6,周囲のざわめき
週明けの月曜。
はぁ、とため息をついたのは、目の前の穂乃果だった。
「凛。辛気臭いんだけど。何があった?」
週末、遥斗と出かけたことを知っている穂乃果は、私をじろりと睨んでいる。
「……優しく扱われて、少し落ち込んだだけ」
「優しいならいいことじゃん。何が問題?」
「いや、私、嘘の彼女だし」
私がそう言うと、穂乃果は呆れたように頬杖をつく。
そこまで呆れなくてもいいじゃない。
「あのさ、言っちゃうけど、あんた、しんどいならやめなよ。それにさ、何でもかんでも嘘って決めつけるのはよくないと思うわ。だって、本当に楽しそうに見えたんでしょ?」
「うん……」
「遥斗くんって、器用に嘘をつけるタイプに見えないのよね。楽しいって言われたなら本当にそうなんじゃないの?あんたに可愛いって言ったなら、そう思ってるんでしょ。少しくらい信じてあげたら?」
「いや、でも、私、可愛いとは程遠い……」
「……あんた、本気で言ってんの?」
少し怒ったような穂乃果は、私を見てその可愛らしい顔を顰めた。
「ええ……自己評価低いと思ってたけど、ここまでなんて……」
頭が痛いというように額を押えた穂乃果に、どういうことか聞こうと口を開けた時、教室の入り口から大きな声があがってビクリと飛び上がった。
「おいっ!遥斗!お前、週末、神木さんといたろ!?」
「え!?まじ?付き合ってんの!?」
登校したばかりでカバンを抱えたまま遥斗はキョトンとしている。
「あれ?言ってないっけ?」
そんなケロッとした様子の遥斗に周囲は更に騒ぎ出す。
「聞いてねぇよ!」
「教えろよっ!?」
「あー……ごめんごめん」
困ったように頬をかく彼は何を考えているんだろう。あんな風に言ってしまえば、すぐに別れるなんて難しくならない?
そんなことを考えて彼を見ていると、パチッ、と目が合って、遥斗は嬉しそうに破顔した。
その彼の様子に気づいたクラスメイトたちは、一斉に私を見て驚いている。
私、なにかしたのだろうか……。
よく分からずに穂乃果に目線で助けを求めると、ため息をついて、
「気にしない方がいいんじゃない?どうせ今からもっと注目されるから」
と言われる。
「え?もっと?」
「クラスだけじゃなくて、学校中に広まったらそうなるでしょ?」
穂乃果の言葉にさぁっと手が冷えた。
「……確かに、遥斗は目立つから……」
私がそう言うと、穂乃果は諦めたように「……あんたもね」と小さく呟いて前を向いた。
その日、穂乃果の言っていたように学校中に知れ渡ったのか、遥斗の友人たちに通りすがりに話しかけられた。
「遥斗と付き合ったってほんと?」
「遥斗が告ったの!?」
そんな事を聞かれても、これ以上広めていいのか分からずに言葉を濁した。
「遥斗のどこが良かったの!?」
「なんでオッケーしたの?」
戸惑う私に理由を聞いてきて、「遥斗だったから……」と小さく答えると、みんなして何故か肩を落として去っていく。
不思議に思って、分かっていそうな穂乃果に聞くけど、「気にしなくていいことよ」と言われて「そうなんだ」、と頷いた。
その日、遥斗は友人と帰るから私を送れないと、ごめん、と申し訳なさそうに謝りながら帰っていった。
夜、スマホの通知音がピコンと鳴って、お風呂上がりに髪を乾かしていた私は手を止めた。
『今日はごめんね。俺らが付き合ってるってバレちゃって、凛にも迷惑かけたよね』
遥斗からのチャットにフッと笑いが零れた。
彼の方が色々と騒がれているのに、私に気を使うなんて優しい。
……だから、こんなに好きになるのがとめられない。
複雑な気持ちでスマホを操作する。
『大丈夫』
短く返した私のチャットに、すぐに返信がくる。
『デート、次は水族館とかどう?』
水族館……。
長いこと行ってないし、なんだか少しワクワクする。いつかデートで恋人と行ってみたかったんだ。
……もう少しだけ、恋人でいてもいいだろうか。
そんな浅ましいことを思いながら『いいよ』と素っ気なく返した。




