2,デートの約束
「えぇぇぇ〜!?それほんと!?」
昼休み。穂乃果に全てを話すと、小さな体で乗り出して叫んだ。そんなオーバーリアクションに苦笑してしまう。
「うん、ほんと。聞いたもん」
「ありえない……っ!ねぇ凛!なんでオッケーしたの?」
穂乃果の質問にそう思うよね、と納得する。
「……好きだから。今だけ彼女気分を楽しもうと思って」
私が少し迷ってそう言うと、穂乃果は心配そうに「楽しめてないじゃん……」と零す。
……うん、確かにそうかも。
でも、それでも彼の隣にいれると思うだけで、どうしようもなく嬉しかったのは事実なのだ。胸が高鳴って、苦しさと同時に泣きたいほど嬉しかった。
曖昧な表情で黙ってしまった私に、穂乃果は一つため息をついた。
「まぁ、凛がいいならいいけど」
そういった穂乃果は少し考え込む仕草をして、「でもさ」と続けた。
「……遥斗くんのあの様子。かなり嬉しそうに見えたけど……演技だったらむしろすごくない!?俳優になることを勧めるわぁ」
感心するようにウンウンと頷く穂乃果は、私を見て
「とにかく、辛くなるならやめなさい。あと、ちゃんと話し合うこと!」
とビシッと指を立てて注意をくれた。
「うん、そうするね。ありがとう穂乃果」
私は彼女のように強くは無いけど、なんだか勇気を貰った気分だった。
*
その日の放課後、日直で遅くなった私は早く帰ろう、と下駄箱へ向かう。
そこで棚に背を預け腕を組んでいた姿に、ピタリと足を止めた。
「……あ、凛。日直、お疲れ様。今日も送っていこうと思って」
「……わざわざ、よかったのに」
なんで、なんて言葉を飲み込んだのに、相変わらず出てくるのは可愛くない言葉。
素直じゃない……。
するとそんな私に気にした様子も見せず、遥斗は「俺が送りたかった」といった。
目の奥がツンとして、素っ気なく「ありがと」と返した。
その言葉にはどんな真意があるのだろう。
たかが嘘の恋人にここまで優しくするなんて……。意図しているのなら彼は悪魔だ。
上履きから履き替え、昨日と同じように並んで歩く。彼はもう私の家までの通学路を覚えたのか、穏やかな声で好きな物や趣味の話をした。
「──それで、今度その小説の映画があるんだ」
「へぇ、詳しいね」
「うん。凛が良ければ今度一緒に行かない?好きだよね?」
「えっ?なんで好きって知ってるの?」
遥斗の言葉に驚けば、彼はケロッと「今日読んでたでしょ?」と首を傾げる。
なんでそんなとこまで見てるんだ。
今まで、一方的に見ていると思っていた遥斗に見られていると知って、なんだか恥ずかしくなった。赤くなった顔を隠すようにそっぽを向くと、それすらも分かっている、というように笑われる。
「……行きたい」
拗ねたような声になるのは許して欲しい。
可愛くないのは自分でもわかっているが、穂乃果のような可愛い反応は、自分に似合わない自覚がある。
私の答えに遥斗は「うん、デートだね」と言うと、楽しげに目を細めた。その笑顔がなんだか擽ったい。きゅぅっと胸が締め付けられて、私の心臓が彼を好きだと叫んでいた。
ほんとにずるい人だと思う。
そんなことを嬉しそうに言うなんて、私でなかったら勘違いする。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか家に着いていて、「また連絡するね」と残して遥斗は背を向けた。
その後ろ姿にきゅん、として、火照った頬を押さえていた。
その日の夜。
遥斗からのチャットがきて、次の週末に出掛けようと決まった。
『楽しみにしている』
という浮かれたようなチャットに『私も』と素直に返した。返事が来る度になんだかソワソワとして、スマホを気にしてしまう。
ベッドに潜り込んでからもチラチラと気にして、なんだか馬鹿みたいだな、と少しだけ落ち込んだ。




