魔女、彼らと出会う。
彼ら、即ち複数。
痛い。頭がじんじんする。
でも、この布団は最高に柔らかくて素晴らしい。いつから祖母はこんな布団を買ったのか。…ん?
どケチ…いや、倹約家の祖母がこんないい布団を買ってくれる訳がない。
異常さに気づいて、意識が戻ってくる。
「―――が本当に?」
「はい、―――魔女――である者かと」
「ならば、―――の」
…魔女。うっすら聞こえてきた単語に、背筋が冷えていく。私を「魔女」と知っていて彼らは連れてきたのだ。"何か"の為に。
魔女狩りするのなら、こんな柔らかい布団に寝かせる以前に意識が無い時に…殺る。ならば、他に目的があっての事であろう。非合法な遣り方には納得いかないが。
…もう少し耳を澄ましてみよう。
「俺はお前を誇りに思っている。力は使うべきものだ」
「…有り難き御言葉ですが……、」
声は両方とも男のものだ。且つ、何と無く若い気がする。って、あれ?どうして話し声が止まったんだ?
「クロード様、起きています」
「何?本当か」
「はい、呼吸の感覚が変わりました。覚醒は間違いないかと」
沈黙が部屋を支配した。
…暫く我慢したが耐えきれなくなった為、身を起こす。
目を開けて見れば、キングサイズの素晴らしい布団がある。そして、私を静かに見つめる二対の瞳にも気付いた。
一人は草原のような青々とした緑眼、もう一人は溶岩のような紅の瞳。尊大なしゃべり方と畏まった方、どっちがどっちだろうかとぼんやり考えて、気づく。
「…此所は何処?」
普通の民家には有り得ない間取りの広さと、キングサイズベッドが物語る。
お偉いさんの厄介事に巻き込まれた、と。
私の問いに緑眼の人の方が答えようと口を開いた瞬間、
「シュトビネー領の領主の館です」
言わせるまでも無い、と紅の瞳の方が淡々と告げた。
彼はすらっとした長身に、サラサラな銀髪を首の後ろに結っている。そして、重そうな鎧をつけた騎士風の男。…こちらが、畏まってる方のようだ。
しっかしさー、(多分)主の発言を遮るってのは不味いんじゃない?と思って、尊大なしゃべり方の方を見れば、…八の字眉毛をしている。視線に気づいてか、彼は表情を正して私に向き直った。
「俺はクロード・シュトビネー。シュトビネー領の次期領主だ。こっちは護衛騎士のゲオルグ」
騎士風の男――ゲオルグさんが騎士の礼をとった。
礼が終わったのを見計らってクロードさんが、ここからが本題とばかりに…口の端を上げる。
「魔女グレタ。手荒に連れてきた無作法を許してほしい。…願いがあるのだ」
まるで「出来るだろう?いや、出来るよな。魔女なんだから」と言いたげな挑戦的な表情に、カチンと来る。
勝手に拐ってきた挙げ句、願いを叶えろ?…ふざけんな!お偉いさんは自己中な連中が多いんだねー。
シュトビネー領は私の家から馬で半日かかる距離だったと記憶している。一度行ったら町の子供に苛められた嫌な思い出もある場所。
色々言いたい事はあるけど、取り敢えず重要な事を一つだけ。
「魔女を万能な存在と勘違いしないで。私達は…私は、特別な事は出来ない」
謝って無いような失礼過ぎる次期領主を、睨み付ける。
魔女だからって、それがどうしたっ!つか、グレタって私のばあ様よ。
呆然とする二人を横目に、布団から起き上がって扉へと向かう。…いや、向かいたかった。生命の危機を感じ、恐る恐る振り返る。
今は頭を垂れた騎士と、苦笑いする次期領主しか頼れない。
「すみません、廁何処ですか」
一瞬の間が空いた。
「…ゲオルグ」
「はい」
クロードさんに静かに命じられたゲオルグさんが、案内してくれた。
道中は無言だった。
…緊張感が無くてすみません。
クロードとゲオルグ、同時に出てきたのに容姿の説明がゲオルグしか出なかった…。しかも雰囲気だけ。
…。
クロードはそれこそ金髪のボンボンです。少しだけ前髪を下ろしてますが、他は後ろにいってます。