【夢日記】雪国
春のある日、いつもの学校帰り。もう何年も乗り慣れた電車だ。いちいち現在の通過駅を確認する必要もなく、スマホでネット小説を読んでいた。
いつもの駅で降りた。先へ進む電車を見送り、階段を上る。改札をくぐった瞬間に、明らかにいつもと違う雰囲気に気づいた。
降りそびれた経験はあったが、降りる駅を間違えることなどあるわけがない。しかし路線図を見あげると、知らない地名で埋め尽くされている。
外に出てみると、そこには雪が降り積もっていた。豪雪ではないが、くるぶし程度までには積もっている。ここが日本であることは分かるが、4月に雪が降る異常に恐怖と好奇を覚えた。
駅前のロータリーはきれいに整備されていたが、人通りはまばらだ。どこか閑散としている雰囲気を感じ取った。
近くにタクシー運転手のおっちゃんがいた。
「ここってどこですか」
「〇〇〇〇地方だが」
なぜか固有名詞が聞き取れない。いや、日本語であることはわかる。それなのに、その単語を脳内で処理し、文字で書き起こすことができない。
「〇〇〇〇ですか」
「〇〇の〇〇だ。」
やはり聞き取れない。それどころか、自分の発声さえ自分で聞き取ることが難しくなっている。口を動かし音を出す、ということはできるのだが、自分がどんなことを言っているのか、耳で聞こえた音を脳が処理、理解できない。
今度ははっきりと聞く。
「ここは何県ですか」
「あまりそういうことを何度も聞くな」
今度ははっきり断られた。嫌われたのだろうか。口だけの謝罪をし、その場を離れた。この間、おっちゃんの仏頂面が崩れることはなかった。
とぼとぼと駅周囲を歩いていると、雪が弱まりはじめた。そうだ、この光景を写真に撮っておこう。そして友人にでも送ってやろう。その雪景色にカメラを向ける。
その瞬間、弱まっていた雪は雨へと変わる。豪雨ではない。優しくてあたたかい、美しい雨だ。一瞬、その雨に見とれていた。
気づくと、カメラの向こうの雪は解けている。これではただの市街地だ。何の特別味もない。急いで違う方にカメラを向ける。優しい雨を受けた積雪は靴底と同じくらいにまで薄くなっていた。
その雪が完全に解ける瞬間、形容しがたい、何よりも美しい瞬間を見た。また写真を撮り損ねた。あたり360°見渡すが、雪はのこっていない。どれだけ走り回っても、再度雪を目にすることはなかった。
「次は~『六文』、『六文』です」
唯一雪を乗せた最期の舟は、私を乗せることはなく、でも確かに夢を乗せて走り去っていった。




