表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

「悪いけど付き合うことはできないよ。これからも好きにならないし」


 俺は目の前の女子に言う。墨汁のように真っ黒で長い髪。病人よりも白い肌。左耳のドクロのピアス。いつも眉を八の字にして困り顔。目の周りに黒いアイラインをこれでもかと塗っているものだから、目の周り全体が黒くてまるでそこに穴があいて眼球だけがこちらを見ているようだ。黒い制服も相まって、怪しげな雰囲気を醸し出しているこのゴス趣味の女子、霧山(きりやま)砂月(さつき)は、たったいま俺に告白してきたのだ。


「だいたいさ、なんで俺がお前と付き合うと思ったの? アドレス知らないし、友達ですらないんだしさ。会話だって学校でしかしたことないだろ」


 俺は俯いている霧山砂月に向かって続ける。


「ちょっと考えればわかると思うんだけど。俺と釣り合わないってことは。逆に釣り合うと思われた俺の方が心外だよ」

「う……、ぅう……」


 霧山砂月がなにか声を出していたが、俺は構わず続ける。


「告白とかさ、はっきり言って迷惑なんだよな。迷惑」


 さっき俺に「あ、浅田(あさだ)英治(えいじ)君、す、すす好きだから、つつ付き合って」と言ったきり俯いて黙ってしまった霧山砂月がなにか口の中でモゴモゴ言っている。俺は霧山砂月が何を言っているのか聞き取ろうと、耳を近づけようとした時、霧山砂月が俺の目を真っ直ぐ見て言った。


「の、のの呪ってやる……。あんたを呪ってやる!」


 そう言ったきり、霧山砂月は走って行ってしまった。俺は彼女の背を見送ってから学校の裏庭からグラウンドに向けて歩きだす。


「あいつが俺を放課後に呼び出したのはそんな理由か」


 まったく俺に告白なんて勘違いも甚だしいな。この俺が霧山砂月と付き合って恋人同士になるって? 仲良く手を繋いで下校したり買い物したり映画を見たり? そしてたまにはケンカして仲直りしてまた絆が深くなるって? 馬鹿馬鹿しい。そんな未来はない。それよりも万が一、告白されている場面を誰かに見られて二人が付き合っているなんて噂が流れたらどうするんだ。俺はそれが心配だよ。それだけは絶対に嫌だからな。あぁ時間の無駄だった。さぁこれから部活だ。今日も頑張っていこう!




 サッカー部の練習が終わって、部室でサッカー部の部員達とジャージから制服に着替えながら、俺は優人に今日霧山砂月に告白されてフったことを話していた。


「いや、それ英治がひどいよ」


 上木(かみき)優人(ゆうと)は同じサッカー部の仲間でもあり、小、中学校と同じ学校を卒業して、今も同じ高校に通っている幼なじみで俺の親友だ。アイドルみたいな綺麗な顔立ちで、女子たちからも人気がある。


「いやいや、でも俺がゴス趣味の女と付き合うなんてあり得ないだろ。俺とどこも合うところがないよ」


 そう俺と霧山砂月は趣味が合わないし、なによりランクが合わない。この世界には、目には見えないし、誰もはっきりとは言わないが確実にランクというものがある。そのランクは、人間の顔や頭の良さ、運動神経、美的感覚、面白さなど、あらゆるセンスと実績で自然と学校内の立ち位置、ランクが決まってくる。スクールカーストというやつだな。当然実績とセンスのある奴が上のランクにいて、学校内において影響力と発言力を持つ。顔が良くて運動神経抜群、サッカー部レギュラーの俺のランクは上位に決まっている。あとは成績優秀なら完璧だったんだけどな。あいにく勉強は苦手だ。


 友達がいない。クラスでも目立たない。真っ直ぐに伸びた髪の毛と爪のマニキュア、アイライン全部黒。生気を感じられない肌。身につけるアクセサリーはドクロや十字架で、霧山砂月がいるとそこだけ色味が失せてモノクロのようだ。霧山砂月のランクは下位。俺は上位。俺と霧山砂月の間には確実に壁があって、その壁は決して越えられない壁だ。


 俺と霧山砂月はクラスの席が隣同士で、休み時間に会話をしたことはある。霧山砂月は趣味が変わっているから、俺がちょっと興味を持って話しかけたのがきっかけだった。それから休み時間にちょくちょく会話することはあった。会話の中には盛り上がった話題もあったかもしれない。笑いあったこともあったかもしれない。でもそれだけ。それがあったからって勘違いしないでほしいよ。俺は霧山砂月が好きなわけじゃないし、だいたい俺には好きな女子がいる。


「その子だって多分勇気を振り絞って告白したんだからさ、フるにしても誠意をもって対応しなきゃダメだよ」


 優人の言葉に俺は「そうかな」と返事をする。


「英治ってそういうところは性格悪いよな」


 優人が溜め息混じりに呟いた。


「そういう優人だってこの間、女子に手紙をもらってただろ。あれって告白の手紙だったんじゃないのか」

「そうだけど、僕は丁重にお断りしたよ。その子と付き合うつもりはなかったから」


 優人は真面目だなぁ。優人だってランク上位なんだからそんなことに気を使わなくていいんだよ。俺が普通で、優人の性格が優しすぎるんだよ。


 着替えが終わった部員達は「お疲れー」と一言挨拶して部室から出て帰っていく。着替え中に会話していた俺と優人は、結局最後に部室を出ることになった。帰ろうと部室から出たところでサッカー部マネージャーに話しかけられた。


「浅田君ちょっといいですか」

「天川。俺に用? 俺だけに?」

「うん。浅田君だけに。ってそんな大した用じゃないです」


 天川は口元を手で隠しながら笑った。部室にもう着替えている部員がいないことを確認してから、天川は俺を部室にあった椅子に座るように促した。


「左足見せて下さい。今日の練習で捻挫したんじゃないですか?」

「あーそうかも。でも軽いからいいよ」

「軽いかもしれないけど、一応アイシングだけでもさせて下さい」


 この子の名は天川(あまかわ)姫子(ひめこ)。サッカー部マネージャー。彼女はフランス人のクォーターで、去年までフランスで暮らしていた帰国子女だ。日本語を覚える時に教科書通りの丁寧な日本語を覚えたために、同い年の俺達にも敬語を使うことが多い。白人のクォーターだけあって日本人離れした容姿を持つ。通った鼻筋。大きくて青い目。くびれた腰とは正反対に大きくせり出している胸と尻。頭も良い。この前のテストでも、学年順位十番だった。国語が苦手じゃなかったら学年トップだったかも。マネージャーとしても気がきく。頭脳明晰。容姿端麗。才色兼備。まさに完璧だ。ランクも最上位に違いない。

 天川は俺の左足首にスプレーで冷たい霧を吹きかける。


「……。天川、そのスプレーさ……」

「気持ちいいですか。冷却スプレーで患部を冷やしていますから」

「虫よけスプレーじゃないか」

「Tu plaisantes!」


 天川は驚いて思わずフランス語が出たようだ。虫よけスプレーを置いて、あわてて冷却スプレーを俺の左足首に吹きかける。


「近くにあったから間違えちゃったみたいです……」


 天川は照れくさそうに顔を背ける。少し天然ボケのところもあるけど、そこがまた可愛い。天川姫子は霧山砂月とは正反対だ。


「じゃあこの捻挫の治療をしてくれたお礼にさ、今度駅前のドーナツ屋でも行こうぜ。俺がおごるよ」

「いいんですか? やった。でも浅田君と二人で?」

「じゃあ僕も行こうか」


 近くにいた優人が急に会話に入ってきた。


「そうですね。三人で行きましょう」


 天川の一声で、今度三人でドーナツ屋に行くことになった。「折角天川と二人で行けるチャンスなんだから優人は入ってくるなよ」と思ったが、すぐに「優人なら別にいいか」とも思った。

 天川と一緒にドーナツ屋に行く予定ができて、その日俺は弾む気持ちで学校から帰った。天川姫子のことを考えると顔が綻ぶ。天川姫子こそ俺の彼女にふさわしい。

 俺は天川姫子が好きだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ