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閑話:キルヨのお掃除大作戦

はい、閑話です

「じゃあここ使ってね。私は徹夜で書類仕事だから」

「了解。中の物は動かさない方が良いのか?」

「いや、好きにしてくれていいよ。持ち出しは禁止ね」

「はいよ」


少し手を上げて返事をし、客間の扉を開ける。


「………これは酷い!」

「えへへ…」

「えへへじゃねぇだろ!ここは本当に客間か!?なあ!?」


まず目に入るのは大量の紙。次に目に入るのは膨大な量の紙。そして最後に呆れるほどの多さの紙。

つまるところ、もはや紙しか見えない。床すら見えない。


「これが客間?俺の知識ではこれは客間ではなく資料室…もしくは物置と呼ばれる物だと思うが?」

「だっ……だって!ここ以外に部屋がないもん!それにちゃんと『元』客間だし!」

「胸張って言う事じゃねぇだろーが!」


ということはこの中の何処かにベッドがあるのか?とハツノに確認すると、力強い頷きが帰ってきた。どうやらそのようだ。


「そ…それじゃあ、私は仕事が残ってるからっ!」

「あっこら待て!こんなんどうすりゃいいってんだよ!」


ハツノが凄まじい速度で逃げていった後、俺は仕方なく部屋を見回す。すると紙に埋れているものの壁に収納があることが判明した。それに…


「…ん?もしかして、ここの床下、空洞なんか…?」


しゃがんで床を叩く。すると思った通りに中身の詰まっていない音がした。


「……いけるな」


そういいつつ俺はアイテムボックスから無銘刀を取り出した。




sideハツノ


「あ…止まった」


先程から二階に感じていた振動が止む。どうやら客間の掃除は終わったみたいだ。


「にしても結構大きい振動だったな…二階に上がったらなんということでしょう!あの客間がこんなにも綺麗に!みたいにならないかな…いやでもガサツそうだしなぁ…キルヨちゃん」

「誰がガサツだって?」

「うひぃあ!」


ちょっと怒気の篭った声をかけられると同時に頭に鈍い痛みを感じる。そして浮遊感。


私は後ろからアイアンクローを受けていた。


「いだだだだだっ!?え!?何で!?何で、え、浮いてる痛い痛い痛い!!首抜ける!」


「ごめんなさいは?」


地面から足を離させた私をプラプラ揺らしながらキルヨが私に耳を寄せて低い声で囁いてきた。さっきまで聞いていた女性にしては低音の(それ)よりもさらに低い、男の様な声音にぞくぅっ………と全身に鳥肌が立った。そんな私を地面に下ろしたキルヨは私の耳に唇が付くほどに近づけ、再び

「ごめんなさいは?」

と言ってきた。


「は…はぃ、ごめんなさい…」

「宜しい」


そう言うと彼女はすぐにまだ心臓が跳ねている私の手を引き、二階へと上がっていった。


「それよりちょっと来てくれよ。見せたいものがあるんだ」

「見せたいもの?」


そう言って連れて来られたのは資料室の扉。


「ほい」

「………っっ!!?」


キルヨの手によってなんでも無いように開けられたその扉の向こう側は、まるで別世界だった。


真っ白で、汚れなど全く無い壁。その純白は何処となく誰も触れることの無い絹を彷彿させる。


床は全面足が沈み込むようなふかふかの毛皮に覆われ、素足で踏むことすら躊躇われる。


「机や椅子なんかの家具は取り返しのつかないほど汚れていたし、何より部屋の景観に合わなかったから俺が作ったのと交換したぞ」

「………」


そう言って指差した先にある家具は、安物では到底表現できないツヤツヤとした光沢を発し、しかし落ち着いたその意匠は部屋の雰囲気とよく噛み合っている。


「………」

「ど…どうだ?気に入らなかったか?」


キルヨがなんだか不安げに聞いてくるが、私はそれに反応する余裕も無かった。


「な…」

「な?」

「何これ!?どこの貴族の一室よ!」

「あ、俺もそれは作りながら思ったぞ」


しばらく思考が停止していた私だったが、ある違和感を感じてそれをキルヨに聞いてみた。


「あの…資料は?」

「うん?ああ。ちょっとこっちに来てくれ」


そう言ったキルヨは私を壁際まで連れて行き、そこで私の手を取ってその一部…和紙のような紙が貼られているところに触れさせた。すると、私が手を置いた場所を中心にして墨で書いたような記号や線がざっ!と浮かび上がった。そしてそのままなんの音も無く、四面の壁が消え去った。そしてその代わりにあるのが、夥しい数の書類、本、そして付箋。


「生徒名簿は南側の壁に一期ずつ分けて揃えた。個人の情報は名前順に。その他の書類もとりあえず音順に並べて入れといた。何か探したいものがあればこいつに言ってくれ」


そう言うキルヨにシーツで出来た不恰好な人形を渡された。


「こ…これは何?」

「ベッドは解体したけどシーツがちょっと勿体無かったから、司書を作ってみた。そいつに聞いてくれれば本のありかを教えてくれるはずだぜ」


私はその場で崩れ落ちた。


「ねぇ、キルヨ…あなた、それがどれほど凄いことかわかってるの?」

「え、逆にこのくらいできるだろ?」


彼女の言い方から察するに、おそらくこれはゴーレムなのだろう。そしてこの世界のゴーレムは作った時にすでに作業内容が決まっている。

例えば、『作られた場所から五歩進んで殴れ』とか、『壊れるまで穴を掘り続けろ』とかだ。決してゴーレムに後から命令を追加することはできない。しかしこのゴーレムはそれができるのだ。


と、そう思っていた時期が私にもあった。


「ほい、起動」

『あらあらあら!?ふむふむなるほど!理解しましたよー!つまりあなたが親であると!刷り込み完了!』

「お前の親はあっちだ馬鹿野郎」

「なんと!そりゃ失礼失礼!では刷り込み完了!」

「刷り込みってそう何回もできるもんなのか?」

「私ができるのだから仕方ないではありませんかー!」

「しゃ……喋ってる…!?」

「当たり前だろ?」

「ったりめーだ!でございますよ!」


私は自分の意識が遠くなるのを感じた。


ゴーレムについて


この世界には基本的に自立稼働するゴーレムはいない。何かしらの命令をもらわなければゴーレムは全く動かないのだ。しかもその命令も上書きができず、文中の通り、『作成地点から十歩歩く』などの単純命令を五つ程しかプログラムできない。索敵機能などを設置もできず、あくまでも役立たずである。


しかし、それは現段階でのこの世界の魔道技術力の結果であり、まだ発展の余地は残されている。

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