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【短編小説】一夜明け会見

掲載日:2025/12/17

血は破る

 過去も記憶も

  書き欠けの

 空紅に首くくる






 明るい灰色のスーツを着た眼鏡男が革靴を鳴らしながら前に歩み出た。

 カメラマンたちがフラッシュを焚いく。

 眼鏡男は携えたマイクを指で軽く叩き、音の出を確認した。

 そしておもむろに口を開き

「これより第35代Jrヘヴィー級世界文芸タッグリーグ王座決定戦優勝記念、一夜明け会見を行います」

 と厳かな声で言った。



 パイプ椅子に座った記者たちが一斉にキーボードを叩き、硬い音が室内に響く。

 まるで雨のような、揚げ物のような音だった。

 眼鏡男が入ってきたドアが再び開き、今度は酷く疲れた表情の男たちが二人足を引きずるようにして出てきた。

 まるで目潰しのように派手なフラッシュが焚かれる中、その二人の男たちは待ち構えていた記者たちに愛想よく手を振るでもなく、ひたすら陰鬱な表情で正面の会見席に座った。


 二人の前には重そうな装飾を施されたベルトがふたつ置かれていた。

 ベルト正面には「WLTL Championship」と彫られた大きな金属エンブレムが嵌められており、その両脇には歴代の文芸タッグリーグ優勝者達の名前が刻まれたプレートが付いている。

 ベルトを前に座った二人に向けて激しいフラッシュが焚かれる。



 司会の眼鏡男が促すと、向かって左側に座った長髪の男がマイクを取り

「本日はお集まり頂きましてありがとうございます。世界文芸タッグリーグ第35代チャンピオン、風乱拳酒戴韻フランケンシュタインのサワダです。大体のコメントは昨晩のバックヤードで出したので、俺からは何もありません」

 サワダと名乗った男がマイクを置くと、右に座った男がそのマイクを取って

「シマです。自分からもありません、質問に移ってください」

 数名の記者が一斉に手を上げた。



「東京文芸の山田です。まずは、Jrヘヴィー級世界文芸タッグリーグ王座おめでとうございます。

 一晩経った現在の気持ちをお聞かせください。

 また、お二方にとっては、かねてからの目標でもあった世界文芸タッグリーグ優勝をなさいましたが、次に見ている目標をお教え下さい」

 山田が着座すると風乱拳酒戴韻の二人は一瞬顔を見合わせて頷き、サワダがマイクを持って答え始めた。



「ありがとうございます。

 えぇと、山田さんの質問、いまの気持ち。えぇー、そうですね。興奮で仮眠くらいしかできませんでしたが、今も嬉しい気持ちでいっぱいです。

 ようやくここまで来た、と思います。

 今は優勝したばかりなので次の事は分かりませんが、防衛戦でベルトを維持しながら、いつかはヘヴィー級にも挑戦したいですね」

 そしてまた激しいフラッシュ。

 新たな世界の始まりを予感させるほどの光で会見場は埋め尽くされた。



 記者からは次々と質問が飛ぶ。

 優勝を湛え激戦を労う言葉と、相手はどうだったか、苦戦したと思う部分や相手の技、試合運びの雑感や最後に勝ったと思う部分など多岐に渡る質問が飛んだ。

 ある程度のフォーマットに乗った質問なのだから返すコメントも考えておけば良さそうなものだったが、風乱拳酒戴韻の二人は質問を受ける度に顔を見合わせて逡巡しながら、時には相談して真摯に答えていた。



 しばらくすると司会の眼鏡男が腕時計を気にしながら

「それでは時間の方が押して参りましたので、そろそろ最後の質問にさせていただきます」

 と言うと、また東京文芸の山田が手を挙げた。



 眼鏡男に指名された山田は立ち上がって訊いた。

「東京文芸の山田です。最後の質問です。

 今回の試合で見せた新技タンデム攻撃のダブル三十一文字砲(みそひともじCannon))はどのようにして開発されたのでしょうか?そこら辺の秘話に関してお聞かせください」

 山田が着席すると、サワダはマイクを取った。



「普段ツイッターでやっている事を練習でやってみたらハマったと言う感じですかね。急に始めてもシマが拾ってくれるので安心してできます」

 記者席からはちょっとした笑いが出たが、それはシマの発言ですぐに掻き消えた。

「いや、あれ拾うの大変なんですよ。記者さんたち笑ってますけど本当にキツいっすからね、あれ」

 サワダは意外そうな顔を向けた。

「え、そんなにツライの?」


 シマは心底あきれたと言う顔で

「だってお前の三十一文字はリズムも正調じゃない事が多いしギミック多過ぎて掴み切れない事もあんだよ、返すこっちの事も考えて欲しいよ」

 と答えると、マイクを置いた。

 サワダは口を尖らせて反抗する。

「でもちゃんと返せてるじゃん」

「それは俺だからだよ」

 マイクを通さないシマの声は、それでも良く通る声だった。


 悪くなった雰囲気を挽回しようと試みるサワダはおちょけた感じで

「やめろよイチャついてるみたいだろ」

 と言ってみたものの無駄であった。

「いやマジの説教だから」

 サワダもマイクを置く。

 キーンと言うハウリング。

「なんだとこら」

「何コラタココラ」

「なにがコラじゃワレコラ」

「ツイッター炎上させて何がしたいんじゃコラ」

「何をコラ」



 シマは机をひっくり返すと、座っているサワダに文芸ラリアットを叩き込んだ。

 派手に転げたサワダはのたうち回り、シマは良く見える様になった壇上で蹲るサワダに文芸ストンピングを繰り返した。

 突然の襲撃にサワダは為すすべ無かった。



「おいサワダ!決着をつけようぜ!

 昨晩のjrヘヴィー級世界文芸タッグリーグ、どっちの技で仕留めたか!

 負けた方がベルトの権利を譲り筆を折る!

 敗者即引退マッチだ!」

 シマはマイクをサワダに投げつけると勢いよく部屋を出て行った。



 サワダは若手に抱えられて部屋を出ていくと、眼鏡男が

「お集まりの皆様、ありがとうございました。急に段落が着いてしまったので対応できていませんが、後ほどコメントを出したいと思います」

 と言って部屋を出て行った。






借りものの

 言の葉さしたる

  はちうえに

 血水をやるから

 我がものになれと

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