3,映画のような恋
楽しみにしていたせいか、日が経つのが少しだけ遅く感じた数日。
今日は約束の……で、デートの、日。
昨日の夜から何を着ていくか迷って、張り切りすぎて引かれないか、適当だと思われても……と鏡の前で服をあてながら、一人悶々としていた。
結局シンプルに、白いブラウスにハイウエストのデニムスカート、白いレースの靴下にローファー、肩掛けのバッグを持って外に出た。
胸の下辺りまである髪は、結ぶのはやめてそのまま下ろすことにした。
少し張り切っている感は否めないが、これくらいのオシャレは穂乃果と出掛ける時もする。自分に言い聞かせるように「大丈夫」と呟いて、待ち合わせ場所に向かった。
約束した時間の十分前。
映画館近くの公園の木の下に、スマホを見ている遥斗を見つけた。
初めて見る彼の私服は、白いシャツにベージュのニットベスト、黒スキニー。小さめのサコッシュとバケットハットを身につけていて、新鮮な姿につい、かっこいい、だなんて感想が漏れそうだった。
爽やかな彼にとても似合っている。
遠くから観察をしながら歩いていくと、私に気づいた遥斗は顔を上げてニコリと笑う。
「凛。私服、すごく似合ってるね。……可愛い」
過剰な褒め言葉だ。
自分は可愛いと言われるような人間じゃない。分かっているのに、遥斗の言葉だと思うと浮かれる気持ちの方が大きくて困る。
ついドキリとして、喉が詰まった私は声が震える。
「……ふ、普通、だと思う……」
私も彼に、似合っていると言おうとしてやめた。地味な私に言われても、あまり嬉しくはないだろうし。
遥斗は少し俯いた私に「行こうか」と優しく声をかけ歩き出した。
いつも思うが、彼はすごくスマートにエスコートしてくれている。車道側をさりげなく歩いてくれるし、私の歩幅に合わせてゆっくり進む。
さり気ない気遣いが、彼の手馴れている感じを思わせて、なんだか少し胃が重くなった。
「あのさ」
不意に話しかけられ、遥斗を見上げると少しだけ頬を染めている。
「……手、繋いでいい?」
緊張したように問いかけられて、聞かなくてもいいのにと思った。
彼であれば拒否するわけが無いのだ。
私が小さく頷くと、そっと手を差し出される。
その大きな手にソロソロと自分の手を重ねると、優しくふわりと握られた。
骨ばった彼の手が私とは全然違って、顔に熱が集まっていくのがわかる。こんな人混みなのに、心臓の音が彼にまで聞こえそうで、チラ、と遥斗を見上げた。
バチ、と目が合って、余計に緊張してそっと逸らしてしまう。
手汗が酷くないか、髪は乱れていないか、そんな事ばかり気にして、遥斗の話が頭に入ってこなかった。
映画館に着くと、遥斗はチケットを予め取っていたらしく、スムーズに受付を済ませていく。
「あ……お金、私も払うよ」
「ん?大丈夫。ここは俺に奢らせて?」
気にしないで、というように、遥斗は繋いでいた私の手をぎゅっと握る。そして、そのまま「飲み物とか買おうか」と売店の列に並んだ。
そこでも遥斗がお金を出してくれ、申し訳ないと言うと、
「じゃあ、ランチは凛が出してくれる?」
と言われる。
思わず頷いてから、映画見たあとも一緒にいることが決まったことに気づいた。
なんだかんだ私ばかりが得をしている気がする。
早めに席につこうと言われ、まだ客の少ないうちに入場した。
映画館は久しぶりだ。
「俺、今日すごく楽しみにしててさ、少し浮かれてるかも」
隣から話しかけられ、苦笑する遥斗にそうだろうか、と首を傾げた。
「今は……凛が、可愛くて、すごく緊張してる」
彼の爆弾発言に私が固まると、可笑しそうにクスクス笑い出す。そんな遥斗に少しだけムッとして、
「……揶揄ってるでしょ」
と言うと、ハハッと笑い「少し」と認めた。
そんな話を小さくしていると、いつの間にか時間がきていて照明が落ちる。暗くなった空間で、熱くなった頬を手の甲で冷ました。
スクリーンの光に目を向けると、静かな空間に気付かれないように息を吐いた。
映画が始まると、隣に座る遥斗を忘れてつい魅入ってしまった。ハラハラとする展開に少し体が強ばると、握っていた手にそっと熱が触れる。
パッと遥斗を見やると、ニコッと微笑まれ、違う意味でドキドキしてしまった。
そのまま手は離されることはなく、映画が終わるまで私の心臓も大きく鳴っていた。




