おのぼりさんと学園都市
誤字修正
リラの貨幣価値の説明で
十万リブ→百万リブ
に変更しました。
この世界は基本的に物価が低いので、大銀貨が何枚かあれば大体のものが買えてしまいます。なので十万リブの貨幣はありません。
…そういうことにしといてください……
「……ここが、私の住んでる街……『学園都市カウェル』です…」
「いや、本当悪かったから機嫌直してくださいってちょっと泣かないで!?」
さて、街の前に到着したのだが、門番のおっさんにめちゃくちゃ睨まれてる。
その原因がリラ……いや、俺だ。
どうやらこの世界の人と俺ではかなり身体のつくりが違うらしく、リラは途中で気絶してしまい、起きてすぐに泣きだしてしまった。そしてそのまま門の前についたので、どうやらおっさんの脳内では幼気な女の子を泣かせてる変質者的な扱いを受けているらしい。
「いや、俺襲ったりしたわけじゃないからね?」
むしろ助けた。助けたはずだ。
いや、念のためここまでの出来事をリラの視点で整理してみようか。助けてないと思われてる可能性だって皆無ではない。
骸骨の大群に襲われたと思えば鬼がやって来て全てを叩っ切った後にお漏らしを指摘されて謝り倒した挙句に未使用かどうかもわからないぶかぶかの下着を穿かされこの世界では到底体験できないような超速でもって気絶させられた挙句泣かされた。
うん。たった一日で不幸の連続すぎるな。俺なら念のため遺書を書くかもしれん。
流石にここまで悪くは思っていないと思うが、これは門番に睨まれても何も言えない…のかもしれない。
というか命を助けたのにここまで悪く思われてるんだったら俺人間不審になるかもしれん。
「じゃあなんで泣いてるんだ?」
「いやー…まぁ、いろいろあって…」
「クダさん、その人は私を助けてくれたんです…たぶん」
「おねーさんそこはたぶん抜いて欲しかったなー…」
「あんな事するキルヨさんが悪いんですよ?」
おっさんはようやく立ち直ったリラと和気藹々と喋る姿を見てようやく俺が何もしていないと信じてくれたようだ。
「えっと、紹介します。こちらはこの街の凄腕門番のクダさんです」
クダさんは使い古された騎士鎧が顎に生えた髭となんともマッチした渋い男前だった。
「おう。宜しくな!お嬢ちゃんの恩人なら大歓迎だ!」
「こちらこそ〜」
そのあとリラが俺の事も記憶喪失のことは隠して偶然森で助けてもらったって感じでクダさんに紹介してくれる。その内容を聞くにあまり酷くは見られていないようだ。むしろ過剰に褒めちぎってくれる。
しかし人に異常に褒めちぎられるのってこんなにもくすぐったいことなんだと初めて知った。
そのまま街に入ろうとした時に問題は起こった。
「おい、入門税はどうした?」
「……ナンノコトデショウカ」
そう。この世界では街に入るには入門税がいるのだ。
何故頭の中にぶち込まれた知識にそれが入ってない!?
「え?キルヨさんお金持ってないんですか?そのリュックの中は…ってうわああっ!!なんですかこの剣の量!?どうやって入ってるんですか!?気持ち悪っ!」
「……おい、なんだこのリュック…何本でも出てくるぞ…?」
「ああ…少しくらいなら触っててもいいぞ…俺はちょっと…向こう行ってるから」
そんなことを言いながらも俺の頭の中は一つの思念が占領していた。
『タムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこいタムラ出てこい』
『うるせぇよっ!!!』
やっと出てきたか。遅いな。
『遅くねぇよ!かなり早いよ!?』
『ちょっとお願いがあるんだが』
『まさかの無視!?』
『あーはいはい悪かった早い早い…それでさ、俺の持ってたゲーム内の資金をこっちの貨幣に換金して欲しいんだよ…できるか?』
『………わかったよ。お安い御用だ。無銘刀の後ろあたりに入れとくぞ』
『ありがとな』
『ああ…あと、近々お前に重大発表があると思うから。』
『重大発表?…まあ覚えとくよ』
そう言ってウィンドウを閉め、リュックの方に向かった。
よし。俺は溜まればすぐにアイテムに変えてしまう人だったのでたぶん五桁くらいしか溜まっていないが、この場を乗り切るのは十分だろう。しかし後々まで暮らすことはできないだろうから何か働き口を探さなくちゃな。
というか、俺はこの世界を救わなきゃいけないんだよな。そういう行動を取った方がいいのか?それとも俺が何しても結局は世界を救う運命になってるのか?というかそもそも何から救うんだ?
…やばい、もっと契約内容を確認しとくんだった…
そんな後悔をしつつ門の前に戻る。
「お待たせ」
「あ、お花摘みは終わったんですか?」
お花摘み…?トイレのことか。違うんだけど、まあそう考えてくれた方がいいな。
「おう。で、入門税っていくらなんだ?」
「ん?入門税はこの国ではどの街でも一律1200リブだぞ…なんでこの程度のこともしらねぇんだ?旅人には常識だろ?」
「き、キルヨさん!1200リブです!早く渡してください!」
話をそらそうとしたリラが俺を急かすが、俺の欠陥だらけの知識はこの程度ではない。
「えーと…1200リブって、金貨何枚?」
そう。俺は金の単位すらわからない。何故宗教のことは頭に入ってるのに金の単位は入ってないんだ?
「………………」
「あー………銀貨一枚と小銀貨二枚です」
いよいよ可哀想なものを見る目になってくるクダさんとやっちまったーって感じのリラ。
「ごめん、金貨しかない」
ウィンドウを開けて鞄の中を見ると金貨が78000枚ちょっと入っているようだ。
…タムラがゲーム内の数字を丸ごと金貨で換算しやがったのだ。
鞄から金貨を引っ張り出そうとすると、異常な数の無銘刀が邪魔をする。正直金貨の枚数よりも断然多いから当然といえば当然だ。正確に言えば刀は196486本だ。
そもそも全てが抜き身でその中に手を突っ込むのはすごく危ないので、自らの手で引っ張り出すことを早々と諦めてウィンドウから一枚クダさんの手のひらに落とした。何故かすごい達成感だ。
そんな俺を呆れた目で見てくる二人。
「……私が払いますから、それを崩したら返してくださいね」
「おい、それでいいのか嬢ちゃん。何やら凄いことをスルーしようとしてるぞ」
「いいんですよ。もう、どうでもいいです…早く寮に帰ってまるまりたいです」
何故かリラが俺の分の入門税まで払うことになったようだ。
「えー、じゃあこれリラにあげるよ」
「いっ!?要りませんよっ!?」
お礼に金貨をあげようとしたら却下された。
何故だ。七万枚もあるのだから別にいいだろうに。
「良くないですよっ!!金貨一枚って百万リブですよ!?」
「ごめん。その百万リブがわからない」
そう言うとリラはがっくりと肩を落としてしまった。
「…鉄貨が一リブ、銅貨が十リブ、小銀貨が百リブ、銀貨が千リブ、大銀貨が一万リブ、金貨が百万リブです。千リブあれば大衆食堂でそれなりのご飯が食べられます。百万リブって言えば何枚かあれば安めの家具が一式揃いますよ…?」
ふむ。貨幣価値は日本とあまり変わらないか。
「それをかんたんにあげるなんて言ってって聞いてるんですか!?」
「ごめん。聞いてなかった」
「………うぅ、なんでそんなに笑顔なんですか…」
満面の笑顔を顔にたたえながらしっかりと疑問に答えてやると、何故か顔を赤らめたリラがそっぽを向いてしまった。
「ちっ、いちゃいちゃしやがって…独り身は辛いぜ」
これまた何故かクダさんが黄昏ていた。
「うぉぉぉ……」
「ふふ、びっくりしましたか?ここが『学園都市カウェル』です。始めて来た人はもれなくこの光景に目を奪われるんですよ?」
その光景はリラの言う通り人によれば異常と感じなくもないものだった。
全員、生地の色は違えど横にラインの入ったお揃いのローブをきていたのだ。
まあ、その程度ならばそれ以上の統一性を持つ制服というものを知っている俺は驚かなかっただろう。しかし全員。
そこらへんで八百屋を営んでいるおばちゃんも花に水をあげている少女も子供達にクッキーを配っている神官のロザリオを胸に付けた上品なお兄さんもそしてその子供達も全員色は違えど同じ横にラインの入ったローブを着ているのだ。
「すげー…」
そうとしか言えない。
「ふふふ…キルヨさんでもびっくりすることがあるんですね」
「そりゃ、俺でも驚くことはあるさ。人間だからな」
「え?」
「ん?」
いや、リラさん。なんでそこで驚くんですか?もしかして俺の事を人間以外の何かと思っていたんですか?
やばい。へこむ。
俺が内心凄く傷ついていると、リラが自分の側頭部をぽんぽんと叩いて「キルヨさんは魔人じゃないんですか?」と言った。
「……あ」
そうだった。この世界には人間並かそれ以上の知能を持った存在が複数存在しているんだった。
全ての人型の原点であり天こそが全ての母と考える能力分布で全ての種族の間に入る存在
【人間族】
長所は万能性。短所は器用貧乏。
獣と心を通わせ知力と魔力を犠牲にし、力強い獣の身体に進化した自らの力のみを信じる、身体能力に特化した存在
【獣人族】
長所は身体能力の高さと獣と心を通わせられること。短所は魔法に弱いこととやや頭がゆるいこと。
海を全ての母とし魔力を完全に消し去ることで、海と生活を共にする道を選んだ存在
【魚人族】
長所は環境への適応性と水の生き物と心を通わせられること。短所は魔法が全く使えず、また魔力への耐性も無いこと。
森こそが全ての生物の原点とし身体能力の代わりに魔術を特化させた存在
【森人族】
長所は木々の声を聞けることとその高い魔力と魔力への耐性。短所は低い身体能力。
そして
出自も信仰対象も犠牲にした能力も全く不明な全てが特化した存在
【魔人族】
後はそれぞれの種族が闇に堕ちた成れの果て
【闇人族】
などがいるが基本的にはこの五種族だ。後はそれぞれのハーフなど。ハーフはそれぞれのいいとこ取りだったり欠点取りのノ○タ君状態だったりどちらかの種族に偏っていたりするそうだ。
「あ、ああ魔人族だよ。俺のところでは人間っていう大まかな括りで呼ばれていたんだ。」
「そうなんですか…って記憶が戻ったんですか!?」
「いや!?いやいや最初も名前は覚えてただろ?そもそもある程度の記憶がなきゃ喋ることもできないって!」
俺の必死の説明になんとか納得してくれたリラはならいいですと言って足を動かし始めた。当然俺もそれに追従する。
「リラさんリラさんそんなに急いでどこ行くの?」
「学園に帰還届けを提出するんですよ。後は授業再開の手続きです」
なるほど。そんなの出さないといけないのか。まあ俺には関係ないかな。この世界の危機を救わなきゃいけないし。
「で?キルヨさんはどうするんですか?」
「ん?じゃあついて行こうかな。」
まあここで本格的に働くようなことはないだろうけど。
人、これをフラグと言う。
次話は勇者の初登場となります。
そしてストックが切れた