表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

【一章】 誤謬

「…………と、言うわけでこの小説を読み始めた君!その時点で間違ってしまったのだ!」


蜻蛉が何か騒いでる。

正直、どうでもいい。


「おいおい、お前ら!何だよ、その顔は!」


「黒羽君。流石にその発言はないと思うんだけど…。」


蜜柑が宥める。

しかし、蜻蛉の元気っぷりも目を見張るものだ。こう一年中見てたがしょんぼりしてた事なんてなかったんじゃないか。そう思える。


「にしても何でルーピックキューブをやらねばならんのだ。」


礎が片手で攻略しながら、もう片方の手で携帯電話を弄くりながら言う。

確かに理由は不明だ。


「意味もなくやらせてる訳ないわよねぇ。」


何となく聞いてみた。


「意味?そんな物求めて何にな……ゲフッ!」


バキッ、と鈍い音がする。

顔面に拳骨をいれてやった。

蜜柑も「あら〜…」と言いながら、薄笑いしている。

礎は全くもって無視。


「意味ないんならやらせないでよ!同じ教室なのにわざわざ電話を掛けてきてさ!何がしたかったのよ!」


言ってから過ちに気づく。

意味がないのだから、やりたかった内容を聞いても無駄であろう。


「……そうだな。確かに無意味な行為だ。だが、娯楽に意味を求めちゃいけない。遊ぶために娯楽がある。その時に生まれる感情は多種多様だ。」蜻蛉の話も分からなくもないが…。


「でも何でルーピックキューブなのよ。娯楽なら他にも沢山あるでしょ?」


「ルーピックキューブを選んだ理由?俺がじゃぱーんちゃんぴおんだからだ。」


敢えて日本人っぽく発音した事に意味はあったのだろうか…。


「運動は無理だな。放課後だから運動部に全部使われている。」


そう言いながら、礎がルーピックキューブを机に置く。……完成している。


「俺スルーされた!?」


蜻蛉は涙目だった。


「室内で遊べる物って大概つまらないんだがな。何かあるか?」


ようやく礎が携帯電話をズボンのポケットに閉まった。


「将棋とか?」


蜻蛉が碁石を飛ばしながら言う。……台詞と行動が不一致しすぎてる…


「将棋なんて私分からないよ?」


蜜柑が困った顔で言う。


「んー、そっかぁ…。女子もルールの分かる遊び…」


「なんか女子が格下に見られた気分。」


あたしの発言に蜻蛉がううむ、と唸り声をあげる。


「まあ、その発言は放っといて…。ぬりえならいいか?」


ドゴッ


「ルール存在しねぇだろ!」


あのクールな礎がキレた!本気で蜻蛉を蹴り飛ば…そうとした。蜻蛉も足を高く上げて直撃を避けた。

待て…。ルール以前にその発想に対して突っ込め…


「なら太極拳だな……。」


「キツいわ、ボケ!」


すかさず突っ込んだ。「き、きしゃま!太極拳を馬鹿にするのか!」


「そうじゃない!なんでわざわざ疲れてる放課後に太極拳なのよ!」


「俺の脳内辞書は極端だから仕方ない。」


「極端すぎるわ!てか随分と迷惑な頭ね!」


シュッ、とシャー芯を飛ばす。と、それを割り箸(どこから取り出したのか不明)で受け止めた。


「ふっふっふっ…。甘いな諸君。この俺にかすり傷一つつけれないひよっこになりおって…」


「いや、最初に拳骨入れましたから。」


一応言っとく。


「………………うん、そうだったね…。俺、若年性アルツハイマーなのかな、うん…。おっと鼻から血が…」


なんかすごい落ち込んでる!?

しかし、こうした方が平和なため少し放っとく。


「なにも無理して遊ばなくてもいいんじゃないのか?無駄に体力使うのは愚鈍だ。」


礎は結構人を見下すような発言をする。


「そ、そんな事ないよ。黒羽君は純粋に遊びたいだけだよね?」


蜜柑がフォローを入れとく(ちょっと遅かったが)。


「いや、いいんだよ蜜柑…。俺なんか禿げちまえばいいんだよ…」


なんかヤバい!流石に可哀想だ!

しかし、礎もあたしも救いの手は出さない。


「という訳で解散な。」


礎が席を立った。「おい…。何か一つ忘れてる、と思わないのか?」


蜻蛉が呼び止める。


「?俺は忘れ物ないと思うが…」


「うん、ないよ」


瞬間全員がすっ転んだ。


『なら止めるなよ!』


「いや、だからさ。こう…部屋を出ようとした時に『あれ?俺何か忘れてるような…』って概念に駆り立てられないか?」


「うーん?私は分からないなぁ…」


蜜柑は…まあしっかり者だからね。


「お前の言いたい事は分かった。だがなぁ、何も今言わなくてもいいだろう?」


「じゃあいつならいいんだ?」


「それは………」


礎が小さく舌を打つ。


「思い立った事をすぐに行動に移さなければ人間は後悔する。必ずな。言動は迅速に行わなければいけない。人生短いんだ。こういう事も俺はいいと思うがね。」


蜻蛉はそれだけ言うと鞄を持ち、窓から身を乗り出した。パイプ管を伝って降りるつもりのようだ。


「あいつとは…」


蜻蛉が完全に去った後、礎が口を開いた。


「昔から友人だが、未だによく分からないな。」


それを言ったらあたし達もだ。この四人+葵は昔から遊び仲間だった。

ある時五人で夜遅くに星観察に行こうとした時、当然親達から中止にさせられそうになった。

その時、唯一年上であった朱雀が同行、という形で許可された。もっとも、あの時はまだ今ほど病弱じゃなかったからだが…。だが、確かに蜻蛉はイマイチ良く分からない。

家族構成なんかも教えてもらった事がなかった。分かるのは親族の久遠家に引き取って貰っていた事だけだ。葵は蜻蛉にとって従姉。

でも蜻蛉はあまり一緒に居たがらない。それもよく分からないのだ。久遠家は別に虐待をしている訳でもないらしいからだ(本人等談だが)。それなのに従姉である葵と一緒に居るのを嫌がるとはどういう事なのだろう…。


「ま、考えすぎは毒だ。」


ずっと黙っていたあたしの思考を見透かすようにして礎が言った。


「今日は帰ろう。…っとメールか。…………わりぃな。ちょい野暮用が出来たから先に帰るわ。」


「うん、分かったよ。それじゃあまた夕食の時だね。」


「ああ、じゃあな。」


そう言って礎と別れる。


「じゃあ、お姉ちゃんの迎えに行こっ。」


蜜柑が屈託ない笑顔で言った。

…この子は眩しすぎる。人を疑うなんてできない純粋無垢な子…。ほんっとに可愛らしい子だ。

そんな事を考えながら図書室に向かった。




「あら?今日は礎君達はいないのね。」


図書室に着くと朱雀は本を読んでいた。いつもの事だ。病弱な朱雀は一日の大半をここで過ごしている。

……まあ基本静かだしね、ここ…。図書室を後にして三人で玄関に向けて歩き出す。


「随分とお疲れね。」


朱雀が微笑しながら言う。

やはり姉妹揃って中々いい笑顔だ。


「蜻蛉といると無駄に体力使うのよね…。」


「それに合わせてるいーちゃんもどうかと思うけどね。」


蜜柑があたしに向けて言った。


「ま、あいつじゃないけど…。やっぱ昔からの仲だからね。そんだけ。」


「ホントにそれだけ?銀杏は不器用だから大体心の中は分かるわよ?」


朱雀がニヤニヤしながら言う。この人は…。

病弱だが性格はかなりS。

いや、蜜柑が優しすぎるだけか。ウノとかだと朱雀はバンバンリバースやスキップを使うし、トランプだと確実に勝ちにくる。

そして、罰ゲームとしてあたしとかの顔を本で叩く…。


「思い出したらなんか凄く憎くなってきた…。」


「あら?心外ね。」


クスクス笑いながら言う。

前言撤回。この人の笑顔からは黒いオーラしか出てこない。


「あら?魔理ちゃん?」


朱雀が目の前を通りすぎた生徒に声を掛ける。


「ああ、朱雀。」


腕に“生徒会”の腕章をした女子がこちらに振り向く。

彼女の名は“桂 魔理亜”。

朱雀のクラスメイトだ。


「こんな時間まで生徒会?」「そーなの。もー水泳部に所属してる、って事忘れそう。」


魔理亜が低いトーンで言う。

瞬間朱雀の目が輝く。

まさか…


「まあ、そんな日もあるわ。気にしちゃダメよ?」


「うわーん!そんな日が毎日続いているのよー!」


とうとう魔理亜が泣き出した。なんと弱い会長だこと…


「よしよし。」


その背中を撫でている朱雀。

ホントに病弱なのか…?


「暁せんぱーい!」


後ろから誰かに飛び付かれる。まあ、想像はつくけどね…


「千尋…。重い!」


手刀で体に回されている腕を叩き落とす。


「ぷぎゃっ!」


いや、なぜ顔から落ちる…


「ちーちゃん大丈夫?」


蜜柑が千尋に駆け寄る。

なんかスゲー心が痛いっす…


「イテテテ。手刀は酷いですよ、せんぱーい…」


「先輩って言わんでよろしい!」


毎回毎回校内で出会う度にこうやって抱きつかれてはたまったもんじゃない。

そっちの気があると思われてしまう…。


「そんな事より夕食に行きましょ?」


「へいへーい。」


何となく言ってみた。


…………バシーン!


…本で頬を叩かれた。


「いったあ…」


赤くなっていそうだ…


「はぁっ…はぁっ…。もっと…もっと悲鳴を上げて…」


もうこの人の事を逮捕したい、本当に…。「打たれた理由が良く分からんのですけど!?」


「………ふっ」


「こぇぇぇええ!」




食堂に着くと魔理亜は水泳部のミーティングがあるから、と別れた。よって今席に着いているのはいつものメンバーだ。


「というわけで今からゲームをしようと思う。」


「いや、前置きなんか言えよ。」


一応礎が突っ込んどく。


「実は今日の献立の野菜スープ。普通はキャベツとかで作られた緑色スープだが、全校生徒の中から不運の子が一人選ばれる。」


「俺達限定じゃないのかよ!?」


「そんなのつまらん。大体考えてみろ。もし当たったら1000分の1の確率だぞ?もしかしたら宝くじが当たるかもしれないほどの強運の持ち主だ!」


「お前最初に不運の子、って明言したよな!?」


礎がさっきからヒートアップしてる。


「さて、では早速取りに行こ……」


ガタン


「うぼがぁああああああ!」


誰か走り去った。


「………」


「………」


「…つまらん奴め」


「いや、巻き込んだお前が悪いからね!?」


言ってみる。


「違う。当たってくれたのは別にどうでもいい。もっとマシなリアクションが欲しかった…」


「一般生徒に求めるな!」


「あーあ、つまんねーの…」


蜻蛉が椅子をガッタンガッタンしながら言う。「ちなみに聞いとくけど何のスープだったの?」


「青汁をじっくりコトコト煮込みました♪」


「ちょっと待てぇぇぇぇえええええ!」


「健康にいいじゃないか。」


「それを飲んだ生徒に敬意を。」


礎につられて皆で敬意を示した。


「そーいえば、今日は何かして遊ぶんですかー?」


千尋が伸びきった声で聞いてきた。


「申し訳ないが外せない用事ができてな。」


「お前もか蜻蛉。」


礎が驚いたようにして言った。


「ああ…。何だ?こう…口にしたら恥ずかしい場所にでも行ってくるのか?」


「バカ言うな。俺はそういうものにまるで興味がない。」


「まるで興味がない、って…。いや、いいんだけどよ。お前本当に年頃の男子高校生か?」


「そーいうお前はどうなんだ?」


「美幼女年下胸板♭が条件だ。」


「………1、1、0……と。」


「こら待て、表現の自由だ。」


「君には失望したよ!」


「ほー、今更か…」


「認めた!?」


朱雀が呆気にとられた。


「自覚症状あるだけ酷いな。」


あたしも正直ドン引きだ。


「何だよー、別にいいだろ。世の中BLBLうるさいからな。」


「だからってロリ宣しないで下さい。」


千尋も言った。


「わーったよ。そんじゃちょっくら行ってくるか。」


それだけ言うと蜻蛉は食堂から去った。あたし達もその後いくらか駄弁った後それぞれの部屋に帰った。「やれやれ…。あいつ捕まらないか心配になってきた…」


「だ、大丈夫だよ!黒羽君、そこはちゃんと節度ある行動するよ!……多分」


最後の付け足しが異常なほど声が小さかったが気にしない。


「さて、そんじゃま早速宿題を終わらせますか!」


「うん!勉強することはとってもいい事だよー。」


蜜柑が少しゆったり声で言った。

………………あれ?


「………ノート学校に忘れたかも…」


「ええっ!?」


ヤバいなぁ…

よりによって日本史のノート忘れるなんて…。


「あの先生宿題忘れるとうるさいからなぁ…」


「葵ちゃんの所に行って借りてくる?」


「担当の先生が違うから無理だよ…、参ったなぁ…。」


既に夜間外出禁止時間に入っている。どうせ見廻りもほとんどいないんだし…


「取りに行ってくる。」


「ええっ!?だ、駄目だよ!それくらいなら私のノート使ってよ!」


「いやぁ…。気持ちだけで十分だよ、蜜柑。そんじゃ行ってくるよ。時間もまだ9時だし消灯時間までには余裕で帰ってこれるよ。」


流石に2時間あるから大丈夫だろう。でも蜜柑はそれでもおろおろしている。

その困った素振りを続けている可愛らしい小動物の顔を引き寄せて口を奪う。「え!?いーちゃ……んっ!」


ちゅ…んく……

舌を少し入れる。流石に全部を入れる訳にはいかない。そんな事したらこの子にとっての“初めて”を全て奪ってしまいそうだ。

うぶなこの子にとっては十分すぎる口封じだ。まあ、あたし自身も結構気分はいいのだが…。今日はこのくらいにしておこう。


「別に死ぬ訳じゃないんだからさ…。そんなに心配しないでよ。」


「うん…。分かった…。早く帰って来てよ…?」


目をうるうるさせながら下から顔を見てくる。

ぐはぁっ!同性であるあたしでさえも見事に一発KOとなる反則級の顔だ。

この子と付き合う事になった男はとんでもなく幸せになれるだろう!羨ましいものだ。

……これ以上続けると当初の目的を忘れてしまいそうだったから部屋を後にした。









「…と、確か玄関にはセキュリティの監視カメラがあったな…」


以前蜻蛉と葵の三人で忍び込んだ時に教えてもらった。あの時は非常階段で屋上まで登って天窓から侵入したっけ?

だが、あの時はロープがあったからできた技だ。今はないから…


「二階の西校舎の廊下の窓がセーフだったな。」


「そうね…。えっ?」


振り向くとクラスメイトの金城鷹きんじょうたかがいた。「気にするな、ただの散歩だ。」


「夜間外出禁止時間過ぎてるよ?」


「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」


「う……。あたし急いでいるから先行くね。」


「ああ。気をつけてな。」








「よいしょっと。」


何とか校内には侵入できた。後は教室まで行けばいい。


「おっと!教室行くんだから鍵が必要だな。」


この学園では移動教室の時などは鍵を掛ける。迷惑な事だが。


「て事は宿直がいる所に突っ込むのか…」


気は進まないが仕方ない。トイレに行った時とかの隙を見て取るしかない。

ひとまず職員室に行くとしよう。







「あれ?」


職員室の明かりが消えている。宿直の先生寝たのかな?

まさかね…


「失礼しまーす。」


一応言ってみる。返事はない。

薄暗い教室を歩きながら鍵を取りに行く。


「……変なの。」


とりあえず助かった。後は教室に行くだけだ。

と、その時だった。


ガタン


「ひ!?」


何かが動いた音がした。

もしや宿直の先生が起きたのだろうか…?

しかし、次の音は来なかった。


「な、何なの…。一体…。」


急いで教室に向かおうと前を振り向いた。


「!?きゃあああああ!」


目の前には得体の知れない生物がいた。いや、蜻蛉の無駄話の時に出てきた神話上の生物じゃないか?確か、グリフォンだったような…


「ってそんな事考えてる場合じゃない!」


グリフォンから離れようとしたが、声で刺激してしまったのか飛び掛かってきた。

ああ、死んだ…「どけっ!」


諦めかけていた時だった。

どこかで聞いた事のある声の持ち主が赤い長髪を揺らしながら目の前を駆け抜けていった。

あたしを後ろに引っ張りその勢いで更に加速し、グリフォンとの間合いを詰める。

向こうも飛び掛かってきた最中だった。その時蜻蛉が腕に付いている拘束具をグリフォンに向けた。見ると、鋭利な刃物が付いていた。

グリフォンの爪を受け止めると腕力でグリフォンを職員室外まで吹っ飛ばした。


「……何でここにいる?」


こっちに振り向いたのは蜻蛉だった。紛れもなく蜻蛉だった。腕には刃物の付いた拘束具を填めているが。


「……ノート忘れたから取りにきた…」


「はぁ!?」


蜻蛉は呆れた顔で言った。


「お前という奴は…。よりによって今日かよ…」


「ねぇ!さっきのアレは何!?一体どうなってんの!?」


自分でも分かるくらい気が動転していた。


「落ち着け喚くなそして押し黙れ。」


最後の二つ同じ意味だよね…。そんな事言えないけど。

さっきのグリフォンはドアごと吹っ飛ばしたものの、死んでいるとは思えない。


「とりあえず話はあいつを片付けてからでいいか?」


こくっ、とあたしは頷いた。


「安心しろ。すぐに片付ける。こんな雑魚…瞬殺できなきゃクズになっちまう!」


あっ、そ…「来る!」


あたし武器持ってませんけどね。

先ほどのグリフォンがけたたましい咆哮をしながら駆け寄ってきた。蜻蛉も迎え撃つようにして近づいた。


「遅い!」


刹那、蜻蛉の姿が消えたと同時にグリフォンがバラバラにカットされていた。即死だろう。


「ちっ。汚ない血付けやがって。返り血が胸に飛びかかっていた。」


量はあまり多くないが明らかに何かを殺した痕が窺える。


「ほら。さっさと行くぞ。」


「え?ど、どこに?」


「教室行くんだろ?」


そうだった。そうだったけど…


「俺が護衛に付く。そしてお前はとっとと寮に帰れ。俺だってずっとお前を無傷で守り通すのは難しいからな。」


「…分かったわ。行きましょ。」


途中変な生物とは逢わなかった。


「ねぇ、蜻蛉。これは何なの?悪い冗談?」


「アホ。全部事実だ。」


「まだ受け入れがたいんだけど…」


「こんなものをすぐに受け入れる方がおかしいだろ。」


それもそうかもしれないけど…


「あいつらは“虚像世界”から具現化されたモンスターだ。」


「“虚像世界”?」


「この学園を中心に不特定の範囲内に結界が張られている。その範囲内、即ち結界内だと何処からでも行けるパラレルワールド、それが“虚像世界”だ。」「でも今までこんな事はなかったわ。」


「そりゃそうだろ。奴らに会うには虚像世界に行くしかないからな。」


「………?どういう事かさっぱりなんだけど。」


「あいつらは自ら現実世界に現れるような真似はしない。俺みたいな人間が虚像世界に行って殺し損ねたのが大抵こっちに迷い込む。」


「殺し損ねた奴だったの!?今の!?」


瞬殺できてないじゃん…


「違う。アレは俺が殺した奴じゃない。俺は今日はマンティコアを狩っていた。」


そっちの方が強そうだね…。

だがおかしくないか。それはつまり、この学園内には蜻蛉と同じ事をしている輩がいる事を示している。


「着いた。とっとと持ってこい。」


分かってる…。一旦考えるのはよそう。素早く机の中から日本史のノートを取りだし入り口まで戻る。


「よし、寮まで行こう。」


「鍵は?」


「俺がやっておく。」


「…分かった。ありがと。」


「礼を言っている暇があったらとっとと帰るぞ。」


玄関まで早歩きで向かう。


「ねぇ、さっきの話だとこの学園内にも蜻蛉と同じ事をしている人間がいる、って事だよね…」


「そうだな…。あまりいい気分じゃない。」


「…もう一つ。なんで蜻蛉はこんな事を?」


「それは……」


その時だった。「!敵襲!」


「うひゃっ!?」


間抜けな声を出してしまった。

蜻蛉がいきなりあたしの事を抱き抱えてハイジャンプしたのだ。

外で良かった…。

中でこんなに高くジャンプされたら脳天かち割れるわね。


「軽く10メートルは越えてるな。」


「ええっ!?」


「ぐっ…。現実世界でこの力使うと流石に堪えるな…。」


「こんなにジャンプする必要は?」


「下見ろ、下。」


「下?」


見ると、地面が火の海と化していた。

…………えっ!?


「ちょーっとヤバいな…。早いとこお前を帰さなくちゃな…。とりあえず木の上に。」


蜻蛉は火からある程度離れた木に止まった。


「ここからはお前一人で帰るんだ。」


「どうして?」


ムスッとして返す。


「敵はおそらく一人だ。俺がそいつを片付ける。その隙に早く戻れ。」


「やるしか…ないのね。」


「ああ…。俺は行く。」


それだけ言うと蜻蛉は地面に降りると火の海の方へと駆け出した。


「あたしも…行かなくちゃ…。」


木から降りるとあたしは逆方向に向けて走り出した。

なんでこんな事になったんだ…。どうしてこんな事になったんだ…。

分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない…。


ドンッ


「きゃっ!」


無我夢中で走っていたから気がつかなかった。

そこに…人がいるなんて…。


「こんな時間に歩いているとは…。いけない生徒ですね。」


奴はそれだけ言うと手をかざした。途端、眠気が襲ってきた。

あたしは気絶した。(蜻蛉サイド)


さて、さっきの火の元はどこにいったかな?


「おほっ!いるねぇ!」


わざと声を出して敵の注意を煽る。少しでも銀杏の奴の時間稼ぎになるならば…


「自ら声を出すなんて頭おかしいんじゃねぇの?」


その声の主が現れた。

案の定、奴の右腕には火炎放射機が填められていた。

恐らく右腕は無いのだろう。愚かな…。


「随分とまあ派手に暴れてるねぇ、現実世界でよぉ…。」


「わざわざ虚像世界で戦う必要もないだろ?あっちには人間はいないがこっちにはいるんだからな。」


金髪にピアスって…

いつの時代の不良を気取ってるんだ、この野郎は。


「その制服…。ウチの学校か。」


「ああ、そうだぜ。意外だろ?俺のような奴が学校にいるなんて思った事もないだろうよ。」


「授業に出とらんクズなど覚える価値無しだな。」


「ぁんだと!?」


単細胞が…。


「この俺、“小早川晃”様が相手してやるよ!」


「へー、そ。悪いが…」


刹那、奴の背後に回る。


「早い…!?」


「違う…」


喉元をかっ捌く。


「げはぁっ!」


返り血を大量に浴びる。


「ふむ。頸動脈が切れたか。」


「……………」


「ふん。声も出せないだろう?今すぐ楽に…」


違う…!

罠だ!「死ねっ!」


危ない!ギリギリ回避したか。


「ちっ、外したか…。」


奴の喉元を見る。

バカな!傷が跡形もなく再生しているだと!


「お前なんかに俺達“CORPSESカープス”は倒せないぜぇ。」


CORPSES…。屍達か…。


「余興は終わりだ。次は確実に焼き払ってやるよ。」


「ちぃ!」


何故だ!?何故こいつは死なない!?


「喰ら…」


その時、鐘が鳴った。


「何…だ?」


「ちっ、タイムアップか…。お前、次は殺してやる…」


捨て台詞を吐き、奴は消えた。


「はぁ…はぁ…。……銀杏は!?」


電話する

出ない…


「まさか!」


駆け出す。

女子寮へ急げ急げ急げ…


「いた!」


倒れているが死んではいない。


「おい!しっかりしろ銀杏!俺だ!蜻蛉だ!目を覚ませ!」


俺が浅はかな考えを出してしまったから…。


「起きろ銀杏!死ぬんじゃねぇ!許さねぇぞ、馬鹿野郎…」


涙が頬を伝う。

あれ…。おかしいな……。

ロクデナシとは言え、血の繋がったあいつらが死んだ時は涙なんて流れなかったのに…。他人の銀杏が目を開けないだけで涙が出るなんて…


「ん…」


「!おい!起きろ!俺だ!」


良かった!死んじゃいない!










「あなた誰…?」


世界が凍った。


そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ