情報不足と情報隠蔽
どんどん投稿ペースが落ちていきますね。
こんな私を見捨てないでください(懇願)
鉛筆が紙を引っ掻くかりかりという音を聞いていると、その音の主の幼い容姿と混ざってなんだか小学校くらいの子供の勉強を見てやっている、そんな気分になってくる。
「うりうり」
「ふにあぁぁ……って何で頭撫でられてるんですか私っ!?」
まあこの世界では俺の方が小学生…以下なのだが。生後五時間程度だしな。
「いや、リラが可愛すぎたから、つい」
「つい、じゃありませんよ!!一体キルヨさんは私の事をどういう風に…ってこれはさっき聞きましたね…」
ちっ、このままいけばまたリラを真っ赤にできたのに。
「君達…ものすごい仲良いね。まるで恋人みたいだね」
そんなことを思っている時にハツノに不意打ちで言われたその一言でリラは真っ赤になってしまう。かわいい。
「な、なななな…こ、恋人!?そんなわけないじゃないですか!私はキルヨさんのことなんて…っひぁ!?」
言葉を続けようとしているリラを後ろから抱きすくめる。
「リラ……俺の事、嫌いなのか?」
「………〜〜〜っ!!!」
耳元で囁いてやるとばひゅん!!と顔中から煙を噴き出して俯いてしまった。
弄り甲斐があるなこの子。
「完全にバカップルじゃない…」
「ハツノも入れてあげようか?」
「謹んで御遠慮しときます」
と言って俺とリラの前に紙を置く。
俺の方は出身地や魔法の有無、その他色々と書いてあるがリラの方は俺とリラの名前だけを書けばいいみたいだ。
「これ、全部書かなきゃいけないのか?ほとんど知らねーぞ?」
いや、知ってるけどね。出身地とか書く訳にはいかないからね。
「いや?わからない時は記憶喪失とでも書いとけばいいと思うよ?」
「なるほど。リラ、帰ってこい!帰ってきて俺の推薦書書いてくれ!」
そう言ってリラの肩を軽く揺するが、先ほどと同じく真っ赤で全く帰ってくる気配がない。
「仕方ないな。先に俺のだけでも書いとくか…」
「じゃあその間にリラちゃん起こしとくよ」
そう言ったハツノに手を挙げて応え、書類に目を通す。
「じゃあ適当に書いてって」
「わかった。書き終わったら呼ぶよ」
「了解ー」
まずは必須項目からだな。
名…はキルヨ、だよな。これでいいよな?
族…は魔人族だろう。もしかしたらオリジナル種族かもしれないけど一番近いのは魔人族だしな。
出自…はな。地球のことを出すわけにはいかないから記憶喪失ってことで。
齢…前の世界では二十歳だったけど今は何歳なんだ?記憶喪失でいいか。
戦闘方法…ねぇ…記憶喪失でいいか。結構なんでもできるけどな。
魔法…も記憶喪失だな。妖術なら使えるけど。
………必須項目がこれでいいのか?
ま…まあ気を取り直して任意項目いってみるか。
家系…原村家はダメだよな。記憶喪失で。
住所…いや、ダメだな。記憶喪失で。
職業…無職って書くか?………住所不定無職か………記憶喪失だな。
長所…過去を引きずらない、で。
短所…忘れっぽいでいいか。
己をアピール…これは酷い(爆笑)で。
「………これは酷い(激怒)」
「ああっ!俺の書類がっ!」
ハツノの指先に灯った火に炙られた書類は簡単に灰になった。
「俺の努力の結晶が!」
「あんな結晶なら燃えた方がいいわ!!キルヨちゃん、あれで教師になれると思ってんの!?あれで!?本気で!?」
「う…」
確かに、あんな内容では絶対に何ともならないだろう。むしろ不審者扱いされかねない。
「じゃ…じゃあどうすればいいんだよ!言っとくけどどれだけ絞ってもあれ以上の情報は持ってないぞ!」
開き直ってそう言った俺に対してハツノは先ほどから一転していたずらっぽい表情で
「情報なんてなくても教師になれる方法があるんだけど…やる?」
と言った。
「やります」
即答だった。
別にどうしても教師にならないといけないわけではないが、なんだかここで職をゲットしておかなければ神に負けた気がする。というかあいつのことはよく知らないが、天上から爆音で笑いを届けてくる気がする。
「おっけー…じゃあ明日またここに来てくれる?」
「ダメです!やめてくださいキルヨさむぐっ!!」
いつの間にか復活して何かを言おうとしていたリラの口をハツノが鬼気迫る表情で塞いだ。
「ハツノ…なんでリラの口を塞ぐんだ?」
「…規則よ。基本的にこの試験を受ける者は試験の内容を知ってはいけないの。リラも…わかってるわよね?」
こくんこくんと口を塞がれたまま頷くリラ。よっぽどハツノが怖いのかそれとも息が苦しいのか、涙目になっている。
「…ならよし」
「っぷぁ!!けほっげほっ!!…押さえすぎですよ、ハツノさん…」
息の上がったリラがハツノにクレームをつけている。まあハツノの方は全く気にしていないようだが。
「どういう方面のことをするんだ?それだけ教えてくれよ。一応言っとくけど筆記試験とかじゃ絶対に受からないぞ…というか開始三分でギブする自信がある」
「凄まじくいらない自信ね。まあ記憶がないんだからそこらへんは考慮してるわよ。それじゃあ明日の朝にここに来てくれる?準備しとくから」
「わかった。じゃあ明日な」
「あ、そうだ。あなた今夜泊まるところは?」
「あ」
しまった。色々といっぱいいっぱいだったからそこまで気が回っていなかった。
「…決まってないのね。この事務所の二階に資りょ……客間があるからそこに泊まっていいわよ」
「おお!ありがとう!」
いいのよ、と言いながら書類処理に戻っていくハツノ。
「え…と、じゃあ私は自分の職員寮に帰りますね。キルヨさん、ご無事で」
悲壮な声でそう呟くリラ。ちょっと待って明日やる試験ってそんなにもやばいのか?
………早まったかもしれん…
そんなことを思いながら、その夜は完徹で書類を形すると意気込んでいたハツノに代わって晩御飯と夜食を作ってあげた。それと二階がものすごく汚かったので掃除してあげた。ついでに洗濯物も溜まっていたので全て洗った。
「キルヨちゃん、あなた事務員……いや、私のお嫁さんにならない?」
と、先ほど断られた時とは打って変わってすごく真顔で言われた。
何と無く、心に決めた人がいるので、と断ったら本気で落ち込んでいた。
突然そんな事を言い始めた訳を聞くと、
「だってこんなにも綺麗な事務所見るの初めてだもん!客間に資料が全く無いなんて始めて見たもん!夜に暖かい…暖かくなくても、ご飯が用意しなくても出てくるのがこんなにも幸せなことだって知らなかったんだもん!!いつも夜ご飯は保存用の干し肉を一人で寂しく食べてるんだからあぁぁ…うわあぁぁ…」
と言って泣き出してしまった。
…というかその生活は不憫すぎるな。俺でも泣く。
そんな一悶着もありつつ、
翌日が、やってきた。