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3.旅立ち

 とにかく、わたしは戸惑っていた。

 異世界に召還されたことも【勇者】として送り出されることも。


「はじめまして、勇者様。私は宮廷魔術師見習いのジェイ・ファストと申します。この度、女王陛下のご命令により勇者様の従者として仕えさせていただくことになりました」


 そんな口調で喋り、そしてわたしに跪いた女の子が……どう見たって、小さな女の子なことも。

 全部ひっくるめて、わたしはそりゃあもう盛大に戸惑っていた。


***

 こんな、小さな女の子が……わたしの従者なんだろうか……あ!

 そうよ、ここは異世界。もしかしたらこんな小さな女の子も魔法で幼くなってるだけで、実際は九百年くらい生きている大魔法使い様だったりして! うん、きっとそうよ!!


「あ、その……失礼だけど、お歳は?」

「歳ですか? 今年で十になります」


 ……ああ……。

 そうね、そうよね。そんな大魔法使いがいるなら、他所から勇者を召喚することないもんね……。

 ……そうか。わたしはこれから十歳の女の子と一緒に、未知の世界を【勇者】として冒険するワケか……あれ? おかしいな、何か両目からしょっぱい水らしきものが……。


「勇者様?」

「あ、ううん。何でもないよ、きっとわたしが泣いてるだなんて気のせいだからね?」

「……涙、出ていますけれど」


 ジェイちゃんの冷たいツッコミを受けながら、わたしは涙を拭う。

 その時部屋の扉が叩かれる音がして、一拍遅れて扉が開いた。クオーリアさんだ。


「勇者様、準備の方はよろしいですか?」

「あ、はい。大丈夫、です」

「では、広間の方へ」


 クオーリアさんに連れられ、わたし達は広間へと向かった。

 

 この国の風習として、国の貢献に関わるようなことをする人は王宮前の広間で行われる【式典】というものに出るらしく……。

 わたしも……表向きは「田舎から勇者を志願をした勇気ある少女」として、わたしは勇者を送り出す式典に出ることになった。


***

「勇者、こちらへ」


 フォムスさんの言葉に従って、わたしは女王様の前へ出た。


「……勇者よ」


 女王様の静かな声が、わたしに向かう。


「あなたはこの国の命運を背負い、この国の憂いを払い、そして全ての人々へ平和を与えることを……誓いますか?」

「は、はい! 誓います」


 そう言うと、女王様は優しく微笑み、一本の剣をわたしに向かって差し出した。


「我が国の秘宝【ローズ・テイル】です。この剣が、あなたの歩む道に暖かな光を照らすように……」


 女王様から差し出された剣を、わたしはゆっくりと受け取る。

 ……きれいな剣だ。薄いピンクがかった不思議な刀身、そして見た目よりもずっと軽い。これなら、きっとわたしでも振り回せるだろう。


「勇者よ。あなたに、月の女神モナルダの加護があらんことを!」


 女王様の言葉で締めくくられ、式典は終わりを告げた。


***

 城下町の出入り口。今、わたし達は旅の準備を終えここに来ている。


「じゃあ、行ってきますねクオーリアさん」

「どうか、お気をつけくださいな勇者様」

「大丈夫ですよ!」

 

 心配そうなクオーリアさんに、わたしは明るく返した。


「今のわたしにはこの剣もあるし、それにクオーリアさんがくれたこの鎧もあるんですから!」

「そうでございますか? 喜んでいただけたのなら幸いなのですが……」


 そう。

 今の私の格好は、ここに来たばかりのようなただの制服ではなく、その上から小さな鎧を着て、靴も普通の運動靴とかじゃなくてブーツだ。


「嬉しいですよ。しかも、わたしにピッタリだしかっこいいし」

「そんな風に喜んでいただけると、わたくしも頑張ったかいがあります」


 クオーリアさんとこんな会話を交わしていると、フォムスさんが何かをわたしに差し出した。


「勇者殿、これを」


 フォムスさんが差し出したのはきれいなバラの形をした指輪。


「これは「護りの指輪」と言いまして、マジックアイテムの一つです。これがあれば、一回だけならどんな攻撃からも身を守れます」

「い、いいんですか? 貰っちゃって……」

「当然でしょう。あなたは、我が国の【勇者】なのですから」


 面と向かってそう言われると、何だかむずがゆい気分になる。

 うん、脅されて承諾したようなものだけど……こういうことがあるなら、勇者っていうのも悪くないかも。


「よし! それじゃあ早速行こうかジェイちゃ……あれ、ジェイちゃんは?」

「彼女なら、あそこですよ」


 ジェイちゃんがいないことに気付いたわたしを見て、クオーリアさんはとある方向を指差した。

 クオーリアさんが指差した方向へ目を向けると、そこにはクオーリアさんの師匠であるオットーさんと会話をするジェイちゃんがいた。


「ジェイ、どうか気をつけてな。勇者殿を頼んだぞ」

「はい。それでは、行って参りますお師匠様」

「……ジェイや、こんな時くらい祖父と呼んでおくれ。頼むよ」


 ジェイちゃんは、少しだけ迷ったような表情をして、だけど。


「……行って参ります。お祖父様」

「ああ、行っておいでジェイ。気をつけるんだよ」


 少しだけ悲しそうなジェイちゃんを、オットーさんは優しく抱きしめていた。

 二人はそれを優しい眼差しで見つめていて、わたしは思わずちょっと涙ぐんだ。


***

 ちょっぴり感動的な祖父と孫の別れのシーンを見た後、わたし達は城下町を出てその近くにある「ジャスミンの森」という場所の入り口に来ていた。


「勇者様、この森を抜けてまずは港から船に乗りましょう」

「うん、海の先に闇の国フェンリルがあるんだよね?」

「いえ、それはまだ遠いです。だから、まずはこの森といくつかの村を抜けて【港町ルッコラ】へ。そして船に乗り【氷と緑の国カクテュス】へと」


 ジェイちゃんが世界地図とルエリアの国内地図を取り出し、交互に指で示しながら詳しい説明をしてくれる。


 わたしは立ち上がり、目の前の森を指差してジェイちゃんの手を引く。


「じゃ、行こうかジェイちゃん」

「はい、勇者様」


 こうして、わたし達は意気揚々と森へと足を進みいれていった。

 この時は、わたしもまだ遠足気分で【勇者】というものを楽観的に見ていた。


 そう、これが全ての間違い。


 わたしは気付かなかったんだ。

 森の入り口の影からわたし達を見つめる、熱い視線に……。

ちょっと色々飛ばしすぎですね……スイマセン。


キャラ紹介

ジェイ・ファスト

10歳の宮廷魔術師見習い。祖父に倣い、水と氷の魔法を得意としている。

青い長髪と紺色の瞳が特徴的な美少女、あまり表情は変わらない。

歳と外見に似合わず毒舌かつ腹黒く、その矛先がリエに向かうこともしばしば。

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