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死と生

鬼人の活躍を書いていきます。よろしくお願いします。

鬼人伝



「……よし…よしよしよし………」


レベル制のゲームで一番達成感のある瞬間とは何か。


「いい……いいぞ…こいっ!!」


まあそれは個人個人で違うだろうが、私の考えはこれだ。


「……ッしゃあ!!遂にカンストだあああッッ!!!!」


そう。レベル上限達成、所謂カウントストップ、カンストだ。


「っしゃ!!っしゃ!!ぃぃやったあああ!!…って、え?」


だから、最近大流行しているゲーム、【鬼人伝】でカンストを迎えた瞬間に歩道に突っ込んできたトラックにミンチにされたのは結構幸せな最後なんでは無いだろうか?



「いや…それは流石に無理があるだろ…」

スーツをだらしなく着ている目の死んだ残念なイケメンさんに否定された。


「ていうかあんた誰だ」


確か私は引越し会社のトラックの前輪に絡まって死んだと思ったのだが。


ここは、スチールっぽい机と、パイプ椅子が目の前の男の分と私の分と、壁際に置かれたもので三脚、机の上には電球ライトがある、何の飾り気もないコンクリート壁の部屋だ。


いや、なんというか…


…凄く…取り調べ室です…


そう。まさにこの場所は刑事ドラマなど(それも少々古い)でよく見かけるような取り調べ室そのものだった。


なら、このセリフを言わねばなるまい。


「聞いてください刑事さん!!私は無実です!!」


「えっ…ああ…りょ、了解」


引かれた。何故だ。


……って


「そもそもここどこなのさ」


その私としては至極当たり前の疑問に男はかなり悩んだ後、


「…天国?」

と言った。なぜ疑問系なんだ。


そんな私の心の声に気づかない男は、自己紹介を始めた。


おい、なんだそのポーズは。馬鹿やめろ。一生消えない傷を背負うことになるぞ。今ならまだ間に合う。


「えー…っと…て、天使です☆」


……やっちまった。


冷や汗をかきつつ身体にしなを作って横ピースをする自称天使(男)。その顔は真っ赤だ。そもそも目が死んでいるので可愛らしさなどは微塵も感じられない。


え?なに?どういうリアクションすればいいのこれ?


「…今のは忘れてくれ。」

「分かった。全力で忘れる。」


というか忘れたい。


「違うんだよ!!俺は本来あんな事するような変態じゃないんだ!!全ては神が悪いんだよ!!」

「自分が天使ということは否定しないの?」

「いや、だって俺天使だし。」


その言葉で悟る。


こいつ残念系の奴じゃなくてマジの残念な奴だ。


「違うぞ?断じて違うぞ?俺の職業は天使ってだけだぞ?」


私の残念な子を見るような、というか実際残念な子を見る目に耐えられなかったのか、自称天使が必死で弁解を始めた。


「あれだし!!そもそも天使っていうのはあの世の公務員みたいなもんだし!!そこらのカス霊よりも偉いし!!」


こいつ同じところに住んでるやつのことカス呼ばわりしやがった。


「なのにも関わらず給料は安いし、変な自己紹介を強要されるし、神様の無茶振りで四肢欠損する奴も少なくないし、労災なんて名前だけだし…」

なんか雲行きが怪しくなってきた。


「休みはないし出会いもないし神様クズだし神様ウザいし神様ー」

「分かったからそろそろ本題に入ろう?」


このままこいつに喋らせたらロクなことにならない。断言できる。


ていうかただの愚痴じゃねぇか。


私の言葉にはっとした天使(笑)は机の下に置いていたビジネスバッグから紙のようなものの束を取り出した。


「…わかった。じゃあ、これを見てくれ。」

「何これ?羊皮紙ってやつ?」

天使(笑)に渡されたのは普通の紙とは全く違う、正に羊皮紙と言った感じの紙だった。


……どうでもいいけどこんなに(趣味は少々古いが)現代的な部屋にこんな中世みたいな感じのアイテムがあったら違和感が半端ないな。


そんなことを思っているとテーブルの上にタブレットのようなものが置かれた。そのタブレットを天使(笑)が何か操作すると文字が大量に浮かび上がった。


「そろそろその失礼な(笑)やめてくれよ」

「ごめん」


ってこいつ人の心が読めるのか?

「読めるよ。君が心の中では完全に男の思考な事もバッチリわかってる。」

「マジか」


じゃあ私のする妄想も全て見られるのか。


うわ、何この緊張感。


「…そんなみだりに覗いたりしないから安心しろ。」

「安心できるか!!」


初対面のやつの口約束なんてどうやって信用しろってんだ。


「…まあいい。どうせこれっきりの付き合いだし。ここに書いてある内容を一通り読んでくれ。」

「まあいきなりこんなもん差し出してきたんだからそうだよね。ちょっと貸してもらうよ。」

「やるよ。天国記念だ」

「いらないよ」


そうして暫く黙って羊皮紙をめくる音が部屋に響く。羊皮紙を触ってみたかったからこっちにした。天使はめんどくさそうな顔でタブレットの方の画面を眺めている。



「何てベタな展開…」

「お、読み終わったか?」


ここに書いてあったのは、


『先ずはこの度は私共の勝手な都合で本来の輪廻から外れた存在となることを深くお詫び申し上げま』


うん。略す。


『始めましてー元気ー?風邪とか引いてないー?まあ死んでるんだから元気も何もないけどね(笑)。

それはそうと異世界からなんか知らねーけど救援要請が来てんだけど神とか天使が行くわけにゃいかんからさー、ていうか手続きとかマジめんどくさいからさー、人間連行することになったのよ。

勿論行くに決まってんよね?やっぱり?よかったーありがとう。

せめてもの餞別に君がやってたゲームの中のキャラクターに体作り変えといてやっからー。そんじゃバイバーイ。神より。まる。』


的な事をくそ丁寧に書いている手紙だった。そしてマジで私に対する行く行かないは聞かれなかった。


あたしは意見すらも聞いてもらえないのか。


え、何こいつ。こいつが神なの?


「そうだよ。世も末だぜ」

「独裁者じゃん…」

「そうだよ。世も末だぜ」


取り調べ室に大きな溜息が響く。それはどちらの溜息だっただろうか。


「……………だがな?本来ならお前はもう死んでるはずなんだよ」

「…でもまた生まれ変わるんだろ?そんなこと一番最初に書いてあったぞ?輪廻がどうとかって」

「ああ。でもお前は輪廻システムの作用で魂総量調整のためにそのまま消えてなくなる筈だったんだよ。」


「へーそうなんだーって…ええぇぇ…」


じゃああの輪廻がどうとかってくだりは何だったんだ。すごい無駄じゃないか?


「たまにあるんだよ、そういうことは。その他にも次の世界に転成する筈の魂やまだまだ死ぬはずじゃなかった魂が急に捕捉不可能になるってことが。天界では仕方ないから消滅扱いにしてる。まあこっちはバグだけどな。」

「へー、そんなことがあるんだー」


手紙に書いてあった天界の輪廻システムは意外と脆弱なようだ。


「…このまま断るんなら、お前は今ここでチリになって消えることになるが?」

「受けます受けさせてください」


手紙のの途中くらいであたしに拒否権がないことは分かっていたしな。


「だよな…じゃあ、転生内容を確認するぜ。」


そういった天使がまた新しい羊皮紙を取り出す。


「転生元は原村京子:原種:人間。転生先はキルヨ:神作種族:鬼人…じゃ、元気でな。風邪引くなよ。」

「たぶん大丈夫でしょ。……そういえば、あんたの名前は?」


なんだかんだ言ってこいつには世話になった。まあただの業務だろうが。


「……魂管理課二代目課長、タムラだ。」


天使、いや、タムラはあたしの質問に死んだ目を丸くしてから、噛みしめるように呟いた。


「……この仕事してから、名前なんて聞かれたのは初めてだよ。」


そういったタムラは始めて笑った。


「…っ!!」

「ん?どうした?」


こいつは無表情に死んだ目ばかりを私に見せてきたくせに、今このタイミングでそんな子供っぽい笑顔見せて来るなんて、

「…ずるい」



「顔が赤いぞ?大丈夫か?」


「うっさい!!」



天使タムラ。


お察しの通り天界で普段の草臥れた雰囲気と笑顔のギャップ、そして天性の巻き込まれ体質を知らぬ間に駆使し無自覚のうちに一代ハーレムを築き上げた天界一嫁の人数が多い男である。

しかし彼女がそのことを知る日は来ない。のかもしれない。


このまま別れるのは少し寂しいので、せめてわかれのあいさつをと思いタムラの目を見た瞬間、


「じゃ頑張れ」


「え」



あたしの足元の床に穴が空いて、

「ふきゃああああ!!」


その中に落ちた。




不定期更新になると思いますがよろしくお願いします。

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