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天照の巫女  作者: 櫻華
第一部 大災害
2/13

第一話『大災害初日』

朝霧さんの大災害初日です。



今回、結構沢山の人物達が出てきますが……準レギュラーは、数人のみです。






あっ!私の話に登場するキャラクター達は、自由に使っていただいて結構です。




平成27年11月7日、加筆・修正しました。


平成27年11月22日、蘇芳のメイン職業を〈武闘家モンク〉から〈武士サムライ〉に変更しました。




──世界が暗転し…闇へと沈んでいた意識が徐々に覚醒を始め、意識が鮮明になり始めると同時に朝霧の耳が最初に聞き取ったのは…怒号、悲鳴、泣き声、嘆き、叫び、狂った様な笑い声…




──次に、彼女の鼻腔をくすぐるのは…ここしばらく嗅いでいなかった草木や水の新鮮で瑞々しい空気。






──そして、視界いっぱいに飛び込んできた光景は…20年もの間、パソコンのモニター画面で見慣れていた…彼女の本拠地ホームタウンであるアキバの街の駅前広場であった。






◇◇◇






──駅前広場では、辺り構わず喚き散らす者、放心した者、近くの〈大地人〉や〈冒険者〉に突っ掛かる者、その場に座り込むか立ち尽くしたままで泣き出す者まで…まさしく、『阿鼻叫喚の光景』…と言っても差し支えない様な状況の中で朝霧は、いたって冷静に現状を分析していた。


(…どうやら、私を含む今日ログインしていたプレイヤーは総て…この異常事態に巻き込まれた様だな。

…見た限り、ただゲームが現実化した…と考えるのは安直過ぎるな。

…となると、『〈エルダー・テイル〉によく似た異世界に来た』と考えた方が妥当だろうか。

…だが、直ぐに元の世界に戻れるとは限らない。

……そうなると、当面はこの世界で長期間生活していく事を前提に考えて、その為の衣食住の確保と…この世界に関する情報収集が最優先課題だな)


そこまで考えると、朝霧はギルドメンバーと連絡を取るべく…メニュー画面を出す為の挑戦を始めた。






◇◇◇






──しばらくの間、四苦八苦しながら色々と試してみたところ…額に意識を集中させる事で、メニュー画面を呼び出せる事を発見できた。






悪戦苦闘の末に、呼び出せたメニュー画面から〈フレンド・リスト〉を選び、その中から『幸村ゆきむら』の名前を探し出すと…念話機能を使い、連絡を取る事にする。




──しばらくのピリリッというコール音の後、ポンッという澄んだ木琴の音の後に…聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『……もしもし?もしかして、姉さん…?』

「『朝霧』の名は、私以外の誰だと言うのだ?」

『……アハハハ。それもそうだね』






──聞こえてきた明るい声音の主は、現実リアルでの血の繋がった実の弟であり、〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉のサブギルドマスター…〈鬼神〉の二つ名を持つ〈武士サムライ〉の『幸村』である。






お互いに軽く笑い合った後…朝霧は、念話を掛けた本題に入った。


「……幸村。今、何処にいる?」

『〈放蕩者の記録デボーチェリ・ログ〉のギルドハウスであるビルの近くだけど?』

「……ギルドハウスの近くか。なら、丁度良い。

幸村はこのまま念話機能を使って、アキバ中に散らばっているであろうギルドメンバー全員をギルドホールに集合させてくれ」

『……わかったよ。

皆をギルドホールに集めれば良いんだね?

…ところで、姉さんはこれからどうするの?』


幸村からの問い掛けに、朝霧は静かに答えた。


「私は、色々と情報収集を行ってみる。

…そのついでに、“この世界”での戦闘に関する情報も、戦闘訓練を行いながらつつ…色々と集めてみようと思っている。」

『…え!?実際に戦闘してみるの!?

…まさか!?姉さん一人で!!?』


朝霧の発言に、思わず驚いていた幸村の声音に…朝霧は苦笑しつつも、さらに言葉を続けた。


「…流石に、まだ何もわかってもいない手探りの状態で、そんな無謀な真似はしないよ。

…ベルク、キルリア、レガート、アルト、妲己だっきの五人を連れていくつもりだ」

『……そう?それなら問題は無いね。

じゃあ、気を付けてね』

「……ああ。

私が戻るまでの間、ギルドメンバーの皆の事を頼んだぞ」

『了解』






ポンッという澄んだ木琴の音が再び鳴り…幸村との念話を切った朝霧はとりあえず、未だに混乱状態にある駅前広場から場所を変える事にした。






◇◇◇






人気の無い廃ビルの一室へとやって来た朝霧は、〈魔法の鞄マジック・バッグ〉から一つのバングルを取り出すと…それを右手に持ち、メニュー画面を呼び出して装備の項目の中から装飾品である〈共鳴のミスリルバングル〉を選択した。




……すると、




『〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉を使用しますか?〈Yes/No〉』



という選択肢が表示され…朝霧は迷わず『Yes』を選択した。






◇◇◇






〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉


秘宝級装備〈共鳴のミスリルバングル〉に備わっている特殊な念話機能。

同じ〈共鳴のミスリルバングル〉を持っている者同士と、一度に大人数で同時に会話が出来る。

また、同サーバーにいなくても…〈バングル〉に備わっている〈共鳴サーチ機能〉で、他のサーバーにいる相手に念話を繋ぐ事が可能。

最大で、96人同時会話も可能である。






◇◇◇






──〈共鳴のミスリルバングル〉が淡く白銀色に発光し出し…しばらくの間の呼び出し音の後、キーンッという涼やかな鉄琴の音と共に…朝霧の耳に〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉に参加している者達の…周囲から拾ったであろう喧騒の声が届いてきた。


『…やはり御前も、〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉機能の利用を考えていたみたいですね』


〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉が機能して、真っ先に発言をしたのはクラスティだった。


「……ああ。

これなら、一気に他のプレイヤータウンの状況も聞ける可能があるからな。

まずは、アキバの様子の報告だが…駅前広場では、突然のこの事態に悲鳴を上げる者、周りに当たり散らす者、その場で泣き出す者と…阿鼻叫喚の図だったぞ」

『ススキノも大差ないな。

俺が今いるギルド会館周辺でも、そっちと同様に悲鳴や怒号が飛び交っている状況だな』


朝霧の報告の後にススキノの状況を報告したのは、猫人族の〈暗殺者アサシン黒雷こくらいだった。


『ミナミも他と大差ありません。

……こちらも、似た様な状況ですね』


黒雷の次にミナミの状況を報告したのは、ハーフ・アルヴの〈召喚術師サモナー〉のソフィアである。


『……シブヤも同じ……

……変わらない』


ソフィアの次にシブヤの状況を報告したのは、エルフの〈妖術師ソーサラー〉のシヴァだった。


『ナカスもあんまし変わらんね!

こっちも、えらいせからしか状況ばい!!』


シヴァの報告の後にナカスの状況を報告したのは、方言混じりの話し方をする狼牙族の〈武士サムライ〉の蘇芳すおうだ。


「他のサーバーの状況は?」

『実は今、私と蘭玉らんぎょくとエクレールはアキバの街にいる状況なのですが…各サーバーの私達が所属しているギルドのギルドマスターやギルドメンバーに聞いてみたところ、日本サーバーと同じ様に大混乱している模様です』


海外サーバーの状況を報告したのは、法儀族の〈妖術師ソーサラー〉のファウストである。


『……実は、ミナミにいる我がギルドのメンバーからの報告で…都市間トランスポート・ゲートは、現在停止していて利用できない状況にあるそうです』

『わぉ〜!クラりんのとこ、情報早〜い』


ギルドメンバーからの報告を話すクラスティに、茶化す様に言葉を発したのは…エルフの〈付与術師エンチャンター〉のライムだ。


『……ライム。今は、真面目な話し中だぞ。

ふざけていないで、真面目に話に参加しろ!』

『ぶー!』


茶化していたライムを注意したのは、狼牙族の〈武士サムライ〉の十兵衛じゅうべえである。






◇◇◇






──生真面目な性格の十兵衛は、お調子者のライムの事をよく注意している。




◇◇◇






『……あー…残念な報告が……

食料アイテム…めっさ不味い…

味のまったく無い、湿気った煎餅を食ってるみたいだ……』


凄く残念そうに食事に関する報告をしたのは、狼牙族の〈盗剣士スワッシュバックラー〉のカンザキだった。






◇◇◇






──彼は、食べる事と〈エルダー・テイル〉と〈PvP〉が何よりも大好きという人物で…その大好きなものの一つである食事が、大変残念な状況に…声音からは気落ちしている感情が伺い知れた。






◇◇◇






──カンザキからの食事に関する報告を聞き…〈魔法の鞄マジック・バッグ〉に食料アイテムを持っている者達が、次々に試しに口にしてみる。



……すると……



『えっ?何?この残念な食感は…』

『うへっ!めっちゃ不味い!!』

『……ダンボールかじってるみたい…』

『何これ!?

オレンジジュースがただの色の付いた水だよ!?』


食料アイテムを試食・試飲した者達からは、次々と悲鳴に近い残念な声が挙がっていた。



〈大災害〉直前まで調理用の素材アイテムを採取していた朝霧も、鞄から林檎を取り出して試しに食べてみる。



──すると、シャクという音と共にシャキシャキの食感の瑞々しい果肉からは果汁が溢れ、口いっぱいに林檎の自然な甘さが広がった。


「調理前の素材アイテムなら、素材本来の味があるぞ」

『……試しに調味料を舐めてみましたが、砂糖や塩にもきちんと味があります』


〈料理人〉のサブ職業を持つ人間ヒューマンの〈付与術師〉のタルトは、手元にある調味料の砂糖や塩を舐めてみた様で…調味料にも味がある事を報告してきた。


『……林檎を切ろうとしたら、何だか気持ち悪いゲル状になったよ……』

『魚焼いてみようとしたら、黒焦げの謎の物体に変化したぞ』

『……どうやら、〈料理人〉以外は調理出来ないみたいです』

『……たとえ調理出来たとしても、あの残念な料理は…なぁ〜…』



料理に関する報告から判明したのは、〈料理人〉以外には調理する事自体出来ず…たとえ調理が出来たとしても、出来上がる料理は大変残念な“アレ”である。



『……では、今後は出来る限り味がある素材アイテムを手に入れて食べていくしかない様ですね…』

『もし、素材アイテムが無い場合は…湿気った煎餅の様な“アレ”に砂糖か塩を振って、あの珍妙な食感を我慢して食べるしかないのか……

……ハァ……』






──食事に関する一通りの事柄の確認が終わる頃には、大半のメンバーが意気消沈していた。







◇◇◇






「…誰か、戦闘と死亡に関する事を調べた者は?」

『我ら〈D.D.D〉は、戦闘系ギルドですが…今現在はギルドメンバーの所在確認、現状に関する情報収集、今後の方針に関する会議等…やるべき事が多すぎる現段階では、戦闘を行うだけの余裕はありません』

『俺は今、〈黒剣騎士団〉の所にいるんだけれど…アイザックに尋ねたら、「今、それどころじゃねぇ!!」と思いきり怒鳴り付けられたぞ。

…あれは、かなりイライラしているな』

『俺は今、大神殿の近くにいるんだが…今のところ「誰かが死亡した」とか、「大神殿で復活した」とかいう話はまったく聞かないな』






──クラスティと、狼牙族の〈盗剣士〉の紅牙こうが蒼牙そうがからの報告で…戦闘と死亡に関しての情報は、未だに曖昧なままだという事が判明した。






「──では、戦闘に関しての情報は、私が実際に戦闘を行ってみる事で集める事にしよう」

『待て!お前、たった一人で戦闘する気じゃないだろうな!!』


猫人族の〈武闘家〉であるベルセルクの言葉に、「…ああ、幸村とも同じやり取りをしたな…」と考えながら、朝霧は苦笑混じりに答えた。


「クラスティじゃあるまいし、そんな無謀な真似はしないさ」

『……酷い言い様ですね。まあ、否定はしませんが』

『そこは普通、否定するところだろ!!』


朝霧の言葉に対するクラスティの発言を聞いたカンザキは、ノリの良いツッコミを思わず入れてしまった。


『……それはさておき。

現状としては、ゲームが現実化したこの状況下で戦闘がどの様な感じであるのか。

ゲーム時代と同様に、問題なく戦えるのか。

死亡しても、大神殿で復活できるのか。

──これらの点が、一切不透明である事。

……加えて、新拡張パック〈ノウアスフィアの開墾〉という不安要素も存在している。

──それらの点を鑑みた上で、現状としてはリスクを極力は抑えておきたい…といったところですか?』

「……その通りだ。流石は、クラスティだな」

『……新人時代、貴女に鍛えられましたからね』


──声音から、おそらく苦笑しているであろうクラスティの言葉に…朝霧は、微かに笑みを浮かべていた。


『クラスティも、御前も、いつでも冷静だな。

こんな異常な事態でも、常に冷静でいられるのはクラスティと御前とベルク位だぜ』

『ちょっと待て!?クラスティと御前の二人ならまだしも…俺を同列扱いするなよ!!』


カンザキの軽い口調で発せられた言葉を…ベルセルクは、力一杯否定していた。






◇◇◇






「ベルク、キルリア、レガート、アルト、妲己の五人は、今から〈ブリッジ・オールエイジス〉に集まってくれ。

──集まり次第、情報収集を兼ねた戦闘訓練を行う。

他の者達は、引き続き情報収集を頼む。

……集めた情報については、今度は夜頃にでも話し合う事としよう」

『……なあ、御前。その戦闘訓練、俺も参加していいか?』


朝霧が大体の段取りを話し終えた頃合いを見計らって、カンザキが口を開いた。


「別に構わないが…参加するのなら、幸村とあいにはきちんと念話をしておくんだぞ?」

『了解、了解っと』


朝霧の言葉にカンザキは、軽い口調でそう答えていた……










「……では、解散!」


朝霧の言葉を合図に、一斉に〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉機能を解除したのか…涼やかな鉄琴の音色の後、淡い白銀色の光に輝いていた〈共鳴のミスリルバングル〉の光は、徐々に収束していった。




それを見届けた朝霧は、バングルを鞄の中へと仕舞い込み……待ち合わせ場所に指定した〈ブリッジ・オールエイジス〉へと歩き出した。






◇◇◇






〈ブリッジ・オールエイジス〉に辿り着くと…既に、他のメンバーは辿り着いていた。


「……待たせたな。では、行くか。

とりあえずは、アキバ近くのフィールドゾーンで…先ずは特技スキルの確認から始めるとするか」


朝霧の言葉に六人は黙って頷いた。










──アキバ近くの草原にやって来た朝霧達は、早速自分達の特技を一通り確認してみる事にした。




──一度、メニュー画面を呼び出して、コマンドを操作して選択をする…






その一手間一手間の面倒な操作に、キルリアとアルトと妲己は焦れていた。




──この段階で、朝霧とベルセルクとカンザキとレガートの四人はわりとあっさりとモーション発動に気付き、任意で特技を発動できる様になっていた。






◇◇◇






──そもそも三人は、元の世界では武術の達人で…ベルセルクは全国大会優勝経験のある空手の有段者、カンザキは古武術の双刀使い、レガートは現役の機動隊員であり…各々が選択しているメイン職業は、〈武闘家〉、〈盗剣士〉、〈守護戦士〉である。



モーション発動の上達が早いのは当然と言えよう。






◇◇◇






それを見ていたキルリア達三人は、朝霧達からコツを教わり…二時間後には、七人全員がモーション発動を出来る様になった。






◇◇◇






──しばらくして、アキバからさらに離れ…〈書庫塔の林(しょことうのはやし)〉へとやって来た朝霧達は、今度は実際にモンスターと戦闘を行う事にした。




──しばらくすると、〈緑小鬼ゴブリン〉が六体程現れた。




早速戦闘を開始しようかと思った矢先、〈緑小鬼〉の容姿と殺気にキルリアとアルトが怯んだ。


「(……キルリアとアルトには、いきなりの戦闘は無理か……)

戦闘陣形フォーメーション〉を取れ!

前衛は、レガート。基本攻撃担当は、ベルクと私。

遊撃として、カンザキ。

妲己は、今回は後方から魔法攻撃を行ってくれ。

キルリアは、今回は〈情報監視者オペレーター〉を担当。

アルトは、今回は〈戦域哨戒フィールドモニター〉担当で周辺警戒を行え!」


そこまでの指示を行うと、朝霧は武器を構えた。


『アンカーハウル!!』


レガートが、定石である〈挑発特技タウンティングスキル〉を発動させる。


『ライトニング・ストレート!』

『白蛇の凶祓い!』


レガートの挑発タウンティングの後、ベルセルクと朝霧は手近にいる〈緑小鬼〉へと攻撃をヒットさせる。



攻撃がヒットした〈緑小鬼〉の身体は虹の泡状になって消え、その場にはドロップアイテムと数枚の金貨が落ちていた。






──この辺りのゾーンに現れるモンスターの平均レベル帯は20〜30。






攻撃さえ当ててしまえば、一撃で倒せてしまえる程弱いのだ。


『ワールウィンド!』

『オーブ・オブ・ラーヴァ!』


すかさず、カンザキと妲己の範囲攻撃で残りを一掃した。


「ん〜…今ので、戦闘のコツは大体掴んだかな〜?」

「うへ〜……焼けた臭いが、気持ち悪い……」

「次は、俺も攻撃に参加してみるな」

「……そうだな。ここのモンスターのレベル帯は低いし、今後の事を考えるなら、今はレガートにも攻撃に参加してもらおう」


戦闘終了後、カンザキはいつもの軽い口調で剣を鞘に収め、妲己は自分の魔法で焼いた〈緑小鬼〉の臭いに眉を潜め、レガートは朝霧に提案をしていた。


(……どうして?どうしてなの?

どうして…御前も、ベルクさんも、カンザキさんも、妲己さんも、戦うのが怖くないの…?

私、凄く怖いのに……

〈緑小鬼〉の容姿、凄く怖い……

武器を持って、迫ってくるのが怖いよ……)






──ゲーム時代は、殴りクレリックとしてアーマークレリックビルドを選択し、とても攻撃的なキルリアだったが…戦闘が現実化した今では、あの頃の様に戦うのは無理だった。






──それは、アルトも同様の様子で…普通に反省会を行っている五人の様子を見ながら…固い表情をしていた。






──その後、夕方近くまで行われた戦闘訓練で朝霧達五人は戦闘自体に慣れてくると…お互いとの連携の確認を行う余裕まで出てきた。





……だが、キルリアとアルトの二人は結局、その日一日は逃げ腰のぎこちない攻撃を数回しか出来ないという状況だった……






◇◇◇






『──と言う訳だ。攻撃重視であった筈のキルリアとアルトが、まともに戦う事が出来ない状況だ。

〈D.D.D〉の中にも、キルリア達の様な事態に陥る者も出てくると思う。

明日から戦闘訓練を始めるのなら、その点を考慮した方がいいな。

……他の者達もそうだぞ?』

「……了承しました。

では、明日からの戦闘訓練ではその辺を考慮した編成を心掛けましょう」

『俺も、明日から戦闘訓練を行うつもりだが…丁度、元〈猫まんま〉の同僚がいるから…そいつとパーティーを組んでから行う様にするな』

『む〜……。キルちゃんも、アルちゃんも、上手く戦えなかったのかぁ〜

僕のハートは、ガラスの様に繊細だから…上手く戦えないかも〜』

『はっ?お前のハートは、スピネルドラゴン並の硬さだろ?

何寝ぼけた事を言ってるんだ?』

『ぶーっ!ザッキー酷すぎるー!!

よりにもよって、クリスタルドラゴン系で最硬のスピネルドラゴンを出してくるなんてー!!あんまりだよ!!』

『まあまあ』

『……戦闘に関する情報は以上だ。

……これにて、解散』


朝霧の言葉を最後に、〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉機能を終えると…クラスティは、溜め息を洩らしていた。


(……思った以上に、現実化した戦闘は厳しい様だね。

戦闘訓練を行う際は個人の戦闘能力だけでなく、個々人の精神面についても憂慮しなければならない様だ。

……これからは、私自身も自主訓練を行った程がよさそうだね)


そこまで思考するとクラスティは、執務室を出て今後の方針を話し合う為に会議室へと歩き出した。






◇◇◇






「……では、解散」


〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉機能での情報交換を終えた朝霧は、深い溜め息を洩らした。


「朝霧叔母さん、お疲れ様です」


〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉による話し合いが終わった頃合いを見計らい、天音がハーブティーを差し出してきた。


「ありがとう……天音」


天音から差し出されたティーカップを受け取り、その香りを楽しむ。



──注がれたハーブティーは、ラベンダーだった様で…ささくれだった心を解きほぐしてくれた。




「ん?匂い??

……確か食料アイテムには味だけではなく、匂いも無かった筈だが?」

「えっ?普通に調理すれば、普通に味がしますよ?」


天音が語った言葉に、朝霧は思わず驚いた。


「……天音、どういう事か説明してくれないか?」

「……わかりました」


朝霧に説明を求められた天音は…まず、味がある食事に気が付いた経緯から話し始める事にした。






◇◇◇






──時間は遡って、お昼頃。






そろそろお昼時という事で、昼食にする事となった。




そこで、何か昼食を作ろうという話になったのだ。


「天音〜、何か作って〜」

「えっ?何か…ですか?」


そう聞き返して調理用の素材アイテムが保管されている倉庫を覗き、幾つかの素材アイテムを見繕ってキッチンへと運んだ。


(……今、ギルドメンバーの大半はあまり食欲は無いだろうから…卵と小麦粉を使って、パンケーキを作ろうかな?)


作る物が決まると、天音はてきぱきと手際よく準備を始め、温めたフライパンに油をひいてパンケーキを焼き始めた。



──焼き始めると、パンケーキは焼き上がるのが早いので…天音は、ギルドメンバーの人数に合わせた数を手際よく次々と焼いていく。


「ぎゃあぁぁぁあああああ!!

何だこれはぁぁぁあああああ!!?」


半分近くを焼き終わった頃、天音の兄である人間(ヒューマン)の〈武士(サムライ)〉の謙信(けんしん)が悲鳴を上げた。


「どうしたのですか!?」


兄の悲鳴を聞き、パンケーキを焼く手を一旦止めた天音は、食堂ホールで鞄から取り出したであろう食料アイテムのサンドイッチを口にくわえて座り込んだ兄の姿を目撃した。


「……あ。天音さんの作る昼食がどうしても待ちきれないからって、謙信さんが鞄からサンドイッチを取り出して食べたら…先程の悲鳴に……」


天音の問い掛けに答えたのは、ギルドの最年少の猫人族の〈召喚術師〉の弥生だった。


「謙信兄さん?

どうかしたのですか?」

「……このサンドイッチ、見た目は凄く美味そうなサンドイッチなのに……味が、まったくしない!!

食感がモサモサの変な物体だ!!」


謙信の言葉に天音は、謙信が残していたサンドイッチを食べてみる。






──それは謙信の言う通り、見た目こそ普通のサンドイッチなのだが…まったく味と匂いのしない湿気った煎餅かダンボールみたいな物…と言い表してもいい様な変な食感のものだった。


「(……でも、先程まで私が焼いていたパンケーキは、焼いている最中には香ばしい良い香りがしていました。

……あっ!ひょっとしたら!!)

弥生、ここに幾つかの食料アイテムとそのまま食べられそうな調理用の素材アイテムを倉庫から持ってきてくれませんか?」

「あっ、はい!!」


天音の指示に従い、弥生は倉庫へと駆け出していった。






◇◇◇






──しばらくして、食堂ホールのテーブル上には弥生が用意してくれた食料アイテム(肉まん、ピザ、おにぎり、プリン、ケーキ)、素材アイテム(トマト、胡瓜、木苺、林檎)、天音が作った出来たてのパンケーキが置かれていた。




──まず、天音達は用意した食料アイテムを一口ずつ試食してみる。




──試食の結果は、食料アイテムのどれもが先程のサンドイッチと同様の状態だった。




次に、素材アイテムを試食してみる。



──こちらの試食の結果は、ちゃんと各々の味がした。



次に、メニュー画面からコマンド入力を行い…カレーを作ってみる。



──それを試食してみると、さっきの試食した食料アイテムと同様に変な食感で味のしない物になっていた。



最後に、天音の手作りパンケーキを試食すると…ちゃんとパンケーキの味がした。




──匂いがしていた時点で、パンケーキには味がある事は大体予想できていた。






──天音が作ったパンケーキに味があった事で手作りすればいいのかと判り、次に誰にでも作れるのかを試してみた。


「弥生、このトマトを切ってみて下さい。」


天音の指示に従い、弥生は用意されたまな板と包丁で試しにトマトを切ってみる。



──すると、トマトに包丁を入れた瞬間…トマトはゲル状の気色悪い物へと変化した。



次に、天音と同じ〈料理人〉のサブ職を持つ狐尾族の〈神祇官〉のウララに同様にトマトを切らせてみた。



──すると、今度はトマトはゲル状にはならず、綺麗に切る事が出来た。






──この時点で、既に天音には大体の予測が出来ていた。






◇◇◇






「──つまり、サブ職業が〈料理人〉の人物が、手作業で手作りした料理には味があった…という事か?」

「はい。それは間違いありません。

実際に試して確認しました」


天音の食事に関する発見に、朝霧は喜び…一瞬、直ぐにでも〈共鳴の絆〉のメンバーに知らせようかと思った。



──だが、直ぐに思い留まった。



(これは、いつか大手のギルドとの交渉のカードとして使える。

……今は、伏せておくべきだな)






◇◇◇






朝霧には、今後アキバの街がどうなっていくのか…この段階で、おおよその検討がついていた。






──PKの出現。




──ギルドの格付けと、大手ギルドと中小等のギルドとの格差差別。




──悪徳ギルドの暗躍。




──そして…それらの要因が幾つも折り重なる事により、初心者や資産の少ないソロプレイヤーの者達が強者となった心無い一部の者によって虐げられ…それらのしわ寄せが全て彼ら(彼女ら)弱者に降りかかるであろう最悪な事態を……






◇◇◇






「(そういった最悪な事態になった時、彼ら大手ギルドを絶対に交渉のテーブルに着けなければならない。

そして、その為の交渉のカードとして『味のある食事』は、大きな切り札の一枚となり得る。)

……天音。誰か、この『味のある食事』の事を外部に漏らしたか?」

「……いいえ。ギルドの皆には、『この“味のある食事の秘密”を外部に漏らす事は、余計なトラブルに巻き込まれかねません。

今後、余計なトラブルを避ける為にも…絶対に他言無用』と伝達しておきました。

私は、現在ススキノにいる銀猫ぎんねことにゃん太班長には話してしまいましたが……

あっ、銀にはちゃんと『他言無用』と伝えておきましたから」


天音からの報告を聞き、朝霧はホッとしてした。






◇◇◇






朝霧と長い付き合いのあるにゃん太は、無闇に問題を起こす様な事はまずしないし…きちんと『何が大事で、自分が何をすべきか』をわきまえ考えられる様な信頼できる人物だ。




『味のある食事の秘密』についても、悪い様にはしないだろう…という結論に至ったのだ。





◇◇◇






「にゃん太なら大丈夫だな。

……天音、今日はもう休みなさい。

明日から、サブ職が〈料理人〉の者達には毎日ギルドメンバー全員分の料理を作ってもらわないといけないからな」

「……わかりました。

朝霧叔母さん、お休みなさい」

「お休み、天音」


挨拶を済ませると、天音は就寝する為に執務室を後にした。






(……今後はローテーションを組んで、ギルドメンバー全員がある程度戦える位には戦闘訓練は行った方が良いだろう。

……今後、自分達を律する法も罰する組織も無い─無法地帯であるこの世界で、自分達を守る為の自衛手段としても…)










──そこまで考えた朝霧は、すっかり冷めてしまったラベンダーのハーブティーを全て飲み干すと…執務室の奥にある自分専用の寝室へと向かい、明日に備えて早目に就寝するのであった。

アイテム名:

〈共鳴のミスリルバングル〉


フレーバーテキスト:

『古アルヴ族の高度な魔法技術で造り上げられた魔法鉱石のバングル。

施された複雑な高密度魔法術式により、どれだけ遠くに離れていようともバングル同士が共鳴し合いながら呼び合い、お互いの居場所を知らせてくれるという。

また、バングルの持ち主同士の心の繋がりが深ければ深い程、お互いの危機を知らせてくれるといわれる。』



備考:十何年か前に、日本サーバーで一時的に試験導入された大隊規模戦闘(レギオンレイド)クエスト『水晶窟の結晶竜』のクリア報酬の秘宝級装備。

日本サーバーで、大隊規模戦闘レギオンレイドがまだ定着していない頃に、一週間という短期間限定の形で、後々の日本サーバー初めての本格的な大隊規模戦闘レギオンレイドクエストを導入する為のデータ集め用として試験導入された。

当時は、〈D.D.D〉の様な本格的なレギオンギルドは存在しておらず……数多くのギルドや臨時レイドパーティーが挑んだが、殆どが強力なレイドボス〈スピネルドラゴン亜種〉の前に敗退した。

朝霧達レギオン集団〈共鳴の絆〉は、期間最終日に挑戦し、九時間にも及ぶ長い死闘の末に……これを撃破。クリア報酬だったこのバングルを見事に手に入れたのだ。

その後、試験導入されたクエストをクリアしたのは〈共鳴の絆〉だけであり……日本サーバーへの本格的な大隊規模戦闘レギオンレイドクエストの実装導入は、一時見送られ……この出来事がきっかけで、レイドパーティー間の連携の精度が飛躍的に向上したという。

尚、試験導入に使われた〈魔水晶の迷宮窟〉は……現在は、〈ダザネッグの魔法の鞄マジック・バッグ〉の材料である<紫炎の水晶>が採れる穴場スポットの一つとなっている。

アイテムの性能としては、96人同時念話機能の〈リアルタイム・グループチャットチャンネル〉、〈ギルドサーチ機能〉と同等の性能の〈共鳴サーチ機能〉、精神属性系の魔法や精神系の状態異常への高い耐性効果が備わっている。

また、譲渡不可品の為…一度でも装備された物は、他者が使用する事は不可能である。

現在、入手クエスト自体が存在しない為……一部のレアアイテムハンターの間では、“幻の激レアアイテム”と言われ……そのアイテム価値は、何億もの価値にまで高騰していると言われいる。

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