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二人の音楽はAIか?

作者: 秋桜星華
掲載日:2026/03/10

【漆黒の翼を喪★失せし者】



 かつて一世を風靡した音楽ユニットの名前である。


 他の誰にも弾けない超絶技巧のキーボードのゲシュ、ハスキーボイスからカワボまで広い声質と音域を持つボーカルのタルト。二人の音楽は聞いた人に、ときには癒やしを、ときには背中を押されるような力強さをもたらした。


 その曲に、演奏に、歌声に。全員が魅了された。



 ただ一つ、謎があった。



 それは、二人が一体誰なのかということ。


 本名はおろか、顔さえ明かされない。タルトは女性の声だが、ゲシュは性別もわからない。

 ゲシュの力強いピアノと、タルトの美麗な歌声。それだけが二人の存在証明だった。


 やがて二人は人気の最高潮で音楽活動の無期限中止を発表し、多くの人に惜しまれながら表舞台を後にした。



 ***



 ある時噂がたった。


「【漆黒の翼を喪★失せし者】はAIで生成された架空のユニットである」


「作曲も、作詞も、歌声も、演奏も、すべてAIで、顔出しできないのはそもそも存在しないからだ」


 一時期信者のように崇めていたユニットの真実に、多くの人が衝撃を受けた。


 やがて曲を聞く人はいなくなり、AIは嫌悪された。



 ***




「【喪★失】、炎上してるね〜」


 わたしは呑気な声で呟いた。リビングのソファはふかふかだ。もう寝れそう。


「そりゃ、顔出ししてないからな。ったく、顔を見られるのが嫌なだけだっつーの」


 キッチンで昼ご飯を作っていた琉斗(ると)が言った。ちなみに今日の昼ご飯はわたしの希望でねぎ塩焼きうどんだ。


「っつ、あぁぁ! 考え事してたらミスった! 誰だよねぎ塩焼きうどんが良いって言ったやつ!」


「はーい!」


 急に大声をあげた琉斗に返事をする。大変なのに作ってくれてありがと、琉斗。



「……まあうどんはどうにかなるけどさ、【喪★失】の炎上はどうしようもねぇよ」


 琉斗は【喪★失】をしきりに心配するけど、わたしにはそんなに大事(おおごと)だとは思えない。


「なんでそんなに心配なの? 【喪★失】はもう終わったんだよ。わたしたちにはもう関係ないことなのに」


 わたしが問いかけると、琉斗は目を逸らして答えた。


「ま、なんていうかさ……おれとお前の大事な場所、だし? なんか、炎上してるのはいやだ」


 わたしはふふふっと笑った。なんだか嬉しい。



「そういえばさ、【漆黒の翼を喪★失せし者】っていう名前を考えたとき、黒い星をいれたいって言ったの、琉斗だったよね」


「藪から棒になんだ?」


「今見ると、【漆黒の翼を喪失せし者】よりしっくりくるよ」


「……見慣れただけだろ」


 わたしは首を振った。


「ううん、黒い星って失敗とか敗北とかを表すんだって。まさに喪失じゃない?」



 琉斗は少し目を見開いて、それからゆっくり頷いた。



「それなら、おれも一個思ってたことがある」


「なーに?」


「おれたち二人だろ? だから、【漆黒の翼を喪★失せし者たち】のほうがよくね?」


 それから二人で目を合わせて、笑った。



 ***



 ──【漆黒の翼を喪★失せし者】が最後のライブをするらしい。



 その話は瞬く間に広まった。


「最後の悪あがきか」「いまさら何を?」「どうせ誰も行かないよw」


 そんなコメントばかりが目に付く。


 それでも、ライブは行われた。




 ライブに来たのは、主に野次馬だった。多少のお金を払ってでも、末路を見たいという者たち。



「今日はわたしたちの最後のライブにきていただき、ありがとうございます」


 相変わらず、顔は見せない。それを徹底している。


 その態度に、観客は冷たく笑った。変わらないな、と。



「最初の曲は、『青空の下で』です」


 世間に名を轟かせる、きっかけとなった曲。その演奏に、歌声に、観客は圧倒された。『本物』だと嫌でも感じさせられる。



 そのうえ、


「実はわたしが顔を出さなかったのって、ゲシュが『タルトを他の男に取られるわけにはいかない』って言ったからなんですよね〜

 こう見えてゲシュ、愛のお化けなんですよ?」


 と甘々カップルぶりを見せつけられてしまえば、観客にはファンになる以外の選択肢がないのである。



 楽しい時間はあっという間に過ぎ、ライブの終了時間が近づく。


 観客は二人の虜になっていた。



「それでは最後の曲です、書き下ろし曲『Weil du jetzt hier bist』!」


 曲の始まりを告げるピアノが旋律を奏でた。


 柔らかい歌声が被さり、混ざりあって観客に押し寄せる。


 今や、観客の心は一つだった。


『もっと、聞いていたい』


 AIだろうが、なかろうが、どうでもよかった。




 今、この瞬間が楽しければ。面白ければ。幸せであれば。


 基本的に世間とは、そういうものであった。


しいなここみさまの「瞬発力企画2」に参加した作品の掲載です。

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― 新着の感想 ―
顔出ししない、見えていないだけでAIと言われ、AIというだけで拒絶されるなんて悲しいですね〜(ToT) ユニット名が何気にツボってますwビジュアル系みたいな名前のところと、どうしても星がはいると連想…
AIの歌でも感動できますし、今後は増えそうかも? 数年後には常識がどう変化しているかも分からない時代になりましたね〜。 (・∀・)
顔出しできないのはそもそも存在しない > まあ、そういう歌手は普通にいるよね。 AIの話し方はそもそも判別しやすいとは思うんだけど。 会話とかいちいち直してられないだろうし。 あなたが今ここにいるか…
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