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 その夜、俺は夢を見た。水没して暗くなった駅構内を俺はさまよっていた。すると突如光りに照らされた。それは電車の光で、俺は向かって来る電車から逃げることができずに、その電車に轢かれてしまった。轢かれた俺が通り過ぎ去る電車を見ると、中には俺がいて、轢かれた俺を見つめていた。

 


    ○



 ジリリリリと目覚まし時計のやかましい音で俺は目を覚ました。時計を見ると七時四十分。あと二十分以内に家を出て学校に向かわないと遅刻してしまう。いつも通りの朝だ。変な夢を見た気がするが、すぐに忘れて寝ぼけた頭でなんとなくテレビをつけた。


 テレビ画面に映っているのは朝のワイドショー。お天気お姉さんが今日の天気を教えてくれている。天気予報のコーナーの後は、クッキングコーナーだ。男性アイドルが朝の忙しい時間帯でも簡単に短時間で作れる料理を紹介しているコーナーで、若くてカッコイイアイドルが出演しているコーナーだけあって人気のコーナーらしい。


「へぇ……」


 俺はこの男性アイドルに見入ってしまった。クッキングコーナーを最初から最後まで、たっぷりと見てからふと時計を見ると七時五十分。


「やばい、遅刻する」


 俺はあわてて制服に着替えて家を飛び出した。



 学校へ向けて通学路を急ぐ。運良くすぐに電車に乗れたから遅刻せずに学校に着きそうだ。学校の最寄り駅に降りると、同じ高校に通う生徒達を多く見かけるようになる。寝坊したのだろうか、寝癖がついている男子生徒や、ギターを背負っている軽音部らしい茶髪のヴィジュアル系男子、短く切りそろえられた髪に黒く焼けた肌と制服の上からでもわかる筋肉質な体を持つ体育会系男子。女子高生。俺とそれらの生徒達は無事遅刻せずに学校に着いた。


 教室につくと、昨日俺に告白してきたゴス趣味の女子・霧山砂月がすでに席に着いていて本を読んでいるのが見えた。隣の席に座った俺に気づいた霧山砂月は、俺を一瞥して視線を本に戻した。


「おはよう」


 俺は一応挨拶をしたけど霧山砂月からの返事はない。昨日の朝までは、朝の挨拶くらいはしていたし、仲が良いわけではないけど日常会話をしたりもしていたが、昨日の放課後に俺に告白してフられているわけだし、まぁ気まずいよな。


 お前はそうやって本でも読んでいろよ。黒魔術とか悪魔とかそういう趣味の本なのだろう。ゴスのお前が読む本は。髪も目の周りもマニキュアも制服も本のカバーも全部黒。白いのは肌だけで、霧山砂月がいる空間だけ葬式中みたいだ。


 チャイムがなって担任教師が教室に入ってくる。ホームルームが始まって担任教師がなにか話しているが、俺は聞き流して、今朝テレビで見た男性アイドルのことをなんとなしに思い出していた。



 授業が終わって放課後。帰宅部の生徒は学校からさっさと出ていくようだが、部活がある俺は部室に向かって歩いていく。


「浅田君、部活がんばってね」

「英治君、また明日。バイバイ」

「上木君も今度の試合出る? 見に行くよ」


 部室に向かう途中で、何人かの女子に話しかけられた。俺は「あぁ」とか「おう」とか適当に返事をしていた。話しかけてきた女子は皆ただの友達で、恋愛感情なんてない。霧山砂月ともそういう関係のつもりだったんだよな。わかってくれよ。


「やぁ英治、部活行こうか」


 後ろから優人に声をかけられて俺はドキっとした。


「あぁ行こうぜ」


 優人と並んで歩く。優人は相変わらず綺麗な顔をしているな。背は高いし、足も長い。長身痩躯だが、スポーツするのに必要な筋肉はしっかり付いている。優人ならアイドルかモデルにでもなれそうだ。俺の胸はまだドキドキしていた。


 優人と部室に向かう途中、遠目で霧山砂月と目があった。遠くからあいつに見られていると、死に神に見られているみたいでちょっと怖いぞ。



 部室に入ると、無数の男たちが服を脱いで、瑞々しい肉体を露わにしていた。サッカー部員達が制服からジャージに着替えているところだ。俺は何故か胸のあたりがモヤモヤしてきて、少しずつ心拍数が上がる。テンションが上がっている。いつもの見慣れている風景のはずなのに何故だろう。いつもは男臭くてうんざりしているのに。この男たちに囲まれて俺も裸になってジャージに着替えるとすごく楽しい。


 部活が始まってもそれは変わらず。数々の男たちに囲まれて練習しているとなんだか胸がドキドキする。辛い練習のはずが楽しくなっている。なんでこんなに楽しいんだ? この楽しさは祭りに行った時の、気分が高揚する感じとちょっと似ている。


 部活が終わって部室で着替えていると部員の一人が俺に一枚のDVDを渡してきた。いつか貸してくれと頼んでいたアダルトDVDだ。部活が始まる前と同様、この状況を楽しんでいた俺は、我に返ってそれを受け取る。借りたDVDを鞄にしまいながら、俺はなんでこの状況を楽しんでいるのか考えたが、自分でもわからない。


 いつもは優人と二人で学校から帰っているが、今日は天川と三人でドーナツ屋に行くことになっていた。三人で学校から駅前まで歩いて行く。


「これから行くドーナツ屋って、美味しいって最近話題になっているところだよ」

「そうなんですか。楽しみ」


 優人と天川が楽しそうに会話しているのを、一緒に歩きながら俺はなんとなく聞いていた。

 駅前に着いて、ドーナツをモチーフしたキャラクターの看板の店に入る。

 ドーナツ屋の店内は、帰宅時間と重なっているためか美味しいと評判のためか、若者達がひしめき合っていて、すでに座席は空いてなかった。


「テイクアウトして外で食べようか」


 優人の提案に俺と天川は賛成。ドーナツを買って俺たちは店外に出た。俺がおごる話になっていたけど、優人が半分ドーナツの代金を出してくれた。助かるよ優人。実はそんなに金持ってなかったんだよ俺。

 駅の近くの公園にベンチを見つけて、俺たちはそこでドーナツを食べることにした。


「美味しい! ふわふわです」


 ドーナツを一口食べて、天川が言った。俺もチョコレートとホワイトチョコレートがかかったドーナツを食べている。たしかにこのドーナツは柔らかくて美味しい。評判になるのも頷ける。


 俺達がドーナツを食べていると、どこからか猫が寄ってきた。ドーナツのおこぼれでも欲しいのかもしれない。


「三毛猫だ。ドーナツ食べますかね」


 天川が自分のドーナツのひとかけらを猫の前に持っていくと、猫は匂いを嗅いでからドーナツを食べた。


「可愛い。写真撮りたいです」


 天川が鞄をあけて携帯電話を取りだそうと

猫から目を離して隙に、猫は天川の持っていた残りのドーナツを奪って走り出していった。


「Mon dieu!」


 天川は驚きの声を上げる。


「ハハハ、狡猾な猫だね」


 優人は笑って天川に言った。俺は隙を見せた天川が悪いなと思っていた。


「全部あげる気はなかったのですが……」

「ほら、僕のドーナツ半分あげるから」

「えぇ、悪いですよ」

「いいから食べてよ」


 天川は優人からドーナツを受け取って嬉しそうに食べている。俺はドーナツをすでに全部食べてしまっていたので、天川にドーナツをあげることはしなかった。


 ドーナツを食べて、そのまま公園で少し会話したあと三人で駅に向かった。天川は俺と優人とは反対方向の電車に乗って帰っていく。俺と優人は家が近いから同じ電車に乗って帰る。電車の中で優人はずっと天川の話をしていたが、俺には別に面白い話題にも思えなかった。


 今日、念願の天川とドーナツを食べに行けたのに、俺は一つも楽しくなかったのだ。



 家でシャワーを浴びながら、俺は今日のことを思い出していた。何故あんなに部活が楽しかったのか。折角、天川とドーナツ屋に行ったのに、なんで気分が盛り上がらなかったのか……。いろいろ考えていたけど、シャワーから上がって夕飯を食べていたらいつの間にか考えるのをやめていた。


 食卓での食事を終えて自室に戻った俺はすることもないのでテレビを見て暇をつぶしていたが、ふと今日部活の仲間から借りたアダルトDVDのことを思い出して、DVDを鞄から出してDVDデッキに入れた。

 テレビ画面に女性が映し出される。


「……」


 俺はつまらないと思ったシーンを飛ばしていった。女性が露わな姿になっているシーンは次々と飛ばされていってDVDに収録されている映像は終わってしまった。「おかしい。俺の趣味のシーンはあったはずなのに」と、俺はもう一度最初からDVDを見る。しかし、やはりDVDを見ていても楽しくない。おかしい。変だ。そもそもこのDVDは俺の趣味に合っているから借りたものだし、興奮するはずだ。なんで楽しくないんだ。


 もう一度DVDを見ているが楽しくない。いや、正確に言うと全部が楽しくないわけじゃない。楽しい部分は楽しいんだ……。俺は裸の女優ではなく、男優の方を見て興奮していた。


「いやいやいや、おいおいおい、そんなわけないだろ」


 体から血の気が引いていく。俺は携帯電話を使ってアダルト動画を見つけて視聴するが、借りたDVDを見ている時と同じだ。楽しいのは男優を見ている時で、女優の裸を見ても何も感じない。


 いつくもの動画を見ても結果は変わらない。ふとテレビに映った男性アイドルを見て俺はテンションが上がったことに気づく。

 まさか。そうか。いや嘘だろ。そう考えれば今日のこと全て辻褄が合う。背中にじっとりと嫌な汗をかく。


 俺はどうやら男が好きになってしまったようだ。


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