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 俺が優人から、天川姫子に告白すると相談されてから一週間が経っていた。俺の男好きは治らないし、天川と優人は仲がいいし、俺の苛立ちは募っていた。しかし、その苛立ちも今日で終わりだ。優人が今日、天川に告白すると決心した。優人からそのことを聞いていた俺は、優人が告白するのを阻止するためにある作戦を考えていた。


「の、呪いのさ、解き方なんだけど、ちょっとわかってきたかも。も、もうちょっとかかりそうなんだけど……」


 放課後、これから俺が、優人を阻止するために動き出そうって時に、廊下であった霧山砂月が話しかけてきた。


「そのことか、後にしてくれ」


 霧山砂月は普段と違う俺の雰囲気を察してか、何事かと聞いてきた。


「これから優人が天川に告白するんだよ。だからその前に天川に告白する」


 霧山砂月はぽかんとして俺を見ている。


「だ、誰が誰に?」

「俺が、天川にだよ」

「ハァ? あ、あんた優人君が好きじゃなかったの?」


 ああそうだ。しかしそれが俺の作戦だ。


「天川と優人が付き合うくらいなら、俺が天川と付き合う。俺が告白すれば、天川は付き合うと言うだろう。いや、付き合うと言わせてみせる」

「あ、あんた本当に言っているの?」


 これで俺と天川が付き合うことになったら優人は怒るだろうか。怒るかもしれないけど、許してくれるだろう。あいつは優しいからな。たとえ優人に嫌われても、優人が天川と付き合うよりはマシだ。


「お、おかしいよ。それで、万が一、天川さんとあんたが付き合うことになったらどうするの? あんた女好きじゃないでしょ」

「そうなったらそれなりに付き合うよ。頃合いを見て別れるけど」


 眉をより一層八の字にして、困ったような、驚いたような顔で、霧山砂月は俺を見ている。


「あ、呆れた。何も言えない。あんた本当にやる気? そ、それで何も思わないの?」

「……」


 俺は何も答えない。


「だいたい何の解決にもなってないよ。誰も得しないじゃない。本当に意味わかんない」


 何も言わない。


「あ、天川さんの気持ちとか考えたことある? ゆ、優人君と天川さん、いい感じの雰囲気だったじゃない。天川さんがあんたと付き合わけないでしょ」

「わかってるよ!」


 俺が出してしまった大声は、二人しかいない廊下に響きわたる。


「……わかってるよ。俺だって。間違った方法だってことくらいは!」


 俺は荒らげた声を抑えようするが、自分でも止まらない。


「でもどんな方法を取ればいいのかわからないんだよ。ある朝起きたらこんな状態になってて、治る見込みもなくて……。どうすればいいんだ。俺は俺の気持ちだってわからないんだよ!」


 声を荒らげて反論する俺に、霧山砂月は俺を見たまま固まってしまった。


「……俺は行く。天川を探さなきゃいけないからな」


 霧山砂月を残して俺は行く。天川が優人のもとに行く前に見つけなければならない。


 霧山砂月に言われなくたって、そんなこと俺だってわかっているんだ。どうしようもないんだ。


「英治」


 廊下を歩いていると、階段から下りてきた優人がいて俺に声をかけてきた。


「よぉ、優人……」

「英治は何やってるの? 今日は部活ないけど」

「あぁ……、俺は、ちょっとな……。それより、今日天川に告白するんだろ?」

「するよ。今日。校舎裏に呼び出したんだ。これから僕も向かうよ」


 俺は優人の顔を直視できなかった。優人の顔から視線を外すと、優人の腕が小刻みに震えているのが見えた。


「いやぁ、あれだね。告白するのって思っていた以上に緊張するね。ちょっと吐き気してきた。こんなに緊張したのって県大会でフリーキック蹴った以来だ」


 優人は体を世話しなく動かしていて落ち着きがない。


「天川はもう校舎裏に行っているのか?」

「いや、呼び出した時間はもうちょっと先だよ。そろそろ校舎裏に行って、天川を待っていなくちゃ」


 俺は意識的に優人の目を真っ直ぐ見る。


「そうか。がんばれよ」


 俺は嘘をついた。優人は「ありがとう」と言って行ってしまった。俺は「ごめん」と心の中で謝った。天川を見つけに学校内を捜す。早く見つけないと天川が優人との待ち合わせ場所に行ってしまう。いや、もう行っているかもしれない。俺は焦る。


 ふと見た教室に、姿勢の良い綺麗な髪の美人が座っていた。天川姫子だ。


「天川!」

「浅田君」


 天川が俺に気づく。天川は座っているその姿だけで美しい。可憐という言葉がぴったり合う。こんな女子がいたら優人が惚れてしまうのも仕方のないことだと思わず納得する。というか、俺も惚れていたんだけどな。しかし、それも昔の話だ。今は状況が変わった。


「ここにいたのか」

「うん。今日部活ないし……」

「優人が、話があるって……」

「あ……、うん。これから行こうと思っていました」


 天川は少し照れたような顔をしていた。

 ここで俺が天川に告白すればいい。そうすれば天川は俺と付き合って、優人と天川が付き合うことはないだろう。さっさと告白しろ俺。


「天川ってさ……。優人のこと、どう思ってる?」

「え……」


 俺は天川から視線を外して言う。


「あいつさ、いい奴だよな……」

「うん……」


 天川は小さく返事をする。


「俺はあいつとは幼なじみだからさ、あいつのことなら何でも知っているんだ。小学校から学校一緒だったし、サッカーも一緒に始めて、今も同じチームだしな」


 天川は黙って俺を見て聞いている。


「あいつはサッカーのプレイでも頼りになってさ……、俺のキラーパスを取れるのはあいつだけなんだぜ。あいつのキラーパスを取れるのも俺だけだ。目を見るだけで考えていることがわかる」

「うん。わかります。いつも見ているから」


 天川はマネージャーだったな。いつも俺達を、いや優人を見ていた。


「……あいつさ、運動できるし、顔良いし、今はモテるけど、中学生くらいの時はダサい奴で、ファッションセンスとか全然ないんだよ。休日に皆で遊びに行くって時にあいつ、全身蛍光色のコーディネートで来てさ、遠くからでも目立ちまくりなんだよ。あの時は腹抱えて笑ったなぁ。ハハハ……」


 こんなことを話している場合じゃない。早く告白しろよ、俺。


「でも、高校生になってだいぶファッションセンスも良くなってさ、あいつ頭もいいから、女子にモテてるけど、調子になんか乗らなくて、恋愛も真面目でさ、今まで告白されても、ちゃんと付き合えないからって断ってたんだ。俺はそんな優人が、本当に凄い奴で、尊敬してる。友達のことをそんなに褒めるって少し変かもしれないけどな、ハハ……」

「うん」


 天川は真っ直ぐ俺を見ている。


「あいつは……さ。すげぇいい奴で、だから、その……」


 息が詰まる。のどがカラカラで次の言葉が出てこない。


「天川には、あいつを傷つけるようなことはして欲しくないんだ」

「うん」


 天川の顔を見ずに俺は言う。


「俺が言いたいのは……、それだけ」

「うん」


 一呼吸おいて、最後に言う。


「優人はもう校舎裏にいるよ」

「浅田君……ありがとう」


 天川は椅子から立ち上がって教室から出て行った。俺は優人のもとに向かう天川の背中を見送って、その場に立ち尽くした。


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