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 ズン……!!

 突如、地響きのような、大地を揺るがすような、重い音が響いた。

「もしかして、校舎が崩れ始めてるのかも…」

「チッ…まずいな。サポートルームにはまだ大多数の人間がいるはずだ。無事だといいけど」

 放送室前。

 なんとか茶凛を救出することに成功した僕と杉由は保健室に向かっていた。

「それにしても…まさか本当にお前だなんて。茶凛、なんで放送室なんかにいたんだ?」

「…分からない」

「分からないって…」

 茶凛は放送室のテーブルの下でうずくまっていた。

 爆発が起こったのは放送室をはさんだ外の花壇だったようで、いくらか燃えてはいたものの直接被害はなかった。

 僕が手を差し伸べると彼女は黙ってそれを握り、立ち上がってお礼を言った。

 それからすぐに放送室を出て、被害を抑えるためにドアを閉めたところで先程の地響きが聞こえてきたわけだ。

「私、啓くんと学食に行った後、豊島先生に呼ばれてたから職員室に向かったの。そしたらいきなり後ろから…」

「…………」

「さっきの爆発で目が覚めて…放送室にいて、意味が分からないうちに啓くん達が助けに来てくれて…ありがとう。あのままだったら私、無事じゃ済まなかったかも知れない」

「いやぁ、お礼なんていいんだよ茶凛ちゃん。困ったときはお互い様だよ」

 にこやかに微笑む杉由を徹底スルーして彼女は続けた。

「ねぇ啓くん。…さっきの爆発といい…何かあったの? さっきから人の気配もないし」

「それが…」

 僕は事情を簡単に説明した。

「…殺人。また、起こっちゃったよ」

「また?」

「あ、いやいやなんでもない、こっちの話。…で、茶凛を襲った奴についてだけど…多分そいつは、名倉さんを殺して、校内で爆発を起こしている犯人なんじゃないかと思うんだけど」

「じゃあ、私もこの事件の関係者ってこと?」

「それは…どうだろう。直接関わった訳じゃないから分からないけど…茶凛が犯人の姿を見たわけでもないんなら」

「見たよ」

「そう、見たんだ……って、ぇえ!?」

 思ってもみない情報。茶凛がまさか犯人を目撃したとは。

「…って言っても、はっきりじゃないよ。何せ後ろから狙われたわけだし…それでもいいなら」

「大丈夫大丈夫。これで犯人が分かるぞ!! で、誰だったんだ?」

「豊島先生」

「そうか豊島……って、ぇえ!?」

「高井、そのノリ飽きたぞ」

 豊島先生というと、茶凛を職員室に呼んだ張本人じゃないか。でも、豊島先生が殺人に関わっている訳はないし…。じゃあ、やっぱり茶凛の一件は殺人事件とは全く別物?

「あ、はっきりじゃないよ。でも、見えた中から、当てはまるのは豊島先生しかいなかったの」

「それは、どういう…」

「オールバックの茶色い髪でしょ。銀縁のメガネでしょ。それと身長かな。あと顔からして。あの人若いでしょ。まだ20代らしいし。何よりも白衣…生物の先生だったよね。そんなところかな」

「白衣か…それなら、他に川口先生が該当するけど」

「あの人はあんなに若くない」

「だよな…」

「でもそれじゃあ、豊島先生が犯人ってことになっちまうぜ。そりゃあおかしいだろ?」

「それもそうなんだよなぁ…」

「ねぇ」

 ふいに茶凛が、いつの間にか立ち止まっていた僕達に言う。

「保健室、行かなくていいの? …誰か探してるんだったよね?」

「あ」

 そこで思い出した。

 見てみれば、僕達は放送室前から動いていなかった。

 茶凛の話に集中していて、爆音も聞こえていなかったらしい。

 杉由が脂汗をかきながらつぶやいた。

「…もう、爆発起こってから大分たってるよな」

「もしかしたら、お前が望む通り骨の髄まで焼けてるかもな」

「物騒なこと言うなよー、言い出したの俺だけどさー」

 自覚していた。

 そして本当に望んでいた。

 …剣道部には恨みを抱かれないようにしよう。こいつの頭の中で僕はどうなってしまうことやら。笑顔でグロいこと言うもんな。

「よし! 行くに越したことはない。火の勢いが弱まってるかもしれないじゃないか」

「そうだな。ま、行かないよりかはマシか。死体遺棄とかあとで言われても困るし」

 どこまでも酷い奴だ。

 死んだ前提の考えかよ。

「でも…煙上がってるよ」

「!!」

「ほら、お前が渋ってるから!」

「関係なくねぇか?」

「とにかく、行くよ!」

 保健室へ猛ダッシュ。

 黒い煙がもうもうと立ち上る。火は逆に勢いを増していた。

 ベッドがある場所に向かう。

「相原ー、生きてるかー」

 のんきな口調で呼びかける杉由。まとわりつく炎をものともしない。

「あ…」

 結論。

 骨の髄まで焼けるようなことは、なさそうだった。

 そこは――そこだけは。

 先程僕らがいた、爆発が起きる前の保健室と全く同じだった。

 火が燃え移っていない。

 どういうことだろう。

「相原…くん?」

 彼は先程と同じように、仰向けにベッドに寝転がっていた。

 炎に包まれながら。

 目を隠すように顔に腕を乗せて。

 至極気だるげに。

「何で来るんスか…このまま、焼け死んで終わりたかったのに」

 先程と同じ声で。

 同じ口調で。

 言っていることは、全く違った。

「……?」

「また、…俺の周りで、人が死んじゃったじゃないスか」

 人が死んだ。

 おそらく、この爆発で。

 誰が?

「あの人は、悪くないのに…事件には一切のかかわりもなかったのに」

 そこで。

 彼がもう片手で握っているものに目がいった。

 それは。

 ここにはあるはずのない。

「……優志…?」

「……知り合いスか」

「…ここに…優志が来たの?」

「……? ……あぁ、柊さんスね。……じゃあ、啓介ってあなたのことだったんスか」

「!! 優志が、僕のこと何か言ってたのか!?」

「…あなたに…会いに来たって…」

 会いに来た?

「……それで…優志は、どこに?」

「…………」

 とたんに黙ってしまう相原。

 隣りでは再び顔を青くした杉由が、あるはずのないもの――優志のネクタイの切れ端を見ている。

 焦げて褐色になった、ネクタイを。

「…分からないんス」

「分からない?」

「爆発が起こる前…いろいろあってベッドが濡れてたから、すぐに火が燃え移ることはなかったんス。柊さんは俺のすぐそばにいたから、普通にしていればいなくなるなんてことはまず有り得ません。…ということは、爆発が起こる前後、柊さんは何らかの行動をしていたと、そういうことになりませんか?」

「何らかの行動…」

「――詳しくは定かじゃありませんけど、どちらにしたって、柊さんはその行動によって…巻き込まれた」

「ちょっと…待てよ。それってつまり、優志が爆発に…巻き込まれて……」

「生きてる可能性は低い、とだけ言っときます。あの人のことをよく知ってるあなたの方が、そこら辺は判断できるんじゃないスか?」

 爆発に巻き込まれて。

 死んだ?

 …まさか。優志に限ってそんなこと。

 そんなあっけなく、あいつは死ぬようなやつじゃない…と、思いたい。

 少なくとも優志は、殺人事件とは一切無関係だ。ここで死ぬ理由がない。

 お前は不慮の事故なんかで世界からいなくなるようなタマじゃないだろ? 優志。

 お前が生きてると、僕はそう信じていいのか?

「そうだ、あいつが死ぬわけない」

「……だよ、な。死ぬはずないよな」

 同調するように繰り返す杉由。依然として顔は青いままだ。

 僕は相原に手を差し出す。

「さ、相原くん。そんなところにいつまでもいないで、とりあえずここから出よう。いつ火が強くなるか分らないからな」

「俺は遠慮します。…なんか、これ以上生きてたら、もっと周りの人が死ぬような気がしますから。またこんな目にあう可能性だって捨てきれないし」

「なーに意味分かんねぇこと言ってんだよ」

 いつの間にか出口に移動した杉由が、こちらを振り返りながら言った。

 手に何かを巻きつけている。あれは…ロープ?

 杉由はロープを巻きつけた手を腕ごと後ろに引いた。ちょうど犬の首輪に付けたリードを引っ張る要領で。

 同時に、すぐそばで聞こえる物音。

 …相原がベッドから転げ落ちていた。

 ちなみに辺りは火の海である。

「……!?」

 本人にも何が起きたのか分からないらしく、落ち着きなく目を動かす。

 そこで気づいた。

 彼の手首にしっかりと結ばれたロープを。

 文脈の流れから見て、このロープは杉由が手に巻きつけているそれのもう片っ端だろう。

「いつの間に…ッ!? つか、先輩!! 何ですかこれ!!」

「だってお前、あの格好は『縛って下さい』って言ってるようなもんだろ」

「誰がそんな気色悪い願望抱くんですか!! ちょ、引っ張んないで下さいよ!」

「灼熱の海へレッツサーフィン」

「上手いこと言ったみたいな顔しないで下さい!! リアルに燃えますから!! 人間は有機物ですから可燃物ですから!!」

 聞く耳持たず、杉由はロープを手に巻きつけたまま保健室を出て行く。

『わ、ちょ、っと…』引っ張られながらもうまく火を避ける彼は本物だ。

「俺は犬ですか!! ロープでリボン結びしてもかわいさゼロなんですけど!! ほどけないし!!」

「コツは蝶々の上羽根の部分を以下に上手く外すかにかかっている」

「テクニック語ってないでほどいてください! あそこから連れ出すだけならもっと他に方法いくらでもあったでしょ!!」

「ある登山家は語る。そこに山があるから自分は山に登るんだと。俺も語る。そこにロープがあるから自分はお前の右手首にロープを結ぶのだと」

「完全なる気まぐれ以外の何物でもないですよねそれ!! 何で先輩はいつもいつも、こう、突発的なことばかりやらかすんですか!! 付き合わされるこっちの身にもなって下さい!」

 こういうことが頻繁にあるらしかった。

 これはもう、いじめの部類に入るのではないだろうか。

 しばらく廊下で言い合っていた二人の声もやがて遠ざかり、燃え盛る炎の中保健室に一人取り残された僕。

 ……どうするべきか。

「あれ? そういえば茶凛は?」

「ごめん。ずっとここにいた」

 突然ドアの影から人影が現れた。

 そうだった…茶凛は極度の人見知りだった。にしても、見知らぬ人とはいえ後輩相手にも同じ反応を見せるとは困ったものだ。もし部活に入っていたら全く馴染めないのではないか?

 ま、それは僕が考える範疇外のことだ。彼女のことは彼女に任せておくのが一番。専ら性格については尚更本人にしか直せるものではない。結局自分を変えられるのは自分だけなのだ。

「何だそこにいたのか…またいなくなっちゃったのかと思ったよ」

「さっき松川くんが犬連れてたけど、あれ、何?」

 完全に犬扱いだった。

 相原に心から合掌。

「いや、あれはその…一応、人だけど」

「そう」

「あ、話聞いてた?」

「うん、大体のところは。優志くんが死んじゃったんでしょ」

 展開が速すぎる。

「いや、まだそうと決まったわけじゃないんだけどさ」

「だって誰かが『生きてる可能性は低い』って…」

「だからそれはね。可能性が低いというだけであって全くないわけでは」

「じゃあ生きてるのね」

「そうとも限らないんだけど~…」

 あぁ、白黒つけられない話はこれだから嫌いだ。会話の中に“可能性”なんて言葉を混ぜること自体間違ってるんだ。ややこしくなるだけじゃないか。

「とにかく。僕は優志が生きてると信じてる。まだ遠くには行っていないはずだから、今から探しに行って来るよ」

「私も行く」

「分かった。分ったから、とりあえずここを出よう。危険だ」

「私は教室の中に入ってないよ。危険なのは啓くんだけ」

「はいはいそうですね、危険なのは僕だけですね」

「なめてるの?」

 茶凛がイラつき始めた。

 笑顔だから感情の変化が分かりにくい。言葉で判断するまでもなく、これは怒っているんだろう。ごめんなさい。なめてないですリスペクトしてますはい。

「うそうそ。マジになんなって。ほんじゃま、探しに行くとしますか」

「そうね」

「そーやって逃げようとしても無駄ですよ」

 出入り口に突然現れたニューフェイス。

 …佐野だった。その後ろには塚本も控えている。

 この人たちは…何でこうもタイミング悪くやってくるのだろう。嫌がらせか。嫌がらせなのか。あからさまに舌打ちしたくなった自分を押さえ込んで、努めて冷静に対処するとしよう。

「……何用ですか?」

「偶然通りかかっただけですよ。いや…刑事の勘、と言うべきですかね?」

『ハッ。勘ですかそうですか。随分と優秀な第六感をお持ちでらっしゃるようですね。羨ましい限りです。ぜひその類稀なる能力をフル稼働してこの事件の犯人をさっさと突き止めて頂きたいものですね』

 真っ先に浮かび上がった皮肉をまさか言うわけにもいかず、内容に“善”を含めて言い換えてみた。

「はぁ、勘ですか。さすがは刑事、第六感も健在ですね。全く羨ましいです。それを上手く活用すれば犯人像も浮かび上がってくるのではないですか?」

「いやぁ、それほどでもありませんよ。キミはお世辞が上手だねぇ!」

 お世辞だよ。

「佐野氏…幸せ者ですね」

「いえいえ。塚本さんこそ幸せじゃないですか」

「は?」

 この辺りから“大人の世間話”と化してきたので、僕と茶凛は隙を見て二人の間を通り抜けようと試みた。

 ……ん?

 あれ。

 聴覚が麻痺した。

 何でだろう?

「――――――」

 塚本の口が動いている。

 声は聞こえなかった。

 その代わり、聴覚が麻痺した原因が分かった。

「………!! ―――……!」

「――――――。―――」

「―――!!! ――――――!!」

「――…し津さんと私は何の交友関係もありません」

「分かりましたから!! 銃をしまって下さい銃を!!」

「あなたの誤解を解くまでは無理です」

「だから分かりましたって!」

 僕は自分の運命を呪った。

 この刑事2人…佐野は佐野で問題があるが、塚本も塚本で問題がある。

 のろ気話で発砲するか普通!

 ちゃんとマニュアル読んでんのか!

「……啓くん。今のうちに」

「そ、…そうだね。まぁ、死ぬことはないだろ」

 塚本さんは極度の融通の利かなさを兼ね備えている。…のろ気話が辞世の句、なんてことにならないように祈っておこう。

 アーメン。


「で」

 水谷は小沢と佐藤を交互ににらみ、次に安藤をにらみ、最後に――土石流に囲まれた周囲をにらんで言った。

「どうするんだ高所恐怖症リメンバー」

「リメンバー言うな! 和訳で“あぶれ”って言われたほうがマシだわ! いや両方嫌だけど! 苦渋の選択!」

「どうするんだ高所恐怖症あぶれリメンバー」

「まとめちゃったよ!!」

「どうするもこうするも…悪いのは小沢じゃないか。俺は悪くないぞ。小沢の飛ぶ位置が悪かったんだ」

「いや。僕個人の考えだとあそこで佐藤が小沢に掴まらなければこのような事態が起こる事はまずなかったと思うが」

「人の考えは十人十色。大体、こんなことになるんなら最初からロープで降りればよかったと後悔しているところだ全く」

 このような事態。

 こんなこと。

 意味深な言葉が混ざった応酬。無理もない、彼らは今、考えうる限り最悪の事態に陥っているのだから。

 落とし穴、と言えば子供の幼稚な遊びごと程度にしか聞こえないが、彼らはその“落とし穴”にはまっていた。

 それも一般的な“落とし穴”と呼べる深さのそれではない。安藤、小沢、水谷、佐藤の4人が入ってもなお有り余る、超巨大な“落とし穴”であった。ざっと3mはあるだろう深さに加え、広さは2畳分ほど。強いて例えるとするならば、試験管の底から3cm地点をピックアップした感じ。周りは土石流が止まらず、穴の縁からも少しずつ砂が侵入してきている。この状況を一言で表すならば――。

 絶体絶命。

「ま」

 水谷がヒステリーを起こしている横で、安藤がその肩に手を置く。

「こうなる運命だったんじゃねぇか。今まで俺達、人に褒められるようなこと何一つやってこなかったし」

「ちょ、何言ってんの安藤。それって完全な死亡フラグだから。余命僅かだから」

「だってそうじゃねぇか。水谷だって気づいてんだろ? この状況の意味」

「…………それは、…」

 分かっている。

 この状況は危険。そんなことは一目見ても、いや場合によっては見るまでもなく分かりきっていることだった。脱出不能の落とし穴、絶え間なく進入する土砂…だが、問題なのはそんなことじゃない。

 爆発騒ぎが起こってから、存在が薄れつつあった。

 そこを狙って、犯人が自分達をはめたのだとすれば。

 そしてその理由を考えてみれば。

「…? この状況の、意味? 何だそれは?」

「まぁ、確かに危険ではあるな。でもこの程度の高さなら、出られないこともないのではないか?」

 能天気な“分からない組”がうらやましい。この状況がもたらした意味など、きっと微塵も理解していないに決まっている。

「佐藤」

「何だ安藤。つーかさっきから教師を呼び捨」

「どうすれば、この高さを超えて出られるっていうんだ?」

 顔を上げて目線を上に移す安藤。

「簡単だ。誰かが下について、肩に乗れば楽々届く距離だろう」

「誰が下につく?」

「誰って…。………」

 やっと気づいたらしい佐藤が言葉を濁す。

 まだ気づかない小沢は興味津々と言った様子で3人に問う。

「さっきから一体、何を話している? 俺にはさっぱり理解できん」

「テメェはどこまでも馬鹿だな」

 安藤が呆れ気味に彼をにらむ。

 水谷は哀れむような視線を彼に向ける。

 佐藤は自分が先に理解できた優越感も混ざった眼で彼を見た。

「いやいや、何だその眼は。まるで俺が理解力のない馬鹿みたいではないか」

「自覚してなかったのかよ」

「よくそれで18年間生きてこれたね」

「周りが相当恵まれていたんだな。羨ましい限りだ」

 更に呆然とする小沢に痺れを切らした水谷が説明する。

「今佐藤が言った脱出方法に間違いはない。3mの壁を越えるには一人の力では無理がある。なので土台代わりに人を置き、その上に立てば届かない高さではないだろう。見たところみんな170cmはありそうだしな」

 俺は168だ、という佐藤のつぶやきはこの際無視する。

「この場には4人いるから…仮に僕たちをA・B・C・Dとし、Aを土台に選んだとしよう。Aを踏み台にして、Bが穴から出る。同様にC、Dが脱出した。穴の中にはAだけが残された。そこで問題が生じる。穴を出るには2人必要。なぜなら人一人分の身長だと穴の高さには届かないから。なら、一人取り残されたAはどうやって穴から出ればいい?」

「どうやってって…」

 小沢はまだ理解しきれていないのか、唸るように首をかしげる。

「…脱出したB、C、Dが、縄か何かを持ってきて穴に垂らせばよいのではないか? 倉庫でもあされば適当な代物が出てくるだろう」

「残念ながらそれは無理なんだよ」

 安藤が口を挟んだ。

「外の状況も忘れちゃいけねぇ。今校内は爆発騒ぎだ。外にだって起爆装置が仕掛けられている。何かの弾みで爆発でもしたら…どうなると思う?」

 地面で爆発が起きる。

 その近くに大きくくぼんだ場所があれば、そこに土砂崩れが発生して――穴はふさがる。

 残されたAを生き埋めにして。

「起爆装置はおそらく、人が多いところには仕掛けられていない。職員室やサポートルームで爆発が起きなかったのがその証拠だ。全員が校内に避難している中、外に人が一人でも現れると思うか?」

「……」

「きっと、主に起爆装置が仕掛けられているのは外だ。外の爆発で校内に被害を及ぼし、連鎖反応で校舎内の起爆装置にも引火した。その繰り返しで、各箇所で爆発が起こっているんだろう。幸いB棟側の庭にはまだ爆発が起こっていない。…これが何を意味するか分かるか?」

「分からん」

「少なくとも“これから”、この付近で爆発が起こる可能性が100%だってことだ」

「…? ちょ、待て。それはつまり、残ったAを助けようにも、いつ爆発が起こるか分からない状態で助けられない…てことか?」

「それだけじゃない」

 水谷が加わる。

「爆発を起こしているのは犯人。犯人がなぜ、人が多いところで爆発を起こさないのかを考えてみろ」

「被害…が、でるから?」

「まさかとは思っていたが本当に馬鹿なのかお前は。故意に爆発を起こす理由NO.1は危害を加えるためじゃないか。…しかし、そうじゃない。逆に、爆発まで起こしておいて被害を出す以外に何の目的があるかっていう方が僕にとっては不思議だった」

「水谷、お前分からないのか?」

 放置されていた佐藤が素っ頓狂につぶやいた。

「貴様は分かると言うのか佐藤」

「簡単だ。俺達事件関係者を残しておくことだよ」

「……おい、そりゃおかしいんじゃねぇか? 犯人は当然だが捕まりたくなんてねぇわけだから…普通、残すんじゃなくて消そうと思うだろ」

「犯人の心理を考えてみろ。愉快犯でもない限り、殺人には何らかの理由がある。それも生半可な諸事情じゃない、人を殺めるほど深刻な理由がな。殺されたのは本校きっての不良のリーダー名倉。被害者は主に生徒たち。…その中に、名倉を恨んでいない奴なんていないだろう。そう考えれば、この学校の関係者全員が犯人にもなりうるんだ」

「…何を言いたい?」

「俺が思うに…この事件の犯人は、この学校の生徒、それも今校内にいる事件関係者の中にいると踏んでいる」

 その言葉に、3人がそれぞれ反応を示した。

 安藤はギロリと彼をにらみ上げ。

 小沢は『この期に及んで何をわけの分からんことを』といった風な嫌味な眼でにらみ。

 水谷は――。

「……僕も、…………そう考えていた」

「なっ…おい! 俺達を疑ってたってことかよ!」

「違うそういうわけじゃない。疑ってなんかいないさ。…僕はもう、この事件の犯人を知っているからね」

「ッ!!!」

 突然の爆弾発言に、その場にいた3人が戦慄する。

「犯人を…知ってるって、おい…」

「お前それ…本当か?」

「――…あぁ」

 驚きの様子で確認する安藤と小沢にうなずく水谷は、なぜか不安気だった。

 一方佐藤は、さっきまでの知的な雰囲気をぶち壊す怒鳴り声を上げた。

「いつから分かっていたんだ!! なぜ犯人を教えなかった!! …もしや…犯人はお前なのか……!?」

 勝手にうろたえてろ、と安藤が履き捨てる。

 小沢は水谷の様子に気づいたようで、

「…顔色が悪いが。どうかしたのか?」

「…………何でもない」

 告白したとたんに、落ち着きなく四方八方を見渡す彼は、まるで何かを恐れているように見えた。

「水谷、教えてくれ。犯人は…誰なんだ?」

 安藤が神妙な顔つきで問う。

「…犯人は……」

 ごくり、とつばを飲み込む。

 続く言葉は。

「犯人は――………」




「いいんですか? あの人たち…あのままにしておいて」

 廊下を歩いていた彼が立ち止まる。

 ゆっくり後ろを振り返り。

 口角を上げ。

 眼を細めて彼は言った。

「ヤツハ…シッテシマッタ」


 のろけ話で発砲する塚本刑事に笑ってしまった反面、佐野刑事あなた生きて戻ってこれるのと心配してしまった反面な今回。

 …これを中2の時に書いたんだよなぁ。

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