付けて行ってこい。
〈華風亭〉全員が怪我も無く、無事にアキバに戻って来られる事を祈っている」
──彼女の人柄のおかげで〈華風亭〉の抱えるおおよその事情をコウから聞いていた朝霧は、あまり多くを語らず…ただ一言、旅の無事を祈る事だけを告げた。
朝霧のその言葉に、コウはこう言葉を返した。
『はい。〈華風亭〉皆で、必ず無事にアキバへと帰ってきます』
──その一言を最後に、コウとの念話は終了した。
◇◇◇
(……コウ達〈華風亭〉が戻ってくるまでには、アキバの街を変えなければならないが、今の現状を打破する具体的な方策を…私は“実行に移せない”。
……実に歯痒いものだな)
──約一週間前の出来事を回想していた朝霧は、再び深い溜め息を洩らした。
(……ここで思い悩んでも仕方がないな。
取り敢えずは、朝食を摂る事とするか)
朝霧はそこで思考を止め、朝食を摂る為に食堂ホールへと向かう事にした。
◇◇◇
食堂ホールへとやって来た朝霧は、普段なら賑やかに会話が弾んでいる筈のホール内の雰囲気が、暗く沈んでいる事に驚いた。
「天音、一体これはどうした事だ?」
食堂へと朝食を運んでいた天音を捕まえ、朝霧はこの暗く沈んだ雰囲気の理由を尋ねた。
「……それは……」
一瞬、口ごもった天音だったが…ギルドのムードメーカー的存在の兄、謙信とカンザキの二人にいつも通りの明るさを取り戻して欲しいという強い思いがあり、詳しく事情を話す事にした。
◇◇◇
──まず、カンザキの事情を説明するなら…ここ最近の彼の行動から説明を始めなければならないだろう。
──彼は、朝霧からの要請を受けた翌日からアキバ内外で情報収集や戦闘訓練を行いつつ、大手ギルドと中小ギルドの諍い等の仲裁を行っていた。
──何処かのギルド同士が揉めているところを発見する度、二つのギルドの間に立ち、宥め、穏便に済ます様に仲裁してきた。
──その最中で彼は、すっかり変わり果てた姿となってしまった友人ユウの姿を目撃してしまったのだ。
◇◇◇
──その日も、いつも通りにフィールド上での自主戦闘訓練を行っていた。
そこで、〈D.D.D〉の演習部隊と何処かの中小ギルドが口論になっている状況を目撃した。
(……また、ギルド同士の“縄張り”関係か。あんまし、俺はそういうギスギスした状況は好きではないんだけどな……
ま、御前の頼みだ。ここは、穏便に仲裁してやるとするか)
カンザキは苦笑しながらもそう考え、仲裁に入る為に向かっていた時…“ソレ”は現れた。
──突如現れた女〈暗殺者〉は、カンザキの目撃する目の前で…〈D.D.D〉の演習部隊を〈暗殺者〉と〈毒使い〉の特性を最大限に活用し、一方的に命を刈り取っていきながら…凄惨な惨殺劇を行った。
──それを間近で目撃した中小ギルドの者達は、その凄惨な殺人者に恐怖していた。
カンザキは、その襲撃者である女〈暗殺者〉が誰であるかに気付くと…恐る恐る声を掛けた。
「…お、おい。……ユウ?」
カンザキの声を聞いて反応したのか、頭を上げた方向が、たまたまカンザキのいる方だったのか…それはカンザキにはわからなかった。
──だが、ユウの瞳を直視した時…カンザキはそれ以上の言葉を口にする事ができなかった。
──直視したユウの瞳には、本来あるべき理性の光など全く存在せず…ただ、仄暗い狂気の輝きが宿っていた。
──そこにいたのは、カンザキの全く知らない…変わり果て、別人と化してしまった狂暗殺者のユウだった。
◇◇◇
「……ユウさんという方のその姿を目撃したのが、昨日の事だそうです」
天音からの…現在のカンザキの暗く沈んだ雰囲気の理由を聞き、朝霧は言葉を失った。
(……そうか。ユウも、歪に歪みつつあるアキバの現状に心を病み、狂気へと走ってしまった被害者なのか……)
ユウと初めて出逢った─彼の友人であるクニヒコやレディ・イースタルと、たまたま居合わせたシロエや他の日本人とクリアした中国サーバーでのレイドクエストの時の─あの時の彼と友人達との賑やかで愉しげにふれ合う姿を思い出しながら…天音から聞かされたユウの現状を聞き、朝霧はとても悲しく思った。
◇◇◇
──次に、謙信の事を話すなら…現実世界での彼の事を語るべきだろう。
──彼は、現実世界では中学校の体育教師だった。
彼は、昔から子ども達が仲良く遊び、ふれ合う姿を見るのが好きだった。
──だから彼は、中学校の体育教師になった。
部活の顧問はサッカー部。
放課後には、学校の校舎から校庭で仲良くサッカーをする生徒達の姿を微笑ましく見守っていた。
彼─トウヤは、幼い頃は仲の良い友人達と楽しくサッカーで遊んでいた少年だった…と、ミノリから聞いたのを記憶している。
だが…彼が事故で下半身不随になり、サッカーを出来なくなってから…その微笑ましい光景は失われてしまったそうだ。
──仲の良い友人達と距離を置き、心からの笑顔の少ない…そんなトウヤの姿を見ていた亮(謙信の現実世界での名前)は、姉のミノリから事情を聞き、それを知って我が事の様にとても辛くなり…彼に〈エルダー・テイル〉の事を教えてあげた。
──Webサイトやインターネット上で流されている〈エルダー・テイル〉のPVを見せ、彼がとても興味を示したので…亮は、自分と妻が持っていた〈エルダー・テイル〉の無料チケット二枚をトウヤに差し出した。
「折角だから、ミノリも誘ってあげなさい。きっと彼女も、喜ぶと思うよ?」
亮の言葉に、トウヤは一度目を見開いてから満面の笑みを浮かべた。
「……ありがとう!早川先生!!」
トウヤは嬉しそうに亮から渡された無料チケット二枚を受け取り、思いきり笑っていた。
──数日後、亮はミノリからも感謝された。
「……先生、ありがとうございます。
トウヤ、先生から紹介されたゲームを毎日プレイするのがとても楽しいみたいです。
ログインする直前、トウヤったら、ウズウズする程待ちきれない様子で……
私も、そんなトウヤと一緒にとても楽しくプレイしています」
笑顔でそう話すミノリに、亮はこう言葉を掛けた。
「俺の使うアバターは『謙信』って言う名前なんだけど…何かわからない事があったら、その謙信に話し掛けてごらん。いつでも疑問に答えてあげるよ」
亮の気遣いに「お気遣い、ありがとうございます」と言葉にしたミノリは…しかし、首を横に振った。
「……でも、大丈夫です。
ゲームを始めた初日に、とても親切な男性の方に出会いました。
今は、その方に色々と教わりながら一緒にプレイしています」
ミノリの言葉に、叔母以外に初心者の面倒を見る心優しい人物がいる事に…同じ〈エルダー・テイル〉をプレイするプレイヤーとして嬉しく思った。
──後日、シロエと行動を共にしているトウヤとミノリの姿を目撃して…謙信は、思わず顔を綻ばせた事を今でも鮮明に思い出せる。
──〈放蕩者の記録〉が創設された当初、最初にギルドの…ギルマスである朝霧の世話になった初心者がシロエだった。
その時に彼の人柄は一通り知っている。
──人付き合いは苦手だが、不器用ながらも心優しい彼ならばトウヤとミノリを安心して任せられると思った。
──そして、トウヤとミノリの嬉しそうな笑顔を思い出しながら…トウヤに〈エルダー・テイル〉を薦めて良かった…と、その時は確かにそう思っていた。
──〈大災害〉が起こる、その時までは……
◇◇◇
──謙信が、〈大災害〉以降のトウヤを見掛けたのは本当に偶然だった。
その日はたまたま夕方の時間帯のアキバの街中を歩いていた。
──そこへ、街の外から戻ってきた…汗と泥にまみれ、疲労でボロボロに疲れきった〈ハーメルン〉の初心者集団が戻ってきた。
──おそらく、リーダーであろう〈召喚術師〉がボロボロに疲れきった初心者達に対して「てめぇらがちんたらしてるから、ノルマ達成できなかったじゃねぇか!!」と、苛立ちをあらわに…罵詈雑言と言い表してもいい位に怒鳴りつけていた。
──その初心者集団の中に謙信は、トウヤの姿を見つけた。
そこには…自身も疲労でボロボロになりながらも、仲間の為にわき上がる怒りを必死に我慢して押し殺しているトウヤの…その姿を目撃しながら、謙信はその時激しく後悔した。
──〈大災害〉初日に、トウヤとミノリの事を必死に捜して保護すればよかった。
──〈大災害〉前に、信頼できるギルドの事を教えてあげてればよかった。
──いや、それ以前に…トウヤ達に〈エルダー・テイル〉を薦めなければよかった。
──そうすれば、トウヤ達は〈大災害〉にも遭わず、〈ハーメルン〉という悪徳ギルドに所属せずに済んだのに…と。
◇◇◇
「……謙信兄さん。今、激しく自分の事を責めているんです。
“トウヤ”って子に〈エルダー・テイル〉を薦めなければよかった…って」
天音から聞いた謙信の事情に、朝霧は口を閉ざした。
◇◇◇
──朝霧は広い情報網を使って〈大災害〉後に初心者救済を謳った悪徳ギルド〈ハーメルン〉が、初心者から〈EXPポット〉を搾取し、顧客である〈黒剣騎士団〉や〈シルバーソード〉に売りさばいている事を突き止めていた。
──自分とて、今すぐにでも悪徳ギルドである〈ハーメルン〉に所属させられている初心者達を助けてあげたい。
──大手ギルドの専横をやめさせ、アキバの街に本当に秩序と呼べるものを作り上げたい…と。
──だが、朝霧が長い時間をかけて作り上げてきた数多くのギルドやソロプレイヤーとの深い信頼関係と絆が…今、彼女の足を引っ張り、彼女が考え付いている『具体的な方策』を実行に移せなくさせているのだ。
◇◇◇
──結局、今の朝霧にはカンザキの苦悩にも、謙信の苦悩にも…解決する方法を提示する事も、それを助けてあげられる術も、彼女は持ち合わせていないのだ……
◇◇◇
──あれからさらに数日が過ぎ…朝早くから、朝霧の元に四人の冒険者が訪ねてきた。
──四人は、同じギルドである証のギルドタグ〈記録の地平線〉を付けていた。
──訪ねてきた四人は、ギルドマスターであるシロエとギルドメンバーである直継、アカツキ、にゃん太。
──〈放蕩者の記録〉のギルドハウスにある応接室へと通されたシロエ達四人は、イスに腰掛ける朝霧と天音の二人と丁度向き合う形でフカフカのソファーへと腰掛けた。
◇◇◇
──シロエとアカツキに関しては、初心者時代に〈放蕩者の記録〉を幾度か利用していた経緯があり、ギルドメンバーの中には面識ある者もいる。
──直継に関しては、天音が“月音”というアバターを使って〈放蕩者の茶会〉に参加していた頃…〈茶会〉に物資支援を幾度かした経緯で知り合っている。
──にゃん太に関しては、20年という長いプレイ歴の中で知り合った朝霧の古くからの知人の一人であり、最近ススキノ近辺からシブヤ近辺へと繋がる〈妖精の輪〉を使ってアキバへと帰還した黒雷が昔所属していたギルド〈猫まんま〉での黒雷の元同僚でもある。
◇◇◇
──シロエ達が朝霧の元を訪ねてきた用件は…まず、天音が〈大災害〉初日に発見した“味のある食事の秘密”についてだった。
◇◇◇
「御前は、この“味のある食事の秘密”を誰かに話しましたか?」
シロエからの問い掛けに、朝霧は静かに答えた。
「……いいや。今のところ、“味のある食事の秘密”についてはギルド内にとどめてある」
「唯一の例外は、にゃん太班長に話した事位です」
朝霧の後に続いて、そう発言したのは天音だった。
「にゃあ〜。月音ち─いえ、今は天音ちでしたにゃ─のおかげで我が輩は毎日、美味しい食事を作れて幸せですにゃ」
「本当、本当。天音には感謝!感激!お礼祭りだぜ!!」
「うむ。天音にはとても感謝する。
おかげで、老師の大変美味な食事を戴く事ができた」
「……本当、天音のおかげだよ」
「……いえ、そんな大した事は……」
にゃん太、直継、アカツキ、シロエ…各々からかけられる感謝の言葉に、天音は少々照れていた。
「……話を戻しますが、御前は“味のある食事の秘密”を今後、誰かに話す予定は?」
「……無いな。少なくとも、交渉のカードに使用する予定以外に使うつもりは無かった」
朝霧の淡々とした答えに、シロエはさらに言葉を続ける。
「では、質問を変えます。御前は、今のアキバの状況をどう思われますか?」
シロエの言葉に…一瞬、言葉につまる朝霧だったが静かに答えを返した。
「……最悪だな。大手ギルドの者達が規模の小さなギルドやソロの冒険者達に巨大な数の権力を振りかざし、蔑み、見下し、差別する。
同じアキバに住む者同士で全く手を取り合えない……悲しい状況だ」
朝霧の言葉を聞き、シロエはさらに言葉を重ねる。
「御前には、このアキバの街を良くする為の『具体的な方策』は無いのですか?」
シロエの言葉に、朝霧は今まで誰にも話していなかった“方策”を口にした。
「……たった一つだけある。
──まず、“大きな切り札”の一つ為の資金集めとして、アキバの街中で“味のある食事”を販売する。目標金額は、金貨500万枚だな。
それで素早く資金が集まれば良しだが…集まり難い時は、大手生産系ギルドと交渉して資金援助を取り付ける。
その間に、大手ギルド内やアキバの街中に『今のアキバの街の雰囲気はよくない。このままでは、アキバの街は荒んでいってしまう』という話を流す。
──大手ギルドや他の冒険者達の危機感を煽らせる為にな。
そして、“大きな切り札”の一つである〈ギルド会館〉を購入した上で、大手ギルド達を巻き込み…自治組織を結成させる。
──無論、その時には大手生産系ギルド全てを味方につけてな」
「どうやってですか?」
シロエからの問い掛けに、朝霧は言葉を続ける。
「私のギルドの者の中に、〈醸造職人〉がいてな。
現実世界のものには遠く及ばないが、“味のある”ワインや米焼酎を製造する事ができたんだ」
朝霧のその言葉は、シロエがにゃん太から聞いた〈料理人〉と“味のある食事を作る方法”…それらから自分が立てていた仮説が、強ち間違いではなかった事を立証してみせたという事である。
「“この事”をもう一つの切り札とし、その上で誰もが納得し、了承を得られる様な具体的な方策を提示する。
──大手戦闘系ギルドも、、大手生産系ギルドも、中小ギルドの代表達も、必ず納得する様にきちんと説得してな。
……取り敢えず、私が考えてあったのはこの位だな」
朝霧が語ってみせた“具体的な方策”の内容は、シロエが昨晩中考えていた“方策”と全く同じ内容だった。
「……だったら!何故!どうして!!御前は全く動かなかったのですか!!!御前には、広い人脈と大手ギルドと渡り合えるだけの大きな影響力があった筈です!
それを生かし、すぐに動いていれば、もっと早くアキバの街を変えれた筈です!それなのに……貴女は!!」
悪徳ギルド〈ハーメルン〉の『初心者救済』という謳い文句に騙され、所属してしまい、今現在も〈ハーメルン〉の幹部達から心と身体の両方に暴力を振るわれ、虐げられ、苦しみ続けているであろうミノリとトウヤの事を思い─普段のシロエからは考えられない程に─その言葉は徐々に……今の今まで、アキバの街を良い方向に変える方法を思い付いていながらも全く動かなかった朝霧を責める口調に変わりつつあった。
「シロエち、それ以上は駄目なのにゃ。
御前も決して、今のアキバの街の状況を放置しても構わないと思っていた訳ではない筈ですにゃ」
徐々に責める口調になりつつあるシロエの肩ににゃん太はそっと軽く手を置くと、シロエを宥める様にそう言葉を掛けた。
にゃん太のその言葉にシロエはハッと気が付き、落ち着きを取り戻して朝霧を真っ直ぐに見た。
──そこには、シロエの強く責めてくる言葉を…ただ黙ってその言葉を真っ正面から受け止め、今の今まで何もできていなかった自分自身に対して感じる歯痒さ、無力さ、憤りなどを胸に抱え込みながら…袴を握り締め、じっと耐え続ける朝霧の姿があった。
「……すみませんでした。
──誰よりも初心者を慈しみ、大切にし、深く思いやれる……
僕は、そんな御前の心根をこの身をもって知っている筈なのに……すっかり失念していました」
「……いいや。
シロエの言う通り、もっと早く動いていれば…悪化していくアキバの現状の陰で嘆き、悩み、苦しみ、悲しんでいる多くの冒険者達を救い、もっと早い段階でアキバの街と冒険者同士の関係をより良い方向へと変化させる事ができていたかもしれない……
それは、紛れもない事実だ」
「……御前……」
シロエの言葉を受け止め、そう口にした朝霧の言葉を聞き、シロエは『本当に悪い事を言ってしまった』と思った。
「だが、今の私には“守るべきもの”と“守りたいもの”がある。
……だから、私は動けない。
シロエ。お前に、現在虐げられ続けている者達に対して私が抱くこの“思い”とアキバを変える為の“具体的な方策”……その両方を託しても構わないか?」
朝霧の言葉に眼鏡を指で上げながら、シロエは静かにこう答えた。
「……ええ。御前から託された“思い”と“方策”……しっかりと受け取りました」
──『後は、僕がその思いと方策を引き受けましょう』
──朝霧のその心をしっかりと受け止めたシロエと〈記録の地平線〉は、アキバ変革へと動き出したのであった……
ユウ達が、中国サーバーに汗血馬を獲得に行ったエピソードの……偶然居合わせた日本人の中に、朝霧さんを組み込んでみました!
上手く、ユウ達とコラボできたかな……?
……ちなみに、朝霧さんがその時中国サーバーにいた理由は……中国人の知人を訪ねて来ていたからです。