ヘレナとリリア
初稿
千九百文字台
「いかん、文字数が少なすぎる!せめて二千中盤に…!」
次稿
三千文字後半
「…………」
「さぁて、次は誰がいく?」
そんな俺の言葉に今度はリリア以外全員がほぼ同時に反応する。
「私が行こう!」
「いや僕が!」
「俺だっ!俺しか居ない!」
「…リリア、お前は?」
「私はあんたとサシでやるわ。誰にも邪魔はさせない!ぶっ殺してやるわ!」
……すげえ気迫だな…
「まあ俺は殺されたくないんで、ヘレナ、リリアとだ。用意しろ!」
「……はぁ!?私がリリアと!?何故だ!?」
「逃げるっての!?とんだ腰抜けね!」
…おぉう、非難轟々だな。
「あー…まあ各自言いたいことはあるだろうが、俺としてはリリアもギドもヘレナも断片だけだが実力は分かってるんだ。まだ隠している実力も環境で出せなかった実力もあるだろうが、俺としては全く何も知らない二人と戦いたいわけだ。わかるだろ?」
特にレイド、あいつはどんな戦い方をするのか本当に興味がある。何故ならば、あいつの持っていた暗器はどれも鬼人伝にも出て来るものだからだ。ここに来てから見たどちらかといえば西洋風の武器とは違う使い方をするはずだ。
「まあそういうわけだ。さっさと準備しろ。日が暮れるぞ」
「うぅ…覚えていろよ!キルヨ!」
「次の授業は絶対に私とだからね!」
「へいへい…それでは、始め!」
手を振り下ろした瞬間、リリアの踏んでいた地面が爆ぜた。いや、そういう風に見えただけだ。リリアはただ走り出しただけだ。ギド程では無いとは言えども、そのあまりの身体能力の高さに目が付いていかないだけだ。
ま、俺はバッチリ見えてるけども。
「なぁっ!?」
そんなリラの動きに素っ頓狂な声を上げつつもきちんと防ぐヘレナは流石としか言えない。先程のギドを見失わなかっただけある。
でもリリアはまだまだ余裕綽々だ。
「さぁ……て、ヘレナはどこまで粘れるかね?」
ヘレナside
リリアの当たればただでは済まないような突きを躱す。獣は勢い余って私の遥か後方へと行ってしまう。すると、そこでリリアは地面に杖を突いて勢いを一気に殺した。
「ほらほらほら!これも付いて来れるのかしら!?」
今度は突きを呼出として発動した魔法が氷の礫となって襲い来るが、剣でレールを作ってやって軌道をずらす。
ふと、彼女を見ると本当に嬉しそうに笑っていた。
最初は嫌嫌そうだったリリアが、私が攻撃を躱し、いなす度に元気になっていく。
「ほら!ほらぁ!ちょっとは反撃してきなさいよ!」
「くっ…出来るならばとっくにしている!」
嘘だ。私が反撃出来るタイミングが今までにあったとしても私は反撃していないだろう。
まだ、そのタイミングではないから。
「ふん、避けるので精一杯って訳!?じゃあ避けんのも出来なくしてやるわ!」
「まだスピードが上がるのか!?」
ぎゅん、と一気に早くなったリリアの姿を一瞬見失ってしまう。
その瞬間
「ぐっ……ふ」
前から、後ろから、それすらも分からないような速さで繰り出された渾身の一撃。それは私の意識など有無を言わさず持って行きそうな力強さを持っていた。しかしキルヨの武器を使っているためか息が止まるだけだ。ゴホゴホと咳き込むが、それもただ勝手に息を止められた為だ。
少し頭を傾げ、後ろを見るとニタニタと笑うリリアが見えた。
「敵の力量を決めつけるのは良くないわよ」
「………身に染みる…言葉だ…自分にも言うんだな」
まだ休みたがる身体に喝を入れて無理矢理に動かす。
目指すは、リリアのいる所。
「まだ動けるの!?」
そう言ってリリアは私の側から跳び去るが、
「…それでは、避けたことにならんさ」
「…はぁ?って!何よその魔力!?」
……剣と鎧を着けて近接を気取ったが、例え壊滅的に才能がなくともやはり私の体に染み付いているのは銃のようだ。
リリアが迫って来るが、呼出は私の方が早い。
剣の腹に手を添え、安定させた切っ先をリリアに向ける。柄を持っている手の親指を上げて、身体側に向かって折りたたむようにして下げる。そして、人差し指を伸ばし、そして…
「【アイスワールド】!」
「…遅い」
そう言って、私は人差し指をーー…
「もう止めろ!暴発するぞ!どんだけ魔力込めりゃ気が済むんだ!」
ごっ、と私の頭に途轍もない衝撃が走り、そのまま意識を失った。
キルヨside
先程までとは打って変わって多少静かになった訓練所内。皆には適当に魔法無しで乱戦をしてもらっている。しかし、分かる。皆こちらを伺っている。
…こういう空気嫌いなんだけどなぁ…
皆の目線の先、訓練所の隅っこでは正座をするヘレナと仁王立ちをする俺がいた。そしてヘレナの頭にはこれまた見事なたんこぶができていた。
勿論、俺が殴ったからだ。
「全く、何をするかと思えば…なんだありゃ?自爆か?自爆なのか?練習試合で自爆するつもりだったのかお前は?」
「す……済まない…」
「済まないで済んだら規制隊はいらねぇんだよ!ここら一帯灰燼にするつもりだったのか?」
「いや…魔法を」
ごつっ!!と、再びたんこぶの頂点に寸分違わず俺の拳が落ちた。
「ーーーー〜〜〜〜ッ!!!」
「魔力込めれば魔法が打てるとでも思ってんのかてめえは!何でも多けりゃいいってもんじゃねぇんだよ!今回だってな!俺が用意した武器じゃなけりゃ一瞬で魔力に耐えられずにてめぇの腕ごと吹っ飛んでたぞ!」
「そ…んな、私は、ちゃんと…」
「…ちゃんと?」
「ちゃんと、魔法銃に込めるだけの魔力を込め」
ぐにゅん!と、再び全く同じ場所にげんこつを落とす。だが、なんだかたんこぶの出来過ぎで変な感触がした。
……次から別のところを殴ろう。側頭部とか。
「〜〜ーー〜ーー〜〜ッ!!!ごめんなさいっ!ごめんにゃしゃいっ!」
「……なぁ、何で魔道具が普通の武器よりも高いか、知ってるか?」
「……しりましぇん…」
だろうな。知っていればあんな無茶なことはしなかっただろう。
「そうだな…ヘレナ、蓄魔率って分かるか?」
さも当然のように頭を振るヘレナ。魔道具師や研究職くらいしか知らないことだから当たり前だ。
「蓄魔率ってのはな、その物質にはどの程度魔力を込めれば物質が壊れるか、っていう指標だ。大体だが、その蓄魔率が高ければ高い程貴重な物質になる。ということは値段が張る。ということは、魔力を大量に込められる物質がかなりの割合入っている魔道具は高い。分かるな?」
まあ、知ったような顔してるがこれも神の知識だ。そもそももとの世界にも鬼人伝にも魔力なんて物はなかったし。元の世界は言わずもがな、鬼人伝ではそういうのは妖力と呼ばれていた。最初は名前が違うだけじゃねぇの、と思っていたが基本教科を受講している間にどうも違うらしいことが分かった。まあ違いはまた今度。今はそれよりもこいつだ。
「ということは…」
「ああ、気がついたか。お前が魔力を込めてたのは蓄魔率が低いただの剣だ。もしあれの耐久性が異常に高くなけりゃすぐに爆発してもおかしくなかった」
「いや、あれをただの剣とするのはどうかとぉ!?痛い痛い!いひゃい!グリグリしないでっ!あああ痛い痛い痛い!しんじゃう!」
片方の手でヘレナの頭を抑え、もう片方の手でこめかみにダメージを与える。
たっぷり二十秒程もヘレナの悲鳴を楽し……無心で聞き流し、やっとグリグリをやめる。しかし頭は掴んだままだ。
「うぅ…もうお嫁に行けない…」
「俺がもらってやるから大丈夫だ。だが、これで反省してもう二度とああいうことはするなよ?」
「し…しかし私にはやはり近距離は難しいひぃぃぃいい!?両方!?ごめんなさい!ごめんなさいぃ!」
両手を拳にしてグリグリするが、今度は三秒程でグリグリを止めて代わりにヘレナの頬を両手で柔らかく挟む。
「うぅ………うぇ?」
「なぁ、ヘレナ?」
俺の呼びかけに少しだけヘレナが顔を上げ、涙の溜まった瞳をこちらへ向けてくる。
そのヘレナの額に、こつん、と自分の額を合わせる。
リラが
「あ!」
と小さく漏らした声が聞こえたがあえて無視した。ごめんリラ。後でめちゃくちゃ可愛がる。
「な…キルヨ?何を…」
「ヘレナ、あんまり俺を心配させないでくれよ…お前が死んじゃったら俺は悲しいぞ?」
「…………はい」
両手で挟んでいる頬がにわかに熱を帯びるのを感じる。ヘレナは視線をあっちこっちに泳がせた後、結局自分の膝をまじまじと見つめ始めた。
「ああもう!かわいいな畜生!」
「わきゃ!?」
辛抱たまらなくなった俺は勢い良くヘレナを抱きしめる。俺の胸に顔をうずめたヘレナは数秒後にタップを始めた。
俺の博愛固めはヘレナがタップを止めて、と言うかヘレナから力が抜けてぐったりするまで続けられた。
【アイスワールド】
周辺の温度を急激に下げる魔法。魔法式冷却装置にも応用されている技術だが、人が殺意と技術をもって扱えば即座に大量殺戮の手段となる。
ちなみに、ほとんどの魔法は魔力を供給し続けることでその効果を発揮し続ける。だが魔法を持続させるにはかなりの集中力がいるので使い手は少ない。