手を繋ぎたい
初めて君と会い、遊んだ日から、僕と彼女は毎日のように遊んだ。待ち合わせ場所はいつもの公園。
その日も君は身体を震わせながらそこにいた。
「真君おっそーい!」
いつもの仁王立ちで…。
「ごめんごめん。お母さんに捕まっちゃって…。」
僕が言い訳すると、彼女が更に二言三言文句を言って、僕がもう1度謝って終了。それがいつものパターンだった。…はずだが、今日は違った。
「…やっぱり、一緒に遊ばない方が良いのかな…。」
普段見せないようなしおらしい姿で彼女はそう言った。その落ち込んだ顔を見て、僕は自分の失言に気がついた。
「そ、そんなことあるはずないよ!僕は千冬ちゃんといると楽しいし、嬉しい。お母さんは関係ない!僕が一緒にいたいんだから!それに、それに…、」
僕が慌てて捲し立てていると、初めしょんぼりとしていた顔が、何かを堪えるような顔になっていった。いや、何かじゃない…!これは…笑いだ!!
「千冬ちゃん?」
「…っぷはっ!ははっは…ごめっ…ごめん。冗談だよ。じょーだん。あはは。真君必死ー。可愛いー。」
言いながら、うりうりと頭を撫でてくる。最初の頃はされるがままだったが、何度も可愛いと言われてからかわれては面白い訳がない。
「千冬ちゃんの方が可愛いよ。」
「はは……え?」
真顔になって正面から言えば彼女は動きを完全に止めた。そのままじっと目を見ていると、彼女の頬が桜のように色付き始めた。
「ぅえっ!えぇぅと、その、あの。」
わかりやすく変化を遂げた彼女を見ていると、僕の頬も春になってしまいそうだ。誤魔化すように続けた。
「…暖かくなった?」
わたわたと忙しなく動いていた手が、僕の言葉を聞いた途端ぱたりと止まった。
「……。」
彼女の口が弧を描いた。満面の笑顔だ。
なのに、何故だろう背汗が止まらない。
「…うん。とっっても暖かくなったよ。真君のおかげで。」
「そ、そう。それは良かった。」
「あー暖かいなー。暑いくらいだよー。真君にも分けてあげたいなー。」
「いや!大丈夫!僕はこれがあるから。」
マフラーを摘みながら後ずさる。
「遠慮しないでよー。マフラーだけじゃまだ寒いでしょ?顔も青いしー。」
顔が青い要因は確実に違うが、言えない。
「大丈夫。大丈夫。怖くないよー。」
じりじりと彼女がにじり寄って来る。
「…。」
「…。」
一瞬の間の後、身を翻して駆け出した。後ろからも走り出す音が聞こえてくる。
「待てえぇー!」
僕は馬だ!チーターだ!風だ!何者も僕を捕らえられないぃぃぃ
…ことはなく、500m程走ったところで普通に追いつかれた。
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「全く、真君は!」
気が済むまでくすぐられた。軽く過呼吸になった。そんな僕を見下ろしている彼女は口では怒りつつもご満悦だ。
「ご、ごほっ。ごめんなさい。」
「よろしい。許す。」
ふんっ、と擬音が聞こえそうに腕を組んだ彼女を見て、そっと安堵の息を吐いた。良かった。いつもの彼女になった。
5分ぐらいでようやく呼吸が落ち着いた。
気を取り直して!と言うように、手を1つ叩き彼女は言った。
「さて!今日は何して遊ぶ?」
「うーん。たまにはさ、別のとこに行ってみない?」
公園で出来る遊びはもう殆どしちゃったし。と言うと、彼女も同じ考えだったようで、同意してくれた。
「確かにね。もう何日も遊んでるもんねー。」
意見が合致したので、連れ立って公園を出た。
「そういえば、公園の外で一緒なのって初めてだよね。」
言われて気づいた。今まで何度も会っていたが、場所はいつも公園だった。
「そうだね。」
「何か不思議。前からずっと一緒だったような気がする。」
「僕もだよ。実際は名前しか知らないのにね。」
「あはっ。本当だ。…じゃあさ、じゃあさ。今日は歩きながらお互いに質問し合うってのはどう?」
「良いね!…じゃあ千冬ちゃんからどうぞ。」
「はーい。えっとねー真君何才?」
あまりにも基本的な質問にちょっと笑いそうになる。
「そっからか!そうだよね。言ってなかったかー。11才だよ。」
「良かったー。同い年だ。」
嬉しそうに笑った。僕も嬉しい。
「次は僕ね。千冬ちゃんはー…」
しばらく周りの風景を見ながら、趣味や家の場所などを質問し合って歩いた。
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ふと見渡せば、大分遠くまで来ていたようだ。知らない景色ばかりだった。
「結構歩いたねー。」
「そ「うわっ。何だあいつー。」
君が何か言いかけた時、右斜め後ろからそんな声が聞こえてきた。
「きもー。白髪だー。」
「年寄りくせー。チビの癖に。」
「俺知ってる!あれ雪族ってんだぜ。」
「まじで!近付くと凍らされるって言う?」
「そうそう!怖ぇー。」
振り向くと、同じぐらいの年らしき男の子達がこちらを見て騒いでいた。隣にいた君も気づいた様で、一拍遅れて振り向いた。
「こっち見た!」
「凍らされるぞ!逃げろー。」
こちらが何かを言う暇もなく、言いたいことだけ言って、少年たちは笑いながら逃げていった。
「…。」
開けかけた口を閉じることしか出来なかった自分が情けない。
「……ごめんね。」
隣で俯いていた君が、ぽつりと言った。
「…なんで謝るの?」
少しムッとして言ったのが、伝わってしまったのだろう。更に謝罪を重ねようとする君に先手をうった。
「…あっ!」
服の端を掴んでいた君の手を無理矢理繋いだ。瞬間、手のひらにひんやりとした体温を感じた。
「だ、駄目だよ。雪族の体温は低いから!寒いでしょ!?」
慌てる君の声。確かに右手は少々冷たいが、こんなものどうって事無い。満面の笑みで応えた。
「寒くないよ!だって胸がポカポカしてて、暑いくらいだよ!」
えへへ。と言えば、君は泣きそうな、それでいてとても嬉しそうな顔をした。
君のそんな顔を見ると余計暖かくなって、真冬だというのに、二人して頬を染めながら帰り道を歩いた。




