リラとギド
タイトルがネタバレ
「なんだ…誰もいないのか?さっさと立候補しないと俺とサシで戦うことになっちゃうよー?」
「俺がやろう!」
「私がやります!」
俺の台詞を聞いて先程まで目線で牽制しあっていた五人の表情が変わり、ギドとリラが真っ先に手を上げる。
「おっけ、ギド対リラだな。皆は訓練場の端まで行けよ。巻き込まれんぞ…ギド、リラ、一番最初だし全力で行け」
「ふむ、相手に不足なし、だな」
「キルヨさん!見ていてくださいね!あの日の私は実力の十分の一も出していませんでしたから!」
「おーう…」
気合を入れる二人の間に立つ。他の三人は訓練場に設けられた石の段差に腰掛けている。ソファではすぐに壊れるからそうなっているようだ。
「くっ、反射神経の差か…!」
「あんな装備つけて平然としてるようなバケモンと最初から当たりたくねぇよ…」
「何言ってんのよ!むしろ血が騒ぐわ!」
「え?えぇ!?」
「マジでか!これが上位か……」
そんな会話をしているのが聞こえる。どうもリリアが目線での牽制に参加していなかったのはそういうことらしい。
「さぁ、準備はいいかい?二人共?」
「ふむ、リラ殿は?」
「ちょっと待ってください…後一本です…うぷ」
リラは腰につけていた鞄から取り出した大量の瓶の中身を全て飲み干したいようだが、なかなか辛そうだ。まあ細い小さい瓶だがなかなかに多いからな。
「うぅっ…やっと飲み終わりました…けふっ、お腹たぷたぷ…」
「大丈夫か?もう始めるぞー?」
「もういいですよ…っぷ」
「本当に大丈夫かよ…ギド対リラ、始め!」
最初に動いたのはギドだった。
「最初から全力で行かせてもらいます!【サンダーレイン】!【エンチャント:サンダー】!」
ギドの呪文に呼ばれ、虚空から雷光がリラに向かって降り注ぐ。さらに自らに雷の特性を付与し、人体の限界まで疾くなったギドが突貫する。その速度が上乗せされた杖の先はもはや人間族が出せる速度ではなく、リラに避ける術はない…
と、おそらく俺とリラ以外はそう思っているだろう。
「すっごいですね。やっぱり疾い」
「……っ、全て避けられるとは思いませんでした…」
どうも驚いている様子の観客に向かって解説をしてやる。
「今のは完全にリラの地力勝ちだな。とは言っても薬で底上げした地力だが」
「先生…俺、今の全く見えなかったんだけど…」
「俺も…リリアは?」
「私は見えてるわよ。一体何回あいつの訓練に付き合ったと思ってんのよ」
「まあ今リラがしたことはただ一つ、「全部避けた」…それだけだ」
おうおう、ニ人とも絶句してやがる。リリアはなんとなく不満げな顔だな。もしかしてあの雷をあそこまで完璧に避けられないのかもしれない。
「そ…そんなことができるのか?私にも辛うじて目で追えたが、恐らく一撃でも避けるのは無理だぞ?体がついていかない」
「へぇ、ヘレナはあれの動きがわかるのか…まあリラだって素のままじゃ…っと、お前ら、試合が動くぞ!」
sideリリア
私はは本当は前衛よりも後衛に、後衛よりも後方支援に、後方支援よりも生産職に向いている。でもそれには才能と言われる物はあまり関係していない。
何故なら、私は歳を取らないからだ。
「全くっ、初授業でいきなりこんなのとかキルヨさんも鬼畜ですよ」
私が十歳の時、流れの薬師一家の娘として各地を放浪していた時に受けた呪い、それによって私の肉体的な成長速度は九十八%減少した。それはつまり五十年間何か一つの修行をしても一年分の成果しか上がらないということだ。
それが、百五十年前。
「ギドさーん?」
「ふむ?」
「後もつかえてますし、そろそろ終わらせます?」
「ふむ……そうですな。では、その胸を借りるつもりで」
「あんまり老いぼれに鞭打つもんじゃありませんよ…」
「何を言うか、まだまだ貴方は現役でしょう」
「…そうですね。無理をすればあと千五百年程度は現役でいられますね」
私のその言葉に、彼はたいそう驚いたように少しだけ口を開け、そのまま笑みを浮かべた。
「…全く、なんとも愉快なお方だ……行きます!」
「どうぞー」
雷を纏った男一人が凄まじい速度で迫ってくる。それは本来私程度では見ることもできないような速度だ。
しかし、今の私は本来の私ではない。
「これでっ!!【ブラックサンダー】!」
「そこまでします!?」
彼から放たれた雷は黒く、先程の数倍の速度と威力が込められているようだった。
しかし、まだ少しだけ弱い。少し弱い。まあまあ弱い。結構弱い。かなり弱い。弱い。
百五十年間この身体でも死なないために創り出した薬の前では、こんなのは弱すぎる。
「ていっ」
「まだだっ!」
私が雷を真っ二つにした瞬間、私の視界が白く染まった。
「おぉっ…呼出無しで魔王の遺物を出しますか」
「貴方にはこのくらいはしないと勝てそうにないのでな」
…む、今のはちょっとカチンときました。
「貴方は、私に勝てると思っているのですか?本気で?」
「『戦う相手には勝てないまでも勝つ気でいろ』というのが私の考えです」
「…そうですか、不躾なことを聞いてすみません【切り上げ】」
「ぐうっ!?」
私が放ったのは魔力を纏わせた剣を切り上げるだけの、剣を使う者が一番初めに教わるスキルだ。そのスキルを見た彼は一瞬で回避体勢に入り、その甲斐あって避け切った。
「まあそれでも、ですけどね。【切り下ろし】」
私が放った斬撃の後には二本の脚があり…
その脚にはくっきりと赤い線が刻み込まれていた。
「……ふむ、やはりお強い」
「どうも」
「勝者、リラ!」
訓練場の中にキルヨさんの声が響き渡った。
【切り上げ】【切り下ろし】
基本的な技の一つ。剣をただ切り上げる、切り下ろす。最年少習得記録は五歳。魔力による威力の底上げがなされているので普通の切り上げよりもよほど強いが、それ以上でも以下でもない。
技名
これから書いてあることはハチロク(作者)が物語の説明と描写が矛盾したから考えた苦肉の策ではありません。きちんと最初から決まっていた設定です。ということにしといてください
今更だが、この世界は俗に言うスキル、レベル制ではない。なのに何故技名を言うのか、というと殆どの技には基本的に魔力が必要だからであり、魔力を操作するためにはしっかりとしたイメージと魔力を動かす、という意思、そして鍵となる言霊(呼出と呼ばれる)が必要だからである。
しかし絶対に呼出に言霊が必要である、というわけでもなく、発動の鍵になるような物ならばなんでも構わない。手を振り下ろす、地面を踏みつけるなども有効である。しかし言葉に比べて自由度が少ないために種類は多く出来ず、そのため常用することが出来ないので使おうとすれば不慣れから集中を乱すので上級者でも相手の不意を付くために一つか二つ設定しておくくらいである。