ヒロインと下着
間に合ううちは
二日投稿して一日休む
を繰り返したいと思っています。
ま、ストックなくなったけど。
あと、おもらし描写あります。苦手な人は戻るボタンを押した後一回深呼吸してこのページに戻ってきてください。
sideリラ
自分がついてない、そう感じたのは何度目だろう。
目の前にはスケルトンが三十とちょっと。私だけでなんとか倒せる量だ。
いや、私の目で見えているのが三十なのだ。そこらじゅうに隠れているに違いない。とすれば五十はいるだろうか。その中にはもっと強力な魔物もいるに違いない。
こんな森ならば、と万全の準備をして来なかった私の完全な失態だ。
これは一種類の魔物が異常な短期間で異常な数発生する[どか湧き]と呼ばれる非常に珍しい現象。
しかし、ただ学園の先生として授業で使う教材の薬草を取りに来ただけだというのにこんな目に遭うのは私くらいなものだろう。
「私も…ここまでかな?」
そうつぶやくと、急に死ぬという実感が湧いてきて、涙が溢れた。しかし諦めずに戦闘を続けていれば勝てるかもしれないと自分に言い聞かせる事でなんとか精神を保つ。
だが、徐々に包囲を狭めてくるスケルトンたちを切り殺し、疲れた手から券がこぼれ落ちた時に私は悟った。
これは戦闘ではない。
ただの、蹂躙だ。
その考えに辿り着いた瞬間、急に全身から力が抜けた。
剣を拾おうとするが、力の抜けた体は私の言うことを聞いてくれない。
そんな私に向かってスケルトンが無表情に錆びてぼろぼろの剣を振り下ろす。
おそらくあの刃では一撃で死ぬことはないだろう。
錆に肉を削られながら徐々に嬲り殺されることになる。
「…っまだ、死にたくないよ…ッ!!」
ついに私は蹲って叫んでしまった。
そして、私はあの人に出会ったのだ。
「…だよねー」
その声が聞こえた瞬間、私に襲いかかるはずの衝撃は無く、代わりにぱきゃん、という少々間抜けな音が私の耳に響いた。
恐る恐る目を開けると、そこにはスケルトンを素手で叩き割る一人の魔人族の女の人がいた。
濡れたような艶のある黒髪に、透き通るような肌理の細かな白い肌。
その声は通りが良く、思わず聞き惚れてしまうほどの女性にしてはかなり低い美声。抜群のプロポーションを持ったその人の両側頭部には赤みがかった魔人族の特徴である太い角が生えている。
こんな時に思うことではないのに綺麗だと思った。
つい見惚れてしまうほどの美しさを持ったその女性が右手を振り上げ、
「妖術じゃあ周辺にもダメージが入るか…じゃあ、刀で。」
と言った次の瞬間、
虚空から相手の剣を受けるのが不安になるほど薄く細い妙な形の剣が数十本出現し、ざざざざっ!と女性を守るように地面に突き刺さった。
「……さて、骸骨諸君。死ぬ覚悟はできてるかい?というか死ぬのか?君たち?」
私がそのことに驚いている間にこの人は何やらスケルトンに向かって話しかけ始めた。
「おいおい無視は酷いんじゃないか?それともあれか?そのかたかたいう音が君らの言語なのか?」
女性はなおもめげずに魔物との対話を試み続けていたけど、それに我慢ならなかったのか一際大きいスケルトンが女性に向かって突進して、
「話は最後まで聞けよ【千刃演舞】…開始」
凄まじい速さで振り抜かれた剣に細切れにされてしまった。
その時になって私はやっと気付く。
あの剣は女性を守るためにあったのではなく、女性が攻めるためにあったのだ。
スケルトンを目にも留まらぬ速さで細切れにしてから、その勢いに乗って他のスケルトンを唐竹割にする。
その一連の舞のような動きは洗練されていて無駄な動きなど一切なく、野生的な荒々しい美しさが満ちており、
「…綺麗」
まさにその言葉がぴったりの剣舞だった。
……こんな調子だからこの人に指摘されるまで気がつかなかったのだ。
…………私の股間を濡らす大量の水の事に。
sideキルヨ
「45、46、47、8、9…」
ひたすら骸骨諸君を切り刻んでいく。
「54、5…7ッ!!」
骸骨の頭に向かって刀を振り抜いた瞬間、柄が壊れて刀身が何処かに飛んで行ってしまった。
「最初四十一本出して…後六本か」
戦闘技能【千刃演舞】。
前提として二十本以上の刀を使用する技だが、これがまた攻撃速度、回避速度、攻撃力が1.5倍になるという素晴らしい技なのだ。
その唯一の欠点として、攻撃回数制限がある。…というよりきっちり三撃で必ず武器が壊れてしまうのだ。
つまり最低限である二十本だと六十撃しか攻撃できないことになる。
しかしまあ、あのゲームをやり込んでいれば相手が全滅するのと自分の武器が全て壊れるのをぴったりで揃えることだってできるようになる。
「はい、ラスト。六十二!!ドンピシャだぜ!!」
そして俺が最後の骸骨を倒したのと同時に四十一本目の最後の無銘刀が刀身から砕け散った。
「さて、お姫様はご無事かね?」
全く逃げる様子のない骸骨を削り殺す間に随分と遠くまで来てしまったようで、臭いからしてそれなりの距離があの美少女と俺の間にあった。
「おーい、聞こえるかー?」
「……」
口を少しだけ開いて俺の顔をじっと見つめる美少女。
どうやら彼女は放心しているらしい。
俺が彼女の前に立って手を振っても彼女は何処かへ飛びたったままだ。
……何か手を振るよりも刺激の強いことはないだろうか。
「……今すぐに反応しないとその柔らかいほっぺにちゅーしちゃうぞー」
「はっ!?はいっ!!?」
うん、やっぱりこの手は効果的だ。
前世でもこれをすれば大抵の女の子は飛び起きた。まあその後は息を荒げる子がいたり黙って目を閉じて顔をこちらに向けてくる子がいたりとあまりこの方法自体にはいい思い出がないが。
女の俺にここまで反応する相手の子に若干悲しみを覚えないでもない。
そんなにも俺は男っぽいか?
俺って言ってる時点で意味のない言葉だとは分かってるが。いや、前世では私だったか?
というかこんな美少女に好かれるのならば大歓迎だ。
「ぁ……あっありがとうございました!!すいません、しっかりと礼もできなくて…あっ私リラといいます!」
「ああ。俺はキルヨだ。」
放心状態から帰ってきた瞬間慌てふためいて立とうとするが、腰が抜けているのか立てず結局座ったまま礼を言ってくる。
その足元をしっかりと濡らしながら。
「いや、無事でよかった。…ちなみに君替えの下着とか持ってきてる?貸そうか?ちょっと大きいかもしれないけど。」
俺のその言葉に油の切れた機械のようにきりきりきりと下を向いた彼女は、
「……っきゃあああああ!!!」
本日二回目の絶叫をした。
知らんかったんかい
「す…すいませんごめんなさい申し訳ありませんっ!」
「いや、そこまでの事じゃないだろ、漏らすくらい…」
「ああああっもういやあああっ!!」
結局変えの下着を持ってなかった彼女、リラには俺の下着を貸した。ぶかぶかだがまあ街に着くまでの辛抱だ。さらに言うと腰を抜かしているので俺がおぶって街まで移動中だ。
背中が幸せです。はい。
「…汚しちゃったらどうしよう…」
「うん?凄いな、あれだけ出してまだ出るのか…なんだったらそこらへんでしてくるか?」
「もう出ませんよっ!?だって絹ですよ!?ワンポイントとかでもなく混じり気無しの絹十割の下着ですよ?すごい高級品じゃないですか!しかも全然使ってる風でもないし!!!しなくていい心配もしたくなります!!」
「ふーん、もしよかったらあげるけど?」
「……………いりませんよ」
この子、ちょっと迷ったな。三百九十六枚と凄まじく無駄にあるからあげても問題ないんだが。
「んで?今から行くのはどんなところなわけ?」
神は言語や習慣、宗教などは頭に直接ぶち込んでくれやがったが地理情報は全く入れられていない。
もっと観光ガイドとか入れてくれたらいいのに。
「旅の目的地の情報も知らないってどういうことですか…」
ふむ…異世界物だとこういうのは定番だが、自分がそういう質問をされるとはな。さて、どういう設定にしようか。
「済まんな。旅をしていたという記憶以外名前くらいしか記憶が無いんだ。」
「えっ!?じょ…冗談ですよね?」
「冗談だ」
そう言うと背中で何か力が抜ける感じがした。
「…やっぱり…」
「なんとなく旅をしようと思っただけで本当は自分があの森で何をしていたか、旅をしていた記憶さえもないんだ。」
「え…嘘…ですよね?」
その質問は黙殺する。
何故ならさっきの別にばれてもいい嘘とは違い個人的にばれてはいけない嘘だからだ。
バカ正直に神様に強制的に仕事受けさせられて転生して今ここにいるんですよ、なんて言ったら完全に危ない人認定される。というか神を愚弄したとかで殺されかねない。それ程までにこの世界には宗教が芯まで染み付いている。
神様なんてほとんど信じちゃいない一般の日本人だった俺にはわからないが、神にぶち込まれた知識から考えると多分教会が俺を罪人だと言えば普通の宿にだって泊まることは難しくなるだろう。どころか街に入ることさえできないかもしれない。
そんな可能性を少しでも無くすべく、俺は神のことを全て伏せて記憶喪失の女として振る舞うことにしたのだ。
「…そんなにも心配しないでいいよ。例えこの世界に俺の居場所がないとしても新しい居場所を作ればいいわけだし。それに記憶が無くなる前の俺を知ってる奴がいるかもしれないし。そもそもこれは俺の問題であってリラが気を揉む必要はない。」
そう言ったが、リラの声には元気が無いままだ。
「いや、そうじゃなくて…キルヨさんはすぐにでも旅に出てしまうんですか?」
ああ、そっちか。
「そうだな。ある程度落ち着いたらいずれ、と思っている。」
「そう…ですか」
そう言ったっきりリラは喋らなくなってしまった。
自分が原因とはいえ、俺はこんな美少女が沈んでいるのを見ているのは嫌なんだが…何より気まずいし。
というわけで、ちょいと励ましてみましょうかね。
「…リラ、確かに俺は自分の居場所を探すために旅をするつもりだ。」
「…はい。」
「でもな?俺だって他人を…しかもこんな可愛い子を泣かせてまで旅に出たいわけじゃないさ。」
そう言って手探りでリラの頬を撫でると、指先に微かに水気を感じた。
声からしてもしやと思ったが、まさか本当に泣いているとは。特に何もしていないのに、これが恩人補正なのだろうか?
「…ぁ」
どうやらリラは自分が泣いていることに気がついていなかったらしい。
「…取り敢えずリラが満足するまでは滞在するからさ、だから元気だしてくれ。俺は笑顔のリラが好きだよ?」
「すっ…!」
途端にリラの体温が上がったのを感じた。恥ずかしがってるのか?
「な?それでいいか?」
「は……はい!!」
うん。これが正解だったようだ。これでも泣くのをやめてくれなかったらどうしようかと少し焦っていたのは内緒だ。
そこからは色々と涙声のリラと話をしながら歩いた。
曰く、ここは『シグハイア王国』という国らしい。そして今向かっているのが『学園都市カウェル』という国中から学徒が集まってくる街らしい。
初めはただ学園があるだけの普通の街だったそうだが、その学園で学ぶ学徒に物を売ろうと商売人がやってきて戦闘訓練によるさ負傷を治すために治療院の者がやってきてといった感じでどんどん大きくなり、今では国でもトップの大きさを誇る街らしい。
ちなみにリラはその学園の教師なのだとか。完全に生徒側に見えるのに、人は見かけによらないものだ。
そんなことを話している間にリラの声に元気が戻ってきた。
「よし。リラも泣き止んだし、そろそろ走るぞ?」
「え…?走るんですか?」
そんなリラの疑問の声を聞きながら、彼女を背後から正面へと移動させる。わかりやすく言えば、おんぶから抱っこへと体勢を変えたのだ。
「おう。いくぞー」
脚部に力をため、一気に放出するとともに後方に向かって妖気を噴射してブーストする。
鬼人伝における最速の移動法、妖気ブースターだ。
「舌噛むなよー」
「えっ…てきゃあぁぁぁぁああ!!!!」
かなり速度を制限しての走りなのでそれ程体に負担はかからない。むしろジェットコースター的な楽しみ方ができる程だ。
「いやああぁぁぁぁぁ!!!」
うん。リラもこのジェットコースター的な感覚を楽しんでくれているようで何よりだ。
「ううっ……うぇ、えぐ、ぶえええええん」
「いや、悪かった。本当に悪かった。だから泣き止んでくれ。反省してるから。な?」
数分後、森を抜けた草原で泣きじゃくる少女とその少女に必死で頭を下げる妙齢の女性という妙なシチュエーションを見ることができたが、生憎そこには誰も通らなかった。