俺、転生。
『可愛すぎ、美女すぎ、爆モテ確定!!やばいだろっ!!』
少女が雄たけびを上げ、鏡に映る自分を見て天高く両手のこぶしを突き上げる。
(これは傾国の美女目指すしかないっしょ)
ブロンドの長い髪を揺らし悪だくみをするこの少女の名はプティ・クライアン。
後に伝説となる女(?)である。
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リップ、チーク、マスカラ、カラコン、ファンデ、パフ、ブラシ。
淡い色のメイク道具が並ぶドレッサーに惚けそうになる。
ドレッサーの鏡に映る美しい女優の顔に淡いピンクのチークを塗る。
羨ましいほど可愛らしい顔にため息が漏れそうになる。
俺の名前は天木 駿。25だ。
見ての通り職業はメイクアップアーティスト。
高校の時に憧れ、怒涛の就活(死ぬかと思った)に追われながらも無事につけた職業だ。
今は雑誌撮影を控えた女優のメイク中だ。
どんなに可愛らしい色を当てても似合ってしまう美しい顔にやっぱりため息を出しておく。
(俺も女の子に生まれたかった。まじで。)
多分厳格な母がいなかったらオネエというやつに喜んでなっていたであろう。
それぐらい可愛らしいものやおしゃれが大好きだった。
「はい、メイク終わりましたよ」
声に反応し振り向いた女優のまあ、美しいこと。
「ありがとうございます!お兄さんのメイク素敵ですね。」
にっこりと笑った女優に(おめーのほうが美しいわ)という言葉を飲み込み、
「ありがとうございます」と笑って見せる。
俺が笑ったとこで可愛らしさのかけらもないが。
(まじで生まれ変わったらサクッと女の子にしてくれよ、神様)
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「メイクしてーよ~、スカートはいてみてーよ~」
べろんべろんに酔いながら歩道を歩く。
俺の先輩の加奈先輩(メイク大好きメンタルコンクリート強つよ人間)がそれはまあ酒癖がひどく、飲みに付き合わされる度に死ぬほど酔わされる。
当の本人はけろっとした顔でタクシーで帰るんだからたちが悪い。
まっすぐに定まらない視界で上を見る。数々の電柱と、都会といえどほんの少し夜空に星が見えた。
「早く帰んないと終電逃しちまう」
俺は酔わされるためにここに就いたんじゃないよと思いながら足を速める。
同じように酔っぱらったサラリーマンのおっさんが目に入る。
(なんかあのおっさん焦ってね?)
そんな疑問を持った時にはもう遅かったらしい。
そのおっさんの「危ないよ君!!」という叫び声とともに俺の体は吹っ飛んでた。
気づかぬまま横断歩道のど真ん中に立ってたらしい。
見事にトラックにはねられる。
(最後に見たものがおっさんとかまじつれー人生すぎる…)
だんだん遠のく意識に抗う気力もなく身をゆだねる。
(せめて最後に見るのは可愛い女の子がよかった…)
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⦅ちょっとー、早く起きてくれないかなー?僕忙しいんだけどー⦆
耳元でごにょごにょと喋る声が聞こえる。
⦅ちょっとってばー、お前の魂このまま飛ばすよー?⦆
のんびりと告げられた物騒な言葉に視界が開く。体が重い。
⦅うわあ!!急に起きないでよ!!⦆
「お前が起きろって言ったんだろーが…」
もそもそと頭をかく。
(あ…?)
視界いっぱいに見慣れない景色が広がる。なんか光ってるけどなんもないみたいな…。
そして目の前に小さい男…?ふわふわと浮いていて中世的な顔をしている。
おまけにコスプレイヤーみたいなかっこをしている。
⦅おはよ~俊君。僕は神様なんだけどね~君に提案があるんだ⦆
(こんな物騒な奴が神様…?てか俺死んだよな?てことはここは天国?)
⦅お前はまだ天国に行けるほど徳を積んでないよーだ!!⦆
「おまっ、思考読めるのか?」
⦅神様だからねえ~!⦆
失礼なことを考えてたからちょっと居心地が悪くなったがどうやらこいつが神様なのはほんとらしい。
⦅君ね~酔っぱらって死んだの。でもまだ若いし君願望あったじゃん~?⦆
「やっぱ死んだのか。願望…女の子になりたいってやつか?」
長年のひそかな夢だ。死んでも忘れない。
⦅それそれ~、今ちょうどさ~、女の子の体に空きがあるから転生してみないかい?⦆
女の子の体に空き…?どんな世界観だと思い首をひねる。
⦅いやその女の子がね~、辛い境遇に悩まされて魂飛ばしちゃったんだよね。
そういう魔法あるのよ、あっちの世界⦆
戸惑う俺を見ながら自称神様がにやにやと笑う。多分性格悪いなこいつ。
「その女の子の体に俺の魂が…?」
⦅そゆこと~。ちなみに断ったら君は本当に死んでもらうよ~。向こうはいいところだから僕の提案受けてみてもいいんじゃない?⦆
「女の子の魂が戻ったらどうするんだ?」
ふと疑問に思った。本人の魂が戻れば俺は強制的にさまようことにならないか?
人の体に入るのも少し気が引けるし。
⦅一度逃げた魂は戻らないよ。逃げた魂は僕がいい感じに回収しといてあげる~⦆
こんな怪しいやつの言うこと信用できないが、それ以上に女の子の体を自分が持てるということに興味がわいていた。
おしゃれしたりメイクするのはずっと夢だった。
「その提案、受ける!!!」
⦅おっけ~、じゃあ向こうの世界で元気でね~⦆
視界が一気にまぶしくなり目を閉じる。
(俺の夢の女の子ライフが手に入った…!これは楽しむしかない!!)
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「ん……」
軽い衝撃に目が覚める。
視界に入った情報は思いのほか少なかった。
広々とした部屋だが活気はない。
天蓋ベットに、高そうなテーブルとイス、青いソファがポツリと置かれ、すべて高そうな割に寂しげだった。
(あ、あれは!!)
ドレッサーがある!!!そちらに踏み出そうと腰をあげるがゴテンっと豪快に転ぶ。
水色の長いドレスの裾に足を取られてしまった。
それと同時に貧弱そうなか細い白い足が目に入る。
(男より細いだろうけど…これは細すぎないか?)
俺の体、いや俺の魂が入った別の誰かの体はあまりにも細かった。
部屋の寂しげな雰囲気からも察するにこれは虐げられてる系の令嬢か…?
友達がやっていた乙女ゲームの婚約破棄された令嬢を思い出す。
(まさかこれ、よく見る転生しちゃった系か…??)
⦅ふっふ~大当たり~!!⦆
「うお、自称神様…!」
ポンッと音を立てさっきの自称神様が現れる。
⦅君が入ったその少女、魔法が使えないせいでひどく虐げられてて病んじゃって魂飛ばしたんだよね⦆
正直その情報は最初に言っていてほしかった。
つまり俺も虐げられコース確定したわけで。
⦅ここねえ、その少女の婚約者の屋敷なんだけど結構見下されててねぇ…⦆
道理で寂しげな部屋だと思いながら、これは積みコースが確定したと思い顔を引きつらせる。
⦅まあ君なら大丈夫だよ~!魔法なんて使えなくても生きていけるし⦆
「神様!!俺に魔法の力をくれよ!!神様ならできるだろ?!」
積みコースを避けるため、何としてでも魔法は手に入れておきたい。
自称神様に手を合わせる。
⦅いやめんどくさいんだよねその作業⦆
淡々と言い切った自称神に、堪忍袋の緒が切れそうになるのを抑える。
「でも…!」
⦅まあ落ち着いてよ、僕の加護ぐらいならつけといてあげる。特別ね~⦆
こんなふざけた自称神様の加護に大した期待はできないがないよりは多分ましだろう、多分。
ありがたく頂戴しておく。
⦅あと君さ~その男っぽい喋りやめな?中の人男ってばれたら終わりだと思うよ~⦆
それは間違っていないだろう。俺の中の乙女を心に宿す。
⦅じゃああとは頑張って~!たまに見に来てあげるよ~⦆
最初の忙しい宣言は忘れたのかまた会いに来てくれるらしい。
奴が去ると部屋は再び静けさを取り戻した。
再び腰をあげる。転ばないようにゆっくり。
(これはもうちょい太らなきゃだな…。細すぎても美しくはなれない…。)
細い腕を見ながら、いったんソファに腰を下ろす。
俺の友達がやっていた乙女ゲームの内容を思い出す。
夢中になってプレイする友達の様子を眺めている程度だったがストーリーはだいたい頭に入っている。
(たしかヒロインがいろんな攻略相手とイチャコラする系の王道ゲームだったよな。)
そして…。推測するに多分今の俺の体は攻略キャラの元婚約者「プティ・クライアン」だろう。
ブロンドの髪が印象的だったが逆にそれ以外は印象に残らない冴えないキャラだった気がする。
しかも自称神様が「婚約者」と言っていたから婚約破棄は今後起こる内容なんだろう。
さてどんな顔かと鏡をのぞこうと腰をあげる。
俺も女の子のかっこうに憧れた身だ。できるだけ磨きがいのある可愛い顔がいいな、と期待する。
鏡をのぞくと…。
(いやこれは普通に美女すぎないか…?)
陰気臭くてさえない感じはあるが骨格から勝ち組である。
目も綺麗な青色!筋の通った鼻!形のいい唇!そして痛んでるけど美しい色のブロンドの髪!
(これは磨きがいしかない…化けるぞ…)
メイクアップアーティストの血が騒ぐ。
そして冒頭である。夢の可愛い女の子の体を手に入れた俺はテンション爆上げでこぶしを突き上げる。
(これは傾国の美女目指すしかないっしょ)
傾国の美女、なんてかっこよすぎて結構憧れていた身だ。
そこで拳を下ろす。
「まって、こんな可愛らしい令嬢を婚約破棄した男ごみすぎる…!」
神様のアドバイス通り女の子寄りに言葉を寄せて毒を吐く。
(どんな男かいっちょ拝んでやる…)




