鬼と勇者
二日連続で投稿!そしてここで連続投稿は終了!
さらにここから今までの文章の粗を探して埋めて行く作業に入りますのでまたしばらく休むことになるかと。
もしかしたら一話か二話増えることになるかもしれないです。
初授業から一ヶ月とちょっとが経ち、六人はかなりの実力を発揮出来るようになった。
ちなみに俺の生徒達の一週間のスケジュールは、
一日を俺対六のボス戦的なものに刃引きした普通の武器で挑み、体力魔力全て使い果たす。
二日掛けて新しい戦略を練る。自主トレ。
二日掛けて俺以外の全員でノーダメ装備で総当り戦。
それぞれの弱点を探り合い、自分なりに対策を立てる。
休息。
と、こんな感じの超過密スケジュールなのだ。これで実力が上がらなければ詐欺だ。
まあそのおかげでリラは薬をいろいろと飲まずとも結構戦えるようになり、ヘレナに至っては皆の身体に叩き込む指導により魔導銃を扱えるようになった。
扱えなきゃ殺されるとこだった。
…まあ、それは置いといて、今はこれ
だ。
「いやいやいや………これは…」
俺が見ているのはハツノから貰った月刊シグハイア全国紙。元の世界で言う新聞だ。そこにはあらゆる情報が載っており、その内容は王の今後一ヶ月のスケジュールから騎士団長のスキャンダル、王宮料理人直筆の今日の献立、果ては国民公募の一行詩集など。
その中には今後の注目株として学園の成績優秀な生徒のプロフィールと顔写真が数人分載っており、そこには俺の物もあった。
しかしそんな物はどうでもいい。
「これはヤバくねぇ?なあ、やばいよな?」
俺が見ているのはそんな中の一面。見開きを丸ごと使ったそのページは勇者の特集で、この国の最新技術である魔道カメラによる勇者の写真も載っている。
その写真が……
「何呑気に月刊誌なんて読んでんだ!【ソニックエッジ】!」
「何でこんな奴に当たんないのよ!!【ウォータースピア】」
「バフを掛け直します!【ラビットフット】!」
「私も追従する!【エンチャント:サンダー】…っさらに【サンダーブロウ】!」
「これでどうだっ!!【ポイズンダガー】」
全員の攻撃が素晴らしいタイミングで全方向から『俺』に殺到し、完膚無きまでにその身体をズタボロにしていく。
しかし、各々が必殺の威力を持ったそれすらも、俺を誤魔化すためのブラフのようだ。
本命は、ヘレナ。
「これで…っ!【グラビトンショット】ォ!!」
その声と共に『俺』に着弾した音速の魔力の弾が、周囲の有象無象を巻き込んで通常の二十倍ほどの重力を発生させる。そうして先ほどまで立っていた土埃が全て下に落ちた後には…
「やった…」
それは、誰の声だったか。それはわからないが、その言葉は正に今の全員の心情を表していた。
と、言うわけで、【写身】解除。
先程まで重力で窪んだ地面に横たわっていた俺の身体がふっ、とずれ、そのまま風に消えていく。
「え!?ちょ、まさか…」
「そのまさかだよ?」
「ぅひゃぅっ!?」
最後の一撃をきっちり決めたヘレナの耳元でわざと低くした声で囁くように答え合わせをしてやると、そのまま腰が抜けてしまったようだ。
「くそ!!まだ生きてるぞ!」
「しぶと過ぎんだろ!ゴ【自主規制】かよ!」
「酷くねぇ!?」
「うるさい!あんた真っ黒じゃないのよ!あんたなんかゴ【自主規制】程度がお似合いよ!」
「はぁ…もういいよ。ところでさ、この月刊誌に書かれてる勇者カナコって何者?」
既に全魔力と全体力を消耗しきり、地面に座り込むみんなの前に月刊誌に載っていた勇者の写真を見せる。
みんな芳しくない反応を見せる中、ゲインが「あ、」と声を漏らした。
「それって勇者のカナコ・ニシムラじゃないですか。先生も勇者に憧れるタイプ?」
「はいビンゴーーー!!!」
この勇者カナコって絶対に俺の前世で友達だった奴だ!間違いない!間違ってたまるか!
「へぇ、それが勇者なのか?ゲイン」
「ああ。っていうかなんで誰も知らないんだよ!?自国が異世界から拉致ってきた勇者だぞ!?普通知ってるだろ!?」
………なんか今聞き捨てならない言葉を聞いた気が。
「拉致ってどう言うことだ?」
「いや、先生…昔の英雄譚とかを読んで考えればすぐに分かりますよ。勇者達は常に異世界から召喚されるけど、その時の最初の描写はこの世界に来て戸惑い、混乱している勇者だ」
ああ、つまり、勇者達は自分の意思でこっちの世界に来ていない、と?
「そういうことか?」
「ただの俺の想像だけどね…で?その子がどうしたんですか?」
「ああ、うん……」
これを言っていいのか、少し迷うが、まあいいか、と考え直して発言する。
「この子、さ…俺の知り合いかもしれない」
は?
という声が聞こえてきそうだった。
「……どういう意味だ?記憶が戻ったのか?」
一番最初に再起動したギドが質問してくるが、どうしたものか。別に記憶が戻った、でもいいんだけどな……
「…わかんねぇ。でも俺の記憶に関係してるのは確かだと思う。俺は、こいつのことを知ってる」
そう言うとギドはふむぅ…と少し考えた後、
「そうか、言ってくれて感謝する」
「…どこに行くんだ?」
「図書館だ。今までの勇者カナコの記録を見てくる」
と言って訓練場から出て行った。
「あ、ちょっ!待ちなさいよギド!」
そしてリリアがそれに追随する。
二人がいなくなった訓練場で、次に話しかけてきたのはリラだった。
「……で、キルヨさんはどうするんですか?勇者と会うために行動するんですか?」
……これも難しい話だが…
「いや、俺は特に何もしない。どっちかといえば避ける方向で動こうと思う」
「え?」
絶対に会いに行くと思っていたのだろ
う。ぽかんとした顔をしている。
「あいつはさ…昔は自殺志願者だったんだが、それを俺が助けたせいで俺に依存している傾向があったんだ。今回の事はいい契機だ。これであいつが俺なしでも生きられるようになるならそれに越したことはない」
「…そうですか。でも、そううまくいきますかね?」
リラがなんとなく言いにくそうな顔をしているので、続きを促す。
「…キルヨさんがこれを見てるってことは相手も見てるかもですよ?キルヨさんの名前と顔写真付きのこの月刊誌を」
「あ」
勇者side
「あーうー……」
一ヶ月で魔法を扱えるようになり、剣術もなんとか城の騎士に勝てるようになった。でも辛勝だ。それでも十分すごいらしいけど。
でも私の機嫌は下降気味だ。
「どうしたカナコ?気ぃ抜けた麦酒みたいな顔してんぞ?」
「テル、どんな顔ですかそれは…」
「もうそのまんま、こいつみたいな顔
よ」
「テル様、カナコ様は二日前に発行された月刊誌を読んでからずっとああなのです」
「二日前からこれか!?お前ら、よく我慢出来んな…」
「鍛えておりますので」
「カナコはどんなカナコでも見ていると幸せな気分になれますから」
「……お前ら人間出来てんなぁ…」
皆が私の事を心配してわざと賑やかにしていることは分かる。でももうちょい待って欲しい。今私はある事情で頭がいっぱいなのだ。
「しかしカナコ、お前何でこんなにも悩んでんだ?」
「……聞きたい?」
「……っ、頼む」
私の憔悴し切った顔に若干引いたテルだけど、どうやら聞くようだ。
他の二人もじっと聞き耳を立てている。
「…実は、私こっちに来る前に自殺したんだ」
「はぁっ!?」
「え!?」
「……どういうことですか?」
「うん…私、その一年くらい前にも自殺しようとしたことがあって…」
そこから、私はこの世界に来るまでの全てのことを話した。
「……で、その死んだ初恋の女にそのキルヨってーのが超絶似てる、と?」
「うん。顔もそうだけど、纏う雰囲気がすごく似てて…でも死んだはずだし…」
そうやってうだうだしていると、エミリアが「ならば会って確かめればいいではありませんか」と言う。
「会う?でもここからカウェルまではかなりの距離があるし…」
「確かに……いや、大丈夫だぜ!カナ
コ!『学園対抗武闘会』がある!」
「何それ?」
テルの話を聞くところによると、第一学園と第二学園の生徒が集まって戦闘能力を競い合う、そんなイベントがあるらしい。
「つっても、第一学園の方が指導内容もしっかりしてるから『処刑大会』なんて言われたりもするんだけどな…でも、そのキルヨって奴は月刊誌に乗るくらい優秀なんだろ?絶対出てくると思うぜ?」
「なるほど…じゃあ私もそれに出られるように鍛えなきゃいけないわけだ!よっしゃ!頑張るぞー!シューちゃん!指導お願い!」
「畏まりました」
「…………お待ちください」
早速練習場に出ようとすると、エミリアに止められた。でも、なんとなく言うのを躊躇しているようだ。
「どうしたの?」
「ーーー……カナコは、もしもこのキルヨという女性がその、……初恋の人、であったならどうするのですか?」
うん?……私はここから第二学園に移るのか…ってことかな?
「……正直、わかんない。でも、もしもあの人なら……」
「あの人なら?」
「……ううん、なんでもない」
【写身】
ポ○モンで言うかわりみ。影を加工し、自分と瓜二つの分身を作り上げる能力。
が、実力は二十分の一程度。さらに今回は大幅に身体能力を下げる装備品をたくさんつけていたのでその十分の一程度。つまり本来のキルヨは生徒が魔力体力全て使って倒した影の二百倍強いということを後で知らされる。
さらにそこからバフなどを使って、持ってるスキルも全て使う勢いで行けばそこからさらに二十倍程度は上がる。