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居眠りとクラス

前回は張り切り過ぎました。


だが!反省も後悔もしていないッ!!


これからも外伝は読者の需要(仮)を無視することになるかもしれません。

 



 俺は、いつぞやの取調室のパイプ椅子に腰を下ろしていた。


「…何か…いやにむさい夢を見てた気がするんだが…また俺死んだの?」

「いや?まだ死んでねぇぞ?」


 いきなり後ろから声が聞こえて思わず飛び上がる。


「何だ!?あんた……って、」

「よう。久しぶりだな京子…いや、今はキルヨか?」


 そこには、男が1人座っていた。いや、座らされていた(・・・・・・・)


 男は拘束されていたのだ。


 ただのパイプ椅子に座った男を縛る鉄布。その下にはどうやら鎖を巻かれているようだ。


 肩を抱くように組まれた両の手の甲には太く長い杭が打たれている。それは手で止まることなど勿論なく肩を貫き、腹から飛び出ていた。途中で交差した所を固定するように背中からも杭が打ち込まれている。そしてそれも当然のように腹から突き出ていた。


「まあどっちでもいいか!はははっ!」

「……誰だよあんた。俺のファンか?」


 違うだろうが、何と無くそう聞いてみる。


「はははっ!違う違う!俺はお前の兄貴だよ」

「…痛みで頭おかしくなったか?」


 俺に兄貴はいない。今世でも前世でも。


 いや、今世はいるのか?そこらへんよくわからんな。


「おかしくなってないしそもそも痛くないよ。これは…ファッションみたいなもんだから」

「お前ファッション間違えてるぞ」


 そう善意の指摘をしてやると、男は何故か苦笑いで返してきた。


「いやまあそういうわけじゃないんだけど…っと、友達が呼んでるぞ。そろそろ帰りな」

「いやっちょっと待てよ!まだ聞きたいことがあるんっ…!」

「…俺はシバウラっていう名前だ…っつっても起きたら全部忘れてるが。


 キルヨ。よく2日で二人も友達作ったな。これからも頑張れよ!」





「ーー…さん、…ルヨさん!」

「んあ?」

「キルヨさん!起きてください!」

「…ここどこ?」


 と自分で言った瞬間、今迄のことを全て思い出した。正確に言えば、今日朝起きてリラをいじり倒した後にヘレナと共に三人分の朝食を作った後、学園まで来て入学式を受けているのだ。という所まで。そして関係者の名前を司会進行の男が羅列している所で俺の意識は途切れたのだ。


 まあ要するに寝落ちだな。


 ……それにしても、なんか、さっきまでなんか…くそっ、もやもやするな。思い出せないことを無理やり思い出そうとしてる時みたいな…


 と、まあそんな感覚は置いておいて、つまり俺は隣にいるリラに起こされたのだろう。


「…で?式は今どこらへん?」

「…その切り替えの速さはある意味感動的だな」


 俺を挟んで反対側にいるヘレナが呆れた顔で呟く。仕方ないじゃない。だって起きてられないんだもの。


「そろそろ校長先生が出てきますよ。まあ出てくるといってもあの人は…」


 リラが意味深に会話を切ったすぐ後、司会進行が校長先生の挨拶、と言い壇上から降りた。


 そして出てきたのは。


「なぁ…本当にこれ全部読まなきゃいけないか?挨拶なんだから『オッス、オラ校長』でいいじゃねぇか…」

「ダメに決まっているでしょう…新入生も沢山いるんですから本性を見破られる前に厳格で礼儀正しいイメージを作ってくださいよ…」

「仕方ねぇなぁ…えっと…『この度は、貴君等が誇りあるこの学校に入学する事を非常に嬉しく思う。しかし貴君等にとってここに来ることは』…うわっ敬語とか使うから蕁麻疹(じんましん)がっ!!」

「…あんたって人は!きちんと最後まで読め!身体中に蕁麻疹が出来て死んでも読め!」

「あー…『要するに頑張れ!』俺はもう帰る!」

「あっ待てこら!」


 校長とお付きの男が逃げるように会場から出て行った後、司会進行が何事もないかのようにやってきて会の終了を宣言する。どうやらこの後クラスの発表をするようだ。


 ちなみにクラスとは魔法学や戦闘術などの必須授業を一緒にするクラスだ。クラス対抗などのイベントもあるのでなかなか結束は硬いのだと、初めての友達は大体ここでできるのだと、リラは落ち込み気味に、ヘレナは興奮気味に俺に教えてくれた。


 ヘレナは友達という単語に憧れを抱いているようだ。かわいい。


 そしてリラ。君たぶんクラスに友達いなかっただろ。


 声に出せばヘレナが怖じけ付くのでそう目線で聞くと、ますます落ち込みが激しくなった。


 昨日の屋台巡りの様子では町の人には結構好かれていたのに何故だ。


「…ちょっと、趣味が合わないと言うか…年代が違うからですかね」

「あぁー…あるかもな」


 前世でも四〜五年違えば流行なんて全く違ったもんな。


「それに私は教師に専念しているので、やっぱり学徒のみなさんと私的な会話をすることはあまりないですね」

「ふぅん…受けたい授業とかは無いのか?」

「はい。基本二科目も既に受講し終えましたから…あ、でもキルヨさんの授業は少し受けてみたいですね。なんだかとても面白そうです」

「そんなに面白いことする気は無いんだけどなぁ…素手で魔物と戦う方法とかくらいだぞ?」

「十分ですよ」

「十分すぎるな」

「そんなに!?」


 二人に即答されて驚く。いや、でも本当に大した事じゃないんだぜ?ちょっと治癒能力を上げたり身体能力を二倍三倍にしたりするだけだぜ?


「…それがしたくて我々がどれほどの間研究を続けてきたか分かるか?」


「キルヨさん…流石にそれはやめておいた方が…」



 二人に指導内容について反対された。何故だ?


「キルヨ…お前の言う技術は安易に人に教えれば種族間のパワーバランスを崩すことになる。一人二人ならばまだしも、お前は大多数の人間に教える腹積もりなのだろう?」


 ふむ…過ぎた力は持たない方がいい…か。


「ありがとう。危うく大変な事をするところだった」


 そうだよな。よく考えてみればこんな力はゲームの中だけでいい。なんたって身一つで地面を叩き割ったりできるのだから。本当にこんなことをできる奴が大勢居たらいろんな意味でこの世界は終わりだ。


 あ……危ねえ……


「って言うか…じゃあなにをテーマにしようかな…」

「料理でいいんじゃないか?正直お前の料理は超絶的な旨さだぞ?」

「ふむ…」


 何かしっくりこないなー…と思っていると、リラが何かに気がついたように声を出した。


「あ…昔ですけど『実践授業』って言うジャンルで、ひたすら講師と戦って連携や技術を身体に教える…そんな授業があった気がします。でも、絶対条件として圧倒的な戦闘能力が要るのですぐに廃れましたけど」

「それだ!!」


 リラに詳しい話を聞こうとした瞬間、校長が話をした壇上に数枚のパネルが運ばれてきた。


「お!クラス発表だぞ!クラス発表!駄目だ見えないな!キルヨ!見てくれ!」

「わかった!わかったから落ち着けヘレナ!」

「…キルヨさん達と同じクラスだといいですね…」


 猛るヘレナをどうどうと宥めながらパネルに目を凝らす。


「………」

「ど、どうだ?」

「ちょっと待てよ。俺でも結構遠いんだ」


 なんせ数十メートルは離れているのだ。それに文字が細かい。


「………どうも、三人一緒らしいぞ。クラスはイの一(いのいち)らしい」

「な、なあ、友達になってくれそうな名前の奴はいるか?なあ?」

「知るか!名前だけで分からんわ!」

「あ、クラスへ案内する人が出てきましたよ」


 リラの言葉通り、舞台袖から数人の生徒が降りてきた。皆一人づつ違うプレートを持っている。


「イ組はこっちに来てくれ!教室へ案内する!」

「ロ組はこっちだ!さっさとこいよ!置いてくぞ!」

「ハ組はこっちです!あの…出来るだけ早く…して下さい…」


 他にもニ組とホ組が新入生を呼び込んでいた。


「…何あのハ組の子超可愛いんだけど」

「バカなこと言ってないで早く行きますよ。皆待ってます」

「なんか冷たくない?もしや嫉妬?」

「そ…そんにゃわけないじゃないですか!」


 …なるほど。あと一歩って所か。


「キルヨ!リラ!行こう!早く行こう!さあ行こう!」

「わかった!わかったから!行くから!」


 そう言うと満足したのかヘレナは


「早くだぞ!」


 と言って走り去った。と思えば少し先でこちらを振り返り潤んだ瞳を向けてくる。


 その視線に耐えきれず俺達はイ組の集合場所へ歩を進めた。


「…やばい、ヘレナが犬っぽくて可愛い」

「ですね。あれはちょっと反則(可愛過ぎ)ですよ」

「リラちゃん…ヘレナも落としていい?」

「本当は少し嫌ですけど、ヘレナさんなら………って何言わすんですか!別にどうでもいいですよ!私には関係ないです!」


 ちっ、言質を取れるかと思ったのだが。


「全くッ、油断も隙もありませんね!」

「そりゃ、好きな子を落とすのに必死になるのは当然だろ?」


「…………ばかですよ。キルヨさんは」



 やや俯き加減に、ばか、ばか、と繰り返すリラの顔がにやけかけているのを俺は見逃していなかった。


「さ、行こうぜ。ヘレナがそろそろ痺れを切らしてこっちに戻って来そうだ」

「はい…」



 俺達は少しだけ歩調を早めた。

取調室



タムラの主な職場の一つ。


ここで新たな天使の面接や問題を起こした人間を地獄に落とすかどうかの査問などをする。そう言う意味ではタムラは閻魔大王と言ってもいいかもしれない。同じ職に就ている者が数十人いるが。


尚、ほとんど全ての魂が自分のいる世界で沙汰を受けるので、タムラの職場に来るのは『世界』の手に余るような傑物ばかりであり、さらにその長であるタムラが出張るのは実はかなり稀な事。普段はデスクワークばかりなので気晴らしのつもりで面接すればあんなことになった。南無。


外観は一昔前の刑事ドラマの取調室。隣には調理場がありカツ丼の材料の用意は常にされている。名のある天使がわざわざ食べに来るほどうまい。因みに一番作るのが上手いのはタムラ。部下の真面目な女天使が下界探査の資格試験に挑んだ時には自ら材料を取りに行き、出汁から全て作った至高のカツ丼を振舞ったという。その翌日嫁が一人増えたらしい。


天界の用語には『タムラのカツ丼』というのがある。意味は『その報酬を得るためなら死んでも構わない』。


…美形で面倒見が良くて地位もあって料理も得意な男子とか…

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