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神様と棺桶

はい、神様の話です。

神との初会話。


それは唐突に始まった。



リラと風邪ですか?いや誰かが噂してんな的な会話をしている時に天上から声が降ってきたのだ。


『はいドーン!!!!!』


「うわぎゃあああああああ!!!!?」


超爆音で。


「え?え!?どうしたんですか!?キルヨさん!?」


しかも俺以外には聞こえないという有難いけど迷惑な仕様付き。


「い…いやっ何でもな」

『はいドーン!!!!!』

「いよ。だから気にしなくてい」

『はいドーン!!!!!』

「いよ。ちょっと足を滑らせただけだか」

『はいドーン!!!!!』

「うるッせェよ今俺が喋ってんだろうがっ!!!!」

「ひゃあっ!?本当にどうしたんですか!?キルヨさん!?」


まずい。このままじゃ俺が変人扱いされちまう!


もうされてるだろ、とかいう意見は聞かない。


(誰だよ!?誰だよお前!?)


タムラはこんなことしないだろうしそもそもこの声はタムラじゃない。


『ん?神様だけど?』

(…お前が神かよ……)


予想通りというか予想の斜め上というか…なんか力抜けるわ。


『ちょーっと言いたいことがあったからタムラに天啓マイクを借りてるんだー』


『ちょっと!何やってんですか神様勝手にそこらへんのもの弄らないでくだぶふぁっ!!』


(………今の声は?)


『ん?ゴキブリが出たから潰しただけだよ?』


そうか…あいつゴキブリか。


タムラ……ゴキブリかぁ……


「…何にやにや笑ってるんですか?キルヨさん…」

「…なんでもない」


まずい。遂にリラの視線が変なものを見る目つきに変わってきた。


(要件があるなら早く言ってくれ。そしてもう少し音量を下げてくれると助かる)

『これでOK?』


その神の声はかなり小音に絞られていた。

(ああ、OKだ。ありがとう…で?一体何の話だ?)


『うん…実はね。昨日までは君が今そこにいる世界の脅威…まあ魔王らしいね。その魔王を君が圧倒的すぎる力で倒す(オーバーキルする)未来が見えてたんだけど、君を召喚した瞬間にその未来が書き換わってね。なんか勇者っぽい恰好いい鎧を着た女の子が他の仲間たちと頑張って魔王に辛勝する未来になったんだよ』


つまり、未来が書き換わったんだよね。と、先程と同じ事を言った神は満足そうな、それでいて吹き出すのを堪えるような腹が立つ沈黙をよこしてきた。


(………つ…つまり?)


いや、だいたい神が何を言いたいかは察したが、実は違うのかもしれない。いや、違うだろうそうに違いない違うに違いない。


『つまり君は異世界に来て僅か1日も経たずに用済みってわけだ!』

「ああああああやっぱりぃぃぃぃぃ!」

「きゃぁぁぁぁぁっ!!?」


リラが何か叫んでいるが気にする余裕がない。


わざとそこだけ大音量にされた神からの宣言にかなり混乱している。


混乱する頭で必死に考え、まずはリラに言っておかなければいけないことがある、と気付く。


「………リラ」

「な、なんでしょうか」



「俺…ここで働くことになるかもしれない」


そう言った俺の顔はどんな風だっただろうか。


泣きそうだっただろうか。


それとも笑っていただろうか。


俺には分からなかったが、リラが驚いた顔をしているのが印象的だった。


『マジ泣きしてたよ!そうだ、君みたいなかっこいい系の人がそういう弱い面をたまに見せたら女の子はころっと落ちるって聞いたことあるよ』

(うるさい黙れ)


「き…キルヨさん!?大丈夫ですか!?どこか痛いんですか!?」

「大丈夫大丈夫、ちょっと泣きたい気分になっただけだから」

「どんな気分屋ですか!?絶対何かあったでしょ!?」

「目にゴミが入った」

「それでそんなにも号泣!?」


ノリがいいなこの子。


「ちょっと待っといてくれるか?すぐに終わるから」

「………はい」


全く納得いってない表情で了承の意を示すリラ。


リラには悪いがここは譲れないので、諦めてもらうしかない。


(……で?俺は何をすればいいんだ?これからは)

『……随分と状況を受け入れるのが早いね』

(なんだかんだでいろんな経験をしてるからな。いきなり目の死んだ天使に下界に突撃させられるとか)

『あはは。命令したのは僕だよ。でもタムラを殴るだけで満足してくれると嬉しい』


そいつは無理な話だな。俺は実行犯も首謀者も全員ぶん殴る。


『はは…君なら本当にやりそうだ…これから何をすればいいかって話だったね。何でもいいよ?君の性格じゃあ世界の脅威になることもないだろうしね。折角だからその街で教師でもしてみたらどうだい?』

(ああ。俺もそれはちょっと思った)


実は小学校の先生が前世の夢だったからな。こっちでやり直すのもいいだろう。


『わかったらほら行きな?リラちゃんが君の事心配してるよ?』


リラがいた方を見ると、確かに彼女は先程と同じ体勢で心配そうな顔でこちらを見ていた。


(…分かった。まずは神の助言通りにしてみるよ。その後のことはそれから考える)

『OK。まあ僕も暇じゃないからね。今後はたまにしか来ないけど、どう?折角だから今回の人生の目標でも教えてよ』


……人生の、目標ねぇ。


(………俺は…とりあえず神を一発ぶん殴る。)


そう言うと、神はそうかいとだけ言って俺との会話を切った。


「………ま、冗談だけどな」




side神様


「……そうかい」

鬼人の女にそう言って天啓マイクの電源を切り、そばに置いてあったコーヒーを啜った。


息を一つついて、


「うっわあ鳥肌凄っ…おしっこちびってないかな」


腕と股間を素早くさすった。

うん、大丈夫だ。


ていうかなに!?あの女!

最後のあの台詞!!マジで怖かったんだけど!下界の生物相手にビビったのって初めてなんだけど!?


「…う…」


そんな恐怖をあの女に感じていると、さっき叩き潰したタムラ(ゴキブリ)が目覚めた。


「おはよう。気分はどうだい?ゴキブリくん?」


ああ、悪かったからそんなゴミを見る目でこちらを見ないでくれるかな?ゾクゾクするじゃないか。


「……最低の気分です…で?どうでした?あの女…『原村京子(キルヨ)』は?」


ふむ。


この部下は僕の彼女を見た意見を聞きたいらしい。



「…まぁ正直に言うと、やばいよね」

「……やばい?」

「知ってるかい?矢場いって言うのは、矢場…矢を射る場所を装って違法商売をしている輩がいたからそういう場所をやばいって言うようになったんだ」


ゆっくりと僕の言葉を噛み砕いたタムラは首を傾げつつ自分の見解を見出したようだ。


「つまり、キルヨは唯の人間に見えるけど、本当はもっと違う存在…って事ですか」

「そうなるね。簡潔に言うのなら『邪神の棺桶』だね」

「邪神ッ!?」


がたん、とタムラが座ってた椅子を蹴飛ばす。


おお、驚いてるね。まあそうだろうね。そんなのなかなかお目にかかれないどころか話も聞けないからね。


「何ですか?それ」


ちょっとずっこけそうになった。


「……君は邪神の意味も知らないのかい?」

「いえ、それはわかります。全ての者に死を与える、闇より出でし絶望…ですよね」



「そうだね。それで概ね合ってるよ」

そう言いながら二つのコーヒーカップを出してコーヒーを入れる。


あ、最高級のカステラがある。食ってやろう。


「ですが、かの方は神様が殺したのでは?」


……殺した(・・・)…か。


「…神はね、殺すことは出来ないんだよ。ただ長い眠りにつかせるだけ」

「…では、まだ邪神は、生きているのですか?」

「生きてるねぇ。彼女の中で(・・・・・)


僕の言葉を聞いた彼は少しの間黙って、やがて口を開いた。

「キルヨに教師職を勧めたのも何かの考え、ですか?」


どうやら彼は録音していた僕等の会話を聞いたらしい。


「ああ、少しでも自分の好きな存在ってーのを作ってくれれば、あの男が眠りから覚めた時に枷になってくれるかもしれないからね。幸いにも彼女は人を好きになりやすい性質らしいし」


「神なんてものに、神が直々に作り、例え神が目覚めたばかりとしてもただの生物が勝てるとお思いですか?」


「そりゃあ負けるさ。普通なら(・・・・)…ね」


「キルヨは普通ではないと?」


訝しげな顔をするタムラ君。まあ僕だって事情を知らなければ同じような反応をするだろう。


ではこの僕が教鞭を取ってあげましょう。


「タムラ君、ここにある薬缶の水全てをこのガムシロップの容器に収められるかい?」

「無理でしょう」


そうだね。そりゃ無理だ。誰だってわかる。


「なら、どうやって今彼女がたった一人であの男の魂を押さえ込んでいるか、わかるね?」


そこまで言ってやっとタムラ君にも得心が行ったようだ。


「キルヨ自体が、神レベルの魂(薬缶の水)を収めることができるだけの器を持っているってことですか…?」


「そういうこと」


タムラ君がため息を吐きながら目頭を揉んでいる。まあいきなりこんなこと聞かされても困るよねー


「まあまあ、元気だしなよ。カステラ分けてあげるからさ」

「あ、ありがとうございます…ってこれ俺のとっておきのカステラッ!しかももう殆ど無いし!!」

「ああ、戸棚の中に落ちてあったから拾ったんだ。いやーこれ美味しいね。誰が落としたんだろう?」

「それ落としたって言わねぇよ!?置いてたって言うんだよ!?」


うるさいなあこの子。


「……減給」

「どうぞお納めください神様」


態度はこれで改まったね。

でも心がこもってないなぁ


「ってことで最後の一切れまで全て僕が食べます」

「ぎゃああああああ」


涙を流しながら崩れ落ちるタムラ君。


それにしてもこれすごい美味しいな。


「あ、そうだタムラ君。この話を聞いてしまったからには君にもがっつりと関わってもらうよ?」

「嫌です絶対嫌です!」


そんなに拒否しなくていいじゃないか。


「じゃあ仕方ないね。命令しよう」

「うわああああああ!!うわああああああ!!」


叫びながら耳を塞ぐタムラ君。そんなにも嫌なんだねー


目と耳を塞いで叫んでいる彼を尻目に彼の机の中を漁る。


あ、たけのこ発見♪本当はきのこが良いんだけど、まあ妥協しよう。


「うわああああああ!!うわああああああ!!」

「うるさいなあ。『お口チャック』」

「〜〜〜〜〜!!〜〜〜〜〜!!」


口が開かなくなってパニックになるタムラ君。


これでやっと静かになった。でもまだ目と耳を塞いでるね。


「……『静聴せよ!!』」


ずばっ!!と直立して体の横に手を付けるタムラ君。

うん。いい姿勢だ。


「…今の彼女の魂は幾度にも渡る転生で疲労している。正直、僕が数多の知識をカムフラージュに新しい封印術式を送り込まなければ既にあの男が目覚めていてもおかしくないほどだ」


そうだ。しかも僕は人格の変更などは一切していない。それなのに一人称が変わったり女の子を恋愛対象として見るようになったり男を恋愛対象から外したのは…


もう、追加の封印術式程度では彼を抑え込むことは出来ないと、そういうことだろう。



「本当勘弁して欲しいよ…」

「勘弁して欲しいのはこっちですよ…おい無視かコラ」


何か…彼女にとっての大切な人を作るには…


「…いいこと思いついた」


ふふふ…これはタムラ君にも死ぬほど……いや、死ぬまでがんばってもらわないといけないな…




あ、死んでもきちんと蘇らせるよ?



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