第十話『遠征の終焉と友好の始まり』
今回が、第二部の最終話です。
……そして、短いです(苦笑)
平成27年11月7日、加筆・修正しました。
──夜の闇が支配する渓谷で、方陣の陣形を組んだ〈冒険者〉の部隊が〈緑小鬼の将軍〉が率いる〈緑小鬼の調教師〉と調教師の従える数百匹の〈魔狂狼〉達の部隊をその進軍経路上で待ち構えていた。
〈緑小鬼の調教師〉と〈魔狂狼〉の姿を目視で捉えると同時に、クラスティは進軍の合図を出す。
その合図に合わせ、渓谷に待機していた〈冒険者〉達が一斉に〈緑小鬼の調教師〉と〈魔狂狼〉へと目掛けて一直線に向かい出した。
──〈暗殺者〉の必殺の一撃が……
──〈盗剣士〉の双剣や槍の一撃が……
──〈武士〉の太刀や大太刀の一撃が、次々と〈緑小鬼の調教師〉や〈魔狂狼〉を討ち倒していく。
──ある程度の掃討が進むと、渓谷の上部に待機していた弓装備者と魔法攻撃職が姿を現した。
──〈緑小鬼の調教師〉と〈魔狂狼〉が、攻撃射程内へと徐々に近付く。
「今だ!一斉に放て!!」
緋色の巫女服を着た一人の〈神祇官〉─朝霧の合図と同時に、一斉に矢と攻撃魔法が放たれる。
──降り注ぐ無数の矢と魔法による死の雨に、〈緑小鬼の調教師〉と〈魔狂狼〉はなす術もなく討ち取られていく。
渓谷に展開する方陣の中央部から〈不死鳥〉が召喚され、〈緑小鬼の将軍〉の巨大武装車へと目掛けて攻撃が行われる。
──巨大武装車は、粉々に砕かれるが…〈緑小鬼の将軍〉や近衛兵である〈緑小鬼〉はまだ健在であった。
「──それでは食い散らかしてやるとしましょう」
口元に笑みを浮かべ、クラスティはそう呟く。
その両手で〈鮮血の魔人斧〉を軽々と構え、〈緑小鬼の将軍〉への攻撃へと躍り出る。
──後は、一方的な殲滅戦だった。
──〈緑小鬼の将軍〉は、クラスティの一撃の前に倒れ…〈緑小鬼の調教師〉も、〈魔狂狼〉も、〈冒険者〉達の圧倒的な戦力の前に敗れ去った。
──その後、参謀本部の形成した包囲陣により、〈緑小鬼〉の略奪軍は〈ザントリーフ半島〉に完全に封じ込められ、その全てが殲滅された。
──こうして……〈緑小鬼の将軍〉討伐から約一週間後、後に『東の討伐軍』と呼ばれた初めての遠征は、成功裏の内に終わったのである。
◇◇◇
──そして、ザントリーフ包囲戦から約一ヶ月が過ぎた頃……
【マイハマの都・灰姫城】
──〈灰姫城〉の大広間で開かれている大舞踏会には、貴族や街の主立った商人達、招待された〈冒険者〉を合わせて200名を超える参加者が集っていた。
優雅な音楽が流れる中、〈冒険者〉と〈大地人〉が互いを意識し合い、萎縮している状況下で…一番に進み出たペアはクラスティとレイネシアだった。
周りがうっとりと見惚れる様な優美なダンスを踊る二人を……朝霧は、〈放蕩者の記録〉のメンバーや〈共鳴の絆〉の戦友達と共に眺めていた。
「……クラスティ、全然違和感無く溶け込んでるな。まんま貴族みたいだな」
用意された料理をモグモグと食べながら、カンザキがそう呟く。
「社交界では、ある程度の教養は必要だからな。
まあクラスティの場合はいつもの通り、才能と育ちが大きいと思うがな」
赤ワインを軽く飲みながら、ベルセルクがそう話す。
それに、他の面々は苦笑する。
「……ところでさ、アルフとグレシアは〜?」
「あっちだ」
キョロキョロと辺りを見回しているライムの肩を軽く叩いた十兵衛は、とある一角を指差す。
──そこには、多くの〈大地人〉貴族達に囲まれながらも、貴族達と楽しそうに会話をしているアルフレド=ロングランドとグレイシア=エル=シルバーハーツの姿があった。
「……お二人も、全然違和感がありませんね」
苦笑しながら、ソフィアがそう呟く。
「いや〜。あの二人の場合は、ゲーム時代からの徹底した演技の賜物ですよ〜?
クラスティさんの方は、全くの自然体ですが〜(苦笑)」
同じ様に苦笑しながら、マリンがそう言葉を口にする。
「アルフさんとグレシアさんって…確かサブ職は、〈貴族〉の上位職で称号系の〈侯爵〉と〈伯爵〉でしたよね?」
「はい。しかもお二人の爵位は、20年近く前に行われたイベントで〈ウェストランデ皇王朝〉から賜ったものですから。
〈自由都市同盟〉の貴族達の思惑としては、こちら側に取り込みたい…といったところでしょう」
尋ねる静に、ヨシツネが苦笑しながら答える。
「その説明に付け足し。
アルフのギルド〈アキバ舞踏会〉のメンバー構成員の3分の1は〈ウェストランデ皇王朝〉から賜下された爵位持ち。
つまり、貴族達はアルフ達ごとギルド〈アキバ舞踏会〉を〈自由都市同盟〉側に抱え込みたいって事」
ヨシツネの言葉に、ロキが補足を付け加える。
そんな会話が繰り広げられている中、朝霧の表情は暗かった。
──西の方角で、ザントリーフ戦役の時に感じたのと似た様な気配を感じ取った。
その事で、朝霧はクラスティや〈共鳴の絆〉のメンバーに尋ねてみたが……ソレ”を感じ取ったのは朝霧のみだった。
それが、朝霧の心に重いしこりを生み出している。
「おい、朝霧。お前がそんなに暗い表情だと、周りが色々と気にするだろうが」
気付くと、ベルセルクが朝霧の頭を軽く小突く。
「すまない。色々と考えてしまって……」
未だに表情が暗い朝霧を見て、ベルセルクは朝霧の手首を掴むと……ダンスを踊る人達の中へと連れ出した。
「ジッとしているから悪い方へと考えるんだ。
ダンスでも踊って…嫌な事を一切忘れろ」
ベルセルクのそんな言葉に、朝霧は思わず笑う。
「フフ。そうだな。
ところで…ベルクはダンスを踊れるのか?」
ふと、朝霧は抱いた素朴な疑問をベルセルクに投げ掛けてみる。
「信じられんだろうが…現実世界では、社交ダンスクラブで本格的なダンスを学んでいた」
ベルセルクの言葉に、朝霧は苦笑しつつも…共に優雅なダンスを踊り出した。
◇◇◇
──この大舞踏会から数日後、レイネシアがアキバの街へと到着し、大使に就任する事になる。
彼女は〈冒険者〉達の熱烈な歓迎を受けながら、大使館〈水楓の館〉へと入った。
レイネシアは、クラスティが提示していた『三食昼寝付きの引きこもりライフ(お風呂に入らないで怠惰に3日過ごす計画付き)』を実行できる事に胸を躍らせていた。
──しかし、彼女のそんな淡い期待は見事に裏切られ…以後、アキバの街での〈冒険者〉と〈大地人〉の関係に四苦八苦する事になるのであった……
これで、第二部は終了です。
次回からは、第三部となります。