魔女、騎士と話す
お待たせ致しました
長い道程だった。
やっと救いの場所に辿り着いた瞬間、今まで無言だったゲオルグさんが喋りだした。わざとか!
「今回の件は私に原因があります。クロード様に罪はありません」
ふせた長い睫毛に、憂いが伺える。
うわ、綺麗…じゃなくて!別に弁解するのはいいんだけど…そろそろ我慢の限界なんですが。主にソレが。
解放を感じた瞬間に閉塞されると最高に焦れるよ!
ふう、とため息が出る。
「例え、あなたが原因だとしても誘拐の共犯者である事に変わりはありませんよ」
言い終えてから、しまったと口を閉じる。思わず、苛々して本音をぶちまけてしまった。
恐る恐るゲオルグさんを見れば、こちらを…静かに見つめてるー!
「…確かに、非合法な手段ではありませんでした。拐う、などという非人道的な手段で連れてきてしまい、大変申し訳なく思っています」
「はあ…」
心底申し訳なさそうに頭を垂らすくらいなら最初から謝って下さい。今更過ぎます。
と、キツーく言おうと思った。が、ついでに微妙に気になる「お願い」とは何なのか。何故、ゲオルグさんが原因なのか。よく解らないのだ。「魔女」に何を願うつもりなのか想像がつかない。
「ねえ、あなたが原因ってどういう事ですか?」
紅の瞳が躊躇を見せ、一瞬だけ苦渋を見せた。だが、直ぐにそれは隠されて。
「私は人間離れした力を持っているのです。岩をも砕く剛力、どんな動きをも感じとる知覚、疾風の如き瞬発力。…極めつけは驚異的な体力と回復力」
声音は何処と無く暗かった。
人は誰しも特異分野が一つあると言われている。一つだけ、人よりも優れていたり劣っていたり。特別に異なる能力が。
私の呼吸音が変わった事に直ぐに反応したのも納得。本気で驚いたもの…。
だが、ゲオルグさんの能力は…人間の特異領分から随分とはみ出しているようだ。
「…力を誰もが恐れました。血縁者も、友人も何もかもを失って――身一つで入った騎士学校で、同輩のクロード様に救い上げて頂いたのです」
「…願いは「力の消去」ですか」
「はい」
もし消去出来たとしても、一度失った縁を再び結ぶのは難しい事だ。
皮肉にも、その力があったからこそクロードさんとの縁が出来たようだが。力を失って、二人の関係は何処へ向かうのかも解らないのに。
「力は使う為にある、クロード様はそう仰って下さいましたが…。この平和な世に、余りある力は必要無い。何の為でも無い力を持っているのは…酷く、重い」
軽く前髪をかきあげて、眉を歪める。吐き出されたこっちも「重い」って反応したい。…きっと、私には想像出来ない苦悩を沢山抱えて来たのだろう。
…誘拐した時点で同情の余地は無いけど。
一つ、その力に心当たりがある。
「ゲオルグさん、私はあなたの力にはなれない。ただ、その力が何の為にあるかは解る」
紅の瞳に私が映る。
困惑を滲ませたソレに視線を合わせ、告げようと口を開く。
「あなたは――」
しかし、肝心な時に話が遮断されるのは御約束。
視界の端に映った小さな影が、直ぐ傍を駆け抜けてゲオルグさんを突き飛ばした。
「ッ、」
凄まじい速度に反応は出来たようだが、対処しきれなかったようで…ゲオルグさんは壁に叩きつけられた。
苦悶の声を出している騎士に青ざめたが、彼を隠す様に私の視界は埋め尽くされた。
――一人の胸板によって。
「無事で良かった。…エレ」
強く抱き締められてから、額にちゅ、と口付けがふってきた。
そこからは安堵と、暖かな気持ちが伝わってきて。
「――迎えに来たよ。帰ろう?」
「…レイさん!」
迎えに来てくれた祖母の『魔女騎士』の穏やかな笑みによって、一瞬前にゲオルグさんがすっ飛んだ記憶もすっ飛んだ。
…一瞬だけ。
ゲオルグさんが人間離れしている筈なのに、呆気なくすっ飛ばされた件については次回。
主人公の生理現象についても次回。