10,爽やか男子の本音
遥斗side
俺を見上げるあどけない表情の凛を撫でる。
先日誤解が解け、心から笑ってくれるようになった彼女は、すごく魅力的で可愛い。
俺が告白したのは、どうやら罰ゲームだと知っていたらしい。
でも、凛はそこだけしか聞いてなかった。
だから勘違いさせて、すごく辛い思いをさせてしまった。
あの日賭けたのは、“好きな人への告白”だった。
その時は俺の気持ちを知ってて、そういう提案をする友人たちを恨んだ。
だって、受け入れてくれるなんて思わなかった。
事実、彼女は“高嶺の花”だから。
凛という彼女を表す名前の通り、外を眺める横顔も憂いを帯びた表情も、全てが綺麗で誰もが憧れている。
凛は気付いていないのか、自分がそういう感情をもたれている、なんて意識している様子はない。
鈍感な彼女も可愛らしいけど。
俺だって一目惚れだった。
中学の入学式の日に桜の木の下に立つ彼女が、まるで桜の精のように見えた。
静かに本を読む姿も、ふふっと零す笑いも俺の心を乱すもので、見る度に惹かれていく。
読んでいる本も可愛らしいおとぎ話や恋愛小説で、それすらも可愛いと思うのだから重症かもしれない。
そんな彼女は、俺の告白を受けてくれ、自惚れでなければ好いてくれてる。……気がする。
教室でわざわざ、アピールするように凛と話していれば友人たちがわらわらと集まる。
「あーあ、遥斗に取られるなんて。俺が先に告っとけば良かった〜」
痛いところを突いてくる友人だ。
先に告白したのが俺でなければ、ここで凛に触れているのも俺じゃなかったかもしれない。
「うるせ。お前らと一緒にすんな。俺は本気だ!」
すると、さっきまでオドオドとしていた凛は、俺をゆっくり見上げて首を傾げた。
「ん?どうしたの?」
わざと甘さを意識して問いかけると、少しだけ頬を染めて不思議そうに友人たちを見ている。
「誰でもいい訳じゃない……」
小さくポソ、と呟かれた言葉に、数秒思考が止まって……確かめずにはいられなかった。
「……それは……俺だから?」
肩を優しく撫でると、ピクッと震えてふるふるとまつ毛を揺らした。そしてチラ、と俺を見上げて小さく頷いた。
「ずっと……そう、だった、から……」
前から俺を好きだと言っているような言葉に舞い上がりそうになる。
それには周囲も驚いて、すっかり教室が沈黙で染ってしまった。
それを断ち切るように、窓際の席から楽しげな声が上がった。
「一年前?それくらいだよね。凛が遥斗くんに惚れたの」
パッと宮野さんを見た凛は、口をパクパクとさせて耳まで赤くさせる。
「な、なんでっ、知って……っ!」
慌てたような凛に、本当だと分かった嬉しさから口元を片手で覆った。ニヤけが止まらなくて、つい凛を抱き締めてしまう。
「凛は分かりやすいのよ」
元気にニッと笑った宮野さんは、小動物のような見た目と違い、案外サバサバとしていて言動もワイルドなところがある。
「残念だけど、凛はそれが初恋だから諦めた方がいいと思うわ。遥斗くんが離さない限り、凛から別れを切り出すことは無いと思うし」
「絶対離さないけど」
俺がケロッと言うと、宮野さんはケラケラと可笑しそうに笑う。
「あー、良かった。じゃあ、もうクーリングオフはなしってことで!」
「ほ、穂乃果……っ!」
恥ずかしげに声を上げた凛をグッと抱き寄せ、息を呑んだ音に愛おしさが込み上げる。
「大事にするよ」
凛は周りの視線に耐えきれなくなったのか、俺のシャツを弱々しく掴んで胸に顔を埋める。そんな可愛らしい仕草に、周囲の男が肩を落とすのが見え、フッと鼻で笑った。
どうか諦めてくれ。
この可愛い生き物は、生涯俺が大切にすると今彼女の大切な友人に誓った。
俺の言葉に満足したのか、宮野さんは、
「泣かせたら殴りに行くから」
と心底嬉しそうにしていた。
放課後、少し拗ねたような表情の凛を覗き込む。
「ごめんね?」
わざと落ち込んだような表情をすれば、凛は戸惑ったように手をもじもじとしだす。
「は、恥ずかしかった……」
そう言われ、抱き締めたい気持ちを堪えた。
俺の彼女、可愛すぎない?
こんなにクールな見た目で照れ屋で一途で。
よく今まで攫われずにいたものだと、宮野さんに感謝をしたくなった。
「……ごめんね、でも、凛はモテるから。少しでも牽制しておきたくて」
本音をできるだけ柔らかく伝えると、凛はキョトンとする。その仕草で、やっぱり気づいていなかったのだと悟った。
「……でも、私、告白されたの、遥斗が初めてだよ?」
そう言われても納得できてしまう。
フラれると分かっていて、告白出来るわけが無いのだから。
でも、わざわざ彼女に意識させる必要は無い。これからは俺が凛を好きだと分かってくれたらいい。俺だけでいいんだ。
「……そうなんだね。じゃあ俺だけが特別だね」
モテる件には触れず誤魔化す。こんなにわざとらしく話を逸らしても凛は気づかない。俺の言葉をそのまま受け取り意識し、顔を真っ赤に染めている。
はぁ、こんなに可愛くて、俺をどうする気なんだ。
凛は俺を爽やかだと言う。
本当はそれなりに欲はあるし、凛に対しても触れたい気持ちはある。けど、少し抱き締めるだけで照れてしまう彼女とは、ゆっくり進めていきたい。
焦る必要なんてないと分かった今、その思いは強くなった。
「凛、好きだよ」
溢れた想いを口にすれば、凛は俺を見上げて恥ずかしげに目を泳がせる。そんな仕草までも可愛い。
立ち止まってしまった彼女の手を取って帰ろうとした時、凛は俺を真っ直ぐ見て口を開けた。
「私も……遥斗が、好き」
いい終えた凛は、ドキドキとしているのか、胸の前で手を握ってぎゅっと目を瞑っている。
「……ほんと可愛すぎる。今の破壊力がすごい。嬉しい……ほんとに、すごく嬉しい……」
ゆっくりと凛に近づき、ふわりと背中に腕を回す。思わず滲んだ視界を、熱くなった手の甲で乱暴に拭った。
最初は、俺と同じ気持ちを返してくれるなんて思ってなかった。それでもいいと思っていたし、いつかそうなれば嬉しいぐらいに考えていた。
けれど、こうして“好き”と言ってくれ、その考えは痩せ我慢だったと気づいた。
だってこんなに嬉しい……。
頬の内側を噛んで幸せを噛み締める。
熱い息を吐いて気持ちを落ち着けると、気を取り直して真っ赤な彼女をエスコートする。
こんなこと柄じゃないけど、凛が喜んでくれるならいくらでもする。手を取って微笑むと、分かりやすく凛の口端が上がって、俺の心もほわほわと温かくなる。
涼しくなってきた夕暮れの中。
可愛らしく手を握り返す彼女と、いつものように話をして帰った。




