BluePhantomCompany
ゴーと言う輸送機がアメリカ空軍基地から飛び立つ音を聞きながら、僕とミカ、ユウカとヒユリ、そしてもう一人、無口で髪の長いマヒロがいつものように3人の会話を楽しそうに聞いて微笑んでいた。
僕ら5人は教育ビル行きのシャトルバスに乗り込むためバス停に並んでいた。
相変わらずヒロとソーリ、教授はラボで寝泊りしているらしい。
「もう、お兄ちゃんたら洗濯物する約束なのに、ぜんぜんやらないんですよミカさん。ユウカ今日はもう下着が無くて最後の一枚なんですゥ。 毎日あそこでドローンばっかりいじって……」
「それなら私が洗濯してあげるよユウカちゃん。ぐへへ」
「ヒユリ、涎垂らしてるぞ。 そんなにユウカの乳が良いのかお前……」
「ミカ、私はユウカのためだったらどんな事でもするわ。 あんたの下着はユウタにでも洗ってもらうのね。 ユウカのブラなんか、きっとスイカでも入るけど、あんたなんかブラじゃなくてニップレス貼って置けば良いくらい……」
男一人で4人の女子に紛れていると全く男と認識してくれないようだ。
会話を聞いていると顔が真っ赤になって来た。
「あーユウタさん顔赤いですゥ。 のぼせたんですか? 夏も近いですから気を付けてくださいね」
最近、女子3人は仲良くなって暴君ミカも一緒に居るのが楽しいらしい。
ユウカもヒユリも普段は気兼ね無くミカと話す。
恥ずかしがり屋のユウカもヒユリと居る事で、少しずつ前向きになっているようだ。
凄いのはヒユリだ。
自分の主張をシッカリしながら、ズケズケと人をけなすように会話するが、返ってそれがオープンで気持ち良く、それでいて周りに良く気遣い、場を盛り上げている。
三人の女子を観察しながら視線を前の方に移すと、僕らの前には凄い数の人達が何列にも別れ並んでいる。
それを大型バスが次々やって来て人とドローンを飲み込んで行く。
スクエア支部の制服を着た何千と言う人達が同じ色の大型バスに乗り込む様は、入社当初にミカと同じに感じた蟻の群れだった。
きっと巣の中で規則正しく働いている内に、僕らも蟻になったんだと思うと思わずフフフと笑っていた。
相変わらず三人はガールズトークで盛り上がっている。
僕らが乗り込んだバスは8台目だった。
「おーい、待ってくれー」
毎朝同じ掛け声で僕らの列に入り込んで来るのはヒロヒト。
「いつもおそすぎ……」
か細い声でボソッとマヒロが言うとヒロヒトは「すまん」と言って毎朝全員でバスに乗り込むのが日課となった。
あれから僕らは何とか12人のメンバーを集め新人中隊を立ち上げた。
ミカと僕、ヒロとユウカ、ヒロのドローン弄りの師匠で2回生のソーリと教授。
ソーリと教授の同郷で後輩なのに、アイドルユウの親衛隊長のヒユリ。
それからミカにコテンパンにやられたモヒカン3兄弟のシンジ、ロクロウ、ユウジ。
あの後、3兄弟は病院に運ばれて、病院に向かったミカに間接をはめて貰った後、しこたま説教をされ、会社からは10日間の謹慎処分と減俸、ボコボコにした人の入院中の介護と言う処分を食らった。
その後、改心したらしくミカを姉御、僕らを兄貴分と呼んだ。
そして事件の次の日、僕らのメールを見て二人が昼食の時にやって来た。
イギリス出身のヒロヒトとマヒロ。
イギリス国籍だが故郷はフォークランドだそうで、同郷者の入るブルーキングダムには行きたく無い理由が有るので僕ら新規部隊の噂を聞いてやって来たのだそうだ。
と言う事でヒロが考えたユウに釣られる者はその後誰も来なかった。
ヒロは暫く作戦の安易さに落ち込んでいたが、毎日ドローンを弄るのに忙しいのか直ぐに普段のヒロに戻った。
新規中隊の申請はメンバー表と本人のサインで済んだが、問題は中隊運営の企画書だった。
まず、中隊名、中隊組織表、中隊戦術報告書と運営火気及び車両申請書、そこから予算計上申請書、中隊教育計画書、その他これからどのような組織形態で演習に参加し、そのためにメンバーは専攻授業を受けなければ成らなかった。
当然、組織運営上の責任者も決めなくてはならない。
「まあ、私達に任せて頂ければ大丈夫です。ビショップ中隊でやっていた事ですから」
教授が議事進行と書類作成を買ってでた。
謹慎中のモヒカン3兄弟を除いて集まったメンバーの前で「ではまず、役職と係りを決めましょう」 ヒロのラボで中隊立ち上げ会議と書類作成作業を始めた。
「では、私キョウタロウ(教授)が議事進行を行います。まず、役職と係りを決めましょう。 皆さん近代基礎フォーメーション概論の教科書を出して下さい。 そこの13ページ、組織形態の表……」
教授は全て暗記しているように、教科書の内容を読み上げる。
その横で、ソーリが認識プレートを操作して大型モニターに必要事項を次々表示して行った。
「えー、では、この組織図の師団はスクエア支部の部隊を指します。スクエア師団の認識名称はブルーですね? 九龍はイエローですが彼らは黄色を中国皇帝の色ともじって、皇と言う文字を師団名で使っています。 ヌシュナイはレッドで赤のと言うロシア語クラスヌイが師団名です。ここまでは良いですね?」
近代基礎フォーメーション概論で最初に習った事なので、皆コクリと頷いた。
「次に、ブルー師団の師団長はマーシャル(元帥)でこれは大発教官が任に付いています。 次に大隊長はゼネラル(将軍)キングダム中隊長、ドラゴン中隊長等6中隊の中隊長が兼務しています。大隊はそれぞれ、遊撃大隊、機工騎馬大隊、偵察大隊、空挺大隊等演習規模や地区、フラッグ戦や守備、攻撃の演習作戦で中隊が組み込まれますので、そのつど名前が変わります。 我々はABC、つまりアルファ、ブラボー、チャーリーとアルファベットを発音するアメリカ軍フォネテック アルファベットを付けます。 さて、本題の中隊名ですが、これは戦術や構成員の特徴で付けられるようです。 これはまだ後にするとして、中隊責任者の中隊長、作戦立案の中隊参謀、衛生管理のメディック、輸送管理のカーゴと会計担当官を決めましょう」
僕らは、ここでザワザワと隣同士で話有った。
「すいません。 ここで提案が有りますが、兼ねてからの懸案通り、中隊長はこれで良いですね?」
ソーリがそう言うと大型モニターに中隊長ミカ、中隊付参謀ユウタと表示された。
異議を唱える者は居なかった。
「次に会計は私ソウタ(ソーリ)とカーゴ(輸送と備品調達)は教授氏で良いでしょうか? ミカ中隊長」
「先輩方よろしくお願いします。ユウタもな」
ミカの一声でここまでは決まった。
「では、メディック担当ですが、その前に当中隊の戦術を決めないとこれは決められません。 最近、ユウタ参謀の指導で戦略シュミレーションゲームDESERT STEEL(鋼鉄の砂漠)を皆さんでプレイして、ユウタ参謀がそれを元に考えを纏めているはずですので、ここでユウタ参謀お願いします」
僕はヒロとミカ、3人で話有って来た事をヒロに頼んでモニターに出した。
「僕は、実際の戦闘は判りません。 ただ、戦略と戦術に尽いては実戦に近いゲームで上位入賞した経験でこの任を取らせてもらいます」
ミカは僕を見て誇らしげな顔をして頷いていた。
「ゲームなんかやったって、実戦では使えないと思うわ! 私はやりませんからね」
そう言っていたヒユリもユウカの説得で渋々始めてくれたが、今では嵌ってしまって、ゲームの中身を先輩達のアドバイスを元により実戦に近い内容へ改造するまでになっていた。
三兄弟も寮に帰ると謹慎中で出歩け無いので、僕とスクエア内のネットを使い毎日対戦していた。
「ゲームで適正を判断したんだけど、僕らのチームは前線の大戦車戦とかは向かないです。 後方砲術向きと言うか、ミカと3兄弟以外は草食系戦闘員ですね。 かと言って守備が得意かと言うとそうでも無い。 まず戦闘車両の知識と技術が全くダメで……」
自分で言っていて、とても不安に成るほど、臆病な戦術を取るメンバーが多かった。
皆、僕の言葉に同じく不安を感じているのか、部屋の空気はどんよりしてきた。
ヒロとミカだけが、僕のこれから発表する中隊の戦術スタイルを知っているので、冷静に聞いているが、他のメンバーはザワザワし始めた。
「ユウタ、じゃあ内のチームは臆病者のクズチームて事なの? あんた作戦参謀何だから、何とかしなさいよ」
ヒユリが回りの空気を代表して言った。
「ヒユリ、否定は出来ない。 僕らは臆病者なんだ。 これから参加する演習では、先輩達のビショップ中隊のように、指揮車を狙われて全滅しかねない。 正直今のままでは、スクエア師団の足を引っ張る可能性だって有る。 だから、これからはもっとドローンシステムの勉強と僕らそれぞれの技術向上が必要なんだ」
皆、黙ったままラボの空気が凍り尽いたようにシーンと成った。
「おい、皆。 その事を確り肝に叩き込んで、ユウタの提案を聞いてくれ」
ミカがそんな皆を鼓舞するように言った。
「では、まず僕らは1日でも早くドローンの操縦可能数を増やして、卑怯だけども、前線で罠や待ち伏せをして敵を倒す作戦が良いと思うんだ。 長距離カノン砲とカノン砲搭載戦車に特化した部隊。 そのためには大量の弾薬を補給する方法と戦場を移動する牽引車、それから斥候部隊が必要で、多くのドローンを操縦しないと出来ない。 まずここからが必要だ。 それから……」
ヒロは僕の説明に応じて事前に準備した資料をモニターに映し出して行く。
「……で、これはアメリカ軍の近代戦術サーチアンドデストロイ。 相手を探し出し殲滅する作戦なんだ。 そこで、ユウカは、まだまだ操縦数を増やせると思うので、155ミリ M1砲とM5重牽引車を使ってもらう。23.5 km先から強力な155ミリ弾を射出出来るんだけど、かなり重量が有るので普通のトラックじゃ輸送できないので、スピードと砲弾も沢山積めないけどM5重牽引車と対で操縦してもらう。 それにヒユリがサポートと航空機対策でボフォーズ 40ミリ対空機関砲とスチュードベーカートラックそれに教授も砲弾の輸送と補給基地の確保、ソーリは工兵専門で……」
ラボに居る全員の顔が次第に真剣になり、さっきまでの不安が取り合えず、それぞれ今やるべき事が決まって行くので振り払われているようだ。
「じゃあ、ヒユリがメディク代表でサブはマヒロで、ヒロは移動出来るキャノン砲搭載のM7プリースト、ヒロヒトはヒロの補給と警護だね。 ミカと3兄弟は前線で囮兼かく乱部隊、装甲の厚い中戦車と駆逐戦車に歩兵ドローンで遊撃隊を組んで……」
最後にミカが「よし!これを教育本部に提出してくる。 俺達の中隊名は臆病者のチキンネームだが幽霊中隊、ブルーファントムカンパニーだ!」
「オー!」皆で奇声を上げ、明日からそれぞれ多くのやるべき事が山済みとなったが、その時の全員の顔は不安と期待が入り混じった複雑な顔をしていた。
今は初夏だと言うのに、スクエアは砂漠戦用の演習地でも有るので、太陽がジリジリと肌を指す。
ここは屋外射撃場。
午前中にスナイパー概論と初級戦術論を受け、皆で昼食を取った後、実戦練習で狙撃をしている。
隣には僕と一緒に支給された僕専用ドローンが同じ姿勢で腹ばいとなり大型狙撃銃を構えている。
僕らは戦場に出る事は殆ど無いので、実弾演習など必要無いと思ったが、ドローンを操つる時やデータ調整は現実の感や体験が重要だと教官が言っていた。
実際、自分が持つスコープの調整とドローンのターゲットポイントの画像は同じなので、自分で引き金を引いて外した時、同じ画像で狙ったドローンも同じく外した。
3体並べて演習した時、2体外して1体が標的のど真ん中にヒットした。
教官が同期させて見ろと言うので外した2体のデータをヒットしたドローンのデータで上書きすると、見事に3体同じ場所にヒットさせた。
風向きや湿度等を体感しながら屋外射撃場で練習する内にどういう調整をするべきかだんだん理解して行った。
僕以外もこうして専門教科でそれぞれ受講している。
ヒロ、ユウカは大型キャノン砲の発射時の轟音と重い砲弾の運搬で体のあちこちが痛いと言っていたし、美香とヒロヒト、三兄弟は実際に狭い戦車で演習をこなしている。
ヒユリとマヒロは医療研修で立ちっぱなしなのと、補給理論の物資の積み降ろしで足が痛いと何時も言っていた。
そうしながらも僕らは放課後に集まり、ソーリと教授を師匠にドローンの操縦数を増やしてながら、ゲームでフォーメーションと連携を何度もシュミレーションして、8月の戦場デビュー紅白戦に向け頑張った。
そんなある日、それぞれ自分専用のドローンを支給された日の事。
前々から支給日の告知を受け、ヒロと僕はその日を指折り待っていた。
「ヒロ、今日だ。 とうとう今日、寮に帰ると僕のドローンが待っているんでよね?」
「そうです。 とうとうやって着ました今日が!もう早く帰りたくてウズウズしますね」
「うう……。 早く見たいねマヒロ、もう今日は早退しよう」
ヒロヒトが箸で食器をカンカン叩き始めてマヒロに話かけた。
「うるさい。 箸、やめて、恥ずかしい」
ギロリとヒロヒトを一瞥してマヒロが怒っている。
「先輩、先輩。 ユウのキワドイアバター、データで下さいよ。 替わりに裏サイトで見つけたユウのエロ画像差し上げますゼ旦那方。ゲヘヘ」
ヒユリはソーリと教授のアイドルユウアバターを貼るつもりだ。
「ミカさんはどうします?ドローンのアバター。 ユウカ、お兄ちゃんの画像貼ろうかな……」
「え? 俺はどうしようかな……。 お前らはどうすんのよ?」
「姉御、俺等はヤッパ姉御にしますわ。 なんて言ってもマイカデビルに敵う者無しですからねェ。 なあお前ら」
ここで僕はふと気が付いた。
初めて自分のドローンを支給される事に浮かれる後輩を、昔を懐かしむ老人のような表情で見つめるソーリと教授の後ろには、制服を着て両手を頭の上で猫の耳のように構えるユウのドローンが立っていた。
(まてよ? て言う事はだぞ、ファントム中隊はミカとユウカのドローンが沢山居る痛い中隊になってしまうって事……? 僕もユウにしようと思っているし、当然ヒロはミカだろう。 まともなのはヒロヒトとマヒロだけなのだろうか? ヒロも加わるのか?)
僕は後の事は考え無い事にし、目の前の銀鱈定食に集中する事にした。
(日本の定食て味噌スープと御新香付きって書いて有るけど、漬物と御新香は違うのかな?)
そう思いながら認識プレートで銀鱈を検索してビックリした。
(日本人は深海魚も定食にするのか……恐るべし日本の魚文化