教員採用試練とおっさん
後書きに技の説明を載せております。
てめぇの文才程度じゃどんな技なのかさっぱりだよ!という方は覗いてやってください。
改稿
友人の猫から指摘された読めない漢字に振り仮名をつけました。
こーんこーんと何処か気の抜けた鐘が街中に鳴り響く頃、俺は街の中央にある広場に立っていた。
その広場は何時もならば朝の出店などが出てかなり賑わうらしいが、今日に限ってそのような喧騒は全く無く、代わりに嵐の前の静けさのようなものが漂っていた。
俺の他にこの広場に立っている者は三人。一人はハツノ。そして後二人は、
「ふむ…貴殿が我々に挑んだ者、というわけか。私は『第二学園/個人戦闘科・四位』ギド。この金の髪をした女はリリアと申す…貴殿の名は?」
「…キルヨだ……なあ、怪我しないうちにやめとかねぇ?」
「へぇー、随分と大口を叩くね………あんまりでかいことは言わない方がいいよ…弱く見えるから。『第二学園/個人戦闘科・七位』リリアだよ。」
「気を悪くしたなら済まぬ。この女は些か口と頭と態度が悪くてな」
「ギド!!余計なこと言わないでよ!!」
一人は黒髪をかっちり整えている群青に空色のラインを入れたローブを着た長身の男。名前はギド。
一人は輝くような金の髪を背中に流している女子の中ではかなり長身な白に赤のラインのローブを着た女。名前はリリア。
「えー、ではキルヨさんにはこれから学園屈指の戦闘力を持つこの二人と同時に戦って勝利していただきます。それが出来ればあなたは晴れて教師の身となりますので頑張ってください…何か質問は?」
手を挙げて発言する。
「びっくりするくらいやる気が出ないんだが」
「頑張ってください」
即答だった。
今日の朝に起きたらすぐさま着替えさせられて、ダッシュでここに来て、その間ハツノと雑談しているうちにいつの間にかこの戦闘をすることを了承させられていた。話術恐るべし。
『キルヨちゃんにはこれから学園の生徒と戦ってもらうよ!』
『え?なんでそんなこ』
『うんうん!やる気たっぷりだね!いい事だ!』
『いや、誰もやる気なん』
『大丈夫大丈夫!なるべく殺しはしないように言ってるから!』
『ちょっと待てなるべくってどう』
『いやーよかった!断られるかと思った!流石の自信だね!!』
『いや誰がいつ自信を見せ』
『じゃあ自己紹介からね!どうぞー!』
『……マジかよ』
こんな感じだ。それ俺の知ってる話術と違うとかいう意見は聞かないからそのつもりで。
「……しょうがない…始めますか」
ハツノがどうしても離してくれそうにないので仕方なく戦闘準備をする。
背負ったリュックから抜き身の均一的な拵えの刀…[無銘刀]を一本取り出す。そしてもう一本、無銘刀よりもかなり短い刃物…[ドス]を取り出して逆手に持った。
「……鬼人流、変則二刀…なんてね」
その私の姿を見てほっとしたような顔のギド。それに対して不満そうなリリア。
「どうやらしっかりと戦ってくれるようだな…しかし、そのような細い剣では相手の攻撃を受ければすぐに折れてしまいそうだが?」
「大丈夫だよ。…『受けない』から」
その言葉を聞いて、ちらり、と一瞬ギドがその落ち着いた顔に獰猛で好戦的な笑みを見せる。どうやらそれが彼の本性のようだ。
「受けないって何よ!どんだけ自分に自信があるわけ!?ナルシストは嫌われるんだから!大体四位と七位相手に何でそんなに自然体なのよ!もっと怯えなさいよ!緊張しなさいよ!」
うるさいなこの子。
「いや、何で全く怖くない相手を怖がらないといけないんだ?そんなの馬鹿みたいじゃん」
「ばっ……馬鹿にしないでよ!」
「は?馬鹿になんかしてないよ。俺はお前を挑発してるんだ…まさかこんなにあっさり引っかかってくるとは思わなかったけど。」
リリアが絶句する。
「……殺す」
そして殺害宣言をされてしまった。
「リリアちゃーん?殺しちゃダメだよー?」
そんなハツノの制止もまるで聞こえていないようだ。
「……まあ本当に殺すことはないでしょ。では職員認定試練、開始ー」
その言葉と共に見えたのは、靴の裏。
リリアが開始宣言と共に飛び蹴りを放ってきたのだ。
「おっと」
「避けんじゃないわよ!!」
そう言いながらもラッシュは止めない。
リリアの武器は本来魔法用である大杖を鉄で強化し、遠近対応の武器になっている。
「はっ!!」
「おっとと」
再び真横に一閃されたメイスを飛んで避けるが、そこを狙って蹴りが飛んできたのでその足裏に自分の足を載せてそれを踏み台にさらに上空へと跳ぶ。
「っ!なんでそんなことできんのよ!おかしいんじゃないの!?【ファイアボール】!!」
「酷いなー…【焔切り】」
空中にいる自分に放たれた火炎弾を神速の刀で吹き散らす。その太刀筋は止まることなく、地面に浅くない爪痕を残した。
「こんな化け物にこの程度じゃ効かないか!ならこれでどう!?【ウォーターライン】!」
「化け物って…いくら俺でも傷つくぞ?【空舞】」
リリアの杖の先から出た高圧水流のようなものを空中を蹴って避ける。リリアが空中で移動するなんてずるいとか言っている間にもう一度【空舞】で彼女の目の前に降り立つ。
「…何よ、あんた…どうやったらそんなに強くなんのよ…」
「悪いね、わかんねぇよ。なんたって記憶喪失なもんでな」
「…まあ、それでもあんたの負けには変わりないけどね」
リリアがそう言った、その瞬間辺りの空気が一瞬、ざわめいた。
「…っ!?」
咄嗟にその場を動こうとしたが、リリアが何かをしているようで全く動けない。
「あんた、チームプレーって言葉知ってる?知らないか。なんたって…記憶喪失、だもんね?」
「よくやった、リリア…これで勝負は終わりだ。【ボルテックス】」
先程ざわめいた空気が、俺の頭上に収束して具現化する。それは真っ白な光球。それはばちりばちりと有り余るエネルギーを空中に放っている。
「…雷か!【雷切り】!」
「ご名答…やれ」
主の命令を受けて俺に向かって殺到してくる雷を【雷切り】で切りまくる。しかし如何せん数が多いのだ。それに【〜切り】シリーズは線での攻撃だ。そもそも防御に向いてない。
「…っく、はッ!!くそっ鬱陶しい!」
「諦めろ。収束した上級範囲魔法をそんな細い剣一本で防ぎきっている今の方が異常なのだ。誰も貴殿が教職に着くことを否とする者はいまいよ。それに貴様は…」
言葉を続けようとするギドに手のひらを向けて制止する。
…俺は説明されてないから、そこらへんはよくわかんねぇけど…
「関係ねえ…俺は、お前に勝つ」
その言葉を聞いたギドは一瞬惚けた顔をした後、にやりと、あの好戦的な笑みを浮かべた。
「……ならば、やってみろ!」
「言われなくても!」
「ちょっと!私もいるんですけど!?何で二人の世界に入ってんのさ!」
「先程まではお前が話していただろう。今は私に譲れ」
リリアと話しながらも雷の勢いが弱まっていないのは流石だ。俺の記憶では上級魔法はかなり扱いに神経を使う技術だったはずだが。
「まあ、だからって負けることはねぇけどよ。【雷断ち】」
俺はドスに対して技を行使する。
「ッ!?」
「なっ!?何よそれっ!?」
二人が驚くのも無理はない。先程まではここいらでは見ない形ではあるがまあただの短剣だったものが、俺が何かした瞬間剣に眩いばかりの琥珀色のオーラが纏わり付いたのだ。
それは今までの『技だけの技』とは全く毛色が違う、異色の『技だけではない技』。
…いや、鬼人伝ではこっちが主流なんだけど。
「上級魔法、【ボルテックス】…この程度か。【骨通し】」
ぎぉ、と空気を擦る音と共に俺の手から離れたドスは琥珀色の軌跡を作って雷球に突き刺さり…
「……凄まじいな…」
「…嘘…でしょ…?」
そのまま雷を生み出す母体である雷球を突き破り、消滅させた。
「これが、鬼人流だ。まだやるか?」
二人は数瞬目を合わせ、その後揃って両手を頭の上に挙げた。
「よっしゃ…ハツノ?宣言してくれよ」
「…はっ!?」
なぜか茫然自失となっていたハツノだがトントンと肩を叩くとこちらの世界に帰ってきた。この辺りはリラよりも順応性は高いらしい。
「…しょ、勝者キルヨ!」
「やったああ!」
思わずガッツポーズをしてしまう。
「ふむ、これからよろしく頼むぞ、キルヨ殿」
「…そうね。なんかあんたが何やったのか全くわかんないからいまいち納得いかないけど…」
「ははは!分からんのならば尋ねればいい!教えてくれんのならば盗めばいい!これからあの女が通うのはそんな学校だ!とにかく歓迎するぞ!キルヨ嬢!」
ギド、リリア、おっさんがそれぞれ歓迎の言葉を掛けてくれたので、俺は各々に握手をして応える。リリアだけ思いっきり抱擁したら逃げられた。おっさんには逆に抱擁されそうになったのでギドを生贄にして難を逃れた。
……って、
「おっさん誰だ!!!」
解説
【〜切り】
鬼人伝で序盤に覚えられる斬撃を飛ばす中距離技。
〜には焔、金、土、水、木の内どれか一つが入るが属性ダメージが入るわけではなく、弱点属性に対して攻撃力アップということもなく、ただ敵の攻撃のレジスト技として使う。
鬼人伝では序盤から敵が属性を駆使してくるのでこのようになったらしい。
【〜断ち】
鬼人伝で序盤に覚えられる属性を持った属性付与技。
【〜切り】シリーズと違い斬撃を飛ばすことが出来ないので投槍や矢などの使い捨ての安価なアイテムに使うことが多い。
なぜ付与を連想するような名前にしなかったのかは鬼人伝永遠の謎らしい。
【ボルテックス】
雷の属性を持った上級範囲魔法。
今回はキルヨ一人に雷を集中させていたが、本来ならば敵全体に等間隔に降り注がせるので使えば必殺というわけではない。
というよりも範囲魔法を一人の人間に集中させるのは異常と言っていい集中力が必要なので、雑魚っぽい印象だがギドはこの世界で言えば異常レベルの強者らしい。
【骨通し】
鬼人伝で最初から覚えている中距離の投擲技。
最初にしては破格なほどの性能を持っているが投擲モーションが長いのが玉に瑕…だったが、自らの意思で技のモーションを変えられるようになったキルヨはその力にものを言わせて手首だけでこの技を行使していた。
【属性について】
基本的に焔、金、土、水、木の五つだが、鬼人伝を中盤まで進めればさらに雷、風、陰、陽、終盤になれば終の属性が使えるようになる。新たな属性を使えるようになる前に今持っている属性では歯が立たない相手が出てきて主人公が平均3回は死ぬのが定番らしい。