UnmannedAerialDroneSystem
「うわーーーー!!凄いよミカ、ヒロも聞こえる?」
「ああー聞いてるよユウタ、こいつはクールだぜい」
「話には聞いてましたが凄い……今自走で30Kmは出てる」
僕とミカ、昨日知り合った沖縄から来たヒロは一通り、ドローンの講習を受け、演習地区で遠隔操縦している。
真っ暗な中に巨大なスクリーンが、ドーム型で見え、いろんなコマンドウインドにパラメーターと、コマンドBOXが並び、映画館のスクリーンでゲームをやっているようだ。
音楽も自由に流して良いと言われたので、さっき認識プレート端末で、社内音楽サイトから、メタバンド、ヘルゲートのアルバム”サドンデス”を丸ごと1本リピートにしてフルボリュームで流している。
作戦パネルにチュートリアル教官が次の支持を出して来た。
[諸君の前方500mに10mの高さの建物が有る、それをよじ登り屋上で縦列隊形で待機□□ミッション□□ブラボー地点縦列待機□□]
音楽を流していても、支持がちゃんと優しい男の人の合成音声で聞こえてくる。
(了解の仕方は……これだ)
目線でアンサーボタンを見ながら、右指を2回ひくひくさせる。
[1041□□コンプリート□□]下の方に文字が流れる。
コンクリートの壁をよじ登り、広い屋上に着いた時、[1041オート縦列体系]、と書かれたコマンドBOXを目で確認し、右手の一指し指をひくひくさせる。
[1041□□コンプリート□□ミッションクリア□□オールグーリーン□□]
そう表示され、作戦パネルに[視覚ズームアウト∩バードアイ□□ミッション□□ズーム∩バードアイ□]と表示されたのでコマンドを探し指示を送る。
一面360度、屋上の上の風景になり、斜め上方から全景の映像に替わった。
そこには、ズラリと並んだAUD通称ドローンが、25体20列にキッチリ並び右腕を胸に当て500体並んでいるのが見え、別の空き地や広いスペースに隊列を組むドローンが見えた。
「凄い、感動だ!!こんなに簡単だなんて、自分で走っているみたいだった」
僕は興奮して二人に話しかけたが、突然、フルボリュームの音楽が止み、その声にかき消された。
「では、全員フルフェイスを脱着!!、操作エリア右へ起立!!」
ヘルメットの右に有る大きなボタンを押しヘルメットの固定を解除、それを抱えて、リクライニングシートから起き上がり、指示通りその右手に立つ。
教壇に立つ大発宗太郎と言う名のチュートリアル教官が、笑いながら僕らを見渡して
「諸君、どうだったかな?百聞は一見にしかず、やってみると簡単なもんでしょう?
しかし良いですか?皆さんの先輩や現場で活躍する現役AUD操縦者、略してオーダーは一人最低15台を同時に動かします。それが出来て一人前です。それぞれ適正は有りますが50台相当動かせる人もいます。早くAIドローンに熟れ、次は携帯火器、その次はWUAUD、ウエポンユニットドローンに進みます。
因みに、そうですね、皆さんが扱うウエポンユニットは、第二次大戦で使っていた、兵器、つまり私達スクエアで扱う一番大きな駆逐戦車、T26E4スーパーパーシングですが、皆さんが先ほど操縦したAIドローンを5体分で1台扱えます。
ですので、最低15体動かせる人は3台のパーシング重戦車を操縦可能と言う事になります。
我々はアメリカ軍の使った当時の兵器を扱え、ヌシュナイ校は旧ソビエト兵器、九龍では、当初中華人民軍の物だったのですが、負け続けたため、今は旧ドイツ帝国軍の兵器を使っています。
弾薬、装甲、飛距離等は当時のままですが、乗員では無くドローンシステムを使い我々が操縦します。
そして、今年の新人戦はヌシュナイで冬季戦で行なわれます。毎年、新入生の何人かがここで若い命を無駄にします。良いですか!これは冗談では有りません。教育機関校3校の巴戦です。良いですね?!」
ここで、仮クラスのみんなはザワザワと不安な表情で話し始めた。
「ユウタ……大丈夫かな……こんなの聞いてなかったよ」
ヒロが僕に小さな声で話しかけて来たけれども、僕も不安でかなり前の列に並ぶミカを見た。
ミカは何か察したのか、僕の方を振り向き右手の親指を立てウィンクしながら突き出し(大丈夫)とゼスチャーした。
ミカがそうする時は必ず上手く行く。
「ヒロ、ミカが守ってくれるって」そう言うと、
「え?ユウタ、ミカがってどう言う事?」
「ああ……えと……今に分かるって」そう言ったがヒロは不安そうだった。
もう一度ミッション形式でチュートリアルをした後、昼食を取るため1時間の休憩になった。
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スクエア支部には教育校のWaemHaus、ハイクラス(高校相当)、カレッヂクラス(大学相当)、グラドュエートクラス(大学院相当)の社員が3万人と教育担当社員、一般社員、アメリカ駐屯軍、合わせて25万人がこの地区で生活している。
北東に位置するスクエアの三分の一地区に社員寮と街が有り残りはアメリカ軍基地とドローン関係の生産工場、4分の2は、演習場なのだが、震災時の瓦礫が放置されたままになっている。
そこで教育機関、各校がドローンを使い戦闘している。
3年後、ハイクラスを卒業するとそれぞれの持つ適正に合わせて、カレッジの専門課程に振り分けられる。
イエローカンパーで必要なのは軍人だけでは無い。
科学者や医療関係者、政治家等の優秀な人材が必要だし7年後は自由に退社し別の職業を選んでも良いが、殆どは会社に残り各セクションで働くのだそうだ。
そのまま軍事部門に残っても良いし7年間で自分の道を選べる仕組みになっている。
ただ軍カレッジに進んだ場合は、各国の保有する最新の兵器に、AUDシステムを装着して要請国に行き作戦展開する子会社のブラックカンパニーに所属する決まりが有る。
給料は格段に上がるので、そのセクション1本を希望する子も要るらしい。
でも3年間は第二次大戦のデータを元に製作されたハイテクロートル兵器のユニットドローンを使い、三つの地区の戦闘フィールドで今も先輩達は戦っているのだ。
昼食前に大発チュートリアル部長が又、意味深な事を伝えた。
「はい!これから昼食に入りますが、皆さんが今使ってもらった仮クラスのここの操縦練習教室は、24時間いつでも使って結構。何時誰が、どのような使い方をしたかは当校のメインサーバーに全て記録されます。後は、授業をする20階以上に有る教室で自由に授業を受けてください。たとえば戦略理論、戦術理論、工学理論、スナイパー概論等、開始、終了時間を自分で時間割りし、残った時間ここで操縦しても良いですし、工房棟でドローンをいじって頂いても結構、ただこれから一ヶ月、月末締めまでに先輩達のチームか、もしくは新しいチームを新人だけで作ってもらっても結構ですので必ずチームに所属してください。期日までに残った者はそのメンバーでチームを編成し中隊を構成してもらいます。
来月からはその中隊で役割分担を決め、授業の取り方等の企画書を提出して3年間行動してもらいます。
現存中隊に入った場合は中隊長の支持にしたがって下さい。
どの中隊に所属するかで、他校との軍事演習、対戦演習で生還出来るかが大きく変わります。この後、皆さんが食事をするホール内で今日から先輩達が中隊への勧誘を行いますので、先輩方から良く話しを聞き、所属中隊を選んで下さい。 勧誘されるとは限りません。だれも声を掛けてこないかもしれません。自分から進んで、先輩方と交流を持って下さい。
まず明日からの説明ですが0830時からの朝礼、その後の近代基礎フォーメーション概論は全員参加してください。
各授業、又は校内施設の利用で出退勤が認識プレートにメモリーされます。
欠勤は減給です。
1800時以降のこちらで指示するミッション以外に残業は付きません。
よろしいですね。
その他の集合命令、対戦地区の支持等は皆さんの認識プレートで指示します。
突然の召集等に対応出来るよう常に携帯するように。
では1330時デルタ地区、遠距離操縦指揮所、管制ルームに認識プレートに指示された番号の操作エリアで指示あるまで自由待機、1400時より、演習所内清掃活動ミッションを行なう。解散!!」
バラバラと皆歩き出し食堂ホールに向かう。
ヒロと二人で同じ方向へ惰性で向かうが少し不安で、会話も無く人の流れにのって巨大なホールに着いた。
だが次をどうするのかするのか分からず、人の多さと広すぎるホールで二人共おろおろしていた。
すると二人のプレートが同時に鳴り、着信を押すとミカからの電話だった。
「おい、二人共早く来いよ、俺が窓際の席取ったから。ヒロはチャーハンライスとパイタンスープ5人前な!ユウタはフライチキン20個!二人共聞いてる?場所はポイント転送して有るから誘導アプリで早く き・て・ね」その後チュッとキスの音がした。
ミカは人を使う事に架けては天才だ。
「いやー……暴君……ミカ」そう言ってヒロを見ると、鼻の下を伸ばして目にハートが見えた気がした。
(やられてる……こいつ完全に操られてる……ミカを女だと思っているのだね……かわいそうに)そう思いながら笑いながらヒロに「いこう」と言うと、「喜んで!!」と張り切っていた。
[[改ページ:ここで行う]]
ヒロと二人で認識プレートの(ミカ)マーキングを確認し海の見える窓際のテーブルに向かうと、ミカがこちらに向かい手をブンブン振っている。
その傍らで、大柄な金髪男とスラットしたモデルのような女性がミカと何か話していた。
「あれ?知らない人が二人居るねヒロ」
「そうですね、多分ドローンが2台後ろにいるので、上級生じゃないですか?」
ヒロと僕は大きな円形のテーブルに、持って来た昼食を置きながら二人に「こんにちわ」と挨拶した。
上級生の二人はこちらに少し目で挨拶して仕切りにミカに何かを話していたがミカが「ああサンキューユウタ、この人達はハイクラスの2回生、ミナとセイゾウ、チームの勧誘だって」そう言うとトレイからチャーハンを取って、バクバク食べ始めた。
「こんにちは、チェリーボーイ」ミナが僕をみて最初に声を掛けてきた。
隣のセイゾウと言う人も笑いながら「チェリーボーイか成るほど。いかにも童貞のイカ臭い匂いがプンプンしてるな。ヤア、ブルードラゴン中隊のセイゾウだ」そう言って立ち上がり握手を求めて来た。
少しミカの眉が中央に寄ってピクピクしているのが解った。
(え……まずい、まずいぞー、ミカが切れてるぞ、どうしよう)
僕は握手しながら場を和ませようと「あ、ども……いつもちゃんと終わった後は手を洗ってるので大丈夫ですよ。ユウタですよろしく。こっちはヒロ」と言って握手したが、ますますミカの眉はピクピクしている。
「こんにちは、よろしくです。ヒロです。沖縄から来ました」
その後、ミナが「よろしく」と言って立ち上がった時、僕とヒロは彼女に見とれた。
最初から綺麗な人だとは思っていたが、座っていて見えなかった均整の取れたボディーとモデルのような仕草にゴクリと二人で唾を飲み込んだ。制服はサイズを一つ落としているようにピチピチで開いた胸元から胸の谷間が見える。
その時、僕の足をミカが座りながら思い切り蹴飛ばした。
「痛!痛いよ!ミカ」ミカは料理を口一杯に突っ込み、モサモサ動かしながらソッポを向いた。
「あら、ごめんなさいネ、私はブルースパイダー中隊のミナ。今日の初期演習で一番最初にビルへ駆け昇った彼女を勧誘に来たの」
ミナはミカの隣の椅子に足を組んで座り直した。
「おい、蜘蛛女、俺の方が早かった。さあ、こいつらは要らない返事を聞かせろ小娘」
ダンゾウはそう言ってミカの横に手を組み仁王立ちした。
二人の後ろには、AIドローンが離れて2体、待機ポーズで胸に手を当て立っている。
ダンゾウの方はアニメヒーローの青いマスクマンで、ミナの方は黒に青い蜘蛛の巣模様でSMの女王様の様だ。モデルのように左足を前に立っている。
突然ミカが口の中の物をゴクリと飲み込み「オッサン、うるせーぞ!テメーの中隊にゃ行かネー。俺のユウタとヒロの子分が要らないなら他を当たれ!」そう言って、又チャーハンを口にガツガツ詰め込んだ。
「おい、小娘、先輩に向かってその態度は何だ。おとなしく痛い目を見ない内に、黙って俺の言う事を聞け」そう言ってダンゾウが美香の胸倉を掴もうと手を伸ばした時、ミカはガタンと椅子を倒し、ダンゾウの勢い良く突き出した右腕を掴み、反対側へ引っ張った。
ダンゾウはミナの座る椅子の後ろにバランスを崩して倒れ込んだ。
その上にミカが馬乗りになり、ダンゾウの太い首に着やせするミカの筋肉質の腕が回り、ダンゾウの鼻の穴には二本の箸が入っている。
「おい、鼻の穴に箸ぶち込まれる前に大人しく聞け、良いか?」
ビックリして汗をダラダラ出しながら、ダンゾウは動かず小さく「ああ」と言った。
ミカは、ダンゾウの耳元で小さく呟いた。
「クソの居る所には行かネー。ブタは消えろ。アンダスタン?」
又ダンゾウは「ああ」と言った。
ミカの制服のパンパンになった二の腕が、もとの華奢に見える所まで縮みミカはサッと飛び降り臨戦ポーズで回りを威圧した。
気が付くと、ダンゾウと同じ金髪のGIカットが回りを取り囲んでいた。
ワーと一人飛び出した者の、突き出した手をダンゾウのように掴み、後方へいなすと、今度は倒れ込む者の顔に膝を沿え、左肘を頭に乗せてそのまま地面に倒した。
ガツンと音がして、肘を離すと白目を向いて倒れ込む。ミカがそのまま集団に向かって飛び上がった時、「おやめなさい!」とナミが一括した。
集団の動きがミナの一括でフリーズした前で、既にもう一人ミカの踵落としの餌食になっており、どさりと床に倒れこんだ。
ミナは凛とした良く通る声で言った。
「ダンゾウ、あなた、負けて尚、みっともない事をするのがドラゴン中隊のやり方でしたかしら?聞いてる?」
ダンゾウは下を向きながら大きな体でゆっくり立ち上がり、「すまない、撤収する。ドラゴン中隊撤収!」顔を真っ赤にした金髪の大男達は、取り巻く野次馬を掻き分け、中隊の一団とホールを出て行った。
その後ろをアメリカンヒーローのドローンが隊列を組んで後を追った。
「うおー」とヒロが手を叩くと、野次馬達も一緒に「おお!」と言って歓声を上げた。
「すばらしいわ、ミカさん」そう言ってナミは拍手をしながら、「わたくし達の中隊も、無理そうね。 良いわ、又気が向いたらお声をかけて下さらない?」そう言ってミカと握手した。
「ああ多分、人に命令されるのは好かネー。俺らだけで組むと思う」ミカは握手しながらそう言った。
「まあ、そうですか。宜しくてよ。でも演習中に死なないように。過去、ルーキー中隊が生き残れたのは初年度を除いて過去4チーム。5チーム目に成れるよう頑張る事ですわね。ごきげんよう」そう言ってミカはモデルのような歩き方で僕らのテーブルを離れスパイダードローンもその後ろを同じ歩き方で付いて行った。
ミカを見ると少し頬に傷が付き血が伝っていた。
野次馬達もバラバラとその場を離れミカは倒れた椅子を引き起こし食事に戻った。
「ミカこれ、頬、血でてる」ミカに消毒用ウェットテッシュを渡して、多分ビックリして逃げ出しているだろうとヒロを探すと、僕の後ろでメガネの奥にウルウルした目をさせたヒロがミカに駆け寄り「ミカさん、僕と結婚…いや、僕を弟子にして下さい」
僕は思った。(ダメだ、ヒロは完全にミカ電波にやられてる……)
「ああ、でも昨日から子分だから弟子はダメだ。子分な。ユウタ、バンソウコウくれ」いつも喧嘩するので僕のポケットにはエイドキットが常備されていた。
「貼ってやるよ上向いて」ミカは素直に座ったままで首を曲げる。
ミカの頬にバンソウコウを張って、「よしよし」と言いながら犬を興奮から冷ますように髪を撫でてやると、いつものように落ち着いたようだ。
「お前ら早く飯食え、これから移動も有るんだぞ」
そういうミカに「喜んで」とヒロはキラキラした目でミカを見ている。
僕はこちらに注目している回りを見て(また、目立ってしまってる。今から色んな事で大変になるぞこれは……ヒロは巻き込まないようにしよう)
アジノヒラキという魚のボイルを食べながら、ミドルでもそうだったがミカといると必ず起こる事をあれこれ想像しながら、ふと、平べったいこの魚はヒラメと同じかなと思った。