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異世界大地とメテオ特攻

暗い暗い穴の中、私は今世来世含めて恐らくは最低の経験をした。


生きながら自分の全てを作り変えられる感覚。


「がああああ!!!」


思わず婦女子からぬ叫びを上げるが、そんなものは気にならない。


私の中に、俺が入ってきて、私と溶け合い、俺とは違う俺になる。

そうして新しくできた俺。それが『キルヨ』なのだとすぐに気がついた。


女子の中ではかなり高い身長の私の体がさらに大きくなっていき、さらにメリハリもついた自己主張の強い俺の身体へと変わっていく。

そして、知識。


俺の人格から始まり、身のこなしに武器の扱いにテーブルマナーに調理技術に数々の妖術魔術呪術神術錬金術製薬術調教術話術房中術召喚術飛行術算術救命術武術拷問術暗殺術……………


その他沢山のの知識がガードする間も無く俺にぶち込まれた。

普通なら気が狂うような膨大な知識だが精神は健康なままだ。


いや、壊れる端から治っていくのだ。


しかしそれは延々と破壊と再生が繰り返されるということ。




やめろ。


やめろやめろやめろやめろやめろやめろっ!!!


「止めろぉぉぉぉぉっ!!!!」


そう叫んだ瞬間、バッ、と、トンネルを抜けるように暗闇は終わりを告げた。


そこにあったのは眩しいばかりに輝く蒼い星。


先程までの光など一切ない暗闇を通ってきた者からすれば目が眩むような生命力に満ち溢れた蒼い星である。


星である。


そう。



眼下に、星が、あったのだ。


「……ってマジでかぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!!」


星の重力に捕まった体が一気にスピードを上げる。


ふざけんな!あの野郎知ってやがったな!!あの感覚もこの出現場所も!!


脳内で構成した仮想敵(タムラ)に向かって拳を振り抜く。


現在落下中なことも忘れて。









この日、この星でたまに降る流れ星とは比べ物にならないような超特大の流れ星が確認された。


その土地の人々は星々を神として崇めている。そのため流れ星を「神が死ぬ」と言って不吉の象徴にしており、さらにそれは大きければ大きいほど不吉であるとされた。


そしてすぐさま流れ星が観測された国を中心として大規模な上位種族召喚ーーー即ち勇者召喚をすることになった。

その勇者は様々な出会いの末にこの世界が天界へと送った救援要請の原因である魔王を倒す。


哀れキルヨは自分が活躍するために送り出された世界で、送り出せれ方が原因で活躍しなくてよくなったのだ。









「この痛みは絶対に忘れないからな。神…タムラ」


結論から言おう。


超痛いんだけど。


「絶対てめぇらに4.3倍くらいにして返してやるからな……!!」


そんなことを言うものの、傷自体は軽い火傷と全身に擦り傷くらいだった。新しい体が丈夫すぎて怖い。

しかもそのわずかな怪我でさえ既にほぼ完全に治っている。おそらくゲーム内のスキルである【治癒:上位:常時】が影響しているのだろう。


でも痛いものは痛い。それはどうしようもないらしい。

まあその痛みもタンスの角に親指をぶつけたようなものだからそれほど苦ではない。それにその痛みももう収まりかけている。


「くそっ、ムカムカする」

しかしこの憂さをどうしてくれようか。


そんなことを考えながら落下したところに出来たクレーターを這い登り、近くにあった森の中を何処へともなく歩いていると、不意に自分の服装に疑問を感じた。


「ゲーム装備……じゃあないよな。どう見ても。」


今の俺は麻のシャツに獣皮のコート、何かの皮で作られた分厚いブーツにこれまた麻のズボンを履いていて、作りの甘いリュックサックを背負っている。下着だけが絹の高級品だが、それ以外はゲームで言えば防御力皆無のネタ防具だ。[旅人の服A]みたいな。


「確か最終インの時は最強防具で固めてたはずなんだけどなー……というかまず武器がないってどういう…」


と愚痴りながらリュックサックを下ろして中身を見ると、

「……なるほど」


中に超が付くほど大量の刀が入っていた。


大体のRPGではスキルのレベルを上げるにはそのスキルを使わなければならない。それは俺のやっていたゲーム、【鬼人伝】でも同じであった。

俺はそのスキルレベルを最大まで上げるために全く同じ武器の数打ちをしていたのだ。


と、それよりも。

「これがアイテムボックス……不便すぎるだろー……ってうわ!」


もっとこう、メニューが目の前に出てきてそこから選ぶ、みたいな感じにできなかったのかよ。

そう思っていると、目の前に半透明のウィンドウが現れた。そこには50の四角形が並んでおり、その中にはもれなく[無銘刀×99]と書いてあった。


なんだこれ。クレームの対応早すぎるだろ…


「……アイテムの検索機能も欲しいんだけど?」


ウィンドウの右上に虫眼鏡のマークが現れた。


「…ついでにマップ機能も欲しいなー」


そう言うと、新しい半透明のウィンドウが現れて、そこに


『甘えるな』


と表示された。



『…チッ、心の狭い神だな』

『それほどでもない。あと俺は神じゃない。タムラだ』


声に出さなくても相手に考えが通じるのか。便利だな。

このウィンドウが出て来た時はタムラと会話できると考えればいいのか。


『しかしお前もやってくれたな…?いつか返してやるから待ってろよ?』

『逃げるから大丈夫だ。それよりもそろそろそこを動いたらどうだ?街なら北にあるぞ?』


そう言われて空を見上げる。しかし前世であればすぐに北極星を見つけられた俺だが、そもそもこの世界には北極星のような物が存在するのかも怪しい。

さて、どちらが北か。そう思った時に俺は一つのアイテムを思い出した。


「確か方位磁石があったはず…うん。便利だな。この検索機能。」

『だろ?これからも気がついたことがあれば変えといてやる。俺こういう作業好きなんだ。』


ふむ。声に出しても届くのか。いや、声に出す時に少し頭の中で考えるから通じるのか。


「おう。ありがとな」

そう言って会話を締めくくり、先程とは違い目標を持って歩き出した瞬間、


「きゃぁぁぁあああっっ!!」


絹を割くような甲高い叫び声がうっすらと聞こえた。


…かなり遠いな。


「イベントかイベントなのかそうなのか」

『完全にイベントだな。助けるんだろ?頑張れよ』

「てめぇ…他人事だと思いやがって…!」

『他人事だしな』

そんなことを話しつつも、俺の心はわくわくを抑えられずにいた。


不謹慎だが、こんな物語みたいな展開は中々体験できない。


「じゃあ、行きますか…」

『大丈夫、今のお前ならば楽勝の相手だ。』


背を押してくれたタムラに礼を言った後、軽く足腰を伸ばしてから、全速力で地面を蹴る。


一歩、


身体が空気を突き抜ける。


二歩、


身体が音を置き去りにする。


三歩目は踏み出さない。


慣性に従った身体が足を動かさずとも森を突き進むのだ。


その壮絶な加速に普通ならば足を止めるところだが、むしろその流れに乗るようにして進む。


「…なんだろう、身体が、この動きを覚えてるのか…?」


そう、まさにそういう表現がしっくりくるのだ。


完全にさっきぶち込まれた記憶が原因だな。


そう結論づけるとほぼ同時に、叫び声の上がった場所に到着した。



襲われてるのは十代前半の白いラインの入った紺のローブを羽織った美少女だった。


剣から手を離して地面に蹲り、涙を零している。

その横には、剣を振り上げた骸骨が一体。


「…っまだ、死にたくないよ…ッ!!」


「…だよねー」


その絶望に染まった声を聞いた瞬間全身の毛が逆立ち、俺は気がついたら骸骨を砕いていた。


…ま、さっきまでの新しいゲームを始めた時のような高揚感はしっかりと消え去った。


ここは、紛れもなく現実だ。でないとあんな人生を強制的に捨てさせられているかのような悲壮感に満ち満ちた声の説明ができない。


なんか…さっきまでこの状況をイベントとか言ってた自分を殴ってやりたい。


そうだ。ここはゲームではない。現実だ。


だが、俺にはこの現実をゲームのように片手間に解決できるだけの能力がある。


さて、さっきの反省も兼ねてこの美少女をさっさと助けますか。



感想、誤字指摘など下されば嬉しいです。

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