5,プレゼント
昼食を終えた私たちは、「少し歩いてみて回ろう」という遥斗の提案で、ショッピングモールの中を歩いていた。
遥斗は意外にも可愛らしい雑貨などを見て回り、そのたびに私に似合うと言ってくれる。
こんな可愛らしい物は穂乃果の方が似合うと思う。そんな気持ちを押し込めて、彼の言葉に曖昧に笑った。
彼と隣合って話していた時、ふと目に付いたイヤリングに触れ、足を止めた。
「どうしたの?……それ、可愛いね」
私の手元にある小さな星が揺れるイヤリングを見て、遥斗はニコッと笑った。私の手からイヤリングをそっと取ると、彼はそれを私の耳元に持っていく。
彼の熱い手が私の耳たぶを掠めて、背中がゾワッと粟立ち震える。
「ん、可愛い」
「ぁ……」
彼の甘い視線に、焦げてしまいそうなほど顔が熱い。分かりやすく顔を赤く染めた私を、彼は手を掴んで引き寄せた。
ふわり、と石鹸の香りと、ほのかに爽やかな柑橘の香りがして胸が詰まった。
遥斗が私の後ろに小さく「すいません」と言ったことで、私が後ろの人の邪魔していたことに気づく。
私も慌てて謝って遥斗を見上げると、彼はそのままイヤリングを手にレジに向かう。
「え、待って待って」
「ん?なに?」
「え、いや、それ……」
首を傾げた遥斗に手に持っているものを指させば、
「気に入ったんでしょ?」
と聞かれる。
確かにそうだ。けれど買うと決めた訳じゃないし……と迷っていると、遥斗は私の耳をするりと撫でた。
「んっ」
ピクリ、と反応してしまえば、彼はそのまま楽しげに目を細める。
「俺からのプレゼント。今度でいいから、つけてよ」
そう言ってスマートにお会計を済ませてしまった。
どうして、こうも女の子の扱いが慣れているんだろう。少しだけモヤッとしたけど、彼がくれた物が嬉しくて、渡された包みを大事にしまった。
「じゃ、他のとこ見に行こう」
歩き出した遥斗の袖を小さく掴んでくんっ、と引っ張ると、彼が不思議そうに振り返る。
“好き”
溢れそうな言葉をギリギリで飲み込んで、ただ「ありがとう」と伝えた。
それから、二人で映画を見た感想や面白かった出来事などを話しながら、色々なものを見て回った。
彼と過ごす時間は、ドキドキして緊張して苦しいのに、楽しくて幸せですごく短く感じた。
帰りも送ってくれるという遥斗に甘えて、静かな住宅街を二人で並んで歩いた。
秋の風が頬を冷ましてくれ、気持ちがいい。
「凛、今日はありがとうね。すごく楽しかった」
「うん、私も」
楽しかったのは本当だ。
だからだろうか。意識せずに口から素直に感想が出てきた。
そんな私に遥斗は笑いかけて「良かった」と零す。
「また誘ったら一緒に行ってくれる?」
彼の言葉に小さく「うん」と返して、またがあるのか、と嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになった。
「約束だよ」
少し真剣な顔で言われて息を呑む。
“約束”……それは本当だろうか。
この関係はいつまでのものなんだろう。
少しだけ視界が潤みそうになって、下を向くふりをして「うん、約束」と返事をした。
家の前につき、遥斗の背中を見送って家に入る。
「おかえり〜今日遅かったね。穂乃果ちゃん?」
母親のいつもの様子になんだか少しほっとする。
「ただいま。まぁ、そんなとこ」
「ふぅん。もうすぐご飯にするからね」
「はぁい」
いつもと変わらない会話をして二階に上がった。自分の部屋に入ると、カバンから取り出したイヤリングの包みをはぎ取る。
揺れる星を、そっと目の前に掲げた。
次……なんて、いつなんだろう。
彼の彼女でいられるのは、いつまでなんだろう。
いつ別れを告げられるか分からない状況に、チクリとトゲが刺さったような気持ちになった。
彼との関係は、吹けば崩れるような砂のお城のような脆いものだ。
本物にしたいのに自分から告げる勇気もなく、ただ彼からの拒絶を恐れている。
私ってこんなに弱かったんだ。
そんなことを考える自分が嫌で、何より分かっているのに行動しない自分がもっと嫌いだった。




